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AI研究者がノーベル賞を受賞するのは極めて当然だ。

< 過去の類似ケースと今年の違い  先週発表された今年のノーベル賞では、物理・化学の両部門でAI関連の研究が受賞して注目を浴びた。  特に物理学賞では、現在の世界的AIブームを巻き起こした「ニューラルネットワーク」の礎を築いた米国のジョン・ホップフィールドとカナダのジェフリー・ヒントン両教授が受賞し、周囲から驚きをもって迎えられた。  これまでの常識では、AIや(その一種である)ニューラルネットはコンピュータ科学あるいは情報科学の分野に属し、物理学とは全くの別物と考えられていたからだ。  確かに2021年にも、真鍋叔郎博士ら3名の研究者が地球温暖化など気候変動の研究にコンピュータ・シミュレーションを導入する等の業績で同物理学賞を受賞している。しかしこの場合、主な研究対象は「気候変動」という一種の物理現象であり、それを研究するための道具としてコンピュータを応用した、という位置付けになる。  つまり主たる研究対象はあくまで物理現象であることから、これがノーベル物理学賞を受賞しても、周囲からは一種の驚きと「物理学賞の対象範囲が広がった」という受け止め方はあったにせよ、それほど大きな違和感のようなものは聞かれなかった。  これに対し今年は「AI」や「ニューラルネット」という本来、コンピュータ科学に属する研究その物が物理学賞の対象となったことから、2021年のケースとは本質的に異なる。 「AIのゴッドファーザー」の見解  もちろんノーベル賞を受賞した両教授の業績にケチをつけたり、それに異議を唱えるといった声は全く聞かれないが、それでも内心「(コンピュータ科学が物理学賞を受賞するのは)なんか違うんじゃないの?」という、ある種の疑問や割り切れない思いを抱いた人も少なくないと見られている。  この点について、米ニューヨークタイムズ紙のCade Metz記者が率直な質問を受賞直後のヒントン教授(関係者の間で「AIのゴッドファーザー」と呼ばれている)への電話インタビューで投げかけている。  その全部を紹介することはできないが、たとえば「ニューラルネットは本来コンピュータ技術です。それがどうして物理学と関係してくるのですか?」という単刀直入な質問に対し、ヒントン教授はおおむね次のように答えている。 「(ホップフィールド教授が発案した)ホップフィールド・ネットやそれをベースに私自身が行った...

ロシアが主導して、BRICSだけの国際決済プラットフォームを構築する日が来るのか。

<ロシアは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成するBRICSが来週開く首脳会議で、欧米の制裁の影響を受けない国際決済プラットフォームを構築するよう呼びかける。  BRICSは22─24日にロシアのカザンで首脳会議を開く。ロシアは、世界の金融システムを見直し、米ドル支配を終わらせるために他国の協力を望んでいる。  首脳会議に先立ちロシア政府が配布した資料によると、BRICS各国の中銀を通じて相互にリンクされた商業銀行のネットワークに基づく決済システムを提案する。ブロックチェーン技術を活用し、各国通貨に裏付けされたデジタルトークンを保管・移転することで、デジタル通貨を安全かつ容易に交換できるようになり、ドル取引の必要がなくなる。  BRICS関連のシンクタンク創設者であるヤロスラフ・リソボリック氏は、こうしたシステムの構築は技術的には可能だが、時間がかかると述べた>(以上「REUTERS」より引用) 「 ロシア、制裁回避へ新決済システム提案へ BRICS首脳会議 」との記事が目に付いた。プーチンはBRICS首脳会議で「現在、34か国が何らかの形でBRICSに加わりたいと表明している」と述べたようだ。さらにプーチンはインドやイランの高官に対しても、モディ首相やペゼシュキアン大統領を首脳会議に招待する考えを示し、先進自由主義諸国と対立する国際決済プラットフォームをBRICSを巻き込んで作ろうとしているようだ。しかし、そんなことは夢のまた夢でしかない。  国際決済プラットフォームの構築には何よりも参加国の信認が必須だ。この場合、何処の国の通貨を国際決済プラットフォームで使用するのかが問われる。つまり基軸通貨を何にするかだが、プーチンはルーブルを主張するだろうし、中国は元を、そしてブラジルはレアルを主張するだろう。  先進自由主義諸国はSWIFT決済システムを利用しているが、そのような銀行間取引情報を制御するネットワークをどの国が管理するのかという問題もある。もちろんプーチンはロシアで管理したいだろうし、中国やインドも自国での管理を主張するだろう。  BRICSに参加している34ヶ国は先進自由主義諸国と対峙する形ではまとまっているが、BRICSだけで国際決済プラットフォームを構築することは出来ないだろう。なぜならそれぞれの国がそれぞれの国を信任してないからだ。もっ...

