「自国ファースト」を掲げる政治家が相次いで登場するEU。パラダイム・シフトは確実に起きている。

<◇ルペン氏が4度目の大統領選挙出馬へ
 フランスのパリ高等裁判所は7日、欧州議会議員時代の公金不正利用の有罪判決を受けた極右政党・国民連合(RN)のルペン氏の控訴審判決を言い渡した。2025年3月の一審判決での禁固4年の懲役刑(2年間の執行猶予と2年間の電子タグ装着による服役)が禁固3年(2年間の執行猶予と1年間の電子タグ装着による服役)に減刑され、5年の公民権の停止期間が45ヶ月(うち30ヶ月は執行猶予)に短縮された。
 執行猶予を除いた公民権の停止期間は15ヶ月と、既に経過している。ルペン氏は来年4・5月の大統領選挙に立候補する資格を取り戻したことになる。ただ、電子タグの装着による服役期間中は、移動や活動に裁判所の許可が必要となり、自由な選挙活動の妨げとなる恐れもある。ルペン氏は過去に電子タグをつけての出馬は断念する意向を示唆していた。
 判決後にテレビ番組のインタビューに答えたルペン氏は、①来年の大統領選挙にRNの候補として立候補する、②大統領に就任した場合、バルデラ党首を首相候補にする、③今回の控訴審判決を不服とし、最高裁判所に上告することを明らかにした。
 ルペン氏の有罪判決後、後継者であるバルデラ党首がRNの大統領候補になることが有力視されてきた。初回投票の世論調査では、ルペン氏・バルデラ氏の何れが出馬する場合も、他の候補を大きくリードしている(図表1)。
 バルデラ氏のリードがルペン氏を僅かに上回るが、過去3回の大統領選挙に出馬し(うち2回で決選投票に進出)、政治経験が豊富なルペン氏が大統領候補となり、バルデラ氏がそれを支える組み合わせの方が、主流派政党にとっては脅威になるだろう。バルデラ氏はソーシャルメディアなどを通じた若者への訴求力が高いが、政治経験の浅さや政策理解の覚束なさを指摘する声もあり、テレビ討論会などで失点を重ねる恐れがあった。






 大統領選挙は来年の4月18日に初回投票を行い、そこで単独過半数を獲得する候補がいない場合、5月2日に初回投票の上位2名による決選投票が行われる。フランスの学校は全国を3地区に分けて春に2週間程度の一斉休暇を取る。初回投票はリヨンを含むA地区と、パリを含むC地区の学校休暇と重なり、決選投票はC地区で学校休暇と重なる。また、決選投票の前日の5月1日はメーデーで、毎年、労働組合や左派政党が中心となり、フランス全土でデモが行われる。フランスの選挙法は、投票日前日の0時以降、ビラの配布、選挙集会の開催、投票依頼の電話、オンライン上の投票呼びかけなどの選挙活動を禁止している。一部の右派系候補からは、決選投票に左派系候補が残った場合、メーデーの全国デモが左派による事実上の選挙活動になるとして不満の声も聞かれる。

