米国は歴史的な転換点に差し掛かっていることを理解すべきだ。

<2026年11月3日の米中間選挙を前に、トランプ大統領の支持率低下が報じられています。一方、トランプ政権を支えてきた「キリスト教ナショナリズム」や宗教保守層の動向は、選挙の行方を左右する重要な要素として改めて注目されています。
 ドイツでは右派政党AfD(ドイツのための選択肢)が支持を伸ばすなど、世界各地で右派勢力が存在感を強めています。中間選挙を経ても米国の「トランプ現象」は続くのか。リベラリズムはなぜ勢いを失ったのか。そして、米国で広がる「反知性主義」とは何なのでしょうか。
 JBpressのYouTube番組「マライ・メントラインの世界はどうなる」では、米国の宗教史や思想史を研究する森本あんり・国際基督教大学名誉教授をゲストに迎え、米国政治と宗教の関係やキリスト教ナショナリズム、反知性主義、そして中間選挙後の米国社会の行方について語り合いました。

マライ・メントライン氏(以下、敬称略):11月の中間選挙では、「キリスト教ナショナリズム」や宗教保守層はどれくらい重要な存在になりそうですか。
森本あんり国際基督教大学名誉教授(以下、敬称略):今回の中間選挙で少し変わってきたと思うのは、民主党の側にも宗教を前面に出し、信仰を持つ人たちを取り込みたいという動きが出ていることです。テキサス州の民主党上院候補のジェームズ・タラリコ氏をはじめ、神学生や牧師が立候補しています。
 米国では基本的に、「信仰深い=共和党」というイメージがあります。共和党の人たちから見れば民主党は「信仰のないリベラルなインテリだ」という印象なのでしょう。
 そこが民主党の弱いところでした。それが分かっているので、今回は信仰を持つ層からの支持を少しでも取り戻したいという思いがあるのでしょう。ただ、党の戦略としてそういう候補者を集めたというより、それぞれが見るに見かねて自分で立候補して公認された、という感じです。
メントライン:いずれトランプ大統領が政治の表舞台から退く時が来ます。それでも米国のキリスト教ナショナリズムは残ると思いますか。
森本:そんなに簡単に消えてなくなるようには見えません。
 例えば、連邦最高裁の構成が変わり、保守派が増えました。トランプさんがいなくなっても、その影響は残ります。これは最高裁だけの話ではなく、社会全体の底流が保守化に向かっていると思います。今回の中間選挙の結果がどうあれ、20世紀に私たちが見ていたような、いわゆるリベラルなアメリカがすぐに戻ってくるとは限りません。

◇ドイツの右派政党AfDが吸い上げる「不満」
メントライン:世界的にも保守化の動きが出ています。ドイツでは、AfD(ドイツのための選択肢)が大きく支持を伸ばしています。AfDは、人々の不満を吸い上げながら主張を変えてきた政党だと思います。
 難民危機の際には、多くの難民、イスラム教徒などが入ってくることへの不安や不満を取り込みました。一方、コロナ禍で実際に国境が閉じられると、今度は「国境を開けろ」と主張しました。コロナ規制に対する新たな不満が出てきたからです。
 そして今は、経済が成長しないという不満を「それは移民や難民のせいだ」という方向に戻ってきています。
森本:AfDは宗教についても主張していますよね。
メントライン:そうです。「キリスト教的な価値を大切にする」「伝統的な家族を守る」「ドイツの文化や宗教を守る」といったことも言っていて、それが支持される面もあります。
森本:そこは米国と似ています。ただ、違うのはドイツの既存の教会がAfDに批判的なことではないですか。AfDは教会税の制度に批判的なので、教会税を受け取っている既存の教会は警戒していると思います。教会はそれで国と協力して社会福祉などを担っているのに、AfDはアメリカみたいに教会税を廃止しろ、と言うのです。
メントライン:ドイツではナチ時代にナチス寄りになった教会もありました。その反省から、AfDのような政党を支持することには強い警戒感があります。