なぜEV化にブレーキがかかったのか。

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< BEVは長足の進歩が望めなくなってしまったのか  クルマからのCO2排出量削減の決め球技術として世界的に推されたことでここ数年販売台数を急伸させてきたBEVの販売の鈍化が話題になっている。  販売スコアを見ると確かに以前のような勢いはない。2024年上半期のBEVの世界販売は約460万台と推計されている。2023年上半期が約400万台だったことを考えると堅調に推移していると見ることもできるが、2023年は下半期に販売が加速して年間では1000万台を突破するという売れ方をしていた。通年で2023年実績を上回るには同様に下期に販売を大幅に加速させる何かを必要とする厳しい状況だ。  特に深刻なのは欧州市場だ。自動車関連のシンクタンクJATO Dynamicsの欧州28カ国データによれば、7月まで対前年比約プラス2%と何とか増加傾向を維持していたが、8月には一転、マイナス36%と大幅減となった。  全車種でもマイナス16%、販売台数上位25ブランドのうち実に24ブランドが前年同月割れと不振だったことは考慮に入れる必要があり、BEVがその足を引っ張る側に回ったことは事実だ。アメリカ、中国は1割ほどのプラス圏にいるが、伸び率は少し前までのように大きくはない。足が止まったという感は否めず、今後の展開が注目される。  果たしてBEVに何が起こったのかということが頻繁に話題として取り上げられているが、BEV自体には何も起こっていない。リチウムイオン電池搭載、製造ラインにおける一貫生産という量産BEVを三菱自動車が世界で初めて世に送り出したのは2009年。それから15年の間にBEVの性能は大きく向上した。その技術革新が何らかの限界を迎えて長足の進歩が望めなくなった事態は起こっておらず、進化のトレンドは今後も続くものとみられる。  今起こっている停滞は、実はBEVの商品性とは全く関係のないところで起こっていると考えられる。その要因はいろいろあるが、とりわけ大きなファクターは、BEVを購入する際に各国政府が支給する補助金の変化である。         EVの世界販売が急減速(図:共同通信社) BEVがエンジン車と同価格まで下がらないのはなぜか  BEVは優れた走行性能や高い快適性などキラリと輝く長所と、航続距離の短さ、価格の高さなど相当にセンシティブな短所が同居する商品だが、最大のアゲ...

