「食料品消費税1%」は財政破綻を招くのか。
<◇減税「財源」をめぐり大バトル勃発
消費税減税に向けての「財源探し」の仮案を作る作業が大詰めを迎えております。
といっても、11月にかけて二転三転することは確実で、単に消費税減税するしないだけではなく、地方消費税もかなりの部分が消滅するので「高市官邸(政府)」VS.「都道府県・自治体の皆さん」という対立構造まで爆誕しています。
「食料品に限り消費税を1%とし、2年後に8%に戻す」とかいう、政策的には「そんなものは給付付き税額控除でやれ」と進言したくなる話が大真面目に議論され、げたを預けられた小野寺五典さん(税制調査会長)の顔色がますます悪くなっていく中、「財務省エース」一松旬さんは更迭され、9月にはこの件を左右する人事まで予告されています。
どうなっちゃうの高市早苗政権。まさに夏にふさわしい怪談の趣がございます。寒すぎる。
本稿は、所属先の情報法制研究所の立場ではなく、筆者の個人の感想によって占められておりますこと、ご容赦ください。
「高市首相の「消費税減税」で日本が終わる…国民にいい顔をしたいだけの政策で地方に1.6兆円を押し付ける無責任」との見出しに「緊縮・増税」のエース級論評が掲載されたと喜ぶ。なぜなら「緊縮・増税」派の論理がすべてこの論評に集約されているからだ。それはつまり、この論評を論破すれば「緊縮・増税」派の根拠が崩壊することになるからだ。
中間層(年収500万円前後): 約29%〜30%
高所得層(年収1,500万円以上): 約22%〜23%
消費税減税に向けての「財源探し」の仮案を作る作業が大詰めを迎えております。
といっても、11月にかけて二転三転することは確実で、単に消費税減税するしないだけではなく、地方消費税もかなりの部分が消滅するので「高市官邸(政府)」VS.「都道府県・自治体の皆さん」という対立構造まで爆誕しています。
「食料品に限り消費税を1%とし、2年後に8%に戻す」とかいう、政策的には「そんなものは給付付き税額控除でやれ」と進言したくなる話が大真面目に議論され、げたを預けられた小野寺五典さん(税制調査会長)の顔色がますます悪くなっていく中、「財務省エース」一松旬さんは更迭され、9月にはこの件を左右する人事まで予告されています。
どうなっちゃうの高市早苗政権。まさに夏にふさわしい怪談の趣がございます。寒すぎる。
本稿は、所属先の情報法制研究所の立場ではなく、筆者の個人の感想によって占められておりますこと、ご容赦ください。
◇「財務省エース」が飛ばされたワケ
こだわっている消費税減税の実現に向けて、高市官邸がまず動いたのは官僚人事でした。8月7日発令の財務省幹部人事で、事務次官には宇波弘貴主計局長が昇格、国税庁長官には青木孝徳主税局長、主計局長には坂本基官房長。ここまでは、まあ順当な玉突きです。
問題は、内閣府政策方で財務省から局長級がひとりもいなくなり、さらに主計局次長・一松旬ひとつまつじゅんさんが東京税関長に転出した点です。朝日新聞が8月6日にこれを報じた際、官邸幹部の言葉として「政権にあまり協力的でなかったから」という理由を伝えています。
まあ、実際、そうなのでしょう。一松さんは1995年入省、奈良県副知事、主計局主計官、岸田文雄首相の秘書官を歴任してきた将来の次官候補です。それが本丸の主計局から税関に出るというのは、霞が関的にはどう見ても「報復人事」と読まれる配置になります。
保守分裂選挙が残した大きなしこり
遠因として、高市早苗さんがお膝元・自民党奈良県連の代表として23年、奈良県知事選で総務相時代の高市さんの総務大臣秘書官で手駒であった平木省さん(総務自治→現・静岡県副知事)を奈良県知事選に出馬させるにあたり、現職知事だった荒井正吾さん(海上保安庁長官→自民党参議院議員)と退陣の握りもなく平木さんを出馬強行させてしまいます。
その結果、荒井さんと平木さんが保守分裂の知事選になってしまい、一本化していれば問題なく勝っていたところを日本維新の会・山下真さんに負けてしまいます。その間、創価学会ともビッグにこじれるわけですが、この荒井元知事を支えたのが財務省から送られていた一松旬さんだったわけで、実際に消費税減税を反対していただろうことも踏まえて考えると、綱引きがあったんだろうなあと思うわけです。
