候補者が中間選挙でマッチョ度を競う?
<◇中間選挙で争点化する「マッチョさ」
トランプ大統領率いる共和党が引き続き米議会の上下院を押さえて、権力基盤をさらに強固にするのか、あるいは下院、さらには上院さえ失って共和党内からも無視される「レームダック化」するのか。
その行方を決める11月の中間選挙まで、あと1カ月を切った。
トランプ大統領がまんまとイスラエルに丸め込まれて開始したとされるイラン戦争は、大統領に対する支持率を30%近辺まで大きく下げる要因となっている。落ち着き始めていたガソリン価格や石油製品価格は、イエメンのフーシ派の本格参戦などで再び上昇して高止まりしており、「物価を下げる」という公約で当選したトランプ大統領は支持率の急落でピンチに陥っている。
言うまでもなく、今回の選挙では「インフレ」「戦争」が2大争点である。
だが中間選挙には、米メディアも注目する「隠れた重要テーマ」がある。2024年の大統領選挙でトランプ再選の底流となった、「男性の復権」と「候補者の男性らしさ」だ。
トランプ大統領が「男らしさ(masculinity)」「マッチョさ」を前面に打ち出して、「女性初の米大統領」や「中絶の権利の死守」を掲げた対抗馬の民主党のカマラ・ハリス前副大統領に勝利したのは、少なくない有権者にとって、彼の男性性が「実力」や「行動力」のイメージと結びついたからだ。
今回の中間選挙においては、候補者たちがテレビやネットで流す政治広告に「男らしさ」を競う傾向が顕著に表れている。2年前、共和党に男性票の多くを奪われた民主党は、一部の激戦区でたくましい労働者タイプの男性候補を意図的に擁立する一方で、共和党は一部の男性民主党候補の「女々しさ」を攻撃している。
本記事の前編では、共和党が一部の民主党の男性候補を「男らしくない」と決めつけ、そのイメージを「不誠実」や「能力の欠如」と結びつけている様子を紹介する。
◇「メイクに50万円もかけるインチキ野郎」
2024年の大統領選挙では当時のトランプ候補が、政治家から軽んじられることが少なくなかった男性有権者にアピールし、従来は民主党支持が多かった白人男性労働者のみならず、黒人男性やヒスパニック系男性の票、さらに若年層男性まで幅広い支持を集めて当選した。
総選挙において、男性票を動かすことの重要性が再認識されたわけだ。
そのカギが、トランプ大統領に代表される「男らしさ」や「タフさ」のイメージである。トランプ氏の「軍事力による平和」のモットーに凝縮された、筋力(戦闘力)や支配力の強さを兼ね備えた候補が、選挙で勝てる可能性が高いと米社会に改めて認知されている。
そこで共和党は、世論調査で共和党候補者を大きくリードする民主党男性候補者に的を絞り、彼らが「男らしくない」「弱い」として攻撃している。特に男性有権者にとって、「男性的な強さ」は投票先を決める際の重要な要素になっているからだ。
南部の激戦州であるジョージア州の米上院選で、対立候補である共和党のマイク・コリンズ米下院議員(59)を4~10ポイントと余裕でリードする民主党現職のジョン・オソフ米上院議員(39)を攻撃する広告は、非常にわかりやすい例だ。下の写真を見てほしい。
この30秒の人格攻撃コマーシャルは、2028年の大統領選挙で有力民主党候補になるとの呼び声も高いイケメン候補のオソフ氏が、2026年2月以降、ヘアメイク費用として計3000ドル(約48万円)近くを支出したとの米連邦選挙委員会(FEC)への収支報告書の記述を揶揄する内容となっている。
米ポピュラーカルチャーにおける南部の男のステレオタイプは、きちんとした身なりで礼儀正しく、名誉を重んじる紳士である一方で、質実剛健で、肉体労働や従軍で鍛えられたタフさを兼ね備える。
一方、オソフ上院議員を攻撃する広告動画では、倉庫らしき建物でリフト操縦者として働く、無精ひげを生やした肉体労働者の中年男性が、次のように視聴者に語り掛けるのだ。
◇「AIオソフ上院議員」
「聞いてくれよ。オソフ上院議員は、ワシントンのどの政治家よりもヘアメイクにカネを使ってるんだ。レディーたちよりもお金をかけてるのさ。うん、あんたたちが言いたいことはわかるよ。何てインチキ野郎なんだ、ってね」
ここで、人工知能で生成された、無表情の「AIオソフ上院議員」が男性のスタイリストに髪の毛をブローしてもらい、女性スタイリストにチークのピンク色を入れてもらっている様子が映し出される。