◇なぜリベラリズムは「空虚」?
メントライン
:米国ではMAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)、ドイツではAfDが存在感を強めています。世界的にリベラリズムが弱くなっているということなのでしょうか。
森本:リベラリズムは今、世界的にかなり退潮していると見ていいかもしれません。そもそもリベラリズムとは何なのか。私は「器」だと思っています。
メントライン:「器」とはどういうことですか。
森本:その器の中に、いろいろなものが載るんです。リベラルな社会では、AfDのような極端な意見を持つ政党も、共産党だって存在できます。さまざまな主張が存在できるというのが、リベラリズムの大事なところです。
 政教分離も同じです。国家が宗教の「色」を決めないから、その上にはキリスト教もイスラム教も、無宗教も乗ることができる。
メントライン:お皿と、その上に載せる料理のようなものですね。
森本:そうです。でも、お皿そのものは食べられないでしょう。お皿だけでは何も面白くない。
 リベラリズムも同じで、リベラリズムそのものを実現すべき目標にしてしまうと、つまらない。空虚なんです。
 でも、無色透明で空っぽだからこそ、いろいろなものを載せられる。それが大事なんです。例えばキリスト教ナショナリズムを「お皿」にしてしまったら、イスラム教徒は乗りにくくなるでしょう。
 リベラリズムが退屈でつまらないのはある程度仕方がないんです。その上に私たちが何をつくるのかが問題なんです。

◇反知性主義の実像
メントライン:こうした状況は、「反知性主義」とも関係しているのでしょうか。
森本:米国で今、困った現象の一つは、「アメリカは建国時からキリスト教国だった」というような都合のよい神話を大々的に広めるアマチュア歴史家がいることです。
 歴史にはいろいろな見方があり、歴史家によって意見が違うのは当然です。でも問題なのは、歴史的な批判や考証、史実やデータを無視して、アメリカ人が大好きなストーリーを語り続ける人がいることです。そして、みんなそれを喜んで読むんです。
 そこで歴史家が「学問的にはこうですよ」と批判すると、その途端に反知性主義が発動するんです。
メントライン:どういうことでしょうか。
森本:「あなたは学者で、エリートだからそんなことを言う。でも大衆のストーリーの方が正しいんだ」となる。「その根拠は何ですか」と聞けば、今度は「そういう聞き方が権威主義の表れなんだ」となる。そうすると、批判そのものができなくなってしまうんです。
メントライン:論点そのものがすり替わってしまうわけですね。

◇分断社会に必要な「寛容」
メントライン:一方で、米国にはリベラルな人もいれば、宗教心の強い人もいる。全く違う価値観を持った人たちが、同じ社会で暮らしていかなければなりません。価値観の違う人たちが共存していくためには、何が必要なのでしょうか。
森本:大事なのは「寛容」だと思います。
 寛容というのは、自分と違う人を100%受け入れなさいという意味ではないんですよ。意見も違う、好みも違う、食べているものも違う。心の中で「嫌だな」と思うことがあっても、隣同士で何とか一緒に暮らしていく。それが寛容だと思います。
メントライン:中間選挙の勝敗だけではなく、その先の米国社会を見るうえでは、何に注目すればいいでしょうか。
森本:米国社会が、もう一度まとまりを取り戻すきっかけがどこかにあるかどうかでしょうね。
 今は左右の分断だけではありません。持てる人と持たざる人という、経済的な分断もますます進んでいます。
 中間選挙やその後の政治の動きを経て、米国社会が新しい方向へ進めるのか。そういう動きが潰されず、これから芽を伸ばしていけるのかを見ていきたいと思います。>(以上「JB press」より引用)




「【米中間選挙】なぜリベラリズムは「空虚」なのか?大衆に広がる「反知性主義」…民主党もキリスト教票を狙い始めた」とは、米国社会にもパラダイムシフトが起きているのかと思わざるを得ない。なぜなら本来リベラリズムは神などの絶対権力を否定するところから始まるからだ。
 リベラリズムとは個人の自由、人権、法の下の平等など民主主義を基本とする政治的・道徳的な思想・哲学で、 国家や社会の慣習よりも、個人の自由や権利を最優先する。だから人が崇拝する「神」信仰とは相容れない人たちのはずだ。