こだわっている消費税減税の実現に向けて、高市官邸がまず動いたのは官僚人事でした。8月7日発令の財務省幹部人事で、事務次官には宇波弘貴主計局長が昇格、国税庁長官には青木孝徳主税局長、主計局長には坂本基官房長。ここまでは、まあ順当な玉突きです。
問題は、内閣府政策方で財務省から局長級がひとりもいなくなり、さらに主計局次長・一松旬ひとつまつじゅんさんが東京税関長に転出した点です。朝日新聞が8月6日にこれを報じた際、官邸幹部の言葉として「政権にあまり協力的でなかったから」という理由を伝えています。
まあ、実際、そうなのでしょう。一松さんは1995年入省、奈良県副知事、主計局主計官、岸田文雄首相の秘書官を歴任してきた将来の次官候補です。それが本丸の主計局から税関に出るというのは、霞が関的にはどう見ても「報復人事」と読まれる配置になります。
保守分裂選挙が残した大きなしこり
遠因として、高市早苗さんがお膝元・自民党奈良県連の代表として23年、奈良県知事選で総務相時代の高市さんの総務大臣秘書官で手駒であった平木省さん(総務自治→現・静岡県副知事)を奈良県知事選に出馬させるにあたり、現職知事だった荒井正吾さん(海上保安庁長官→自民党参議院議員)と退陣の握りもなく平木さんを出馬強行させてしまいます。
その結果、荒井さんと平木さんが保守分裂の知事選になってしまい、一本化していれば問題なく勝っていたところを日本維新の会・山下真さんに負けてしまいます。その間、創価学会ともビッグにこじれるわけですが、この荒井元知事を支えたのが財務省から送られていた一松旬さんだったわけで、実際に消費税減税を反対していただろうことも踏まえて考えると、綱引きがあったんだろうなあと思うわけです。
◇実務を回せる人材が抜けた影響
もちろん、東京税関長というポスト自体が格下なわけではありません。過去には主計局次長から東京税関長を経て事務次官まで上がった例もあります。ただ「昭和の3大バカ査定」で自民党の反発を買った田谷広明さんが飛ばされたのも東京税関長で、要は「党にきらわれたエリートの待機ポスト」という顔も持っている場所です。今回それが、食料品消費税1%をめぐる政権と財務省の綱引きの直後に発令されたことになるわけです。読み方は自ずと決まってきます。
なお、高橋洋一さんあたりは大喜びしているようですが、私は減税の是非とは別に、財源設計の実務を回せる人間を、このタイミングで本丸から抜いた影響のほうが気になります。いま詰めなきゃいけない調整事項の量が尋常じゃないので非常に困ったことだなあと思います。どうするんすかね?
当たり前ですが、閣僚人事のほうも動くと見られます。内閣改造は9月上旬と報じられていますが、支持率が落ちている以上、状況によっては前倒しの可能性も指摘されています。
で、総務大臣・林芳正さんの交代はほぼ確実と見られているんですが、ここは「更迭」ではなく本人が来年の総裁選出馬を視野に閣外に出たがっている、という報じられ方です(週刊新潮)。このあたり、ねっとりしているのでよくわかりません。
もちろん、東京税関長というポスト自体が格下なわけではありません。過去には主計局次長から東京税関長を経て事務次官まで上がった例もあります。ただ「昭和の3大バカ査定」で自民党の反発を買った田谷広明さんが飛ばされたのも東京税関長で、要は「党にきらわれたエリートの待機ポスト」という顔も持っている場所です。今回それが、食料品消費税1%をめぐる政権と財務省の綱引きの直後に発令されたことになるわけです。読み方は自ずと決まってきます。
なお、高橋洋一さんあたりは大喜びしているようですが、私は減税の是非とは別に、財源設計の実務を回せる人間を、このタイミングで本丸から抜いた影響のほうが気になります。いま詰めなきゃいけない調整事項の量が尋常じゃないので非常に困ったことだなあと思います。どうするんすかね?
