なぜEV化にブレーキがかかったのか。

BEVは長足の進歩が望めなくなってしまったのか
 クルマからのCO2排出量削減の決め球技術として世界的に推されたことでここ数年販売台数を急伸させてきたBEVの販売の鈍化が話題になっている。
 販売スコアを見ると確かに以前のような勢いはない。2024年上半期のBEVの世界販売は約460万台と推計されている。2023年上半期が約400万台だったことを考えると堅調に推移していると見ることもできるが、2023年は下半期に販売が加速して年間では1000万台を突破するという売れ方をしていた。通年で2023年実績を上回るには同様に下期に販売を大幅に加速させる何かを必要とする厳しい状況だ。
 特に深刻なのは欧州市場だ。自動車関連のシンクタンクJATO Dynamicsの欧州28カ国データによれば、7月まで対前年比約プラス2%と何とか増加傾向を維持していたが、8月には一転、マイナス36%と大幅減となった。
 全車種でもマイナス16%、販売台数上位25ブランドのうち実に24ブランドが前年同月割れと不振だったことは考慮に入れる必要があり、BEVがその足を引っ張る側に回ったことは事実だ。アメリカ、中国は1割ほどのプラス圏にいるが、伸び率は少し前までのように大きくはない。足が止まったという感は否めず、今後の展開が注目される。
 果たしてBEVに何が起こったのかということが頻繁に話題として取り上げられているが、BEV自体には何も起こっていない。リチウムイオン電池搭載、製造ラインにおける一貫生産という量産BEVを三菱自動車が世界で初めて世に送り出したのは2009年。それから15年の間にBEVの性能は大きく向上した。その技術革新が何らかの限界を迎えて長足の進歩が望めなくなった事態は起こっておらず、進化のトレンドは今後も続くものとみられる。
 今起こっている停滞は、実はBEVの商品性とは全く関係のないところで起こっていると考えられる。その要因はいろいろあるが、とりわけ大きなファクターは、BEVを購入する際に各国政府が支給する補助金の変化である。
        EVの世界販売が急減速(図:共同通信社)

BEVがエンジン車と同価格まで下がらないのはなぜか
 BEVは優れた走行性能や高い快適性などキラリと輝く長所と、航続距離の短さ、価格の高さなど相当にセンシティブな短所が同居する商品だが、最大のアゲインストは価格である。
 政府から自動車メーカーに潤沢な補助金が出されている中国市場は例外として、BEVの価格は同格のハイブリッドカーやディーゼル車に比べて格段に高い。性能価格比でみればBEV黎明期に比べて大幅に安くなっているとも言えるが、絶対的に高価というのでは顧客層は限られる。その価格の高さを押してBEV購入を後押ししようというのが補助金である。
 補助金の有無、額の多寡は当然消費行動にダイレクトに影響する。欧州でBEVの販売が一気に冷え込んだのはドイツをはじめ主要国が補助金をやめたり見直したりしたからだ。面白いことに、その欧州の中でこの9月、BEVが大幅に増えた国がある。ユーザーのBEVアレルギーが非常に強いという点で日本とよく似ているイタリアだ。
 イタリアには2021年にプジョー・シトロエンと経営統合してステランティスとなる以前は独立系メーカーだったフィアットクライスラーがある。かつてルノーのカルロス・ゴーン会長の腹心だったステランティスのカルロス・タバレスCEOはフィアットを電動化ブランドにすることを目論んだが、皮算用は外れに外れ、主力の小型BEV「500e」を生産するトリノの伝統あるミラフィオーリ工場は操業中止、さらにリストラの危機に瀕している。
 その500eを何とか売れるようにしなければ死活問題ということで、メローニ政権はトレンドに逆行してBEV補助金を新設した。その結果、乗用車全体では前年9月比10.7%減だったのに対し、BEVは29%増となった。大衆商品であるクルマの売れ行きがいかに価格次第であるかが浮き彫りになった格好である。
 ドイツやフランスなど欧州を中心に補助金減額の動きがみられるものの、世界的にはアメリカ、日本、中国、インドなど、多くの国が依然として潤沢な補助金を出し、あるいは税制優遇を続けている。需要頭打ちと言われる現在の状況も補助金、優遇のブーストが利いた状態であって、本来のBEV需要は今よりもっと少ないと見ていい。BEVはそんな脆弱な基盤に立った商品なのである。
 2016年にメルセデスベンツが「現在は100年に1度の変革期」と定義し、次の時代のクルマの概念として「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」を提唱したのと時期を同じくして、BEVがエンジン車と同価格、さらには逆転する時が数年で来るとの主張をいろいろなシンクタンクが提唱した。
 それが達成されていれば状況は今とは違ったものになっていただろうが、現実にはそうはなっておらず、いまだに「2027年にはブレイクイーブンに」などと言っている。
 なぜBEVの価格は下がらなかったのか。BEVが安くなるという説の背景には構成部品の中で最も価格が高いバッテリーのコスト削減が進むだろうという予測があった。実際はどうだったかというと、バッテリーコストは10年前に比べ劇的と言えるくらい下がった。
 ところがここで10年前はあまり予想されていなかった事態が起こった。BEVのバッテリー搭載容量の平均値の方もうなぎ上りになったのである。せっかくのコスト低下の一部を容量拡大が相殺してしまったのだ。
 もっともバッテリーは積めば積むほどいいというものではない。不必要にバッテリーを大量に積めば重量がかさんでクルマの性能をかえって低下させてしまうし、製造時のCO2排出量も増える。
 日産自動車のクロスオーバーBEV「アリアB9 e-4ORCE」のバッテリー容量は91kWhと、同社が2010年に発売した第1世代「リーフ」3.8台分である。このバッテリーで電気モーターに394馬力を発生させるだけの電力を余裕で供給できるのだから、新たな電極材料の考案や全固体電池などで高密度化が進むとしても、その容量は現在のBEVのさらに2倍、3倍といったオーダーにはならないだろう。そろそろ価格低下の方に動いてもいい時期が来ているのだ。

