誰も彼もが習近平氏に尻尾を振る時代は過去のものになりつつある。いよいよ中国で大乱が起きる土壌が形成されつつあるのではないか。

<中国の秋の重要政治イベント五中全会(第20期中央委員会第五回全体会議)が10月29日に閉幕し、同日午後にコミュニケが発表された。打ち出されたメッセージは主に2つ。習近平国家主席に対する絶対忠誠と規律の順守、そして大粛清継続のシグナルだ。これは来年の秋までに様々な不穏をもたらすかもしれない。
 この五中全会はそもそも、開会前から不穏だった。異例にも開会前に討議のテーマ「全面的かつ厳格な党内統治」が発表され、また開会日の人民日報の社説の内容から推測するに、毛沢東の指導的地位が確立した遵義会議になぞらえた重要会議になるとみられていた。
 遵義会議とは、1935年1月に長征の途中の遵義(貴州)で行われた政治局拡大会議のことだ。それまで党の主導権を握っていたモスクワ留学派(コミンテルン主導の教条主義派)の博古(秦邦憲)や軍事顧問オットー・ブラウンから、毛沢東が主導権を奪還。毛沢東の共産党軍における独裁的地位が確立した。
 この会議前に凄惨な粛清(AB団粛清など)が行われ、また会議でも延安整風など粛清の嵐が吹き荒れた。こうした流れから、五中全会も遵義会議と同様、習近平独裁の確立、そして会議前の粛清の正当化と会議後も続く粛清の前触れを示すものと予測されていた。
 その予測どおり、1978年の改革開放以来、最低の出席率を更新し、閉幕日には33人の党籍剥奪処分も発表された。具体的には、第20期の中央委員・候補委員の376人のうち、出席者は279人で、出席率は74.2%。中央委員に限ると出席率は79%で、205人のうち162人しか出席せず、過去50年で最低だった。
 また、33人の党籍剥奪が一度に発表されるのも改革開放以来、最多だった。20期(2022年)に中央委員・候補に選出された名簿と比較すると、実に4分の1以上が失脚したといえる。
 政治局は定員25人中、3人(馬興瑞、張又侠、何衛東)が失脚して22人だったが、中央軍事委員会副主席の張昇民が政治局メンバーに追加選出され23人になった。だが依然として2人が欠員したまま。中央委員候補から中央委員に補充選出されたのはわずか10人で、中央委員、政治局の縮小傾向は続いている。
 中央軍事委員会は定員7人だったのが5人失脚し、習近平(主席)と張昇民(副主席)しか残っていない状況であったが補充されなかった。中央委員、政治局、中央軍事委員会の縮小は、それだけ習近平個人に指導力、決定権が集中し、より強固な独裁に向かうという意味として受け取ってよいだろう。

◇五中全会のコミュニケの中身
 コミュニケの中身をみると、習近平政権時代(第18回党大会以降)になって「治乱興衰の歴史的周期律を打破する(中国の王朝の周期的な腐敗と衰退を打破する=共産党体制の衰退を回避)」という問題に答えは出された、としている。そして、習近平を核心とする党中央が、かつて党の指導力不足によって起きていた問題(経済の自由化と独裁体制維持の矛盾など)について、厳格な措置(大粛清など)をもって解決した、といった表現で、習近平独裁を肯定。「党、国家、軍部内に存在していた深刻な隠れた危機を排除した」とした。
 特に「党の指導が弱体化・形骸化・希薄化し、党の管理・統治が厳格さを欠き、実効性に乏しく、不十分な状態となり、党内に目を覆いたくなるような深刻な問題がいくつか生じたという厳しい現実が現れた」と指摘した上で、習近平がそれを克服したというニュアンスで、習近平独裁の正しさを強調していた。
 また「習近平党建設思想」が強調され、「絶え間なく党風を正し規律を厳格化し、『腐敗を敢えてできない、腐敗できない、腐敗したくない』という3つの側面を揺るぎなく一体的に推進」といった表現で、大粛清による汚職退治の「正しさ」を明確にした。
 さらに「党への忠誠」が強調され、規律違反と不忠誠が粛清の基準とされることもにじませた。
 民主集中制という言葉が5回、厳格に貫徹、実行する、改善して実行する、よく発揮するといった述語で引用された。さらに「トップ(一把手)」という言葉も2度使われた。これは民主集中制を習近平独裁に置き換えるロジックにつながる。
 全体的な文脈を見ると、コミュニケは習近平独裁と大粛清の勝利宣言である。そして、来年の第21回党大会における習近平総書記再選、あるいは党規約改正に向けた宣言とも言えよう。そして、習近平独裁の長期化に向けて、党員、官僚たちには習近平への絶対忠誠、規律順守、自己改革(内部の不純、腐敗の排除=大粛清)が強く要請されたのだ。
 こうした内容を考えると、確かに今回の五中全会が習近平版遵義会議(唯一無二の指導者・独裁者としての地位確立をした)と言えるかもしれない。

