世界経済の主導権をBRICSが執ることは今後ともない。

<ノーベル賞をとった著名な経済学者サイモン・クズネッツ(1901~1985年)が、かつて述べた有名な言葉がある。経済成長の専門家であるクズネッツは、世界には4つの経済体制があると述べたのだ。その4つとは、先進国経済、発展途上国経済、そしてアルゼンチン経済と日本経済というのだ。
 なるほど、後者の2つの経済体制は、長い海外植民地からの本源的蓄積を経て、産業革命によって豊かな国になった西欧諸国である先進国経済とはまったく違う。また、西欧に支配されたことでなかなか資本主義経済へ離陸できなかった後進国経済も、この2つの国には当てはまらない。
 かつて、アルゼンチンは、先進国の別荘地のような農業国として豊かさを誇っていた。あくせく働いても収奪されていく他の発展途上国とは一線を画していた。

日本経済成長の特殊性
 しかし、それは100年前のことで、いつのまにかどんどん経済は衰退に向かい、気がついてみたら国家破綻の常連国となり、いまでもこの国家は、混乱のまっただ中にある。
 一方、日本は西欧から離れ、アジアとも一線を画し、いつのまにか経済成長を遂げ、G7の一角をなすほど豊かな国になった。日本経済の成長は、新自由主義とともにアジアの虎たちが経済成長するまでは、世界経済の奇蹟と言われるほどであった。
 しかし、1990年代バブル崩壊とともに起こった経済停滞以降は、日本も一転してアルゼンチンの道を歩んでいるともいえる。
 アルゼンチンと日本が、クズネッツをして本来の経済成長の枠の外に出る、特殊な国として位置づけられたことは、悲しいかな、意味深長である。
 2024年10月22日から24日まで、ロシアのカザンでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国)のサミットが開催される。2023年に南アフリカで開催され、今年はロシアが主催国となった。
 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、これらの国を先進国と比較したとき、いずれもかつては発展途上国であったといえる。しかし、今やもっとも勢いのある経済成長国は、このBRICS諸国であるといってもよい。

技術進歩で先進国を凌駕した
 急激な経済成長は遅れた国が追いつくための必須条件であり、キャッチアップのために先進国から技術を学び、低賃金による低価格商品を輸出して経済を成長させていく。遅れた国の成長は、始まると急速である。
 だから、BRICS諸国の経済成長率が高いというのは頷ける。しかし、すでにいくつかの国では経済成長が速いばかりか、その技術進歩という点で、先進国を凌駕しつつあることも確かだ。
 ここにショッキングなデータがある。これは最近、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI、Australian Strategic Policy Institution)が発表した「20年の批判的技術追跡―長期研究投資の結果」(ASPI’s two-decade Critical Technology Tracker | Australian Strategic Policy Institute | ASPI)である。
 これはあくまでも主要な雑誌論文に掲載された論文数をもとに判断したものであり、それが本当にその国の技術の優位性を示しているかどうかは疑問ではある。しかし、そもそも技術優位を測る確たる客観的データなるものがない以上、これが技術優位を測る基準のひとつにはなるので紹介する。
 さらにここには、研究をもっぱらロシア語で発表しているロシアがまったくランキングに入っていないのは不気味というしかないが、それは大学ランキングにおいても言えることで、ロシアの大学の実力を推し量ることは簡単ではない。
 データは世界の国家の最先端技術のランキングを示したものであり、64の重要な最新技術がリストアップされている。そしてそれぞれの分野でその国が何位であるかということがわかる。トップ5までの国が、そのランキングに登場している。
 64の最新技術のうち中国がその研究のトップに位置するものが、なんと57もあることである。すなわち全体の64の研究のおよそ90%もあるということだ。
 ちなみに、アメリカがトップにあるのは7、中国とアメリカが最先端の研究のトップをすべて独占しているものの、中国が圧倒的に優位にあるということだ。
 つい10年前までアメリカが64のうち28の分野でトップだったことを考えてみれば、その技術的発展のスピードの速さがわかる。しかも、それが最先端の技術であることである。

中国、インドの研究力がトップに
 ちなみに、アジアでは中国に続いてインドが伸びていて、それぞれの研究分野での1位は中国とアメリカに独占されているものの、64のトップ技術において45の分野でそれぞれ5位以内に入っている。
 つまり、近い将来中国と肩を並べる国は、もはやアメリカではなくインドかもしれないということだ。
 それに比べて、日本は64のうち8つが5位以内にランクしているのだが、かろうじて3位に入っているものが、半導体と原子力エネルギーという状態である。
 一方、お隣の韓国の躍進はめざましく、64のうち24がトップ5位に位置していて、日本は、韓国に比べても先端技術の劣化が激しいという状況である。
 注目すべきは、イランやサウジアラビアなども上位に食い込んでいて、これまで支配的であったG7諸国の技術的優位が次第になくなっていることである。技術的優位が、BRICSに移りつつあることがこの報告から見てもはっきりわかる。
 クズネッツが生きていたら、BRICS諸国の現在の経済成長の速度や技術優位をどう考えるのであろうか。しかも工業生産でいえば、その中心は先進国からBRICS諸国が圧倒的な力を発揮していて、金融やサービスを含めたGDPではなんとか西欧諸国が今でも優位なのだが、実体経済をあらわす物的生産においてはすでにアジア・アフリカが優位に立っているのだ。
 しかしこのGDPによる国内総生産もあくまでもドルによる計算であり、ドルではなく購買力平価で測れば実態は大きく変わるとも言われている。
 それを表すかのように、BRICS諸国は、長引くアメリカの経済制裁に対する防衛として非ドル化(Dedollarization)を進めつつある。
 今回のBRICSサミットの議題の中でも、この国際決済通貨をドルに代わってどう創造するかという問題が注目されるだろう。国際通貨は覇権国家にとって力を行使する生命線であり、他国通貨を使うことは財政、金融政策上困難な問題に遭遇する。