当たり前ですが、閣僚人事のほうも動くと見られます。内閣改造は9月上旬と報じられていますが、支持率が落ちている以上、状況によっては前倒しの可能性も指摘されています。
で、総務大臣・林芳正さんの交代はほぼ確実と見られているんですが、ここは「更迭」ではなく本人が来年の総裁選出馬を視野に閣外に出たがっている、という報じられ方です(週刊新潮)。このあたり、ねっとりしているのでよくわかりません。
◇維新の入閣をめぐる嫌な予感
首相の立場からすると、林さんを野に放つと反主流派の旗頭になりかねないので閣内に留め置きたい、という力学も同時に働くようですが、林さんのご性格上、仏頂面をしながらも淡々と働く人物であることには変わりないので、東京から出にくい党要職での起用も噂されています。
そして、そこに絡んでくるのが維新の入閣です。藤田文武共同代表は7月13日のBS-TBS番組で、次の改造で維新から閣僚を出す意向を高市さんに伝えていると明言し、自身の入閣可能性も否定しませんでした。連立発足時に首相から要請があり、衆院選後にも念押しされたので「そうします」と伝えた、という言い方です。
もともと遠藤敬さんを総理補佐官にだけ入れて入閣もなしに「自民党維新連立政権」というのも変な話で、ちゃんと入閣して責任を維新さんも負うのだ、というのは正しい方向ではあります。ただ、どのポストを譲るのか、という際に、総務大臣ですと言われると嫌な予感しかしません。大丈夫なのでしょうか。
首相の立場からすると、林さんを野に放つと反主流派の旗頭になりかねないので閣内に留め置きたい、という力学も同時に働くようですが、林さんのご性格上、仏頂面をしながらも淡々と働く人物であることには変わりないので、東京から出にくい党要職での起用も噂されています。
そして、そこに絡んでくるのが維新の入閣です。藤田文武共同代表は7月13日のBS-TBS番組で、次の改造で維新から閣僚を出す意向を高市さんに伝えていると明言し、自身の入閣可能性も否定しませんでした。連立発足時に首相から要請があり、衆院選後にも念押しされたので「そうします」と伝えた、という言い方です。
もともと遠藤敬さんを総理補佐官にだけ入れて入閣もなしに「自民党維新連立政権」というのも変な話で、ちゃんと入閣して責任を維新さんも負うのだ、というのは正しい方向ではあります。ただ、どのポストを譲るのか、という際に、総務大臣ですと言われると嫌な予感しかしません。大丈夫なのでしょうか。
◇もし総務相ポストが回ったら…
誰が来るのか。永田町では馬場伸幸さん、藤田さん本人、中司宏さん、遠藤敬さんといった名前が取りざたされています。下馬評通り、もしも総務大臣ポストが維新さんに回るのなら、これは単なる遅れてやってきた連立の論功行賞(お駄賃)では済みません。
前述の通り、消費税減税で問題が取りざたされる地方交付税と地方財政計画を所管する大臣が、地方分権と身を切る改革を掲げてきた党から出る。しかも消費税減税で地方財源に1兆6000億円の穴が開こうとしている、まさにそのタイミングで、です。
総務省自治財政局にとっては、これまでとまったく違う相手と年末の折衝をやることになります。折りしも、東京都を念頭においた財源の偏在是正に関する文言が高市骨太の方針2026から外され総務省自治はいったん負けたタイミングで上に維新さんから大臣を戴くとなると、さんざん揉めた副首都法の詰めから今回の地方交付税・地方財源直撃まで、相当な面倒が起きることは間違いないのです。
誰が来るのか。永田町では馬場伸幸さん、藤田さん本人、中司宏さん、遠藤敬さんといった名前が取りざたされています。下馬評通り、もしも総務大臣ポストが維新さんに回るのなら、これは単なる遅れてやってきた連立の論功行賞(お駄賃)では済みません。
前述の通り、消費税減税で問題が取りざたされる地方交付税と地方財政計画を所管する大臣が、地方分権と身を切る改革を掲げてきた党から出る。しかも消費税減税で地方財源に1兆6000億円の穴が開こうとしている、まさにそのタイミングで、です。
総務省自治財政局にとっては、これまでとまったく違う相手と年末の折衝をやることになります。折りしも、東京都を念頭においた財源の偏在是正に関する文言が高市骨太の方針2026から外され総務省自治はいったん負けたタイミングで上に維新さんから大臣を戴くとなると、さんざん揉めた副首都法の詰めから今回の地方交付税・地方財源直撃まで、相当な面倒が起きることは間違いないのです。
◇城内経財相の「難しくない」発言
そして城内実経財相です。8月10日のブルームバーグ英語インタビューで、消費減税に必要とされる約5兆円の財源について、歳出・歳入や基金、租税特別措置の見直しを通じた捻出は「それほど難しくない」と述べ、国債発行に頼る必要はないと言い切りました。