◇注目される政治局の人事
 気になるのは政治局の人事だ。定員25人中3人が失脚していたが、ただ1人、張昇民(中央軍事委員会副主席)だけが昇格した。張昇民は、軍内粛清を習近平のために実施してきた監察畑の軍人だ。もし張昇民が失脚した張又侠や何衛東の後任として政治局入りしたなら、馬興瑞の後任として新疆ウイグル自治区書記に昇進した陳小江はなぜ政治局入りできなかったのか。
 このあたりの政治局メンバー選出の基準については説明がついていない。ようするに、政治局メンバー入りといった出世はその政治的な成績や職歴より、習近平に対する忠誠心が最重要であるということかもしれない。
 さらに注目すべきこともある。それは、第20回党大会で政治局から降格されながら完全失脚していない、共産主義青年団派のエースだった胡春華(63)にまつわる噂だ。五中全会前、胡春華の失脚説や、逆に政治局返り咲き説などの噂が流れた。
 返り咲き説は、今年になって人民日報やCCTVの政治ニュースに胡春華の名前や姿が増えてきている印象があり、党内の一部官僚の間で、胡春華の党中央指導部復帰への期待があるからだろう。
 一方、失脚説の根拠となったのは、10月22日に北京で開催された中国共産党紅軍長征勝利90周年記念大会に、胡春華が欠席したことだった。この記念大会は、五中全会の前夜祭的な役割もあるとみられていたので、この大会に理由なく欠席したとは思えなかった。このため、五中全会直前に胡春華が粛清されたのではないか、と噂が広がった。
 結果からいえば、五中全会に胡春華が出席していることは、10月29日のCCTVのニュース番組・新聞聯播の中で確認された。20分以上の五中全会報道の中で、胡春華は3度、画面に映っている。そのうちの1回目では、胡春華は習近平の講話を聴きながらメモを取っていた。2度目に映ったのは後ろ姿で、3度目は採決の際に挙手している姿だ。
 この時の胡春華の様子があまりにやつれていたので、長征勝利90周年記念大会の欠席は、病気であったのではないか、あるいは取り調べを受けた心労から健康を害しているのではないか、といった噂もたった。

◇「赤い小冊子」の謎
 胡春華は胡錦濤政権時代に、すでに李克強世代の次の後継者として大事に育成されてきた有能な官僚政治家だ。その実務能力の高さは、チベット自治区勤務時代や河北省長時代、内モンゴル自治区書記・広東省書記時代から知られていた。
 胡錦濤の影響力がまだあった2012年の第18回党大会で政治局入りしたものの、2022年の第20回党大会で政治局委員から平の中央委員に降格された。仕事上のミスや汚職などの規律違反の証拠もなかったことから、この降格は完全に習近平の個人的な感情が理由だとみられていた。有能すぎる若手政治家に習近平が自分の権力の座を脅かされると恐れたのではないか、とみられている。
 だが、異例の政治局委員からの降格という目にあっても、全国政治協商会議副主席という立場で、外遊したり海外の要人との会見をこなしたり、かなりの実務もこなしている。党内でこれほど粛清の嵐が吹き荒れていて、明らかに習近平に嫌われているのに、いまだ完全失脚していないことも、謎とされていた。
 汚職や規律違反の証拠をつかませない(実際にやっていない)ほど危機管理能力が高いのか。あるいは実務能力が高いので、習近平も完全失脚させるには惜しいと思っているからなのか。あるいはすでに共青団派の影響力は完全になくなり、胡春華自身も習近平に忠誠を誓っているのでもはや習近平にとって脅威ではなくなったのか。
 五中全会のニュース映像に3度も映った胡春華だが、彼のテーブルには赤い小冊子が置かれていた。彼が習近平の演説を聴きながらメモを書いていたのは、その赤い冊子だった。他の中央委員の前には置かれていないので、胡春華の私物だろう。多くのチャイナウォッチャーは、これを党規約の小冊子(党のルールブック)だと言っている。かなり読み込まれ、よれよれになっていた。
 ここでまた、様々な憶測が飛び交った。なぜ五中全会で、胡春華は党のルールブックを持ち込んだのか。そして、習近平の演説を聴きながら、その小冊子の余白に何をメモしていたのか。ある人は、習近平の演説が党の規約に背いている部分をメモしていたのではないか、と想像した。

