中国は国民を護る「家」ではなく、国民を閉じ込める「檻」になろうとしている。
<中国政府は自国民の出国を制限できる「出入国管理規定」を9月15日から施行した。中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんは「AI、半導体、レアアースなど先端企業の技術者などが対象で、一般人の出入国は制限しないとされている。だが取材を進めると、中国政府の発表とは異なる実態が見えてきた」という――。
■中国で始まった「鎖国」政策
9月15日、中国は「出入国管理に関する国務院規定(第841号)」を施行した。同規定は「出入国者の合法的権益を保障すること、国家主権や安全、発展の利益を守ること」を目的として、2013年に施行された「出入国管理法」に基づき、実施されたものだ。
具体的にはAI(人工知能)、半導体、希土類(レアアース)など先端企業の技術者、公務員、企業幹部、汚職などで捜査中の人物の出入国を制限するもので、留学や観光などの一般人の出入国は制限しないと言われている。
だが、SNSを見ると、すでに多くの一般人から「上司にパスポートを取り上げられている」「空港のイミグレーションで突然出国できないと告げられた」「新規パスポートの申請ができない」といった悲鳴にも似た声が上がっており、出入国に関する不安や戸惑いが広がっている。
奇しくも、中国では10月1日から国慶節の大型連休(7日間)が始まる。例年ならば、海外旅行の人気渡航先ランキングなどが早々とSNSに出回るが、今年はそうした記事はあまり多くない。
■中国人観光客が日本から消える日
中国メディア「第一財経日報」の8月の報道によると、中秋節(9月25日〜27日)と国慶節(10月1日〜7日)の間の平日に休暇を取ると合計で13連休となり、海外旅行ではオーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、モルディブ、ヨーロッパなどが人気だという。
しかし、昨年の高市早苗首相の「台湾有事」に関する発言後、中国政府が日本への渡航自粛の注意喚起をしたことに加え、今回の同規定が引き金となって、訪日観光客は大幅な減少が予想される。それだけでなく、もしかしたら、将来的に「中国人観光客が日本からほとんどいなくなる日」が来る可能性さえあると考えられる。
中国・上海市の企業に勤務する30代の男性、張さん(仮名)は大の日本好きで、年に1〜2回のペースで日本旅行にやってきている。楽しみは各地の温泉巡りや居酒屋巡り。地方のひなびた温泉にのんびりと浸かり、居酒屋の縄のれんをくぐって郷土料理に舌鼓を打つことだ。張さんいわく「日本のよさは地方の人の温かさ、食事のおいしさ、懐かしさを感じる雰囲気にある」そうだ。
■上司にパスポートを没収された
だが、彼のウィーチャットを見るかぎり、ここ1年以上来日した形跡がない。何か理由があってSNSに書かなかっただけなのか、張さんにウィーチャット以外の方法で連絡を取ってみたところ、冴えない様子で返信があった。
「実は、しばらく前から会社の上司にパスポートを取り上げられているんです。私だけでなく同僚の中にも同じ人がいます。それで大好きな日本に行けなくなってしまいました(涙)……日本の温泉が恋しいのですが……」
張さんは大学卒業後、上海市内の企業に勤務しており、品行方正。留学経験はないが、英語が堪能で、日本語も独学で学んでいる。技術者ではなく、それ以外の職種だ。そんなごく一般人の男性でさえ、上司にパスポートを取り上げられているとは、一体、何が起こっているのか。
実は、私は以前も同様の話を小耳に挟んだことがあった。コロナ禍の2021年ごろ、内陸部のある大学の教授から聞いた話だ。
■「出国できませんから!」と怒鳴られ
コロナ禍のとき、中国各地で「健康コード」という個人の行動履歴やPCR検査の結果などが記録されているアプリが開発されたことを覚えている人がいるかもしれない。当時、その大学では毎朝、SNSで学部の責任者に自分の健康コードを提示して「問題なし」と連絡する義務があった。何時間も連絡しないと上層部から連絡がきて大変な騒ぎになる。さらに、省をまたぐ外出と海外渡航は、原則禁止となった。