次に、髪を白いタオル巻いて保護され、顔を緑色の泥パックで覆い、両目の上にキュウリの輪切りをかぶせてスキンケアにいそしむ「AIオソフ上院議員」のカットへと移り、肉体労働者の男性のナレーションが、こう続ける。
「こいつ(this dude)は2024年に、俺たちの税負担を年間2000ドルも上げる法案に賛成票を投じてるのにさ。しかも、俺たちの残業代に課税する票も入れてるんだ」
つまりこの動画は、オソフ上院議員がメイクアップに大金を使いながら、「大きな政府」を掲げる民主党員として、労働者の負担をより重くする法律を作るリベラルエリートであるとのイメージを、有権者に刷り込もうとしている。
選挙コマーシャルの語り手である労働者男性は、「このイケメンボーイ(pretty boy)は、上院で醜い投票実績しか残していない。オソフはマスカラを捨てて、実社会に身を投じるべきだよ」と締めくくる。オソフ氏が、マスカラを塗るような、南部の男らしくない浮ついた若造だと、ダメ押ししている。
そして最後の場面で、相変わらず無表情の「AIオソフ上院議員」が、目の下のクマを和らげるためのパッチを貼り、ジョージア州の都市部に非常に多くいるアジア人女性のネイリスト2人に爪を整えてもらっている場面で終わるのだ。
ホワイトハウスのデイビス・イングル報道官も、「オソフはキモくて(cringeworthy)女性的で大袈裟な若造(feminine theatre kid)で、オバマ元大統領のコスプレをしているだけだ」とこき下ろししており、その「女性性」が弱みであると認知されている。
◇「低男性ホルモン」…過熱する“男らしさ”攻撃
ボロクソに攻撃されるオソフ上院議員だが、彼よりもさらに激しい人格攻撃を浴びているのが、同じく南部で米上院に立候補しているテキサス州民主党のジェームズ・タラリコ州下院議員(37)だ。
対抗候補である共和党所属のケン・パクストン州司法長官(63)は5月の集会で、タラリコ氏に男らしさが欠けるという意味で、「豆腐(のようにフニャフニャの)タラリコ(Tofu Talarico)」という不名誉なあだ名をつけて、話題になった。牛肉の一大産地であるテキサス州の政治家でありながら、肉を食べないベジタリアンだとの噂にかけた蔑称だ。
さらにこの名付けは、タラリコ議員が2021年および2023年のテキサス州議会で、男性として生まれたトランスジェンダー選手が女性としてスポーツ競技に参加することを禁ずる法案に反対票を投じ、2021年に「神は(性自認が男性または女性のどちらか一方に完全に当てはまらない)ノンバイナリーである」、翌2022年に「イエス・キリストは過激なフェミニストだ」と発言していたことを批判したものでもある。
パクストン氏は支持者に、「タラリコは『6つのジェンダーのジミー』とか、『奇妙(フリーク)なタラフリーコ(Talafreako)』って呼ばれてるんだ」と話して笑いを誘った。
カウボーイや原油採掘労働者などのイメージが強烈で、ジョージア州に輪をかけて男らしさが重んじられ、結婚して初めて一人前の男と見られるテキサス。そんな土地で、30代後半に達しながら未婚のエリート神学生タラリコ氏は、格好の攻撃対象だ。下に示した政治コマーシャルのスクリーンショットをご覧いただきたい。
この動画では「AIタラリコ候補」が、1965年公開のミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』に出演した際の女優ジュリー・アンドリュースのような衣装をまとい、同映画で使用されたハマースタインとロジャーズの名曲「私のお気に入り(My Favorite Things)」の替え歌を歌うのだが、その時点ですでに男女の区別が倒錯している。
◇『低男性ホルモン的な行為』
日本語訳の3番は、「真っ白いドレスにブルーのベルト」で始まり、サビの「みんな大好き my favorite things」のリフレインで印象付けるもので、ご存じの方も多いだろう。ところが動画では、女性的にハツラツとした「AIタラリコ候補」が次のように韻を踏みながら歌い上げるのだ。
真っ白いドレスにブルーのベルトをまとった男の子たち
(Boys in white dresses with blue satin sashes)
ひげが生えてくるほど男性ホルモンを注射した女の子たち
(Girls dosed with hormones ’til they grow mustaches)
みなさんの子どもぜーんぶのジェンダーを変えちゃうのよ!