「製造時のCO2排出量が多いから気候変動防止に役立たない」は本当か
 だが、価格の問題が解消されたとしても、BEVへの転換が一気に進むとは思えない。まずは充電の問題。集合住宅の多い都市部では駐車場に停めている時にバッテリーの蓄電量を回復させる普通充電のインフラがまったく足りていない。現状では一部を除き一軒家住まいのユーザーに限られる。
 出先で電力量を注ぎ足す急速充電も問題山積だ。BEVの急速充電というと30分1セットという概念が浸透しているが、最大電流350Aを流せる最高速タイプのものだと「1カ所で工事費、設備費含めて3000万円くらいかかる」(自動車ディーラー関係者)という設備を1台が30分占有するというのでは手頃な価格で充電サービスを提供するのは不可能だ。
 現在の日本のCHAdeMO規格充電器で最も高速なタイプを使用して高性能BEVを30分充電したときの電力量は約50kWh。1kWhあたり7kmの電費で走った場合350kmぶんだ。この電力量を5分くらいで充電できるようにならないと、回転を上げて設備投資の回収や運営費用を多くのユーザーに分散させることができない。
 参考までに筆者が過去に行った走行テストにおいてロングラン燃費リッター27kmを記録したフォルクスワーゲン「ゴルフ8 TDI」の場合、350kmぶんの燃料補給にかかる正味時間は約20秒だった。この分野で現在最先端を走っているのはファーウェイが「1秒1km」をうたう超高速充電の実験を成功させた中国だが、先は長い。
 加えてBEVは耐久性についてまだ市場の信頼を得るに至っていないという問題もある。使用過程でバッテリーが劣化すると走行距離が短くなり、クルマとして不便になる。そんなクルマは中古車としての価値付けも難しくなり、下取り価格は当然暴落する。
 顧客がこの点を嫌うのは当然の心理である。自動車メーカーは耐久性を自ら実証する必要があるが、それだけでは足りない。バッテリー容量の表記を今の新品のものから最低でも8万km(5万マイル)、できれば16万km(10万マイル)走行時のものに変更して、ユーザーの不安を取り除くといった策が求められるところである。
 今日、BEVは製造時のCO2排出量が多いから気候変動防止の役に立たないという意見をしばしば見かける。これは半分うそだが半分は本当だ。
 ボルボは同社のコンパクトクロスオーバー「C40」について資源採掘から車両完成までをトータルで計算するカーボンフットプリントベースのCO2排出量を公表しているが、その中で中国製バッテリーセルを使った69kWhバッテリーパックの製造に伴うCO2排出量は7.4トンだった。16万km(航続400kmとして0→100%充電400回相当)走った場合、1kmあたり46.25gのCO2が最初から乗っている計算になる。
 それを走行時のCO2排出量の少なさで取り返していくわけだが、全電力のCO2排出量のミックス値が1kWhあたり485gの日本の場合、7km/kWhの電費だと69.28g/km。先ほどのバッテリー製造時のCO2排出量と合算させると115.53g/kmとなる。ガソリン車の場合リッター20.4km/リットル、ディーゼル車だとリッター22.7km/リットルだ。原油や石油製品の輸送、精油のぶんが乗るので実際にはこれより若干良い数値と均衡する。同じCセグメントクロスオーバーのハイブリッド車やディーゼル車と変わらない。
 ところが発電電力量1kWhあたりのCO2排出原単位が56gのフランスの場合、状況は一変する。同じく電費を7km/kWhと仮定すると走行時のCO排出量は8g/km。バッテリー製造時のCO2排出量との合算値は54.25g/km。ガソリン車の燃費でいえば43.5km/リットル。これは圧倒的だ。
 バッテリーパックの容量が小さいモデルやCO2排出原単位の低い国で製造されたセルを使えば、この数値はさらに向上する。半面、ろくに距離を乗らないクルマをBEV化するとバッテリー製造に伴う1kmあたりのCO2排出量は大きくなり、意味がないことになってしまう。BEVはまさに適材適所であることが分かるだろう>(以上「JB press」より引用)