その教授によれば「この時期以降、パスポートを上司に取り上げられているという話をあちこちで聞くようになりました。対象者は公務員、国有企業の社員、一部の大学の教員」で、中国共産党幹部ももちろん含まれる。だが、一般企業の会社員からは、そうした話を聞くことはなかった。ただし、「空港で突然、出国を止められた」というケースは数年前からすでに起きていた。
2023年〜24年頃、私の友人が上海から来日しようと空港のイミグレーションに並んでいたところ、自分のすぐ前の人がカウンターで口論していた。よく聞いてみると係員から「とにかく、あなたは出国できませんから!」と怒鳴られていたという。その人は別室に無理やり連行された様子だったので、その後どうしたかわからないが、友人は私に「怖いですよね」と話していた。
■真の目的は「身辺調査」か
そのときは「どうしてだろう……」「何か悪いことをしたのかな?」という会話だけで終わり、気にも留めなかったが、有効なパスポートとビザを有しているのにもかかわらず、明確な理由を告げないまま出国させないという例は、中国各地で静かに起きていたようだ。
それが表沙汰になることはほとんどなく、当事者は泣き寝入りするだけだったかもしれないが、今回の規定により、中国のSNS上では「出国できない理由を知りたい」「もし出国できても、帰国できない可能性はあるのか」などさまざまな噂が飛び交っており、弁護士などの専門家が動画で規定の内容を解説している。
それを見てみると、「虚偽の出入国、滞在申請は許可されない」といった当たり前のことが語られており、とくに目新しい情報は見つからなかった。だが、中国の知人によると、パスポートを取り上げるのは、その人の身辺調査をするという名目があるようだ。
たとえ本人の思想、行動、社会生活に問題がなくても、家族や交友関係を調べ上げるという情報もある。中国ではパスポートがなくても身分証だけで調査は十分可能だが、パスポートを取り上げるという行為自体に出国意欲を抑止する効果が見込めるだろうという。
■訪日観光客が激増している一方で
規定を見ると、「戦争、武力衝突、治安悪化、自然災害、感染症などのリスクが高い国・地域への渡航は慎重に検討するよう注意喚起し、渡航を思いとどまらせる」という項目がある。具体的な国・地域名は明記されていないが、昨年、高市首相の「台湾有事」発言により関係が悪化した日本はそれに該当すると考えられる。逆にいうと、もし今、海外旅行に行くなら、中国との関係が良好な国・地域に限られると言える。
日本政府観光局(JNTO)の発表によると、今年8月の訪日観光客数は309万8900人だった。前年同期比9.6%減となったものの、韓国、マレーシアなど14カ国・地域で8月として過去最高を記録した。
一方、中国の今年1月〜8月の総数は290万4600人で前年同期比56.7%減だった。JNTOが発表した概況には、中国政府による注意喚起のほか、スクールホリデーの影響、航空便の減便の影響もあると書かれているが、国内景気の悪化や、同規定が施行される予定であることも影響した可能性がある。
■厳しさを増すVPNの利用規制
さらに、不穏な動きとして、最近、中国ではVPN(仮想プライベートネットワーク)の利用が規制される動きもあるという。中国では海外のSNS、ニュースサイトなどの閲覧は以前から厳しく規制されており、海外の情報を得ようとする場合はVPNを使用するしかない。
有料と無料のVPNがあり、多くの人が利用しているが、中国に住む知人は有料のVPNでも「閲覧が以前より難しくなっている」と嘆いていた。従来も中国で政治的イベントなどが行われる場合などは一時的に閲覧が制限されることがあったが、そうした時間帯が増えているという話だ。
知人は「海外の情報=必ずしも有害な情報というわけではないのに、閲覧が制限されることに強いストレスを感じる中国人は多いと思います。物理的な出国を制限するだけでなく、情報面でも中国人に海外の情報をインプットさせない、海外に目を向けさせないという、まるで鎖国のような政府の方針に強い憤りを感じます」と話していた。
■ささやかな望みすら叶わない国に
今回の規定の背景には、国内の技術流出を防ぐこと、富裕層の資金をこれ以上海外に持ち出させないこと、移民・移住・留学などの仲介業者を規制することなどがあると言われている。だが、一般人のささやかな楽しみである海外旅行まで規制する動きがあることに、市民の間からはため息が漏れている。
