米軍は東アジアから撤退しない。

◇東南アジアを歴訪したコルビー米国防次官
 米トランプ政権で国防戦略を担うエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)は8月中旬、約1週間にわたってフィリピン、インドネシア、タイ、カンボジアの東南アジア4カ国を歴訪した。
 訪問先では、各国の高官と会談するとともに、8月10日、最初の訪問地フィリピンのストラトベース研究所で講演した。
 コルビー次官は講演で、名指しを避けつつも中国を念頭に、力の均衡を崩す覇権国はアジアには不要だとの見解が、「建国以来、米国のアジア政策の中核をなしてきた」と、ピート・ヘグセス国防長官の発言を引用する形で述べている。
(コルビー氏の発言内容はストラトベース研究所に収録されている講演内容から筆者訳、以下同じ)。
 そのうえで、アジアは米国の外交戦略上「最も重要な地域であり、ここで我々に有利な力の均衡を確保する」と明言した。
 同氏は、米国がインド太平洋地域への関与を弱めているとの「誤解」があるとも指摘。
「我々は撤退するのではない。むしろ逆だ。この地域に駐留し続けることが米国の死活的利益だ」と述べ、インド太平洋地域への関与を重視する姿勢を改めて強調した。
 そして、インド太平洋地域で力の均衡を保つためには、第一列島線沿いに相手の進出を拒む抑止態勢が必要だと指摘し、米国が同地域への軍事的関与を強めているとの認識を表明した。
 一方、この戦略を米軍だけに頼ることはできないとも述べ、同盟国は自国の安全保障への投資を増やすべきだと主張した。
 ただし、「同盟国やパートナー国が自国防衛への投資を増やし、主権国家として自国の安全に責任を持つよう米国が求めるのは、米国が見捨てるという意思表明ではない。むしろ正反対だ」とも付け加えた。
 8月13日には、オンライン記者会見を開き、トランプ政権は抑止力強化のため、インド太平洋地域への軍事能力の提供に注力していると述べた。
 特に、軍事分野における成果に焦点を当てるアプローチをとっている。その理由は、結果こそ重要だと考えるからだと説明した。
 そして、政権の方針は、軍事力を「派手に誇示する」のではなく、同盟国やパートナー国と静かに協力することだと述べた。
 米国は6月、米インド太平洋軍の名称をかつての米太平洋軍に戻した。この点について同氏は、インド洋の重要性を軽視するものではなく、太平洋、中でも第一列島線を重視する優先順位の見直しを反映したものという。
 以上のコルビー次官の発言を裏付けるように、米国の陸軍、海軍・海兵隊、空軍などは、太平洋、特に第一列島線を焦点とした作戦構想を練り、それを基に日本やフィリピンなど同盟国・パートナー国との実戦的な共同訓練・演習を重ね、相互運用性を高め、静かに、かつ着実に対中戦略を強化している。
 各軍種の主要な作戦概念・ドクトリンは、米陸軍が「マルチドメイン作戦(MDO:Multi-Domain Operations)」、米海軍が「分散型海上作戦(DMO:Distributed Maritime Operations)」、米海兵隊が「遠征前進基地作戦(EABO:Expeditionary Advanced Basing Operations)」、米海軍・海兵隊が共同で策定した「紛争環境下における沿海域作戦(LOCE:Littoral Operations in a Contested Environment)」、そして米空軍が「迅速機敏な戦闘展開(ACE:Agile Combat Employment)」である。
 各軍種の作戦構想は、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の脅威を回避しつつ作戦を継続する観点から、広域の「分散」と「機動」が基本的方策として取り上げられている。
 こうした各軍種の作戦概念を相互に連接し、統合作戦として戦力を発揮するうえで、ネットワーク化が重要となり、米太平洋軍などの地理的統合軍司令官の指揮・統制の下、統合一体的に運用され、所期の目的を果たすことになる。
 本稿では、その中の一例として、米空軍のACEという作戦構想の太平洋地域における進捗状況を取り上げる。

