金融は経済の血流だ。

<先日、中国の金融機関に勤める中国人の知人と話す機会があった。現在の中国経済を、現地に身を置く彼はどう見ているのか。知人との対話の内容を、ここに再現して紹介する(安全上の配慮から、個人の特定につながる情報は抽象化・改変しているのでご了承いただきたい)。

◇不動産バブル崩壊の影響は日本より深刻
──最近の中国の景気はどうですか? 日本では深刻な不況だと報道されていますが。
「あまり良くないですね。ただ、上海、広東、深セン、あるいは内陸でも成都や重慶といった大都市の中心街は人通りも多く、一見するとそこまで悪くない。問題は郊外です。日本もバブル崩壊後、同じような状況だったのではないですか?」
──そうですね。私が覚えている1990年代の日本も、借金で不動産や株にのめり込んだ人たちは壊滅的でしたが、多くの一般人は生活が激変したわけではなかった。
「中国も同じです。私の生活も大きくは変わっていない。コロナ明けから昇給は止まりましたが、減給ではない。ボーナスは減りましたけどね(笑)。
 我が家には、かなり昔に買ったマンションが2つあります。ローンは終わっている。15年前購入した物件は、コロナ前のピーク時に価格が4倍にもなったが、今は元に戻った感じです。ただ問題は、今の中国では『値段は付いているが売れない』こと。買い手を見つけるのは至難の業ですよ」
──バブルに踊らなかった人々は耐えられる。その点は日本と同じなのですね。
「ただ、日本より影響は深刻でしょう。中国人は銀行預金よりマンション投資を好んだ。持っている資産の価値が目減りし、みんな浮かない顔をしていますよ。いわゆる逆資産効果です。調子に乗って銀行融資で4つも5つもマンションを買った連中は、いま猛烈に苦しんでいます。転売で回す予定だった資金繰りが行き詰まり、月給のほぼ全てを借金返済に充てている友人もいます。苦しいを通り越して、生きるのがやっとの状態です。今の中国にはそんな人が大勢いる」

◇「当たり障りのない回答」しか答えないAI
──中国の景気は簡単には回復しない。そう考えてよいのでしょうか。
「そう思います。私にも先が見えない。しかし、金融業界にいる人間として、不動産バブル崩壊以上に懸念していることがあるんです」
──それはいったい何ですか?
「AIです。私は今の中国のAIに絶望しています」
──しかし、中国にはディープシーク(DeepSeek)のような高性能なAIがあると聞いていますし、政府も重点産業として育成しているのでは?
「確かに、中国のAI開発能力は米国に引けを取らない。優秀な人材がそろい莫大な投資があるのは事実です。しかし、私たち金融機関の人間には、ほとんど役に立たないのです」
──なぜですか?
「金融の要諦は、不良債権の額や資金流出の動向、そして未来の景気予測といった『情報の解析』にあります。しかしディープシークに聞いても、返ってくるのは当局の意向を反映した紋切り型の答えだけ。世界の金融関係者はAIを駆使して情報を深掘りしているのに、中国の金融機関だけがAIから『当たり障りのない回答』しか得られない。これでは世界から大きく後れをとることになります」
──VPNを使えば、グーグルのGeminiなどにもアクセスできるのでは?
「VPNは原則禁止です。建前上は都市部を中心に数千万人が使っているとされていますが、ある人はこれを『スピード違反』と呼んだ。皆やっているが、捕まるのは一部だ、と」
──ならば、それを使えばいいのでは?
「かつてはそうでした。しかし今は違います。国家安全維持法、スパイ防止法、愛国法などが次々に整備され、監視の目はかつてないほど厳しくなっています。VPN利用で拘束された事例も大きく報じられるようになりました。
 当局は、誰がVPNを使い、何を検索しているのかを検知できるといわれています。地方政府の不良債権問題を調べれば、それだけで『スパイ』と見なされるリスクがあるのです」

◇矛盾していることを平気で行う中国政府
──香港なら状況は違うのではありませんか?
「かつて当局は香港を大目に見ていましたが、今は締め付けが激化しています。香港であってもVPNで中国経済の核心に触れることは極めて危険です。どこからが『スパイ』の線引きになるのか、明確な基準がない。中国は法治国家ではなく人治国家です。法律があるようでいて、昨日まで許されていたことが急にダメになる。
 当局は経済運営に自信を失い、資金の国外流出を極端に恐れています。そんな中で世界の金融事情を探るのは、あまりにリスクが高い」
──非常に息苦しいですね。
「そうです。皆、萎縮しています。中国の金融機関は、市場ではなく当局の命令で動かされるようになった。当局の意向に逆らえば即逮捕という緊張感の中で働いています。
 我々は公務員と並び、大手金融機関という『安泰』な場所にいますが、かつてのような自由なビジネスはできない。今の若者が国有銀行を目指すのは、自由を求めてではなく、経済が停滞する中で『生き残る場所』として選んでいるに過ぎないのです。ボーナスが減ったので爆買いはできませんが、デフレのおかげで生活自体は維持できています(笑)。
 金融は国の経済における『頭脳と神経』です。世界がAIを武器に進化する中、中国当局は『情報の遮断』と『AIの育成』という矛盾した政策を突き進んでいる。矛盾という言葉は中国の古典『韓非子』に由来しますが、中国当局は矛盾していることを平気で行います。それを恥じないし、反省もしない。この歪みが、今後の中国金融を内側から食いつぶしていくのではないかと、私は本気で恐れています。中国金融がAIから取り残されることが、世界経済にどのような影響を与えるのか、これは未知数ですね」>(以上「JB press」より引用)