(Changing the gender of all your offspring!)
みんな大好き my favorite things
(These are a few of my favorite things)
この他にも、パクストン候補がつけた「低男性ホルモンのタラリコ(Low-T Talarico)」というニックネームがある。男性ホルモンのテストステロンが不足すると、体つきが女性的になり、声も甲高くなることが多いが、タラリコ氏はそうした症状に当てはまるというイメージ攻撃である。
果てには、「低男性ホルモンのタラリコは、テキサスを代表するには弱すぎる(Low-T Talarico is Too WEAK for Texas)」というコマーシャルまで流されている。
批判や攻撃を受けたタラリコ候補は、9月の保守系Foxニュースとのインタビューで、「性別は2つしかない」「安全や公平性を脅かすのであれば、トランスジェンダー選手の女子スポーツへの参加には反対する」と述べて、条件付きながら前言を翻した。
だが、タラリコ氏が全国民主党の政策に沿った自説を曲げなければならなかったところに、テキサス州で重要視される基本的価値観の「性別の明確さ」「男らしい強さ」の面で、民主党候補が構造的に劣勢に立たされていることが示されたのは、興味深い。
こうしてタラリコ候補は、「男らしさ」の面で効果的な反撃ができていなかったが、9月に入り、スキャンダルまみれの「腐敗のデパート」であるパクストン候補が弱点を晒すまいと、一向に討論会に応じないことを逆手に取り、支持者集会で以下のように反撃した。
「ケン・パクストンは決闘から逃げてるんだ。それこそ『低男性ホルモン的な行為』じゃないか。みんな、僕はこの言葉を正しく使えてるかい?」
この切り返しに民主党支持者の観衆は大爆笑。「あちらさんの本拠地のFoxニュースで討論会をやろうぜ!」と改めて対決を申し込んだタラリコ氏は、一矢報いたのであった。>(以上「現代ビジネス」より引用)
「「女々しい候補」は勝てない…?米中間選挙で始まった「男らしさ」争奪戦のヤバすぎる中身」と題する岩田 太郎(在米ジャーナリスト)氏の記事を読むと、日本人には想像できない選挙戦が米国では演じられているようだ。
トランプ大統領率いる共和党が引き続き米議会の上下院を押さえて、権力基盤をさらに強固にするのか、あるいは下院、さらには上院さえ失って共和党内からも無視される「レームダック化」するのか。
その行方を決める11月の中間選挙まで、あと1カ月を切った。
トランプ大統領がまんまとイスラエルに丸め込まれて開始したとされるイラン戦争は、大統領に対する支持率を30%近辺まで大きく下げる要因となっている。落ち着き始めていたガソリン価格や石油製品価格は、イエメンのフーシ派の本格参戦などで再び上昇して高止まりしており、「物価を下げる」という公約で当選したトランプ大統領は支持率の急落でピンチに陥っている。
言うまでもなく、今回の選挙では「インフレ」「戦争」が2大争点である。
だが中間選挙には、米メディアも注目する「隠れた重要テーマ」がある。2024年の大統領選挙でトランプ再選の底流となった、「男性の復権」と「候補者の男性らしさ」だ。
トランプ大統領が「男らしさ(masculinity)」「マッチョさ」を前面に打ち出して、「女性初の米大統領」や「中絶の権利の死守」を掲げた対抗馬の民主党のカマラ・ハリス前副大統領に勝利したのは、少なくない有権者にとって、彼の男性性が「実力」や「行動力」のイメージと結びついたからだ。