◇急速に進展する米空軍のACE構想
ACEの概要
 ACEの背景には、中国のA2/AD能力、すなわち弾道ミサイルや巡航ミサイル、ドローンなどの精密長距離兵器の飽和攻撃により早期に既存の基地機能の破壊や基地に所在する航空戦力の喪失の恐れがある、との認識が高まったことがある。
 そのため、絶え間なく変化する厳しい戦闘環境下で遠隔地から戦力を投入する空軍の能力を向上することが不可欠であるとのコンセンサスが、米空軍をはじめとする国防関係者の間で形成された。
 その結果、米空軍は、既存の空軍基地に大規模な航空派遣部隊を前方展開するという概念から、不測の事態や危機に対応するため、既存の基地外に多数の拠点を設け、そこに迅速機敏な戦闘展開を行い、生存性と柔軟性を向上させ戦闘を継続するという概念への転換を行ったのである。
 これが、ACEと呼ばれるものである。
 ACEの運用に当たってはまず、既存の基地外の拠点に軍事アセットを展開することである。すなわち、既存の基地外に多数の使用可能な飛行場を確保し、そこに必要な装備・物資を事前集積して作戦拠点を準備する。
 次いで、その拠点に基地任務の確立と維持に熟練した小規模な部隊を編成して移動する。移動に際しては、複数の戦闘機とそれに必要な最低限の整備資機材および人員を搭載した輸送機をパッケージで運用する。
 そして、移動した拠点(前方地域)において基地を開設し再武装と燃料補給、整備を実施する。
 拠点は、大規模基地のすべての機能を備えるのではなく、任務継続に必要な機能を絞って構成される。その分、小規模な部隊でも迅速に展開・移動できる。
 ACEは、複数の分散拠点を機動的に活用し、敵による探知・照準・攻撃を困難にしながら航空戦力を継続的に発揮する考え方である。
 それを可能とするのが、次に述べる広域展開基地システム(DABS:Deployable Air Base Systems)と言われるものだ。

DABSと事前集積
 DABSは、展開先で航空基地機能を迅速に立ち上げるため、必要な施設、車両、装備などをモジュール化した展開型基地支援システムであり、ACEを支える重要な手段の一つである。
 特に、中国の脅威を受けている本地域において、様々な緊急事態に対応できる生存性や柔軟性に加え迅速性と機敏性を付与することが可能である。
 そのため、米国は、2021年11月に公表した「米軍の世界的な態勢見直し(GPR:Global Posture Review)」において、インド太平洋を優先地域と位置づけ、米領グアム、米自治領北マリアナ連邦(グアム島を除くマリアナ諸島:テニアン島、サイパン島など)やオーストラリアのインフラ強化、太平洋島嶼地域での軍事建設、豪州へのローテーション配備などを打ち出した。
 その後、米国は日本やフィリピンなどでも施設へのアクセスや分散運用態勢の拡充を進めている。
 インド太平洋防衛フォーラム「米太平洋空軍、事前集積物資で戦域態勢を整備」(2026.8.17)によれば、米太平洋空軍による、米太平洋軍の担当地域全域にある基地・拠点への事前集積は、下記に示す六つのカテゴリーの装備・物資をもって大きく進展している。
・共通航空支援
 航空機の整備用品・部品や発電機、リフトなどの提供
・資材運搬
 牽引車やフォークリフト、ローダーなど、飛行場で使用する車両の提供
・燃料支援
 燃料輸送車および外部燃料タンク、ポンプ、ホースなどの提供
・生活支援
 前方作戦基地施設を設置するための航空迅速対応キット(Air Rapid Response Kits)も含む兵舎や指揮統制センター、保管施設などの提供
・基地レジリエンス
 前方作戦拠点の設置・維持に必要な厨房や発電機、格納庫、浄水設備、産業用機器などの提供と人員支援
・緊急対応
 消火装備や危険物防護装備、医療物資、警備部隊用装備の提供
 同空軍は、第一列島線および第二列島線の複数の基地・拠点で事前集積に取り組み、同盟国やパートナー国の航空部隊も使用できるよう準備している。
 これは、米空軍の迅速な分散、機敏な機動、実効性のある戦闘力の投射を可能とするとともに、この地域における米軍のゆるぎないプレゼンスを意図的に目に見える形で示して抑止力を高め、米軍のコミットメントに対する同盟国・パートナー国の信頼を高める一助ともなっている。