この城内実さんは骨太方針2026の取りまとめ役です。当初案では「財政健全化」の文言が削除され、日銀への利上げ牽制ともとれる記述が入ったため、長期金利が30年ぶり高水準に達し、円安も進行しました。いわゆる「骨太ショック」です。
国内ではあまり報じられませんでしたが、市場筋からすれば戦犯扱いされてしまう人物でもあります。結果として、市場の状況に押される形で修正を余儀なくされ、調整に追い込まれて7月21日の閣議決定では、財政運営目標がPB黒字化から債務残高対GDP比の安定的低下というストック指標へ転換されました。
その当事者が、いま「財源は難しくない」と言っている。あのさあ……。
城内さんはこの金利上昇と円安を骨太方針だけに帰する見方を「単純化し過ぎている」と反論していて、市場は海外金利や国債需給などさまざまな要因を反映しているのだから、一つの政策文書と市場の動きを単純な因果関係で結ぶのは適切ではない、と説明しています。まあ、それはそうなんですが、修正を余儀なくされた事実は残るわけで、どういうことなんでしょうかね。
ちなみに同じ趣旨のことは7月3日の日経インタビューでも言っています。一回限りの釈明ではなく、定番の説明として繰り返している。それだけ市場から詰められているということでもあります。割と大変なことだと思うんですが、大丈夫なんでしょうか。
そして城内実経財相です。8月10日のブルームバーグ英語インタビューで、消費減税に必要とされる約5兆円の財源について、歳出・歳入や基金、租税特別措置の見直しを通じた捻出は「それほど難しくない」と述べ、国債発行に頼る必要はないと言い切りました。
この城内実さんは骨太方針2026の取りまとめ役です。当初案では「財政健全化」の文言が削除され、日銀への利上げ牽制ともとれる記述が入ったため、長期金利が30年ぶり高水準に達し、円安も進行しました。いわゆる「骨太ショック」です。
国内ではあまり報じられませんでしたが、市場筋からすれば戦犯扱いされてしまう人物でもあります。結果として、市場の状況に押される形で修正を余儀なくされ、調整に追い込まれて7月21日の閣議決定では、財政運営目標がPB黒字化から債務残高対GDP比の安定的低下というストック指標へ転換されました。
その当事者が、いま「財源は難しくない」と言っている。あのさあ……。
城内さんはこの金利上昇と円安を骨太方針だけに帰する見方を「単純化し過ぎている」と反論していて、市場は海外金利や国債需給などさまざまな要因を反映しているのだから、一つの政策文書と市場の動きを単純な因果関係で結ぶのは適切ではない、と説明しています。まあ、それはそうなんですが、修正を余儀なくされた事実は残るわけで、どういうことなんでしょうかね。
ちなみに同じ趣旨のことは7月3日の日経インタビューでも言っています。一回限りの釈明ではなく、定番の説明として繰り返している。それだけ市場から詰められているということでもあります。割と大変なことだと思うんですが、大丈夫なんでしょうか。
◇地方財源に1兆6000億円の穴
で、ここからが実務の話です。
政治とマーケット向けの発信は以上の通りなんですが、地方の現場はもっと具体的で、もっと面倒なことになっています。
特に問題視されるのは、消費税減税で掘られる穴の大きさ。8月5日に閣議決定された基本方針で、2027年4月から2年間、飲食料品の消費税率が8%から1%になるとして、どう具体的なところに影響するのかという話になります。
林総務相が6月22日の衆院予算委で示した試算では、地方の減収は年1兆6000億円程度。内訳は地方消費税分が1兆円、地方交付税分が7000億円です。これは順当な試算だと思いますし、異論はございません。だいたいこんなものでしょう。後者は消費税収の19.5%を交付税原資に充てるという法定率の機械的な連動なので、税率を下げれば自動的にそうなります。ここにガソリン税旧暫定税率廃止分(全国知事会推定で約5000億円)が乗ってくる。
で、ここからが実務の話です。
政治とマーケット向けの発信は以上の通りなんですが、地方の現場はもっと具体的で、もっと面倒なことになっています。
特に問題視されるのは、消費税減税で掘られる穴の大きさ。8月5日に閣議決定された基本方針で、2027年4月から2年間、飲食料品の消費税率が8%から1%になるとして、どう具体的なところに影響するのかという話になります。