国際決済通貨が主要議題に
 中立な通貨は決済通貨としては便利であるが、覇権国家として集団を率いるには都合が悪い。だから、非ドル化が、金のような国家と関係のない中立な通貨となることは、ロシアや中国といった覇権国家にとって容易に承認できることではないであろう。
 第2次世界大戦後にアメリカを中心につくられた為替相場安定のメカニズムであったブレトンウッズ体制の中で、アメリカの通貨が国際決済通貨になったのは、アメリカという覇権国家による世界支配という前提があったがゆえのことである。
 どこの国家のものでもない、バンコールという通貨の発行を主張したケインズ案をアメリカが拒否したのは、当然であったともいえる。
 また旧ソ連圏で振り替えルーブルが使われていたが、名前が示すとおり、ソ連という覇権国家のルーブルに有利な決済通貨であったことは間違いない。
 ただ、今のドル支配という体制に対する不満は、非西欧諸国に多くあった。アメリカドルがなければ国際貿易ができないことが、それらの国のアメリカ従属を生み出し、アメリカに都合のよい体制が生まれ、永久にアメリカドルによる借金漬けから脱出できないという状況を生み出していたからである。
 アメリカの経済制裁が続く限り、SWIFT(国際銀行間通信協会)を使ったドル決済はできないわけで、中国の元(ユアン)、ロシアのルーブル、インドのルピーなどが、BRICS諸国の国際決済通貨としての位置を取り始めたことは間違いない。
 しかし、これならば中国のユアンまたはルーブルが、ドルにとって代わるだけのことであり、アメリカ支配体制が中国、ロシアの支配体制に変わるだけである。
 それを避けるためにも、新しい通貨案を構想しなければならないはずである。まして相互の互恵的貿易を実現するには、一国の通貨を決済通貨にするわけにはいかない。

決済通貨の選択と安定性という問題
 そこで新しい国際通貨構想が出ているのだが、それはIMF体制のような一国通貨を基軸通貨とすることではない。しかも、IT技術の発展の中、電子マネーによる決済である可能性が高い。
 しかし、そのためにはブロックチェーンなどの最新技術が使われるだろうが、通貨の発行額がインフレにならない手段を構築しなければならない。

経済学の最大の難問の一つが通貨の安定である。
 1844年にイギリスではピール銀行条例によってイングランド銀行券発行のための準備金規定を設けたが、それによっても通貨の過剰発行を防ぐことは容易ではなかった。
 またドルと金とのリンク(1オンス35ドル)というブレトンウッズ体制も1971年にアメリカ経済の不振によって廃棄され、ドルは発行制限を持たない通貨となってしまった。
 ロシアも中国も金をひたすら備蓄しているという話は、ここ10年よく聞く。金本位制に戻ることはないとしても、金の国立銀行あるいは新しい体制の通貨発行銀行の準備額の前提にすることはありえない話ではない。
 いずれにしろ、新しいシステムが構築されることになれば、BRICS諸国は、ドル体制であるIMF体制から離脱することになる。2つの体制の共存が可能かどうかは、冷戦時代の米ソ対立の中で、両体制の通貨の優位性がその経済力を決めたように、ドル体制との衝突は不可避であろう。
 こうした場合経済的に優位な通貨が、かつて冷戦においてドルが最終的に勝利したように、その勝利を得る。
 となると、経済力の相異が決定的な衝突を生み出し、経済力があるほうが他方を屈服させ、吸収していくだろう。米ソ冷静の終結とは、ドル経済圏によるルーブル経済圏の吸収であったといえる。

経済・軍事・政治的な力はどちらに?
 気になるのは現在、経済的、軍事的、政治的力がどちらに有利に働いているかである。発展途上国だとこれまで見下されてきた地域が、いつまでも弱者の立場に我慢しているわけではない。
 最初に見た技術的優位が、経済的優位をつくりだし、それが軍事的優位につながり、しかも政治的にも多くの加盟国を集めつつあるとすれば、それによってBRICSは巨大な力を獲得し、西欧先進国が、発展途上国といわれた新興国に吸収されるという事態もありうるわけだ。
 現在起こっているウクライナ、イスラエル問題の行方を見定めるにも、この背景にある先進諸国とBRICS諸国の対立関係の行く末を見つめる必要があるだろう。
 その意味でも、カザンのBRICSサミットは注目すべきものなのである>(以上「東洋経済」より引用)




ドルに代わる国際通貨の覇権をBRICSは握れるかロシアで開催されるBRICSサミットに注目せよ」と的場 昭弘(神奈川大学 名誉教授)氏はBRICSに御熱心だ。しかし後進国の中で先進的なBRICSと呼ばれる諸国がやがて経済の主導権を握るだろう、と云われて既に久しい。しかし、なかなかそうならない。

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