◇我が国に期待されるNATO並みの防衛努力
 米国と同盟関係にある日本国内では、米軍の航空戦力を有事に分散運用できる拠点が限られており、「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」の「施設の使用」の項で、「日本政府は、…民間の空港及び港湾を含む施設を一時的な使用に供する」「日米両政府は、(自衛隊と米軍の)施設・区域の共同使用における協力を強化する」(括弧は筆者)と約束していた。
 しかし、本件に対する国民の理解が広がらない中、長い間、日本政府としてその具体化が図られてこなかった。
 ようやく2022年12月に「国家安全保障戦略」などの戦略3文書が策定され、その中で「(民間の)既存の空港・港湾等を運用基盤として使用する」(括弧は筆者)ことが明記され、ガイドラインの趣旨に沿ってその推進が始まった。
 政府が優先的に整備する「特定利用空港・港湾」の指定数は、2026年4月時点で累計24空港、33港湾の計57施設となっている。
 北海道から東北、中部、九州・沖縄など全国各地の重要インフラが対象候補および指定を受けており、接続する道路網の整備を含め順次計画が進められている。
 こうした拠点整備は、自衛隊の機動展開能力を高めるだけでなく、有事の日米共同対処において、米軍の分散運用を支える選択肢を広げることにもつながり得る。国民の理解と協力を得て、一層の進展が望まれる。
 一方コルビー次官は、ドイツが防衛予算を大幅に増額したことを引き合いに出し、米国が同盟国に求めている防衛費の国内総生産(GDP)比3.5%を実現するために、日本も「見習うべきだ」(8月10日付産経新聞)と訴えた。
 在韓米軍の「戦略的柔軟性」が課題となっている韓国は、2025年10月の米韓首脳会談では早期に防衛費をGDP比3.5%に引き上げると表明した。
 台湾の頼清徳総統は8月17日、2027年度の国防費を年度予算と特別予算を合わせ過去最高の1兆1225億台湾ドル(約5兆6000億円)とする方針を明らかにした。
 国防費が1兆台湾ドルを超えるのは史上初めてで、GDP比では3%を超える見通しである。
 フィリピンの2027年国防費は、政府予算案では前年から7.6%増の3288億ペソとなる。ギルベルト・テオドロ国防相からは、将来的にGDP比最大4%への引き上げを目指すとの発言もある。
 このように、第一列島線国は、中国の軍事的圧力がますます強まる中、軒並み防衛費(国防費)を引き上げ抑止力・対処力の強化を図る方向で動いている。
 我が国も決して例外ではいられない。むしろ、東アジアの主要国として、この動きを主導する役割を果たさなければならないと考える。
 米国が指摘するように、これまで我が国をはじめ同盟国・パートナー国が米国の軍事力に大きく依存してきたのは間違いない。
 しかし、中国の急速な軍事力強化で相対的な軍事力の低下に直面している米国は、一方で欧州、中東など世界的な関与を求められている。米国に対し、従来の依存的関係を望むのは難しくなっている。
 米国は、2026年1月公表の国家防衛戦略(NDS)において、同盟国にとってより深刻な脅威に対し、米国からの重要かつ限定的な支援を得て、同盟国が主導的な役割を担うとの方針を明示した。
 この方針転換の現実を深く認識し、まず自分の国は自分で守るとの基本的覚悟を欠いては我が国の防衛は成り立たないであろう>(以上「JB press」より引用)




米軍はアジアから撤退しない、コルビー国防次官が明かした「第一列島線」強化の新戦略ーー基地を分散し、攻撃をかわしながら戦う米空軍、日本の空港・港湾も抑止態勢の重要拠点に」とする論評が発表された。もと自衛官の樋口 譲次(軍事評論家)氏が書いたものだ。
 米トランプ政権で国防戦略を担うエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)は8月中旬、約1週間にわたってフィリピン、インドネシア、タイ、カンボジアの東南アジア4カ国を歴訪した。これほど東アジア諸国をコルビー国防次官が歴訪するのは前例がない。それだけ東アジアとの連携と東アジア諸国の実態を米国防政策担当次官は自身の目で確認したかったのだろう。

 米軍は米国の防衛体制を米空軍のACEという作戦構想を基に打ち立てている。それは既存の基地外の拠点に軍事アセットを展開することだ。それは中国の弾道ミサイルや巡航ミサイル、ドローンなどの精密長距離兵器の飽和攻撃により早期に既存の基地機能の破壊や基地に所在する航空戦力の喪失の恐れがある、との認識から策定された作戦構想だ。
 そのためには基地外の展開先で航空基地機能を迅速に立ち上げるため、必要な施設、車両、装備などをモジュール化した展開型基地支援システムが必須となる。対中米国本土防衛を想定するなら、インド太平洋を優先地域と位置づけ、米領グアム、米自治領北マリアナ連邦(グアム島を除くマリアナ諸島:テニアン島、サイパン島など)やオーストラリアのインフラ強化、太平洋島嶼地域での軍事建設、豪州へのローテーション配備などが急がれる。当然ながら、米国は日本やフィリピンなどでも施設へのアクセスや分散運用態勢の拡充が必要との認識に立っている。

 ことに米国は日本に対して、経済力だけでなく先端技術や開発力などから東アジア防衛拠点の要とみなし、NATO以上の軍事力拡大を望んでいる。もちろん日本の在日米軍基地外への展開も必須だと見なしている。
 ことに日本の西南諸島は台湾や中国に近いため、ACE防衛構想では重要な地域となっている。これまで日本をはじめ東アジア諸国は米国の軍事力を国の安全保障の一環として利用してきたが、長距離ミサイルやドローン兵器などの進化により中国の脅威と直接向き合うようになってきた。米国はアジア諸国の防衛に対してそれぞれの国が責任を持つべきとの態度を強くし、ことに日本に対しては米国からの重要かつ限定的な支援を得て、同盟国が主導的な役割を担うとの考えを全面に打ち出している。樋口氏が指摘するまでもなく、日本は日本国民が守るという基本的な認識を欠いてはならない。平和は「平和」と唱えれば空から降り注いでくるものではない。

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