 森本氏はリベラリズムを「器」だと表現している。皿のようなもので様々な料理を盛ることが出来る、と表現しているが、果たしてそうだろうか。云うまでもなくリベラリズムは思想・哲学の一つだ。元々米国にはプラグマティズムという思想があった。利用価値のあるモノが価値あるものだ、とする哲学だ。それに対して利用価値がなくても社会に必要なものは沢山ある、例えば「自由」や「人権」だと従来の米国社会に反発したのがリベラリズムだった。
 だからリベラリズムは「器」ではなく、既存の社会秩序を壊すハンマーだった。1960年代を思い返して欲しい。当時の若者たちは荒れ狂って既存の権力を破壊しにかかった。街では公民権運動が激しさを増した。その後はベトナム戦争により社会が疲弊し、若者たちはリベラルからヒッピーなどに流れた。

 リベラリズムは「器」ではなく、既存の秩序を破壊するハンマーだった。だから金儲けに聡い大人たちは金融街に逃げ込んでグローバリズムを掲げた。米国社会では依然としてリベラリズムが荒れ狂っていたが、資本家たちは投資家となってグローバルな国際社会に活躍の場をへと移した。その結果、投資家たちは米国内産業への投資ではなく海外企業や為替取引にウツツを抜かすようになった。
 結果としてラスベルトが出現した。USスチールを買収した日本製鉄の技術者たちがUSスチールの本社工場に乗り込んで唖然としたという。90年前の設備がそのまま使われていたという。それでは自動車産業で求められる極薄超鋼板は造れない。もちろん純度の高い鉄も造れない。USスチールがなぜ没落したのか、経営陣が製鉄に投資しなかったからだ。

 かくして米国の中間層を形成していた製造界の雇用が失われた。造船業界ですらロストテクノロジーが現実となって米国海軍の新造船を日本の造船所に発注するしかなくなっている。
 グローバリズムは米国社会が破綻しようと気にしなかった。もちろんリベラリズムも個人の「自由」や「人権」は気になるが、米国社会がどうなろうと気にしない。結果として、民主党政権の時代に大量の不法移民が米国に押し寄せて、米国社会は破壊され尽くそうとした。だから「MAGA」を掲げる時代錯誤のトランプ氏が大統領選で勝利した。

 しかしトランプ氏の時代錯誤は選挙民が想定していたより酷く、先の大戦以前の重商主義を標榜してトランプ関税を世界各国に課したため、米国の信頼と評判は失墜した。ただ「MAGGA」は現在でも多くの米国民を魅了している。もちろん再び米国を偉大にするのは米国民のためだが、トランプ氏のスローガンには後半の「米国民のために!!」が抜け落ちている。「MAGA」は決してトランプ氏の延命のためのスローガンではない。
 森本氏は価値観の違う人たちが共存するカギは「寛容」だと言った。しかし寛容はストレスを溜め込む危険性が高い。価値観の異なる者たちが混在して「寛容」に暮らすのではなく、価値観の異なる者は価値観を共有する者たちでそれぞれの地域社会を形成するしかない。それは分断ではなく、ストレスのない社会だと表現すべきだ。それが嫌ならスウェーデンのように外国人移民に500万円の補助金を支払って祖国へ帰還させるしかない。米国はそうした「移民の国」から「米国人の国」に変貌する歴史的な転換点に差し掛かっていることを理解すべきだ。

 米国建国の精神はキリスト教だった。17世紀にメイフラワー号や大移住によって新天地アメリカへ渡ったピューリタンたちの「神の摂理により特別な使命を与えられた民(アメリカ例外主義)」という意識や宗教的熱情は、米国の愛国心や福音派の価値観の土壌となっている。現在でも福音派が多数を占めているが、日曜日に教会を訪れる人は激減している。
 MAGAの目的は「アメリカ国民のため」でなければならない。もう一度、米国は厚い中間層を取戻して、安定した社会を再生しなければならない。中間選挙はそのための第一歩となることを心から願う。

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