林総務相が6月22日の衆院予算委で示した試算では、地方の減収は年1兆6000億円程度。内訳は地方消費税分が1兆円、地方交付税分が7000億円です。これは順当な試算だと思いますし、異論はございません。だいたいこんなものでしょう。後者は消費税収の19.5%を交付税原資に充てるという法定率の機械的な連動なので、税率を下げれば自動的にそうなります。ここにガソリン税旧暫定税率廃止分(全国知事会推定で約5000億円)が乗ってくる。
◇岸田政権時と同じスキームの浮上
そして、8月10日から11日にかけて、読売新聞などが、地方の減収を原則として国が穴埋めする方向で、政府が検討に入ったと報じました。政府高官の「国の判断による減税であり、補填は避けて通れない」という言葉つきです。まあ、筋論としてはそうですね。
手段としては地方特例交付金が浮上していて、これは「増税メガネ」とかいう根拠なき批判にブチ切れてガンギマリになった岸田文雄さんの手による、1人4万円定額減税の補填でも使われた枠組みです。ガソリン税の旧暫定税率廃止でも、2026年度の地方減収分は地方特例交付金で全額補填することになっています。
ただし穴埋めする国庫側負担が満額になるかどうかは別問題です。時事通信は8月5日の時点で、国民会議の中間取りまとめに「地方の財政運営に支障が生じないよう、適切に対応する」と明記されたものの、減収規模が大きいため「現時点では100%穴埋めできるのか分からない」と気をもむ政府関係者もいる、と伝えています。ここが一番の勘所です。
前例のあるスキームは用意されている、方向感も出た、しかし規模が前例と桁違いなので満額の保証がない。城内実さん、特例公債(=赤字国債)に頼らず「財源は難しくない」とおっしゃったのはどこにいきましたか?
そして、8月10日から11日にかけて、読売新聞などが、地方の減収を原則として国が穴埋めする方向で、政府が検討に入ったと報じました。政府高官の「国の判断による減税であり、補填は避けて通れない」という言葉つきです。まあ、筋論としてはそうですね。
手段としては地方特例交付金が浮上していて、これは「増税メガネ」とかいう根拠なき批判にブチ切れてガンギマリになった岸田文雄さんの手による、1人4万円定額減税の補填でも使われた枠組みです。ガソリン税の旧暫定税率廃止でも、2026年度の地方減収分は地方特例交付金で全額補填することになっています。
ただし穴埋めする国庫側負担が満額になるかどうかは別問題です。時事通信は8月5日の時点で、国民会議の中間取りまとめに「地方の財政運営に支障が生じないよう、適切に対応する」と明記されたものの、減収規模が大きいため「現時点では100%穴埋めできるのか分からない」と気をもむ政府関係者もいる、と伝えています。ここが一番の勘所です。
前例のあるスキームは用意されている、方向感も出た、しかし規模が前例と桁違いなので満額の保証がない。城内実さん、特例公債(=赤字国債)に頼らず「財源は難しくない」とおっしゃったのはどこにいきましたか?
◇ようやく解消した負債の再来
満額でなかった場合、何が起きるか。交付税特会の原資が地方財政計画上の所要額に届かなければ、その年の交付額自体を減らし、不足分を臨時財政対策債という地方の借金で埋める、という制度が用意されています。令和8年(2026年)度予算では臨財債の発行が2年連続でゼロになり、償還基金まで新設したばかりです。制度創設から24年目にしてようやく解消したものを、また開けるのか。開ければ市場は当然、地方債の発行環境も含めて反応します。
で、このカラクリは実質的には国が払うべき交付税の身代わりであり、返済のお金は後から国が交付税で全額面倒を見ることになります。
つまり、国は特例公債を発行しないけど、地方が臨財債(=地方債=赤字を埋める借金)を発行し、それを国が面倒を見る、となれば、発行元が国か道府県か自治体かは別として特例公債を発行しているのと変わらない構造になってしまいます。なんでこんなのを大真面目に偉い人たちが検討しているのか意味がわかりませんが、本当に真顔で話し合ってるので割と大変なことだなと思います。
満額でなかった場合、何が起きるか。交付税特会の原資が地方財政計画上の所要額に届かなければ、その年の交付額自体を減らし、不足分を臨時財政対策債という地方の借金で埋める、という制度が用意されています。令和8年(2026年)度予算では臨財債の発行が2年連続でゼロになり、償還基金まで新設したばかりです。制度創設から24年目にしてようやく解消したものを、また開けるのか。開ければ市場は当然、地方債の発行環境も含めて反応します。
で、このカラクリは実質的には国が払うべき交付税の身代わりであり、返済のお金は後から国が交付税で全額面倒を見ることになります。
