米国民は大統領に米国民の日々の暮らしの質を高めてほしいと望んでいる。

<11月3日に迫る米国の中間選挙。トランプ大統領の支持率は低迷し、9月の消費者信頼感指数も約12年半ぶりの低水準に落ち込みました。物価やガソリン価格など生活コストへの不満が高まる一方、熱烈なMAGA支持層はなお健在です。中間選挙の行方はどうなるのか。そして選挙後、トランプ政権の後半戦はどう変わるのでしょうか。
 国際政治学者の佐々木れな氏に、中間選挙を前にした米国の現状と今後の行方について、JBpress編集長の細田孝宏が聞きました。



◇続くガソリン「4ドル」超、膨らむ生活不満
——米国では11月3日に中間選挙を迎えます。トランプ大統領の支持率低迷も報じられていますが、現地ではどのような雰囲気なのでしょうか。
佐々木れな氏(国際政治学者、以下敬称略):私のいるワシントンは、2024年の大統領選でも9割以上が民主党候補に投票した街なので、ここにいると全米の空気はなかなか見えにくいところはあります。
 ただ、もともとトランプ大統領を支持していない民主党系の研究者の間でも、さらにフラストレーションがたまっているのを感じます。特に経済政策への不満です。
 米国では、外交よりも自分の生活に対する不満が投票行動につながると言われます。ガソリン価格は、年初には1ガロン3ドル前後だったのが、一時4.5ドルまで上がり、今も4.4ドル前後です。こうした物価高は生活に直結するだけに、不満はかなり大きいと思います。

——共和党支持者の間でも、トランプ大統領への不満は強まっているのでしょうか。
佐々木:共和党支持者だからといって、必ずしも「MAGA」というわけではありません。アカデミアにも共和党系の研究者はいますが、トランプ大統領を批判する人はいます。
 ワシントンには共和党支持の軍関係者もいますが、トランプ政権の政策によって直接影響を受けた人もいます。例えば、国防総省では民間職員を5〜8%削減する方針が示され、実際に私の周囲でも仕事を失った人がいます。そうした人たちからは、トランプ大統領に対する個人的な反発も聞かれます。

◇それでも「MAGA」は離れない
——以前は、トランプ大統領が応援する候補は選挙で有利になると言われましたが、その力も落ちているのでしょうか。
佐々木:熱烈な支持者は、今も熱烈なままだと思います。私にもMAGAの友人はいますが、トランプ大統領が何か面白いことを言っている切り抜き動画を今でも送ってきます。
 自分の生活への不満と、トランプ大統領のカリスマ性への支持は、少し切り離されているのかもしれません。
 ワシントンでは「中間選挙で民主党が勝てば、議会によるトランプ大統領への制約が強まる」という意見もありますが、少し楽観的すぎるのではないかという印象も受けます。

——MAGAの人たちは物価高やガソリン高があっても、「トランプ大統領のせい」とは考えないのでしょうか。
佐々木:そうですね。例えばトランプ大統領が、「ガソリンが高いのは自分のせいではなく、イランのせいだ」というナラティブをつくれば、熱烈な支持者はそれを信じる可能性があります。「俺たちの大統領は間違っていない。ただ、イランのせいで生活が苦しいんだ」と受け止める人もいるのかもしれません。

◇5000ドル給付案も?読めない中間選挙
——中間選挙の行方について、ワシントンではどんな見方が多いですか。
佐々木:ワシントンでは、上下両院のうちどちらか一方で民主党が議席を伸ばすのではないかといった見方はあります。ただ、はっきりした予測はしづらいと思います。
 テキサスやカリフォルニアなど一部の州では選挙の区割りが変更され、選挙区の競争性も変化しています。従来の激戦州ではなかったところまで注目を集めているので、単純には議席数を予測できません。
 さらに、米国の有権者は投票直前に起きた出来事によって投票行動を変えることがあります。政権側もそれを分かっているので、残り1カ月でどんな政策を打ち出してくるのかによっても変わります。

——投票日直前に、トランプ大統領が有権者にアピールする大きな政策を打ち出す可能性もあるということですね。
佐々木:あると思います。9月上旬にも、トランプ大統領は、共和党が上下両院を維持した場合、成人の米国市民に5000ドルを配るという案を打ち出しました。具体的な財源が不透明で実現可能性は低いと思われますが、選挙前にこうした話がまだ出てくる可能性はあります。

◇消費者心理、12年半ぶり低水準
——そこまで有権者向けの政策を打ち出す必要があるほど、米国民の家計は厳しいのでしょうか。
佐々木:消費者信頼感指数という経済指標がありますが、今年9月は12年半ぶりの低水準でした。消費者が自分の将来についてどれくらい明るい見通しを持っているかを見る指標ですが、非常に低いです。
 失業率やインフレ率そのものが極端に悪いわけではありませんが、それでも消費者は将来に対して非常に強い不安を抱いています。見通しの立たないイラン情勢など不安材料が多く、「これからどうなるのか分からない」という感覚が、今の米国社会にはあるのだと思います。

◇「トランプのツイート」で政策立案?
——一般的に中間選挙は与党に不利だと言われます。仮に共和党が負ければ、トランプ大統領は「レームダック」になるのでしょうか。
佐々木:民主党が議席を増やせば、議会での制約は当然強くなります。ただ、それによってどこまでホワイトハウスの権限を制限できるのかはよく分かりません。
 今の政権では、重要なポストにも空席がかなり残っています。国防分野でも、日本や中国に関係する重要なポストがまだ空席だと聞いています。政権発足から2年近くたっても埋まっていないポストがあるわけです。
 官僚の方々と話していると、非常に悲観的です。「政策立案では何をしているのか」と聞くと、「トランプ大統領の投稿を見て、そこに書いてあることをどうやって実現するか考える」というような話も聞きます。
 米国の官僚制そのものが壊れつつあります。そうした状況では、仮に民主党が中間選挙で議席を伸ばしたとしても、何を変えられるのかという疑問があります。
 民主党系の人たちには、中間選挙ではなく次の大統領選挙に照準を合わせ、「民主党が勝ってトランプ政権の連中を全員、牢屋にぶち込むんだ」と、インサイダー取引などトランプ政権の犯罪リストのようなものを一生懸命作っている人もいるほどです。