政治は国家と国民のためにある。特権階級の者のためにあるのではない。

<裏金議員が早くも死屍累々の気配だ。裏金隠しの衆院選が15日公示され、裏金事件に関与した自民党の前議員ら45人が立候補。11人が公認されず、残る34人は公認されたものの比例には重複立候補できない。必勝をかけた背水の陣の戦いだが、45人中20人が“ドボン”する瀬戸際に立たされている。  石破首相は勝敗ラインについて「自公で過半数(233議席)」と設定。「状況は非常に厳しい」と引き締めを図っているが、想定以上に議席を失う可能性に党内は大揺れだ。 「自民党が今月実施した情勢調査によると、最悪のケースで120超の議席を失う可能性があるといい、単独過半数どころか200議席にすら届かない。公明党が解散前の議席を維持できたとしても、自公で過半数を割る可能性が拭えません」(永田町関係者)  とりわけ落選危機に立たされているのが裏金議員の面々である。非公認(無所属)のうち6人が、比例重複なしのうち14人が落選濃厚だ。  目を引くのが「八王子のジャイアン」こと、旧安倍派幹部の萩生田光一元政調会長。政治資金収支報告書への不記載額は2728万円に上ったが、党の役職停止1年間という軽い処分で逃れた。  萩生田候補は15日の第一声で、地元・八王子の支援者に「改めて、ご心配をおかけした、不快な思いをさせた皆さまにおわび申し上げたい」と謝罪。「反省している」と頭を下げる一方、ロクに説明責任も果たしていないのに「意図して裏金をつくるとか、私的流用を図るとか、脱税だとか、このような事実は一切ない」と疑惑を完全否定した。 「支援者を前に強気でも、逆風は裏金事件だけじゃないし、統一教会との関係も尾を引いている。応援に駆け付けた井上都連会長は『小池都知事にも応援をお願いしている』と明かしたものの、本当に小池さんが出てくるのかどうか。アテにできません」(自民党関係者)  井上氏はなぜか、萩生田候補が7月の都議補欠選挙での自民大敗を受けて都連会長を引責辞任したことなどに触れて「反省し、責任を取っている」と意味不明な理屈で擁護。「八王子の皆さま、安心して(萩生田を)応援して欲しい」とトンチンカンなお願いを呼びかけた。 参院から鞍替えした丸川珠代元五輪相も劣勢  同じく旧安倍派幹部だった下村博文元文科相も苦戦必至だ。「勝ち目があるとすれば野党乱立による漁夫の利」(同前)だが、下村候補も萩生田氏と同様、裏金と統一教会...

台湾封鎖の軍事演習は愚行そのものだ。

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<中国は徐々に台湾本島に接近しながら大規模な軍事演習を重ね、圧力の度合いを高めている。   今回の演習には港湾封鎖訓練が含まれたほか、新たに海警局の多くの船が台湾本島をぐるりと囲む形で巡視活動を展開。「祖国統一」を目指す習近平政権は、演習に加えて貨物船への臨検の能力も誇示し、事実上の経済封鎖をちらつかせて台湾の頼清徳総統を威嚇している。   中国軍の専門家は現地メディアに対し「頼当局に近距離で戦争の脅威を感じさせる」狙いがあると説明。「訓練は随時、実戦に転じさせることができる」と述べ、いつでも演習から武力行使に切り替える用意があることを明らかにした。その上で「台湾独立分子がまた挑発してくれば、中国軍による包囲と封鎖を一層強める」とけん制した。   今回の演習エリアは台北、基隆、花蓮、台東、高雄、台中の6都市の沖合に設定。台湾本島を取り囲む形となっており、長期化した場合には船舶や航空機の出入りに多大な影響が及ぶのは必至だった。中国軍が14日に公表したイメージ動画は、今後この包囲網をさらに狭めていくことをうかがわせる内容となっている。   今回の演習名は「連合利剣―2024B」とされた。5月の前回演習は末尾が「A」だったことから、頼政権の動向次第で年内に「C」を実施する可能性も指摘される。   演習を繰り返して封鎖状態となれば、原油や天然ガスの輸入を中心に台湾経済が深刻な打撃を受けるのは間違いない。半導体など台湾の基幹産業に影響が出た場合、日本を含めて世界的なサプライチェーン(供給網)が混乱に陥ることになりかねない>(以上「時事通信」より引用) 「 現実味帯びる台湾封鎖 演習から即実戦も 中国 」との見出しで中国の「台湾包囲軍事演習」を報じている。中国が動員した兵力は153機の航空機と14隻の「公船」などとされている。 国防部が示した地図によると、153機のうち28機が台湾海峡の中間線を越えた。主要な空軍基地がある台湾南東部沿岸や、台湾が実効支配する南シナ海のプラタス諸島でも中国軍機を確認した。 中国海軍の艦船14隻と「公船」12隻も確認したとしている。  しかし演習期間は14日の朝4時に始まって、18時には終わっている。これでは「日帰りのピクニック」のようなものだ。決して台湾を「封鎖する」という規模でも期間でもない。  ...