「中国のAIはほとんど役に立ちません」 “AI先進国”の皮を被った管理社会、中国の金融マンが語る深すぎる絶望ーー当局の意向に逆らえば即逮捕、AIも「当たり障りのない回答」だけ」と、中国の金融やAIや通信の現状について川島 博之(開発経済学者)氏が会話形式で報告している。
 川島氏の金融畑に勤務している中国人の友人は中国経済の現状を正しく認識しているようだ。中国の金融関係者は不動産バブル崩壊から来る金融の信用収縮と不良資産処分の必要性を理解しているが、なぜ中共政府に不良資産処理を行う動きがみられないのだろうか。不良資産処理を行わない限り、バブル崩壊から経済が立ち直ることは出来ない。なぜなら国民の貨幣そのものに対する信頼が下落するからだ。

 中国人が「デフレだから生活できている」と自嘲気味に話しているが、中国経済の現状がデフレだと認識できる知的レベルにある、ということが素晴らしい。多くの日本の経済評論家や日銀幹部たちは日本経済の現状がデフレ下にある、という認識すら持っていない。だから金利引き上げという誤った金融政策を実行し、それに対して多くの経済評論家は批判していない。
 引用文化中で「金融は国の経済における『頭脳と神経』です」とあるが、金融が経済の「頭脳と神経」は云い過ぎだ。経済の頭脳は政府が決定する経済政策だ。神経は行政機関と銀行網だ。金融は貨幣流通に関する働きを司り、経済の「血流」というべきではないか。しかし金融が崩壊すれば「血流」が止まって経済は死に至る。

 文中のVPN(Virtual Private Network、仮想専用通信網)とはインターネット上に暗号化された仮想の専用線を作り、安全に通信を行う技術のことだ。仮想通信網を構築することにより公共のWi-Fiを使う際の盗聴を防ぐセキュリティ強化が図られ、海外から日本の動画配信サービスを利用するなどの目的で広く使われている。
 VPNを使えばVPNは通信を暗号化し、海外のサーバーを経由させるため、中国国内からのアクセスであることを隠せるから、中国の検閲(金盾 / グレート・ファイアウォール)を回避して、LINE、Google、YouTubeなどにアクセスすることは可能だ。ただし中国政府はVPNの規制も強化しているため、昨日まで使えたVPNが突然使えなくなることは普通にあり得る。だから通常のVPNプロトコル(OpenVPNなど)でなく、検閲用に最適化された特殊なプロトコル(難読化技術)を持つVPNを使わなければならない。

 具体的な注意点は中国国内に入ると、VPNソフトの公式サイトやアプリストア(Google Playなど)へのアクセス自体がブロックされるため、必ず日本国内でアプリの導入と契約を済ませておく必要がある。1つのVPNが繋がらなくなった場合のバックアップとして、毛色の違う2つ以上のVPNサービスを契約しておく方が良い。
 もちろん 中国政府の許可を得ていないVPNの「提供」は違法だ。個人の外国人が利用して逮捕されるケースは極めて稀だが、規制強化の時期(重要な政治イベントの前後など)は突然通信が不安定になる。そのように中国の通信は極めて不安定で、VPNを使用したことにより突然逮捕される可能性があることを心得ておかなければならない。

 このような環境下でAIが進歩することなどあり得ない。様々な「忌避」設定を行い文言の「忌避」を行い、当局の意に添わない表現や内容を排除するAIの構築など、出来るわけがない。しかも法治ではなく、人治であれば、AIにデータを覚え込ませる際の「学習」に如何なる制約を設けるべきか、人知を超える。
 「中国金融がAIから取り残される」と友人氏は危惧していてるが、取り残されるのは金融だけではない。経済政策にもAIは使えないし、政策提言にもAIは使えない。残るは科学技術や土木設計の分野だけに限定されるが、それでも「手抜き」や「中抜き」が横行している現状ではAIは意味を持たない。いや、そもそも社会主義とは「労働の平等と、分配の平等」が大原則であり、計画経済だから失業者は存在しないはずだ。そのために個々人の「自由」がある程度まで抑制されるのを人民は受け入れることになっている。

 ある程度までの「自由」の抑圧が国家全体の監視社会に移行し、信書・通信の自由はほぼなく、失業者が街に溢れている。もはや中国で社会主義は機能していない。中共政府は統治能力まで喪失して、「恐怖」で人民を支配しているだけだ。「窓口封鎖」などの金融崩壊は現実に起きていて、経済の血流はまさに止まろうとしている。中国はいつ蜂起の狼煙が上がっても、おかしくない状況になっている。

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