◇決選投票でルペン氏と対峙するのは?
 世論調査のリードを考えれば、ルペン氏の決選投票への進出は揺るぎそうにない。決選投票では、極右大統領誕生への不安から、世論調査が示唆するよりも、対立候補が多くの支持を集める傾向がある。ルペン氏は決選投票の世論調査の多くでも勝利が予想されているが、中道右派・地平線(Horizon)のフィリップ元首相と対峙した場合に最も接戦となる(図表2)。
 極右大統領が誕生するかを占ううえでは、どの候補が決選投票に進出するかが重要となってくる。
 世論調査ではフィリップ氏がルペン氏とともに決選投票に進出する可能性が高いが、マクロン大統領の中道政党・再生(RE)からアタル元首相も出馬する意向を表明している。フィリップ氏・アタル氏がともに出馬する場合、中道票が割れ、二番手争いは接戦となる(前掲図表1)。このまま中道候補の一本化が進まない場合、フィリップ氏・アタル氏が共倒れとなり、極左政党・不服従のフランス(LFI)のメランション候補や、中道左派の社会党(PS)に近いグリュックスマン氏が決選投票に進むシナリオも浮上する。メランション氏やグリュックスマン氏など左派系候補と対峙した場合、ルペン氏が右派票を固め、勝利する可能性が高まる。
 左派系候補の一本化が進むかどうかも、初回投票の結果を左右する。2024年の国民議会(下院)選挙で統一会派を結成したLFI、共産党(PCF)、欧州エコロジー=緑の党(LE)、PSの左派4党は、今回の大統領選挙では別々に候補を擁立する方針を固めている。世論調査では何れの候補も初回投票で脱落することが予想されている。今後、選挙戦が本格化するなか、左派が統一候補の擁立に傾いた場合、決選投票への切符を手に入れる可能性も出てくる。もっとも、極端な政策を主張し、大統領選挙に並々ならぬ意欲をみせるメランション候補と、他の左派政党の間には溝が広がっており、左派が候補者一本化に成功する可能性は低そうだ。





◇ルペン=バルデラの布陣で全方位外交を展開
 ルペン氏が決選投票で勝利するためには、極右大統領誕生への有権者の不安を和らげ、政権運営能力を示す必要がある。その意味で、ルペン氏を大統領候補に、バルデラ氏を首相候補にするRNの布陣は脅威となり得る。
 フランスは大統領制と議院内閣制を組み合わせた「半大統領制」を採り、大統領と首相が権限を分け合う。大統領は国家元首として対外的に国家を代表するほか、首相の任命権、国民議会(下院)の解散権、条約の批准、非常事態権限、軍の最高統帥権、外交・安全保障の最終決定権を持つのに対し、首相は政府の長として内政全般を統括し、法案の作成や提出、行政機関の指揮、国家予算の執行などを担う。
 党のイメージを刷新し、脱悪魔化を進めてきたルペン氏は、地方の労働者や大衆層への支持拡大を目指し、家計支援、福祉充実、労働者保護、社会正義に基づく国家の経済介入などを主張してきた。バルデラ氏はこれまでRNが手薄だった若者の支持取り付けに成功し、経済運営では減税や規制緩和など親ビジネス色を強めている。両者が役割を分担することで、幅広い有権者層をターゲットにすることが可能になる。
 この点、バルデラ氏が最近、年金改革について従来のRNの主張と異なる政策に言及した点は興味深い。RNはこれまで、法定退職年齢を64歳に引き上げるマクロン大統領の年金改革に反対し、就労開始時期に応じて60~62歳での受給開始を認めるべきとの立場を採ってきた。
 バルデラ氏は5月にドイツの経済紙のインタビューに答え、法定退職年齢の引き下げにこだわらず、新たな年金改革案を検討中であることを明かした。メディアは経済運営を巡ってバルデラ氏とルペン氏の間の溝が広がってきたと報じたが、両者がシニア層と若年層、ブルーカラーとホワイトカラー、地方と都市部を棲み分けし、幅広い有権者を取り込むことに成功すれば、反極右の防波堤を突破する可能性も出てくる。

◇大統領選挙の直後に国民議会選挙を実施へ
 フランスでは過去に大統領の出身政党と議会の支配政党が食い違う事態(コアビタシオン)が発生し、政権運営が行き詰まったことがあった。そこで、2000年の国民投票で大統領の任期を議会と同じ5年に短縮し(従来は7年)、大統領選挙の直後に国民議会選挙を行う形に変更した。2024年に議会を前倒しで解散したことから、現在は大統領と国民議会の任期が食い違っている。すなわち、2024年6月の欧州議会選挙で与党が敗北したことを受け、マクロン大統領が議会を前倒しで解散した結果、同年6・7月に前倒しで議会選挙が行われた。現議会の任期は2029年6月とまだ先だが、新たな大統領の下で円滑な政権運営を行うためには、大統領選挙の直後に議会を解散し、国民議会選挙が行われる可能性が高い。
 1958年に始まった現在の政治体制(第五共和制)では、共和党と社会党の二大政党が交代で政権を担ってきたが、2017年にマクロン氏が大統領に就任すると、自身が旗揚げした中道政党・前進!(現在は再生)が左右両極の有権者を奪い、二大政党の埋没が進んだ。マクロン大統領が退任する今回の大統領選挙後に、フランスの政党勢力図が改めて大きく変わる可能性もある。

