フランス国民が納税した国家予算を彼ら(フランスの若者たち)のために支出するのに、出し惜しみする必要は全くない。

<10月17日、フランス全土で約55万人が参加する大規模デモが起き、各地で暴動に発展した。日本でも大きく報じられているこの出来事、現地ではいったい何が起きているのか。

◇「デモが暴徒化した」は間違い
――10月17日にフランス全土で約55万人が参加する大規模デモが起き、その後、各地で暴動になっていると報じられています。市庁舎は放火され、逮捕者は2,000人を超える事態となり、日本でも大々的に報じられています。そもそも今回は、何に関するデモだったのでしょうか。
 まずデモの話に入る前に、今回はデモが暴徒化したわけではないんです。デモと暴動はまったくの別物。日本でされているような、“デモ隊の一部が暴徒化した”という報道は間違いです。その証拠に、普段は暴徒がデモの最後に現れますが、今回マルセイユなどではデモとは関係なく、午前中から暴動が起きていました。その他の地域でも、デモと同じ時間に勝手に略奪を始めていた。デモと暴動はまったく違う話だということを前提にしないと、ここ最近フランスで起きている現象は分かりません。
――それを分けた上で、まずデモのほうですが、これは何に関するデモだったのですか。
 端的に言えば、高校の現状と、物価高に対するデモです。今回のデモは、9月18日にパリ南郊外・クレテイユにある高校の封鎖抗議行動から始まりました。ここで訴えていた要求のひとつが、学校施設の改善です。フランスの高校は生徒数の増大もあって1960年代に大幅に建設されましたが、かなり老朽化しているのにも拘わらず改修が遅れている。冷房設備もなく、今年の熱波では何度も休校になりました。
 もうひとつが、教師の補充です。フランスでは現在、教師が足りなくて授業が行われないという事態が各地で発生しています。教室も、机や椅子が足りないにも拘わらず、定員以上の人間が詰め込まれたりしているんです。
 そこに、大学に入ってからのParcours sup(フランスの高等教育機関の1年目に入学するための国営の共通出願プラットフォーム)の改善・廃止、物価高などが加わって、デモがさらに大きくなっていった。2018年の「黄色いベスト」運動以降も、物価高や、今の格差社会、つまり働く人と働かずに儲ける人――例えば金融関係の人や、異常な給料をもらう大企業の社長――そういう差に対する不満が続いていました。
 大規模デモが起きたこの10月17日という日は、2018年の黄色いベスト運動が始まった記念日でもあったんです。初めは高校から始まり、それに応じて大学が封鎖し、さらに教職員組合、全国組合が入り、そして10月17日にはもともと「黄色いベスト」運動に参加していた“普通の人”も加わった。こうして大規模デモへと発展していったのです。

◇教員よりも民間企業が稼げる
――教育の問題について深掘りしていきたいのですが、学生たちが立ち上がった背景にはどういう問題があるのでしょうか。
 教師のなり手が非常に少ないんです。まず給料が低い。現在、教師になるような大学で5年間学んだ「マスター・修士」であれば、民間の給料はずっと高くなっています。2026年フランスの高校教師の平均給与は、月2,950ユーロ(ボーナスなし、1ユーロ180円とすると53万1000円、120円とすると35万4000円)、一方、同じ学歴の給与中間値は約3,500ユーロ(ボーナスなし、1ユーロ180円とすると63万円、120円とすると42万円)。民間企業に入社したほうが稼げるのです。
 さらに、郊外の団地がスラム化するなど、非常に環境の悪い高校も増えており、誰もそこへは行きたがらない。今回、デモを受けてマクロン大統領は「教師3,000人の増員を約束する」と発表していましたが、それでも足りないぐらいです。
――教育は国家にとって重要なものですが、フランスはあまり対策してこなかったということなのでしょうか。
 対策自体はしてきました。フランスは60年代ぐらいまでは上と下の階級がはっきり分かれていて、大学に行くのはエリートだけでした。それが68年の五月革命などを経て、80年代にフランソワ・ミッテラン大統領率いる社会党政権が日本を真似て、大学入学資格を持つ人を80%まで上げるという方針にした。教育に予算をつぎ込んできたのは確かです。
 ところが、人数が増えてきたことに対する対策が遅れており、そこに施設の老朽化も重なった。本来なら教育に投じる予算が上がらなければいけないのに、当時とほとんど上がっていない。それに加え財政難が問題になっているという状況です。

◇フランスには育成機能がない
――エマニュエル・マクロン政権の教育政策はどうですか。
 それなりには一生懸命やっていますが、マクロン自体というよりも、フランス――そして西洋社会の限界が来ているのだと思います。今、フランスの15歳から21歳の若者の失業率は約21%と高い。企業が即戦力を求めるからです。当然、新卒者は即戦力がないので職がない。
 日本では新卒一括採用が中心であることをフランス人に話すと、「素晴らしい」と言われます。日本企業には育成機能があるわけですね。マクロンはそれに気づいて、今慌ててインターンシップなどの拡充をさせています。ただし、これもフランスの社会がすでに即戦力を求める体質になってしまっているので、なかなか難しいでしょう。「人の育成」なんていう儲からないことをやっていたら、株主から指摘されてしまいますから。
――もう一つ、物価高に対する不満もあったと思いますが、マクロン政権の物価高対策は功を奏していないのでしょうか。
 功を奏していないということではありません。2018年に黄色いベスト運動が起き、それが沈静化したところにコロナ禍に突入した。コロナ対策が一段落した2022年2月に、ウクライナ戦争が勃発した。2025年には第二次トランプ政権が誕生……と、物価高騰につながる出来事が立て続けに起こりました。特に今年2月にはトランプ大統領がイランで戦闘を始めてしまったので、ガソリン代などが高騰してしまったわけです。
――外的要因が大きかったのですね。
 そのとおりです。外的要因というか、これははっきり言ってアメリカ要因です。アメリカの中東要因が、フランスの物価高に大きくかかわっていますね。>(以上「CREA」より引用)




