海の日に「不登校」を考える。

<不登校のわが子を前に、親は何を信じればいいのだろうか。
 40年にわたり4000組以上の不登校の親子と向き合ってきた相談員・池添素さんを、ジャーナリストの島沢優子さんが取材した書籍『不登校から人生を拓く――4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)では、不登校を経験した親子の葛藤と、その先にある変化が丁寧に描かれている。
 FRaUwebでは、島沢さんが新たに不登校に悩む親を取材。「とにかく今のこの状況から抜け出したい」と願う親が、「不登校ビジネス」にたどり着くまでと、その先を追っている。前編【中2息子のスマホ依存…「とにかく現状を変えたい」母が「不登校ビジネス」にすがった先で起きたこと】では、GW明けから学校へ行けなくなった中学生のタクマ君(仮名)を前に、母・エミさん(仮名)が「○日で学校に行ける」とうたう不登校支援サイトに救いを求めた経緯を紹介した。「学校に行かないならスマホは没収」というルールを実践したことで、親子の関係は悪化し、家庭は追い詰められていく。後編では、暴れる息子を前に夫婦が下した決断と、その後に池添さんと出会い、親子がどのように変化していったのかをお伝えする。


◇「今は息子と離れたい」親が選んだ決断
 警察に通報した。
 夜10時。そっと開けた玄関ドアから滑り込んだ生ぬるい風とともに、警察官が4人やって来た。床のガラスや、蹴破られて穴が空いた部屋のドアを見た警察官に「児相に連絡して保護してもらえますけど、どうしますか?」と聞かれた。苦しくて息子と離れたい気持ちが先に立ったエミさんは「はい、お願いします」と答えた。
 夫は午前1時くらいまで迷い続けた。最後は「しんどい思いをしているのはママ(エミさん)だから、ママが楽になるのなら」と同意した。無言のまま無抵抗でぐったりと肩を落として連れて行かれる息子の後ろ姿を夫婦は見送った。
 2日後、児相から報告が入った。息子は児相では7時に起き、ラジオ体操をしてから朝食をとっている。落ち着いた態度で集団生活にもすぐに適応していると聞かされた。当然スマホ持ち込みは禁止だ。エミさんは安堵する一方で、自己嫌悪に陥った。
「何ということをしてしまったのか、と。距離をとることは大事だとは思いましたが、児相に預けて家から追い出したわけなので……」
 タクマ君が児相にいるときに相談サイトAから「マンツーマン指導はしないのですか?」と連絡が来た。児相に引き取られたことを報告すると「あ、それ、正しい判断ですね」とあっさり言われた。マンツーマン指導を勧められたが「こういう状態では無理です」と断った。スタッフは残念そうだったが「でも正しいことをされたと思うので、何かお力になれることがあればいつでも言ってください」と言い残し画面から消えた。
 エミさんは1、2週間で帰ってくると踏んでいた。それは自分自身の気持ちが落ち着く目安だったのかもしれない。ところが児相の担当者から「再びお互い一緒に住むことができる状態になり、もう絶対大丈夫だと思わなければお返しできません」と言われた。
「なぜならタクマ君は自分が悪いとは思ってないからです。蹴ったのが悪かったとか、ものを壊したのが悪かったとか、そういうところはあるけれども、では本当に自分はそこまでのことを、児相に連れてこられるほどの何かをしたのか? と言ってます」

◇深まる親子の溝
 息子の意見はもっともだとエミさんは思った。
「このままもし地震が来て、離れ離れのまま何かがあったらと悪いことしか想像ができなくて。親としての究極の願いはただ健康で幸せに生きていてほしいっていう、それだけなのに、なんでこういうことになっちゃったんだろう。無理やり学校に行かせるためにスマホを取り上げるとか、そういうことじゃないと思いました」
 早く戻してほしいと児相との面談で訴えたが、結局戻ってきたのは1カ月後。夏休みが終わるころだった。児相は「友達もできて楽しそう」と報告してくれたが、帰宅したタクマ君は「あんな生活嫌だった。何もいいことなかった」と吐き捨てるように言った。
 エミさんは内心すまなかったと思っていたが、謝ることはせず「お互いに悪いとこがあるよね」と話した。スマホを取り上げたのは悪かったかもしれないが、暴力は許されないことじゃないか。そんな話を黙って聞いてはくれたものの、タクマ君から謝罪の言葉はなかった。
 その後は学校に週に一回行くか行かないか、変わらずスマホは手放せない生活が続いた。ただし、エミさん夫婦は息子に対し学校に行けとは言わなくなった。というか、言えなくなった。児相に行く前は不登校でも家族と食事をとっていたのに、部屋にこもって出てこなくなった。自分の好きなおかずがあれば食べるくらいに。そして家族の誰とも話さなくなった。
「体中からナイフが出てるんじゃないかと思うくらい。凄まじいイライラ感とトゲトゲ感でした。寄れないし触れられない。もう学校には行かなくてもいいけれど、家で何かやっていけるほどの気持ちを出してほしい。それにはまず私たちの親子関係を修復しなくてはと思いました」