世界経済の主導権をBRICSが執ることは今後ともない。

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<ノーベル賞をとった著名な経済学者サイモン・クズネッツ(1901~1985年)が、かつて述べた有名な言葉がある。経済成長の専門家であるクズネッツは、世界には4つの経済体制があると述べたのだ。その4つとは、先進国経済、発展途上国経済、そしてアルゼンチン経済と日本経済というのだ。  なるほど、後者の2つの経済体制は、長い海外植民地からの本源的蓄積を経て、産業革命によって豊かな国になった西欧諸国である先進国経済とはまったく違う。また、西欧に支配されたことでなかなか資本主義経済へ離陸できなかった後進国経済も、この2つの国には当てはまらない。  かつて、アルゼンチンは、先進国の別荘地のような農業国として豊かさを誇っていた。あくせく働いても収奪されていく他の発展途上国とは一線を画していた。 日本経済成長の特殊性  しかし、それは100年前のことで、いつのまにかどんどん経済は衰退に向かい、気がついてみたら国家破綻の常連国となり、いまでもこの国家は、混乱のまっただ中にある。  一方、日本は西欧から離れ、アジアとも一線を画し、いつのまにか経済成長を遂げ、G7の一角をなすほど豊かな国になった。日本経済の成長は、新自由主義とともにアジアの虎たちが経済成長するまでは、世界経済の奇蹟と言われるほどであった。  しかし、1990年代バブル崩壊とともに起こった経済停滞以降は、日本も一転してアルゼンチンの道を歩んでいるともいえる。  アルゼンチンと日本が、クズネッツをして本来の経済成長の枠の外に出る、特殊な国として位置づけられたことは、悲しいかな、意味深長である。  2024年10月22日から24日まで、ロシアのカザンでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国)のサミットが開催される。2023年に南アフリカで開催され、今年はロシアが主催国となった。  ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、これらの国を先進国と比較したとき、いずれもかつては発展途上国であったといえる。しかし、今やもっとも勢いのある経済成長国は、このBRICS諸国であるといってもよい。 技術進歩で先進国を凌駕した  急激な経済成長は遅れた国が追いつくための必須条件であり、キャッチアップのために先進国から技術を学び、低賃金による低価格商品を輸出して経済を成長させていく。遅れた国の成長は、始まると急速である。 ...

イスラエルがイランの核施設を攻撃するかも知れない、と危惧する理由は何もない。

< もうイランを気にせずヒズボラ叩き  まず、イラン側を刺激しなければ、イラン側から攻撃をエスカレートさせることは考えられないことからすれば、イスラエルは当面はヒズボラにさらなる打撃を加えて壊滅することを最優先にするのではないかと思う。  ヒズボラ側にさらに大きな被害が生まれることになっても、イスラエルがイランからの本格的な攻撃を受ける心配をする必要はないからだ。  だからこそ、イスラエルはこれまでイランのことを気にせずにヒズボラ叩きに全力を上げてきた。  いたずらに戦線を拡大する意味がないことからすれば、今後1~2週間は、ヒズボラを徹底的に潰すことにイスラエルは集中すると見るのが妥当だと思う。  では、その後にイランにどう対峙するかを考えてみよう。  ここで確認しておきたいのは、世界最強と言われるイスラエルの防空システムにしても、飽和攻撃には十分な対応ができないことが明らかになっていることだ。昨年10月のハマスによるイスラエルに対するテロ攻撃に際しては、20分間に2200発とも5000発とも言われるロケット弾が打ち込まれたが、これをイスラエルが完全防御することはできなかった。  イランからの本格攻撃が仮にあるとすれば、従来のヒズボラやハマスからの攻撃とは、質・量ともに大きく異なったものになるのは確実だ。 イラン核施設攻撃も否定しない  民主国家であるイスラエルにおいて、イスラエル国民に対する甚大な被害が生まれることになれば、いくらネタニヤフ政権が強硬だとしても、なかなか受け入れがたいものがある。  この点からすると、イスラエルからイランへの攻撃については、象徴的なものにとどまると見るのが、一応常識的な見方だということになる。  だが、ネタニヤフ首相が恒久的なイスラエルの安全保障を優先しようというのであれば、イランの核施設への攻撃を躊躇しない可能性も否定できない。  そもそもヒズボラの最高指導者だったナスララ師は生前に「ヒズボラの予算や収益、経費、全ての飲食物、武器、ミサイルなどがイラン・イスラム共和国から来ているという事実について、我々は公にしている」と、語っていた。ヒズボラはイランの完全な丸抱えの組織だったのであり、イランとの関係が断ち切られれば、存在できないのだ。これはハマスなども同様だ。  イエメンのフーシ派のミサイルも、イランが設計・製造したミサイルと一致...