今回の中間選挙においては、候補者たちがテレビやネットで流す政治広告に「男らしさ」を競う傾向が顕著に表れている。2年前、共和党に男性票の多くを奪われた民主党は、一部の激戦区でたくましい労働者タイプの男性候補を意図的に擁立する一方で、共和党は一部の男性民主党候補の「女々しさ」を攻撃している。
本記事の前編では、共和党が一部の民主党の男性候補を「男らしくない」と決めつけ、そのイメージを「不誠実」や「能力の欠如」と結びつけている様子を紹介する。
◇「メイクに50万円もかけるインチキ野郎」
2024年の大統領選挙では当時のトランプ候補が、政治家から軽んじられることが少なくなかった男性有権者にアピールし、従来は民主党支持が多かった白人男性労働者のみならず、黒人男性やヒスパニック系男性の票、さらに若年層男性まで幅広い支持を集めて当選した。
総選挙において、男性票を動かすことの重要性が再認識されたわけだ。
そのカギが、トランプ大統領に代表される「男らしさ」や「タフさ」のイメージである。トランプ氏の「軍事力による平和」のモットーに凝縮された、筋力(戦闘力)や支配力の強さを兼ね備えた候補が、選挙で勝てる可能性が高いと米社会に改めて認知されている。
そこで共和党は、世論調査で共和党候補者を大きくリードする民主党男性候補者に的を絞り、彼らが「男らしくない」「弱い」として攻撃している。特に男性有権者にとって、「男性的な強さ」は投票先を決める際の重要な要素になっているからだ。
南部の激戦州であるジョージア州の米上院選で、対立候補である共和党のマイク・コリンズ米下院議員(59)を4~10ポイントと余裕でリードする民主党現職のジョン・オソフ米上院議員(39)を攻撃する広告は、非常にわかりやすい例だ。下の写真を見てほしい。
この30秒の人格攻撃コマーシャルは、2028年の大統領選挙で有力民主党候補になるとの呼び声も高いイケメン候補のオソフ氏が、2026年2月以降、ヘアメイク費用として計3000ドル(約48万円)近くを支出したとの米連邦選挙委員会(FEC)への収支報告書の記述を揶揄する内容となっている。
米ポピュラーカルチャーにおける南部の男のステレオタイプは、きちんとした身なりで礼儀正しく、名誉を重んじる紳士である一方で、質実剛健で、肉体労働や従軍で鍛えられたタフさを兼ね備える。
一方、オソフ上院議員を攻撃する広告動画では、倉庫らしき建物でリフト操縦者として働く、無精ひげを生やした肉体労働者の中年男性が、次のように視聴者に語り掛けるのだ。
◇「AIオソフ上院議員」
「聞いてくれよ。オソフ上院議員は、ワシントンのどの政治家よりもヘアメイクにカネを使ってるんだ。レディーたちよりもお金をかけてるのさ。うん、あんたたちが言いたいことはわかるよ。何てインチキ野郎なんだ、ってね」
ここで、人工知能で生成された、無表情の「AIオソフ上院議員」が男性のスタイリストに髪の毛をブローしてもらい、女性スタイリストにチークのピンク色を入れてもらっている様子が映し出される。
次に、髪を白いタオル巻いて保護され、顔を緑色の泥パックで覆い、両目の上にキュウリの輪切りをかぶせてスキンケアにいそしむ「AIオソフ上院議員」のカットへと移り、肉体労働者の男性のナレーションが、こう続ける。
「こいつ(this dude)は2024年に、俺たちの税負担を年間2000ドルも上げる法案に賛成票を投じてるのにさ。しかも、俺たちの残業代に課税する票も入れてるんだ」
つまりこの動画は、オソフ上院議員がメイクアップに大金を使いながら、「大きな政府」を掲げる民主党員として、労働者の負担をより重くする法律を作るリベラルエリートであるとのイメージを、有権者に刷り込もうとしている。
選挙コマーシャルの語り手である労働者男性は、「このイケメンボーイ(pretty boy)は、上院で醜い投票実績しか残していない。オソフはマスカラを捨てて、実社会に身を投じるべきだよ」と締めくくる。オソフ氏が、マスカラを塗るような、南部の男らしくない浮ついた若造だと、ダメ押ししている。