◇「親子の関係を良くしたい」母が頼った場所
 追い詰めるだけではダメだと気づいたものの、どうしたらいいのか。悶々としていたエミさんは新たなサイトと出会う。
「子どものことを否定しない、やりたいって思うことは全部やってあげる。余計なことは一切言わない。子どもの自発的な力が出てくるまで待ちましょう」
 子どもへの接し方やコーチングの指南を受けられると考えた。この人たちについて行けば突破口が開けるかもしれないと思わせられた。スタートはこちらもオンライン面談。初期費用は20万円。夫は「え? また?」と驚いたようだったが、今度は登校やスマホ脱却が目的ではないからと説得した。エミさんの「親子の関係を良くしたい」というまっすぐな願いを叶えてくれそうだった。
 前回同様、個別サポートでさらにお金がかかる。まったく同じ形態の不登校ビジネスだった。3カ月間頑張ってはみたけれど、ただ優しくする、思い通りにさせるだけでは息子は変わらなかった。前回同様「もう無理です」と伝えた。
 2学期が終わるころ、3つめのサイトを発掘した。
「成績を上げるためには親子関係をとにかく良くすること、親子関係が一番大事」という言葉が飛び込んできた。切羽詰まったらフリースクールの先生に個別相談できるシステムにも惹かれた。エミさんは「もうそれしかないかもしれない」とプログラムに申し込んだ。そちらの料金体系は先の2か所と異なり、個別の相談1回で数万円。話を聞いてもらって気持ちが軽くなった。エミさん自身は楽になったが、具体的な方策が見つからなかった。半年と少しで3つの有料プログラムを試しながら根本的な解決に至らなかった。
 エミさんは「もう何をしても変わらない」と落ち込みながらも、あきらめきれずネットで「不登校 中学校」などと検索しては記事を読み漁った。そんなとき、当方が書いた記事を見つけた。
 池添素さんが説いた「ひたすら信じて待つ」など珠玉の言葉に感動しつつも「自分には絶対できないよねって思いました」。それでも強くこころを動かされた。
「時間がかかっても、親も子もこんなふうに変化していくんだなってすっごい希望が見えたんです。その変化は不登校の当事者だからこそわかる部分もあって、めちゃくちゃ勇気をもらえました」

◇「自分の子どもも子育ても、外注しようとしてないか?」
 さらに偶然は重なる。京都で福祉関係の仕事をしている妹が「池添先生、有名だよ。福祉広場に一度電話してみたら?」と勧めてくれた。忙しいであろう池添さんに果たしてコンタクトを取って会えるのかと不安に思いながらも「とにかく行動しないと始まらないから」と連絡してみた。
 電話で親身に話を聞いてくれた。もっともっと話をしてみたくなり、自宅からかなり遠いが面会することになった。手が触れる距離で、目を見てじっくり聞いてもらえた。そしておもむろに問われた。
「お母さん、自分の子どもも子育ても、外注しようとしてないか?」
「ハッとしました。おっしゃるとおりで、私はずっと人を頼ってやろうとしていました。だからタクマのこころが見えなかった。見ようとしなかったんです。外側から固めて変化させようっていうか、学校に行けるようになるかどうかっていう成果しか見ていませんでした」
 ほかに「子育て、苦手なんじゃない?」。こっくりうなずくと、こう言われた。
「苦手やから一生懸命やろうとしてるけど、うまくいかなくて空回りしてるんじゃないかな」