「下げ相場こそ買い相場」とは自由経済下の株式市場での話だ。

< 笑顔の李強、笑顔のない石破茂  朝日新聞(10月11日付)は、見出しにこう書いた。 <小声で「ニーハオ」、表情硬め 石破首相、緊張感漂う日中首脳会談>  10月10日、ラオスの首都ビエンチャンで、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議の合い間に、石破茂新首相と中国の李強首相の初めての首脳会談が開かれた。ところが、両首相が両国の国旗をバックに握手を交わした時、笑顔を見せたのは李首相だけだった。  日本外務省が発表した「会談の概要」でも、石破首相が李首相に多くの要求を突きつけたことが分かる。 <石破総理から、日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めた> <石破総理から、日本産牛肉の輸出再開、精米の輸出拡大に係る協議の再開を改めて求める> <石破総理から、ブイを含む東シナ海情勢、8月の中国軍機による領空侵犯事案や9月の空母による我が国領海に近接した海域の航行といった中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を改めて伝え、領空侵犯について十分な説明を行うよう求めた> <石破総理から、蘇州や深圳で日本人学校の児童等が死傷した事件により、中国の在留邦人の不安は急速に高まっている旨指摘しつつ、一刻も早い事実解明と説明、日本人の安心・安全の確保を強く求めた> <石破総理から、悪質で反日的なSNSの投稿等の取締りを含め、中国側の迅速な対応の重要性を提起した> <石破総理から、中国における邦人拘束事案について我が方の立場に基づき改めて申し入れ、拘束されている邦人の早期釈放を求めた> <石破総理から、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明するとともに、台湾については、最近の軍事情勢を含む動向を注視している旨伝えつつ、台湾海峡の平和と安定が我が国を含む国際社会にとって極めて重要である旨改めて強調した>  今回の日中首脳会談は、日本にとってどんな位置づけだったのか。日本政府関係者に聞くと、こう答えた。 「日中首脳会談は、同時通訳で約35分。2日間の短い日程で8つの首脳会談・立ち話(韓国・中国・インド・フィリピン・ラオス・ベトナム・タイ・オーストラリア)をこなした中の2番目だった。 総理就任から9日目の日中首脳会談は、2006年10月に安倍晋三総理が、就任12日後に訪中した時の記録を塗り替えて、歴代総理の中で最短だ。それは、いろんな偶然が重なった結果ではある...