◇主要候補の政策は?
 大統領選挙に向けた正式な選挙キャンペーンが開始されていないことから、各候補の公約は明らかにされていない。ルペン氏のこれまでの発言やRNの政策主張から判断すると、減税、家計支援強化、国内産業保護などポピュリズム的な政策が目立つが、バルデラ氏を首相に据えることで、親ビジネスや財政規律重視の姿勢もアピールすることができる。RNは近年、フランスのEUからの離脱(フレクジット)の主張を封印し、EUからの主権回復を進めるとしている。
 フィリップ氏は年金改革の大枠を維持しつつ、財政規律を重視し、構造改革や規制緩和を通じて企業の競争力を回復するとしている。同氏は共和党出身で、マクロン大統領の下で2017~2020年に初代首相を務めたが、マクロン路線の踏襲者とみられることを嫌い、近年は政権から距離を置いている。アタル氏はマクロン氏が旗揚げした中道政党出身で、2024年に首相を務めたマクロン路線の踏襲者と言える。教育改革、賃金の引き上げ、国境警備の強化、人工知能の推進などを主張する。メランション氏は所得分配の強化、反緊縮、年金改革の撤回、福祉充実、大規模な歳出拡大、富裕層課税などを主張している。EUやNATOに懐疑的なことでも知られる。グリュックスマン氏は親EUの社会民主路線を採り、左派票と中道票を橋渡しできる人物と考えられる。富裕層課税、年金改革の撤回、労働者保護の強化などを訴える。ルタイヨ氏は減税、歳出抑制、規制緩和など、小さな政府志向で、移民規制や治安強化では強硬路線が目立つ。
 ルペン大統領が誕生した場合、政権発足後はイタリアのメローニ首相に倣って現実路線にシフトし、EUとの全面衝突を避ける可能性がある。首相に就くバルデラ氏や経済財務相の人選を通じて親ビジネスや財政規律を重視する姿勢を示すとみられるが、その具体策や財源を巡っては不透明な部分も少なくない。特に歳出拡大の財源にEU予算への拠出金を減額する主張の実現可能性は乏しい。
 メローニ首相が政権を引き継いだ時点のイタリアの財政状況と比べると、現在のフランスは財政再建の遅れが目立つ。EUが要求する中期的な財政再建に取り組むには、緊縮的な財政運営の継続と景気浮揚の両方が必要になるだろう。市場対話の失敗や現実路線への転換が遅れる場合、金融市場の動揺が避けられない。>(以上「第一ライフ資産運用経済研究所」より引用)




フランス大統領選挙を展望する~極右大統領は誕生するか?~」と題した論評があった。来年(2027年)のフランス大統領選挙は第1回投票が4月18日、上位2名による決選投票が5月2日に実施される。次期フランス大統領選では、極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン前党首が出馬を表明しているほか、同党のジョルダン・バルデラ党首、中道与党側からはガブリエル・アタル元首相やエドゥアール・フィリップ元首相らの出馬・上位進出が予想されている。
 有力候補と予想される人物はマリーヌ・ルペン氏で極右政党・国民連合(RN)の前党首。2027年大統領選への立候補を表明しており、世論調査でも高い支持を集めている。次にジョルダン・バルデラ氏は国民連合(RN)の党首。ルペン氏の動向次第では後継の有力候補、または党の主要人物として注目されている。またエドゥアール・フィリップ氏は元首相で政党「オリゾン」を率いる。中道・右派の有力な次期候補として名前が挙がっている。他にもガブリエル・アタル氏もマクロン大統領の中道政党側(ルネサンス)から出馬の意向を示している元首相だ。