◇母が変われば息子も変わる
 聞きながら、池添さんから出てくる言葉を次々とノートに書き留めた。ああしなさい、こうしなさいといった命令やアドバイスはほとんどない。それなのに、信じて待つことや子育てで何が重要なのかが次々と腹に落ちた。水がスポンジに吸い込まれるように、それらを自分の中に取り込んでいった。
 エミさんは学校のことも、進路のことも、スマホに関しても一切タッチするのをやめた。タクマ君の気持ちを察することにこころを砕いた。すると、夫も変わっていった。タクマ君の言い分をじっくり聞き、何かが食べたいと言えばさっと車を出して買いに行った。作ってと頼まれればすぐに台所に立った。すると、まず夫とタクマ君の信頼関係が生まれた。
「仲良くなるというか、男同士のいい関係になったんです。そうしたら息子の目が変わってきました。以前は人を殺しそうなくらい怖い目つきだったのが、顔つきが穏やかになりました」とエミさん。気づけば母子の会話は増えていた。タクマ君から「もう中3だから進路も考えなきゃ」と言われたときは涙がこぼれそうになった。
 エミさんについて、池添さんはこう振り返る。
「いつも思うけど、お母さんが一歩踏み出さなかったら、私にはつながらへんかったわけやから。いくつもの壁にぶち当たって落ち込んで、でもまた何かとつながろうってエミさんは頑張ったんやと思います。そういう自分を褒めてあげてほしい」
 池添さんに出会って癒された。そんな母を見て父親も踏ん張った。それによって息子は変わった。大人が変われば子どもが変わるのだ。そんなエミさんの経験や、池添さんとの交流を描いてみて、あらためて思う。
 通り一遍のプログラムではなく、ひとり一人に誠意を尽くして寄り添うことが、本当の支援なのだ>(以上「FRAU」より引用)




中2息子が児童相談所に…警察に通報した母が3つの「不登校ビジネス」を経て気づいたことーー子どもの不登校と向き合うあなたへ」と題するドキュメントが掲載されていた。書いたのは島沢 優子(ジャーナリスト)氏だ。
 引き籠りと同様に不登校は社会の大問題だが、行政当局は余り重大事と受け止めてはいないようだ。むしろ個々の家庭問題だとされているため、不登校の子供を抱える親の苦悩は大きい。

 そもそも不登校とは文部科学省の定義によると「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因により、年間30日以上登校しない(できない)状況にあるもののうち、病気や経済的な理由によるものを除いた状態」だ。
 全国の小・中学校における不登校の児童生徒数は約35万人(12年連続増加)で、高校生と合わせると約42万人と過去最多を更新し続けている。主な原因は「無気力・不安」や「生活リズムの乱れ」などの心身の不調であり、そこに人間関係の問題が複雑に絡んでいる。文部科学省のデータなどをもとに、不登校の現状と要因を詳しくまとめた。
1. 不登校の数(全国データ)
文部科学省の調査によると、小・中学校における不登校児童生徒数は 35万3,970人 。 
小学生:約13万7,000人
中学生:約21万6,000人
高校生:約6万7,000人(小・中・高の合計は約42万人) 
 と現在の日本の児童生徒において、およそ26人に1人が不登校という状況にある。
2. 不登校の主な原因・背景
 不登校は本人の「怠け」や「甘え」ではなく、学校・家庭・社会の多様な要因が複合的に絡み合っている。学校側が把握した主な背景・要因は以下の通り(複数回答)。
◇無気力・不安(約30%):学校生活へのやる気が出ない、理由のない不安や抑うつ感
◇生活リズムの乱れ(約25%):夜型生活や朝起きられないなど、心身の不調
◇友人関係の問題(いじめ以外・約13%):友人とのトラブルや、集団生活への適応困難
◇学業の不振(約15%):授業についていけない、勉強に対するプレッシャー 
3. 最近の不登校の特徴
 近年は、新型コロナウイルスの影響による生活環境の変化に加え、SNSによる人間関係のストレス、多様性の拡大から「無理して学校に行かなくてもよい」という価値観の普及など、時代背景の変化も増加の一因とされている。 
 また、不登校の増加に伴い、国や自治体もフリースクールや教育支援センターの活用、自宅でのオンライン学習を出席として認めるなど、多様な学び方をサポートする制度を拡充している。
 また不登校の状況や子供の状態(年齢、現在学校に行けているか、どんな様子かなど)によって、利用できる相談先や具体的な支援制度(フリースクールや出席扱いの仕組みなど)について紹介している自治体もあるようだ。

 夏休みに入って、すべての児童・生徒が登校していないため、不登校児童・生徒は不登校の自分を苛んでいた自虐的な気持ちが幾分か落ち着いているのではないだろうか。この時期にこそ、親は子供と積極的に一緒に出掛けたりして、心の疎通を図るべきではないだろうか。山や離島へキャンプに出掛けたりして、飯盒炊飯をしたり野営を経験すると児童生徒はいかに自分が親や家といった家庭で守られているかを知る。学校という枠組みの中だけで自分の存在を考えるのではなく、広い視野を持つことが出来るのではないだろうか。
 そして親との信頼関係を再構築して、ともに人生を歩む「相棒」として信頼しあうことが出来れば、自然と不登校も解消するのではないだろうか。親が働きかけなければ何も変わらないし、親が変わらなければ子供も変わらない。不登校のきっかけが何だったのかを聞き、子供の閉ざした心が開くように、努力してみようではないか。

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