政府は誰のためにあり、国民は何のために税などを負担しているのか。フランスデモは根源的な問いを国家に投げかけている。
<フランスのエマニュエル・マクロン大統領が深刻な統治危機に直面している。高校生による教育改革要求に端を発する抗議デモは物価高に苦しむ市民や労働組合、2018年に始まった「黄色いベスト運動」の参加者らも巻き込む全国規模の抗議運動に発展した。 ◇収まらない国民の怒り 仏国際ニュース専門局フランス24(10月24日付)によると、デモ参加者は政府発表で41万人、主催する労働総同盟(CGT)の推計で約80万人。政府は約7万人の治安要員を投入し、約1000人を拘束した。前週より略奪や破壊行為は和らいだが、国民の怒りは収まらない。 デモ前日の23日、パリ西郊のトラップと隣接するラ・ヴェリエールで、39歳の男が車内から短機関銃を乱射し、26歳のアマチュア総合格闘技(MMA)選手を射殺、12歳の少女を含む5人を負傷させた。重傷者も出ている。 地元メディアによると、男の自宅アパートからガスボンベ3本を電線やタイマーにつないだ爆発物とみられる仕掛けやヒトラーの『我が闘争』が見つかった。 男が10月17日の略奪・破壊の報復として黒人やアラブ系を狙ったと供述していることが分かり、社会不安は高まる。マクロン氏は事件を「人種差別的なテロ攻撃」と非難し、肌の色を理由に国民が殺害される事件が起きたことについて「共和国の転換点」との危機感を示した。 ◇被害を受けるのは移民が経営する小売店など社会的に弱い立場の人々 トラップで生まれ育った32歳の店主は仏紙ルモンド(10月24日付)に「フランスの問題はすべてイスラム教徒や黒人、アラブ人のせいと言われ続ければ今回のような事態が起きるのは必然の結果」と語っている。 一部暴徒化した抗議デモでも被害を受けるのは移民が経営する小売店など社会的に弱い立場の人々だ。 なぜ教育への不満が政治危機に発展したのか。今回の抗議はパリ郊外の比較的貧しい地区の高校から始まり、異なる社会階層や地域に急速に広がった。若者は教員不足、教育施設の老朽化、進学機会の不平等に抗議しているのに、政府は早い段階で「都市暴力」と位置づけた。 パリ第8大学の社会学者ファビアン・チュオン氏はルモンド紙などで貧困地区の若者は資格を得られず学校から脱落した者、希望しない職業教育課程に進んで挫折感を抱く者、一般高校に進学して教育による向上を信じる者と、大きく3つに分けられるとの見方を示してい...