——仮に次の大統領選で政権交代すれば、また大きく変わることになりますね。
佐々木:そこも大変だと思います。例えば大学ではDEI(多様性、公平性、包摂性)に関する取り組みが縮小され、シンクタンクや国務省の予算も減っています。同盟国との会議もかなり減っています。次に政権が変わったとしても、今度はどこに、どう予算を戻していくのか。その制度設計そのものが大変になると思います。

◇MAGAが共感する「参政党」
——米国も内向きになっているのでしょうか。
佐々木:内向きになっていると思います。大きな論点の一つが移民です。これまでは不法移民が主なターゲットでしたが、最近では専門技術者向けの就労ビザ「H-1B」など、合法的に米国で働く外国人に対する規制も強めています。このまま続けば、米国から本当に移民がいなくなってしまうのではないかという恐怖感もあります。

——米国の「内向き化」を身近に感じることはありますか。
佐々木:共和党の人から、日本の参政党の話をされるんですよ。議会で働くMAGA系のスタッフに「参政党いいよね」と言われたことがあります。移民問題などを巡って共感する人もいるようで、参政党と共和党の共通点を並べた投稿や動画を目にすることもあります。日本で見られている参政党のイメージと、MAGAの人たちが見ている参政党のイメージはかなり違うかもしれませんが、意外なほど共感を集めています。

◇トランプ政権後半戦、日本は「耐え忍ぶ2年」
——中間選挙後、トランプ政権は2期目の後半に入ります。高市政権は、トランプ大統領とどう付き合っていけばいいのでしょうか。
佐々木:トランプ大統領に「東アジア情勢は大事です」と言っても、それだけではおそらく響かないと思います。トランプ大統領にとって大事なのは、やはりお金を持ってくることです。
「日本はアメリカの同盟国です」と言い、変に目をつけられることなく淡々と過ごす。そんな「耐え忍ぶ2年」にするしかないと思います。
 ただ、この状況が続くことを前提にすれば、日本独自の防衛力を強化する必要もあります。中国とはしっかり話をし、台湾との関係も強化していく。だからこそ、日本として自分たちでできることを進めながら、米国に東アジアの重要性を訴え続けるしかないのだと思います。>(以上「JB press」より引用)




 対談記事が「米中間選挙、何が起きている?参政党に共感するMAGA、トランプ政権を追及する「犯罪リスト」作る民主党関係者」との見出しで掲載された。いよいよ来月3日に実施される中間選挙で、上下院ともトランプ氏の与党・共和党の劣勢が伝えられているが、民主党は中間選挙後の2年間を睨んでいるのではなく、次の大統領選を見据えているという。
 2028年の米大統領選挙に向け、ジェトロや米世論調査(エマーソン大学など)の直近のデータによると、共和党支持層ではJ.D.バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官、民主党支持層ではカマラ・ハリス前副大統領やピート・ブティジェッジ前運輸長官、ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事などが有力な候補・予定者として名前が挙がっているという。

 たとえ共和党が上下両院で敗北してとしても、それでトランプ氏が鳴りを潜めるとは思えない。依然として、反グローバリズム政策が続くだろうし、連邦最高裁で違憲とされたトランプ関税を引っ込めることはないだろう。
 11月3日の結果がどうであろうと、米国はトランプ氏の気儘に振り回されるだろう。世界もそれとお付き合いするしかないが、そうしている内にも世界は米国やロシアを中心軸とした勢力構造から、多極構造へと軸足を移していくだろう。少なくとも覇権国家が世界を牛耳っていた前世紀へ回帰することはないだろう。

 米国民も豊かな中産階級が消滅して、明日の暮らしを考えざるを得ない階層の人たちが大勢を占めている。そのため世界に君臨する米国ではなく、米国民のための米国であって欲しいと思っている。トランプ人気とは別にMAGAが依然として米国民の関心事であるのは、そうしたことからだろう。
 ただガソリン価格に言及すれば、1ガロン4ドルは為替レートが1ドル=150〜160円の場合、1リッターあたり約158〜169円になるから、日本国民の感覚からすれば高額というほどではない。ほとんど日本のガソリン価格と同程度だから、他の物価が日本よりも1.5倍~2倍ほどの米国では安価だとしか思えない。

 ただトランプ氏の経済政策により、米国経済は少しづつ上向いている。「内向き」の政策は米国民がホワイトハウスに望むものではないだろうか。熱烈なMAGA信者が日本の参政党に共感を示すのは参政党が掲げる政策が「日本人ファースト」だからだろう。
 米国民は米国政府が世界の警察官であることよりも、米国民のためのに注力することを望んでいる。いかに中東で軍事作戦を展開して勝利したとしても、それで自分たちの生活と何の関係があるのか、と問い直してしまうだろう。自分たちの暮らしが中間層から貧困層に転落したことの方が大問題だからだ。

 確かに国際舞台で活躍する方が華々しい。それは絵になるし米国大統領として歴史に名を刻む可能性が高い。しかし米国民は大統領にそんなことよりも、米国民の日々の暮らしの質を高めてほしいと望んでいる。その感覚のズレこそがトランプ氏の致命傷になりかねない。

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