 現在の処、最有力候補としてルペン氏の優勢は揺るぎない。なにしろ43%もの支持率を誇っている。欧州議会議員時代の公金不正利用の有罪判決を受けて出馬が危惧されたが、2025年3月の一審判決での禁固4年の懲役刑(2年間の執行猶予と2年間の電子タグ装着による服役)が禁固3年(2年間の執行猶予と1年間の電子タグ装着による服役)に減刑され、5年の公民権の停止期間が45ヶ月(うち30ヶ月は執行猶予)に短縮されたため、ルペン氏は来年4・5月の大統領選挙に立候補する資格を取り戻したことになる。
 ただフランスのオールドメディアはルペン氏を「極右」と表現しているが、どちらかというと日本の参政党と立ち位置が似ていて、反・グローバリズムの「フランス・ファースト」を掲げている。そこで問題となるのはEUに対するフランスの立場がマクロン大統領とは真逆になることだ。ルペン氏はEUからの離脱すら表明している。

 事の発端はEUが「拠出金と支出」に関して、フランスが余りに「割に合わない」とフランス国民の多くが不満に思っていることだ。各国の拠出金は以下の通りだが、EU参加27カ国の内この表の四カ国にオランダを加えた五カ国以外の国は実質的に拠出していない。補助金として受け取る金額の方が多いからだ。

 EU全体の年間予算は約32兆円で、それは単年度ではなく凡そ7年間の連続した予算として決議される。その決定機関は欧州委員会で現在の委員長:はウルズラ・フォン・デア・ライエン氏が行政及び執行機関のトップに就いている。
 もちろんフォン・デア・ライエン氏はEUを欧州統合の政府として機能させようとしている。そのためウクライナ支援やCO2排出ゼロといったEU共通の課題に取り組んでいる。もちろん民主的な手続きや人権の尊重など、EU統合の価値観を広く推し進めようとしている。

 しかしルペン氏はフランスはフランス国民のために奉仕する政府でなければならないとする。同様に、ドイツでもAfD(ドイツのためのせんたくし、Alternative für Deutschland、略称:AfD〈アーエフデー〉)が躍進しているが、オールドメディアはドイツの極右・右翼ポピュリスト或いは国民保守主義政党だと批判的な呼称を付けている。もちろんAfDはルペン氏と同様に欧州懐疑主義で、不法移民の排除などを主張している。
 イタリアのメローに首相も就任前は「イタリア・ファースト」を掲げて過激な言動が目立ったが、首相就任後はEUとの対立を避け、現実的な政権運営を行っている。だが反・グローバリズムの立場は崩してなく、中国の「一帯一路」から離脱し移民受け入れにも反対の立場を崩していない。

 英国は既にEUから離脱しているが、労働党や保守党とは異なるリフォームUK(リフォームユーケー、Reform UK)が躍進している。反グローバリズム、移民受け入れ反対を掲げ、従来の二大政党に批判的な政治を掲げている。やはりオールドメディアはリフォームUKを右派ポピュリズム政党と位置付けている。
 欧州だけではない。米国のトランプ氏も「MAGA」を掲げて反・グローバリズムの立場で関税政策などを推進している。こうした欧米がパラダイム・シフトしている中にあって、唯一中国だけが「一帯一路」という中華思想に基づくグローバル政策を推進している。しかし欧米諸国がグローバリズムから政策転換しているため、中国製品の大量輸出は米国をはじめ欧州諸国で反発を招いている。EUがこれからも欧州諸国の連合体として主導権を維持するのか、 それとも役目を終えて欧州諸国が「自国ファースト」のモザイク状態に戻るのか。来年に実施される各国の国政選挙から目が離せない。

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