以前から中国人の団体旅行は政府の胸ひとつで停止と解禁が繰り返されてきたが、現在は、本来自由であるはずの個人旅行でさえ大手を振って行けないような雰囲気だ。むろん、現状は、多くの人がイミグレーションで止められるわけではなく、ほとんどの人は問題なく出国できるだろう。だが、別に悪いことをしていないのに、イミグレーションのカウンター前で極度に緊張してしまう人がいるということ自体、気の毒に感じる。
張さんのように「ただ日本の温泉にのんびりと浸かりたいだけ」という個人のささやかな望みさえ叶えられないことは、あまりにも理不尽だし、日本にとっても残念なことではないかと思わせられる。>(以上「PRESIDENT」より引用)
今月15日から出入国管理に関する国務院規定(国務院令第841号)が施行され「ついに日本から中国人観光客が消える…習近平が始めた一般市民からパスポートを取り上げる「ヤバい鎖国政策」」との記事が出た。中島 恵(フリージャーナリスト) が鎖国令施行前後の中国内の様子を報告をしている。
中島氏の報告によると、いきなり全面禁止ということではなく「戦争、武力衝突、治安悪化、自然災害、感染症などのリスクが高い国・地域への渡航は慎重に検討するよう注意喚起し、渡航を思いとどまらせる」ために渡航制限を強行しているようだ。日本に対して渡航を厳しく制限しているのは高市氏の「台湾有事」発言に端を発していると云うが、中共政府の頑なさには幼稚性すら感じさせる。
もちろん以前から富裕層や特殊技術者などの渡航制限は実施されていた。それは中国内から2025年一年間だけで120兆円もの「富」が外国へ流出しているからだ。「AI、半導体、レアアースなど先端企業の技術者」等の渡航制限は中国の技術など知的財産が外国へ流出するのを防止するためだという。しかし工業技術で中国が世界最先端の研究・開発している分野があるだろうか。それは科学分野のノーベル賞受賞者が皆無なのを見れば明らかではないか。
むしろ中共政府が恐れているのは外国旅行することによって一般の中国人が外国の実情を知ることではないだろうか。云うまでもなく、中共政府は敵国として日本と米国の名を上げて国民に教育している。外国へ渡航経験のない若者たちは日本や米国を飛んでもない反中国家だと思い込まされている。しかし実際に行ってみると日本人や米国人が中国人に対して敵愾心を抱いていないし、むしろフレンドリーなのに驚くそうだ。
中共政府がアナウンスしている「日本や米国の外国事情と実際は異なる」と一般中国人がしることは国策に反する。一事が万事という。反日政策は中共政府のプロパガンダではないか、と気付くと他の中共政府のアナウンスも疑うようになる。実際に中共政府が発表している経済統計数字を信じる中国民は殆どいないという。世界平均以上に経済成長している中国で国民の多くが貧困化しているのは理に適っていないからだ。
中島氏の報告によると現在、中国ではVPN(仮想プライベートネットワーク)の利用が規制されているようだ。ますます中国は世界から取り残されることになる。中国は最先端技術分野では必ずしもトップランナーではない。中国の鉄鋼生産や造船業界といった従来の業界でさえ、新技術開発は停滞し世界の新製品開発競争で大きく後れを取っている。
中国がそうした分野で世界製造大国になったのは日本や米国の支援があったからだ。決して中国が独自に技術開発したからではない。そのため中国は他国から産業スパイなどで知的財産を奪ってきた。あるいは中国に進出した企業に知的財産を開示するように求めてきた。しかし、そうした中国の動きに反発し警戒する企業は中国から撤退している。また米国は中国人研究者を大勢受け容れて来たが、知的財産を無断で中国へ持ち帰る者が後を絶たないため、ついに中国人留学生や研究者の排除に出た。
日本でも中国人留学生を制限する動きが出ているし、スパイ防止法の制定に向けた動きが本格化している。中国人が外国から最先端研究を持ち帰れなくなると、後はネットで海外研究科学雑誌に掲載された論文を盗用するしかないが、それさえもVPN(仮想プライベートネットワーク)の利用が規制されては叶わなくなる。
中国の鎖国政策はますます中国の衰退を加速するだけだ。経済成長には自由市場が不可欠だが、中国は自由市場に参加するのではなく、自ら自由市場から遠ざかっている。そして国を閉ざして管理を強化して国民を窒息させている。もはや中国は国民を護る「家」ではなく、国民を閉じ込める「檻」になっている。国際社会から自らをデカップリングする中共政府の動きは中国にとってマイナスでしかない。