そして最後の場面で、相変わらず無表情の「AIオソフ上院議員」が、目の下のクマを和らげるためのパッチを貼り、ジョージア州の都市部に非常に多くいるアジア人女性のネイリスト2人に爪を整えてもらっている場面で終わるのだ。
ホワイトハウスのデイビス・イングル報道官も、「オソフはキモくて(cringeworthy)女性的で大袈裟な若造(feminine theatre kid)で、オバマ元大統領のコスプレをしているだけだ」とこき下ろししており、その「女性性」が弱みであると認知されている。
◇「低男性ホルモン」…過熱する“男らしさ”攻撃
ボロクソに攻撃されるオソフ上院議員だが、彼よりもさらに激しい人格攻撃を浴びているのが、同じく南部で米上院に立候補しているテキサス州民主党のジェームズ・タラリコ州下院議員(37)だ。
対抗候補である共和党所属のケン・パクストン州司法長官(63)は5月の集会で、タラリコ氏に男らしさが欠けるという意味で、「豆腐(のようにフニャフニャの)タラリコ(Tofu Talarico)」という不名誉なあだ名をつけて、話題になった。牛肉の一大産地であるテキサス州の政治家でありながら、肉を食べないベジタリアンだとの噂にかけた蔑称だ。
さらにこの名付けは、タラリコ議員が2021年および2023年のテキサス州議会で、男性として生まれたトランスジェンダー選手が女性としてスポーツ競技に参加することを禁ずる法案に反対票を投じ、2021年に「神は(性自認が男性または女性のどちらか一方に完全に当てはまらない)ノンバイナリーである」、翌2022年に「イエス・キリストは過激なフェミニストだ」と発言していたことを批判したものでもある。
パクストン氏は支持者に、「タラリコは『6つのジェンダーのジミー』とか、『奇妙(フリーク)なタラフリーコ(Talafreako)』って呼ばれてるんだ」と話して笑いを誘った。
カウボーイや原油採掘労働者などのイメージが強烈で、ジョージア州に輪をかけて男らしさが重んじられ、結婚して初めて一人前の男と見られるテキサス。そんな土地で、30代後半に達しながら未婚のエリート神学生タラリコ氏は、格好の攻撃対象だ。下に示した政治コマーシャルのスクリーンショットをご覧いただきたい。
この動画では「AIタラリコ候補」が、1965年公開のミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』に出演した際の女優ジュリー・アンドリュースのような衣装をまとい、同映画で使用されたハマースタインとロジャーズの名曲「私のお気に入り(My Favorite Things)」の替え歌を歌うのだが、その時点ですでに男女の区別が倒錯している。
◇『低男性ホルモン的な行為』
日本語訳の3番は、「真っ白いドレスにブルーのベルト」で始まり、サビの「みんな大好き my favorite things」のリフレインで印象付けるもので、ご存じの方も多いだろう。ところが動画では、女性的にハツラツとした「AIタラリコ候補」が次のように韻を踏みながら歌い上げるのだ。
真っ白いドレスにブルーのベルトをまとった男の子たち
(Boys in white dresses with blue satin sashes)
ひげが生えてくるほど男性ホルモンを注射した女の子たち
(Girls dosed with hormones ’til they grow mustaches)
みなさんの子どもぜーんぶのジェンダーを変えちゃうのよ!
(Changing the gender of all your offspring!)
