大規模土石流災害による犠牲者を二度と出さないために。

<ネパールと中国の国境地帯で起きた土石流災害は死者が30日までに両国合わせて797人に達し、行方不明者は日本人観光客5人を含む3000人超となった。30日に中国メディアが報じた当局の分析によると、土石流は時速180キロで崩落。発生から約7分で、約22キロ離れたチベット自治区吉隆県の国境検問所に到達した。

 分析によると、日本時間26日午前11時52分ごろ、標高5200メートル地点で氷河が崩壊。岩を巻き込み同1800メートル地点までなだれ落ちた。被災範囲は東京ドーム15個分に相当する70万平方メートルに及んだ。当局は「住民に避難する時間はほとんどなかった」と述べた。
 インド政府は29日、ヒマラヤ山脈の監視活動を強化すると発表した。地形が似ており、氷河が解けて同様の災害が起きる可能性があるという。
 中国国営中央テレビによると、川がふさがれて中国側にできた「せき止め湖」は決壊リスクが低下した。しかし、約3キロ下流で地滑りが発生し、新たなせき止め湖が形成されつつあることが29日夜、ドローンによって確認された。国境検問所があった一帯で捜索活動に当たっていた救援隊員らは、安全な場所への退避を余儀なくされた。
 AFP通信などによると、ネパール側で781人、中国側で16人が死亡し、行方不明者数はネパール側で2502人、中国側で546人。インド当局は、ネパールから流れる川で7人の遺体を発見したと明らかにした。
 ネパール当局は30日、100人以上が取り残された水力発電所で救助に当たったが、悪天候で作業は難航。インドと中国は救助に向け専門家を派遣した>(以上「時事通信」より引用)




土石流、時速180キロで崩落 7分で検問所到達、死者797人に―中国・ネパール」とは、実に痛ましい自然災害だ。被災された方々にお見舞い申し上げると同時に、犠牲になられた多くの人たちのご冥福をお祈りいたします。それにしても日本などの気象観測衛星「ひまわり」で標高5200メートル地点で発生した氷河の崩壊が流域を土石流となって襲うことが予期できなかったのだろうか。
 もちろん日本の気象衛星「ひまわり」などの観測データは、世界気象機関(WMO)などの国際機関や約30か国の外国気象機関に提供され、地球規模の気象監視や防災に広く利用されている。国際的な利用と連携の仕組み世界気象機関(WMO)との連携: WMOが推進する世界気象監視計画の一環として、東アジア・太平洋地域の観測データを世界で共有しているのは周知のことだ。

 気象衛星調整会議(CGMS)では 世界の気象衛星運用機関やWMO、ユネスコ政府間海洋委員会(IOC-UNESCO)などが参加し、データの品質向上や相互利用のための調整を行っている。ネパールは1966年8月12日にWMOに加盟し現在も正式な構成国(Member State)として活動している。当然ながら気象庁はWMOや国際協力機構(JICA)と連携し、諸外国への受信環境整備や解析技術の研修を実施している。
 ただ2026年8月26日に発生したネパール・チベット国境付近での大規模な土石流災害は、標高約5,200メートルの高地で氷河の本体が突発的に崩落(約3分の2が崩壊)したことが原因で、崩落からわずか数分で下流を襲うという超高速の複合災害であったため事前の検知には至らなかった。

 今回の災害を事前予知できなかったが、アメリカ地質調査所(USGS)やインド宇宙研究機関(ISRO)、民間衛星企業による災害前後の画像比較によって、氷河がどのように崩落し、どのルートを通って土石流になったかの特定して、災害予想を瞬時に実施出来る態勢づくりが必要とされている。また土石流によって川が堰き止められてできた新たな「堰き止め湖(天然ダム)」の発見と水位監視を現在実施している。
 気候変動によりヒマラヤなどの高山地帯で同様の「時限爆弾」が増えている。衛星だけに頼るのではなく、現地に設置する地震計・GNSS(位置測定センサー)やドローン監視を組み合わせ、崩落の兆候(微小な振動など)を数分〜数時間前に捉えて住民へスマホ等でアラートを送る「早期警戒システム」の構築が急務となっている。

 また気象衛星だけでなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星「だいち」シリーズは、大規模災害の発生時に状況をいち早く把握し、被害の拡大を防ぐ「防災の要」として世界中で活用され、さらなる精度向上に期待されている。特に天候や昼夜に左右されずに地面を撮影できる陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)や、最新鋭の「だいち4号」(ALOS-4)(2024年打上げ)は、今回のネパールのような山岳地帯の災害で絶大な効果を発揮すると思われる。それは 雲を透過するレーダー(SAR)による24時間監視が上げられる。「だいち」の最大の特徴は自ら電波を発して地表を観測する合成開口レーダー(SAR)を搭載している点にある。悪天候・夜間でも撮影可能: 台風による大雨や、土石流の原因となる集中豪雨の最中でも、雲を突き抜けて地表の様子を鮮明に映し出す。それにより土砂崩れや浸水域の特定が可能となり、災害前後のデータを比較することで、どこで山崩れが起きどこまで水に浸かったのかを数メートル単位の精度で即座に検出することが出来る。

 「だいち」が同じ場所を繰り返し観測したデータを解析すると、地表がどれだけ動いたかをミリ〜センチ単位で測ることができる(干渉SAR解析)。それにより地すべりの前兆の発見が出来るようになり、火山活動による山体の膨らみや、大雨の前にわずかに動き始めている危険な斜面(地すべりの前兆)を事前に捉え、警戒を呼びかけることが可能となる。
 日本(JAXA)が主導するアジア太平洋地域の防災協力枠組み「センチネル・アジア」や、国際宇宙空間枠組み(国際災害チャータ)において、「だいち」のデータは無償で被災国に提供されている。過去のネパール大地震(2015年)や、近年のヒマラヤ周辺での洪水・土砂災害でも、「だいち」が緊急観測を行い、ネパール政府や国際機関に崩落箇所の地図を提供して救助ルートの選定などに貢献している。ただ今回のネパールの突発的な氷河崩落のように、「数分・数時間単位の急激な変化」を捉えるには、衛星がちょうどその上空を飛んでいる必要があり、そのため現在は1機の大型衛星だけでなく「小型のレーダー衛星を何十機も打ち上げて数時間おきに地球全土を撮影する」という民間企業との連携(衛星コンステレーション)が進められており、よりリアルタイムに近い防災利用への移行が始まっている。ネパールで起きた大規模土石流のような自然災害による犠牲者を二度と出さないために、人類は英知を結集すべきだ。

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