◇「習近平独裁」はどこまで盤石なのか?
 実際、「民主集中制」について、コミュニケの表現と党規約の表現を比較してみると、微妙にずれていることがわかる。党規約では「民主集中制とは、民主主義を基盤とした集中と、集中による指導の下での民主主義とを結合させたものである。それは党の根本的な組織原則である」としている。一方、五中全会コミュニケでは「民主集中制は党の根本的な組織原則であり、指導制度である……」「指導部の意思決定・審議規則を厳格に執行し、『トップ(一把手)』の職務遂行と権限行使を規範化する」としている。
 つまり、習近平は「民主集中制」を自身の独裁を意味する言葉として使っているが、党規約にはそのような定義はない。党規約には「いかなる指導者も、独断専行を行ったり、個人を組織の上に置いたりしてはならない」と明確に規定しているからだ。
 習近平は、「トップ」としての「職務遂行と権限行使」という名目で、党規約の抜け穴を突いて、民主集中制を習近平独裁の指導制度、と定義しようとしているわけだ。
 もし胡春華が党章の小冊子を持ち込んで、習近平演説やコミュニケと党規約の内容の違いをメモしていたというなら、その本意はどこにあるのだろう。習近平のロジックと党規約の違いをしっかり理解したうえで、来年下半期に予定されている党大会で党規約が改正されると見越して、事前に勉強しているのだろうか。彼がまだ失脚していないのは、そういう注意深さが理由だとみることもできる。
 あるいは習近平の言っていることは党規約に違反しているのだ、と周囲の中央委員に黙って訴えかける批判のパフォーマンスを行いつつ、習近平がずっと党規約に違反し続けていたという事実を記録し、いずれその罪状をもって習近平を権力の座から追い落とすつもりか、ともみることも可能だ。この想像は、チャイナウォッチャーとしては盛り上がる。
 というわけで、習近平独裁の勝利宣言、習近平版遵義会議のようにみえる五中全会だが、それは必ずしも習近平体制が安定しているということを意味しない。来年秋の党大会まで、何が起こるかまだわからない、と思うのである。>(以上「JB press」より引用)




「中国・習近平が打ち出した「独裁の勝利宣言」、五中全会で見えた止まらない大粛清とくすぶる不穏な動き」と、中国ウォッチャーの福島 香織(ジャーナリスト)氏が第5中全会について論評している。前々日に私見を書いたが、ここは専門家の福島氏の論評を引用して習近平体制の今後を占ってみたい。
 数日前に「未確認情報」として胡春華氏が第5中全会に出席したのではないかと書いたが、そのことについて福島氏も「「赤い小冊子」の謎」の章で触れている。未確認情報では胡春華氏は赤い「共産党規則」を携えて出席したとある。それは明白に党規則「主席の任期は一期五年二期までとする」に、習近平氏が反していることを全人代全ての議員の前で明らかにしたことになる。

 一時失脚説が流れた胡春華氏が再び中全会に出席したことで、胡春華氏の失脚・粛清説は一掃された。習近平氏にとって最も手強いライバルの登場は少なからず今後に影響を与えると考えざるを得ない。
 そして軍部だけでなく、政治局でも大半の幹部を総入れ替えした習近平体制が盤石だとは思えない。何よりも軍部ナンバー2に習近平氏の「甥」を就任させざるを得ない事態は、むしろ習近平体制の脆弱性すら窺わさせる。ことに福島氏が指摘している張昇民氏「工作部=スパイ担当」だ。張昇民氏の手元には全国民のみならず共産党幹部のスキャンダルや汚職などの情報がすべて集まっている。いつでも誰でも失脚させるネタを張昇民氏は握っている。だからこそ他の政治局員が相次いで失脚したにもかかわらず、張昇民氏だけが依然として地位を保ち続けていると見なければならない。もちろん習近平氏とその親族の収賄情報なども、彼は完全掌握している。

 五中全会のコミュニケでは「治乱興衰の歴史的周期律を打破する(中国の王朝の周期的な腐敗と衰退を打破する=共産党体制の衰退を回避)」されたとしている。そして、習近平を核心とする党中央が、かつて党の指導力不足によって起きていた問題(経済の自由化と独裁体制維持の矛盾など)について、厳格な措置(大粛清など)をもって解決し、「党、国家、軍部内に存在していた深刻な隠れた危機を排除した」と宣言している。
 だが、実際の中国はそうなっていない。経済は崩壊過程の最終段階に達して、国民の50%が失業し、鉄椀とされた公務員ですら遅配や欠配から生活苦に陥っている。それは都市部だけでなく、農村部でも刈入れ直前の畑にイナゴのように中国人が群がって作物を強奪している。農民もこの冬を飢餓状態で乗り切らざるを得なくなっている。

 確かに中国の貿易黒字は未曽有の1兆ドル超えを記録したが、それは国家の利益や国民所得の増加を示さない。単に貿易輸入から貿易輸出を差し引いた輸出した額が1兆ドルに達したに過ぎない。つまり中国政府が輸出補助金を付してEVを大量に世界各国へ輸出すれば、それだけ貿易輸出額は膨らむが、それが中国政府や中国企業の利益になっていないことは明らかだ。
 輸出額が輸入額を上回っていることは逆から見れば中国に外国品を購入する消費力が不足していることの証でもある。習近平氏が四期目に向かって盤石な体制を構築している、と解説するオールドメディアが多いが「1978年の改革開放以来最低の出席率を更新し、閉幕日には33人の党籍剥奪処分も発表された。具体的には、第20期の中央委員・候補委員の376人のうち、出席者は279人で、出席率は74.2%。中央委員に限ると出席率は79%で、205人のうち162人しか出席せず、過去50年で最低だった」という事実に注目すべきだ。習近平氏の政権グリップ力は確実に落ちている。故春華氏が「共産党規則」を携えて登壇したのも意味深だ。誰も彼もが習近平氏に尻尾を振る時代は過去のものになりつつある。いよいよ中国で大乱が起きる土壌が形成されつつあるのではないか。

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