「【EV不要論の真実】価格、充電性、CO2排出量…今起きている停滞は商品力とは全く関係ないところで生じている!」と井元 康一郎(ジャーナリスト)氏がEV不要論の中身について論評している。そもそも、なぜ性急に欧米諸国はEV化を推進しようとしたのだろうか。そして何がEV化にブレーキをかけているのだろうか。
 EV化を促進したのは「CO2地球温暖化」というプロパガンダを世界基準にした欧米諸国の日本車叩きが動機だった。そのためにCO2を排出する「内燃機関車=悪」という思想を普及して、EV化に必要な価格補填は国民が負担する、という合意形成に成功した。結果として高価なEVが普及するに到った。

 井本氏はEVの製造段階から走行時までのトータルCO2排出量では原発率の高いフランスでは圧倒的にCO2排出量は少なくなる、と力説するが、そうでない場合はEVとガソリン車とではそれほど変わらないという。しかし井本氏が織り込んだのは製造から走行迄のCO2比較であって、廃棄・処理に要するCO2までは検証していない。現在問題視されているのはリチウムイオン電池の処理であって、その場合の作業はまだ標準化されていない。
 しかしガソリン車などの廃棄・処理が標準化され、それに伴うCO2排出量が分かっているから、EVの廃棄・処理作業が標準化されればEVに関するトータルのCO2排出量が計算比較されるだろう。現在では推測でしかないが、EVがガソリン車などと比較してCO2排出量において格段に優れているとは云えないようだ。

 税金でEV購入補助金を出してEV車の普及促進を図るのを、そろそろ止めてはどうだろうか。さらにガソリン車などでは揮発油税や重量税や自動車税を課されて、ガソリン車ユーザーは高い税負担を負っている。それに対して、車体重量の重いEVは道路などにより多くの負担を課しているにも拘らず、揮発油税といった道路維持費の負担をEVユーザーは支払っていない。そうした様々な優遇措置を講じて、EV促進策を講じる必要があるのだろうか。
 かつて内燃機関の自動車は「高級品」とされて、購入時に物品税を課されていた。EVとは真逆の政策が内燃機関車に適用されていた。それでも自動車製造産業が国家の基幹産業となり広い産業の裾野を有している。ガソリン車などがどれほど国家経済と国民所得に寄与して来たか、私たちは忘れてはならない。その反面、EVは闇雲に促進しようとする勢力によって補助金漬けにされ甘い業界体質になってしまった。それでは、いつまで経ってもEV価格がガソリン車を駆逐するほど低廉になることは決してないだろう。

 急速充電器などのEVインフラを整備する費用を誰が負担するのか、という問題もある。国民の合意を得て税金で整備するのが最も適当だが、それもまたEV業界の体質を悪化させることになる。甘やかすことでは業界が長足の進歩をすることはない。逆境を跳ね除けるほどEV業界に魅力がない限り、EV車がガソリン車などと対に渡り合うことは出来ない。それは未来永劫、EV業界は補助金なしで独り立ちすることは不可能だということを暗示している。
 しかしバッテリー充電時間の短縮化は限界があるだろう。ガソリン車のように5分程度で給油出来て500km以上も確実に走る、という芸当がEVでも可能になるだろうか。さもなくばEVがガソリン車を駆逐して普及することは決してないだろう。販売価格と充電時間という二つのネックを抱えるEVの未来は依然として暗いと云わざるを得ない。

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