「「デモと暴動はまったくの別物」「外的要因というよりはアメリカ要因」各地で大規模デモ勃発…いまフランスで何が起きているのか?」と、昨日に続いてフランス・デモを取り上げる。報告しているのは広岡裕児(フランス在住。ジャーナリスト)氏で、フランス在住のジャーナリストとして実際に感じたデモに対するフランス人の肌感覚を伝えている。
 まず基礎知識として、フランスの高校や大学の学費負担は公立校であれば原則として「授業料は無料」だ。教育は個人の権利であり、社会全体が税金で支えるべきという考え方が根底にあるため、日本と比べて個人の費用負担は非常に低く抑えられている。
 ただし、完全にすべてが無料というわけではなく、進路や国籍によって以下のような負担が生じる。
1. 高校(リセ)の負担
 公立高校の場合、授業料は完全無料で、保護者が負担する費用は主に給食費(世帯所得に応じて料金が変動)や、ノート・ペンなどの文房具代、通学費、課外活動費などだ。制服は基本的にないが、一部の試験導入校でも費用は国や自治体が負担するため保護者の負担はない。
 教科書は基本的に学校から「貸与(レンタル)」され、学年末に返却する仕組みのため、購入費用は要らない。
 ただ私立高校の場合は国と契約を結んでいる「認可私立学校」であれば、年間約1,100ユーロ(約18万円〜)程度の授業料負担で通うことができる。
2. 大学(高等教育)の負担
フランスの一般的な公立総合大学には「授業料」という概念がなく、代わりに「登録料(Frais d'inscription)」を年に1回支払うことになる。ただし、この登録料は「学生の国籍」によって金額が大きく異なる。
① フランス国籍・EU圏内の学生…年間数万円程度の負担。
学士課程…年間 約170〜178ユーロ(約3万円)
修士課程…年間 約240〜250ユーロ(約4万円)
博士課程…年間 約380〜400ユーロ(約6万〜7万円)
※低所得世帯の学生(全体の約3割)は、この登録料すら免除され、さらに返済不要の給付型奨学金が支給される。
② 日本など「EU圏外」からの留学生(※注意点)…2019年以降に導入された「差別化登録料」の厳格化に伴い、国費負担が減らされ、留学生の自己負担額が引き上げられている。
学士課程…年間 約2,770〜2,895ユーロ(約45万〜50万円)
修士課程…年間 約3,770〜3,940ユーロ(約60万〜70万円)
博士課程…留学生もEU圏内生と同額(年間約7万円)に据え置かれている。
◎高等教育の例外(グランゼコールなど)…フランス特有のエリート養成校「グランゼコール」やビジネススクール、私立大学などの場合は、公立大学とは異なり年間数十万〜数百万円の授業料がかかる。

 引用記事の中にあるように教員不足はマクロン大統領も認めていて、3,000人ほど増員すると発言している。ただ広岡氏は「それでも足りないだろう」としているが、それよりも教員の待遇が一般労働者よりも悪いため「なり手」がないという。
 日本でも一時期教員のなり手が少なかったため、教員の人材確保を目的とした「教員人材確保法」(正式名称を「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(昭和49年法律第2号)という)を制定して待遇改善を図っている。フランスでも教員の待遇改善を図って一般労働者よりも高い賃金を支払うべきだ。国家の未来を担う人材養成に当たる教員こそ、国は厚遇を以て迎えるべきだ。

 さらに「フランスの15歳から21歳の若者の失業率は約21%と高い。企業が即戦力を求めるからです。当然、新卒者は即戦力がないので職がない」というフランス企業が企業内研修制度を実施していないことも問題だ。学校教育を終了した段階の新卒者に「即戦力」を求める方がどうかしている。それぞれの企業によって必要とされる技能は異なるから、学校教育では「汎用技能」を習得させるまでで、それ以降の専門的な技能はそれぞれの企業で実施するのが本来ではないだろうか。
 高校や大学に対してインターンシップ制度を設けるように、フランス政府は各企業と協力して支援すべきだ。現在、フランスに居住する移民(外国生まれの人々)の数は、フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、2024年時点で約770万人で、全人口の約11.3%に達して、フランス政府の難民庇護制度に関わる直接的な公的予算は、上院の報告書などによると年間で最低でも約18億〜20億ユーロ(日本円で約2,900億〜3,200億円)に達している。云うまでもなくフランスはフランス国民のための国家だ。フランス国民を中心にした政策を実施し、フランスの伝統と文化を未来に継承するのはフランスの若者たちだ。フランス国民が納税した国家予算を彼らのために支出するのに、出し惜しみする必要は全くない。

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