関税障壁にせよ、非関税障壁にせよ、完全撤廃には賛成できない。

　関税自主権は明治政府の悲願だった。日米修好通商条約により江戸幕府は米国と貿易条約を結び、それに準じて次々と欧州各国と貿易条約を締結した。しかしそれは貿易条約に無知な幕閣を騙す関税を自主権を奪われた不平等条約だった。

　明治政府が富国強兵を国是として欧米諸国と肩を並べるために血の滲む努力を重ねたのも、理由の一つに不平等条約改定の話し合いに応じてもらうためだったといわれている。そうして獲得した関税自主権を放棄するのが「良いこと」であるかのように報じるマスメディアには疑義を覚える。

 

　世界各国が良好な外交関係を築いて平和な世界に寄与するのには異を唱えるものではない。しかし国際分業と称する考え方には独立国家の存立基盤を危うくするものとして反対を主張するしかない。

　特に食糧は自給率を高める努力を怠ってはならない。カロリーベース60％と日本の食料の多くの部分を米国からの輸入に依存している状況は異常だといわざるを得ない。米国に対して隷属的にしか振る舞えない日本の立場の弱さは軍的依存によるものだけではなく、食糧依存に起因する部分の方が遥かに大きい。

 

　軍事侵略されても侵略国は日本の富と社会インフラを丸ごと手にしたいはずだから国民は虐殺されないが、輸入食料が途絶えれば日本国民の半分は飢え死にするしかない。征服戦略として本気で他国が考えたなら、軍事侵攻ではなく食糧支配を考えるはずだ。その方が友好国の顔をして実質的に首根っこを押さえて意のままに振り回すことが出来るからだ。

　TPP参加に安倍政権がのめりこむのもそうした理由からだろう。間違いなく安倍政権は米国に脅されている。そう考えなければ安倍氏の行動は理解できない。

 

　米国が安倍氏をTPPに引き摺りこむために切ったカードが食料であるにせよ軍事力であるにせよ、日本が国益を守るためにTPP交渉で主導的立場に立つことは不可能だ。米国による米国のための交渉になることは火を見るよりも明らかだ。かつての小泉・竹中「構造改革」が日本のためではなく米国のハゲ鷹たちのためだったことはウィキリークスなどによる外交文書のスッパ抜きで既にバレバレのように。

　日本政府は日本国民の安寧のために国民の税を用いて活動している。それが米国の一部投機家たちを利するために働いているとしたら「国賊」だ。日本という国家を他国に売り渡す犯罪的行為でしかない。

 

　安倍氏の真意が那辺にあるのか、彼は決して語らないだろうが、真理は必ず露見する。悪事は歴史により暴かれて来た。

　彼の祖父が日米安保条約を締結したのは東西冷戦下でソ連という超大国の軍事的脅威から国家と国民を守るために必要だった。しかし今はそれほど差し迫った軍事的脅威があるわけではない。北朝鮮がロケット花火を打ち上げるぞ、と脅しているが、打ち上げると同時に北朝鮮の金体制は終了する。既に米国のトマホークが北朝鮮のあらゆる重要施設に向けて攻撃準備を終えているはずだ。米国を巻き込んだ国際関係が「火遊び」で済まないことは遠くはベトナムから近くはイラクやアフガンで実証済みだ。相手国の主権や相手国民の安全などはあってなきがごとくなのが米国流の問題解決方法だ。

 

　日本はノラリクラリと国会審議に手間取り、TPP参加を先延ばしにして参加が事実上できなくするのが最も良い生き方だ。米国のハゲ鷹たちに日本国内法に関与させるISDという不平等条項がある限り、絶対に参加してはならない。米韓FTAを締結した韓国の国内法が一体何本ハゲ鷹たちの提訴により改定させられたか。既に６０本に達しているという。それが貿易協定ではなく、経済・文化侵略でなくて一体何だろうか。