みんな大好き my favorite things
(These are a few of my favorite things)
この他にも、パクストン候補がつけた「低男性ホルモンのタラリコ(Low-T Talarico)」というニックネームがある。男性ホルモンのテストステロンが不足すると、体つきが女性的になり、声も甲高くなることが多いが、タラリコ氏はそうした症状に当てはまるというイメージ攻撃である。
果てには、「低男性ホルモンのタラリコは、テキサスを代表するには弱すぎる(Low-T Talarico is Too WEAK for Texas)」というコマーシャルまで流されている。
批判や攻撃を受けたタラリコ候補は、9月の保守系Foxニュースとのインタビューで、「性別は2つしかない」「安全や公平性を脅かすのであれば、トランスジェンダー選手の女子スポーツへの参加には反対する」と述べて、条件付きながら前言を翻した。
だが、タラリコ氏が全国民主党の政策に沿った自説を曲げなければならなかったところに、テキサス州で重要視される基本的価値観の「性別の明確さ」「男らしい強さ」の面で、民主党候補が構造的に劣勢に立たされていることが示されたのは、興味深い。
こうしてタラリコ候補は、「男らしさ」の面で効果的な反撃ができていなかったが、9月に入り、スキャンダルまみれの「腐敗のデパート」であるパクストン候補が弱点を晒すまいと、一向に討論会に応じないことを逆手に取り、支持者集会で以下のように反撃した。
「ケン・パクストンは決闘から逃げてるんだ。それこそ『低男性ホルモン的な行為』じゃないか。みんな、僕はこの言葉を正しく使えてるかい?」
この切り返しに民主党支持者の観衆は大爆笑。「あちらさんの本拠地のFoxニュースで討論会をやろうぜ!」と改めて対決を申し込んだタラリコ氏は、一矢報いたのであった。>(以上「現代ビジネス」より引用)
「「女々しい候補」は勝てない…?米中間選挙で始まった「男らしさ」争奪戦のヤバすぎる中身」と題する岩田 太郎(在米ジャーナリスト)氏の記事を読むと、日本人には想像できない選挙戦が米国では演じられているようだ。
多分に誇張されているのかと思いきや、そうでもないようだ。中間選挙に臨む候補者たちがマッチョ振りを競い合うとは、いかなる現象なのだろうか。
だが有権者が11月の中間選挙で選ぶのはコスプレスターではない。連邦議会の政治家を選ぶ以上は「政策」が主要テーマでなければならない。男性度やマッチョ度が投票基準でないことは明白で、相手候補を軟弱なイメージで貶めるのは論外だ。
しかし現実の選挙戦で男性度を競っているという。疲れた顔では魅力は半減するが、それでもマトモな政策を掲げれば有権者は候補者の言葉に有権者は耳を傾けるだろう。相手候補者の女装したAIを登場させて、相手候補の軟弱イメージを拡散するのは「選挙違反」にならないのだろうか。
そもそも連邦議員候補は政策を競うべきではないか。有権者もより良い暮らしを候補者に託すのではないか。選挙とはそうしたもののはずだが、候補者がイメージ作戦に走り、ビジュアルを先ず磨くとは如何なる現象なのだろうか。
トランプ氏の男らしいイメージを自分も取り入れれば票が集まる、と候補者が考えるとは有権者は馬鹿にされてはいないだろうか。政治家を選ぶ選挙は映画スターの人気投票ではない。しかしテレビ映りが選挙の勝敗を大きく左右するとなるとメイクに時間をかける心理もあながち笑えない。だが、それでもメイクに時間をかけるくらいなら、政策の練り上げにこそ時間をかけろ、と叱咤したくなる。
共和党がトランプ氏離れを起こしているというが、共和党候補者はトランプ氏離れを起こして何の手立てで選挙戦を戦うつもりなのだろうか。確かに最近のトランプ氏の言動は一貫性がない。イラン革命政府を瓦解させるために総攻撃を開始する、と発言してみたり、間もなく「停戦協議は始まる」と発言してみたり、「イラン革命政府は停戦協議したがっている」と発言した見たりした挙句、中間選挙が終わるまで総攻撃しないと発言した。つまり中間選挙までイラン戦争が終わることはないと明言したに等しい。
また対ロ経済制裁にしても、軽油をロシアから買うことにしたと、一部とはいえ制裁解除をするという。それも国内の軽油価格が高騰したから物価対策の一環だという。なぜ当初から対ロ経済制裁すればロシア原油が市場から消えるため原油価格が高騰すると見通さなかったのだろうか。イラン戦争を始めれば中東情勢が不安定化して、それも原油価格上昇要因になることは明らかだった。もとより、トランプ関税は最終的に米国消費者が支払わされることも当初から判っていたはずだ。なぜチグハグな政策を議会に諮りもしないで勝手に断行して、その弥縫策にアタフタしているのか。それこそマッチョなイメージから遠くかけ離れているではないか。果たして米国民はイメージ選挙を競う候補者を歓迎しているのだろうか。