残念ながら、与野党いずれが勝利しようと、日本は「失われた30年」から抜け出せない。

<厚生労働省が10月8日に発表した8月毎月勤労統計では、実質賃金(従業員5人以上の事業所)が前年同月比マイナス0.6%と、3カ月ぶりのマイナスに転落した。   実質賃金は6月統計で実に2年3カ月ぶりにプラスに転じて話題を呼び、翌7月も勢いを維持した。ただし、この2カ月間に関しては、ボーナス(賞与)による一時的な押し上げの影響が大きかった。 名目賃金を示す現金給与総額のうち、持続性を判断する上で重要な「決まって支給する給与(所定内給与+時間外手当や休日出勤手当など超過労働給与)」は前年同月比3.0%増と32年4カ月ぶりの大きな伸びを示したものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃除く)が同3.5%上昇と加速(前月は3.2%)したことで、実質賃金はマイナスに沈んだ。   より詳細に統計を見れば、パートタイム労働者の実質賃金が4カ月連続のプラスを維持したこと、総実労働時間が大幅に減ったために時間当たりの実質賃金は引き続きプラスだったことなど、明るい材料も確認できる。 とは言え、円安や資源高に端を発する輸入品価格の上昇を受けた物価高騰が家計の所得環境を悪化させている現状は否定のしようもない。 脱却すべきはデフレではなくインフレ  そうした状況の中で成立した石破政権だが、何らかの評価を下すには時期尚早で、現時点で確実に言えることもあまりない。 強いて言えば、石破首相が総裁選時から「首相就任後3年間で達成する」と強調、「デフレからの完全脱却」を最優先課題としていることに違和感を示す向きが多いのは、筆者としてもそれはそうだろうと思う。   と言うのも、国民が今「脱却」したいと望んでいるのは「デフレ」ではなく「インフレ」であるに違いないからだ。 「上がらない物価(デフレ)」ではなく「上がる物価(インフレ)」こそが日本経済の足かせとなっている実態は、名目GDP(国内総生産)とそこに物価上昇を加味した実質GDPの間に大きな格差が存在することからも読み取れる。   では、インフレこそが問題とされる状況に移行したことをもって、デフレはもう終わったと政府が宣言できるかと言えば、実はそれも簡単ではない。 脱却宣言を聞いた家計が、政府に対して「生活は苦しいままで変わりない」と反意反論を強める可能性があるからだ。 岸田政権時代もデフレ脱却宣言を期待する声はあったが、ついに...

高齢者問題はすべての国民の問題だ。

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< 家賃を払えなくなり、住み慣れた家を失う「漂流老人」が増えている。司法書士の太田垣章子さんは「年金だけでは生活できず、家賃を滞納してしまう高齢者は多い。頼れる身内がいない場合は、生活保護を受けながら孤独な最期を迎えることになる」という――。 高齢者の家賃滞納という知られざる問題  親しい家主から「おばあちゃんの入居者が家賃を滞納しているんだけど、お願いしていい?」と相談を受けた時には、何がしかの理由をつけてお断りしたいと瞬時に思いました。  高齢者が滞納しているケースは、一般の相手より何倍も時間と手間がかかるからです。若い人と違って「はい、次探してね」とはいきません。なぜなら70代以上になると、貸してくれる家主がほとんどいないからです。  まして現在滞納していると言うことは、頼れる親族がいない確率が高いということ。そうなると私が新たな転居先を手配したり、経済的な面でも行政と繋いだり、場合によっては福祉の力も借りていかねばなりません。その上、本人が心を許してくれるとは限らないから、事は厄介なのです。 「旦那さんが亡くなって、困っているはずなんだよね。新築当時から住んでくれているから無下にもできず、太田垣さんしか頼れないのよ」  逃げ腰だった私は家主のその言葉を聞いて、断りの理由を見つけることができずに引き受けてしまいました。このおばあちゃんは年金が一人分減ってしまったために、滞納になってしまったのでしょう。誰かの手を借りないと身動きできない状況に陥っているおばあちゃんを、私はスルーすることができませんでした。 築52年のアパートは「ゴミ屋敷」だった  78歳の小林栄さん(仮名)に会いに行ったのは、家主から話を聞いた2日後でした。物件は、下町の安い価格帯の賃貸物件が立ち並ぶエリアにありました。木造2階建て、築57年。外階段の古いタイプのアパートです。メンテナンスはされているものの、大きな地震が来たら、確実に倒壊してしまいそうな佇まいでした。  栄さんは2年前に亡くなったご主人と、人生の大半をこの物件に過ごしてきました。間取りは、最近では少なくなった2K。6畳の畳部屋と4畳半の板間、古い流しがつき、その横に玄関扉があります。トイレと風呂場は分かれていましたが、浴槽は小さく今時見かけることが珍しくなったバランス釜。典型的な昭和の時代のアパートでした。  家賃は共益費を入れ...