つまり、国は特例公債を発行しないけど、地方が臨財債(=地方債=赤字を埋める借金)を発行し、それを国が面倒を見る、となれば、発行元が国か道府県か自治体かは別として特例公債を発行しているのと変わらない構造になってしまいます。なんでこんなのを大真面目に偉い人たちが検討しているのか意味がわかりませんが、本当に真顔で話し合ってるので割と大変なことだなと思います。
◇「もう一つの穴」が同時進行する恐怖
さらに、もう一つの穴が同時進行しています。8月10日、個人の所得(収入)に応じて給付金の額を変える新しい仕組み「所得連動給付」をめぐる国と地方の協議が初会合を迎えました。全世代型社会保障改革担当相でもある城内実さんが出席し、国側は財政負担の分担を求める考えを示しています。
これに対し全国知事会の村岡嗣政山口県知事(地方税財政常任副委員長)は「われわれ急きょ示されて大変驚いている」「国が制度設計を行い、全国一律に進めていく国策なので、まず国が全面的に担うことを基本的に考えていただきたい」と反発しました。まあ、ビックリするよね。私だってビックリしましたから。
政府側は公金受取口座を登録している対象者への「申請不要給付」、支給額算定ツールの無償提供、コールセンター設置など、事務負担の軽減では譲歩する姿勢を見せています。ただ財政負担については分担を求める構えを崩していません。2027年度に先行導入、2029年度に本格導入という日程です。
さらに、もう一つの穴が同時進行しています。8月10日、個人の所得(収入)に応じて給付金の額を変える新しい仕組み「所得連動給付」をめぐる国と地方の協議が初会合を迎えました。全世代型社会保障改革担当相でもある城内実さんが出席し、国側は財政負担の分担を求める考えを示しています。
これに対し全国知事会の村岡嗣政山口県知事(地方税財政常任副委員長)は「われわれ急きょ示されて大変驚いている」「国が制度設計を行い、全国一律に進めていく国策なので、まず国が全面的に担うことを基本的に考えていただきたい」と反発しました。まあ、ビックリするよね。私だってビックリしましたから。
政府側は公金受取口座を登録している対象者への「申請不要給付」、支給額算定ツールの無償提供、コールセンター設置など、事務負担の軽減では譲歩する姿勢を見せています。ただ財政負担については分担を求める構えを崩していません。2027年度に先行導入、2029年度に本格導入という日程です。
◇政府が示した申請不要給付の背景
この政府側がさらっと出してきた「申請不要給付」ですが、これができるのは2021年成立の公金受取口座登録法で、預貯金口座をマイナンバーに紐づけて国に登録する仕組みが用意されているからです。
そして、その登録者を一気に積み増す作業が、まさに今月から走っています。2023年のマイナンバー法等改正で創設された「行政機関等経由登録の特例制度」が2026年8月に始動し、公金受取口座が未登録の65歳以上の年金受給者およそ1600万人に対して、日本年金機構が簡易書留で意向確認書を順次送っているところです。郵送などの予算は104億円、作業は2027年2月頃まで続きます。
この事業の特徴はオプトアウト方式であることです。デジタル大臣・松本尚さんの説明どおり、同意する人は返送手続きが一切不要。嫌な人だけが45日以内にはがきを返す。返事をしなければ同意とみなされ、年金の振込口座がそのまま公金受取口座として登録されます。
朝日新聞が8月11日に報じたところでは、デジタル庁の2022年の会議で有識者から「勝手に登録されたとの印象を持たれないか」と慎重論が出て、2023年の国会でも野党が「あまりに乱暴だ」と問題視した経緯があるそうで。
この政府側がさらっと出してきた「申請不要給付」ですが、これができるのは2021年成立の公金受取口座登録法で、預貯金口座をマイナンバーに紐づけて国に登録する仕組みが用意されているからです。
そして、その登録者を一気に積み増す作業が、まさに今月から走っています。2023年のマイナンバー法等改正で創設された「行政機関等経由登録の特例制度」が2026年8月に始動し、公金受取口座が未登録の65歳以上の年金受給者およそ1600万人に対して、日本年金機構が簡易書留で意向確認書を順次送っているところです。郵送などの予算は104億円、作業は2027年2月頃まで続きます。
この事業の特徴はオプトアウト方式であることです。デジタル大臣・松本尚さんの説明どおり、同意する人は返送手続きが一切不要。嫌な人だけが45日以内にはがきを返す。返事をしなければ同意とみなされ、年金の振込口座がそのまま公金受取口座として登録されます。
朝日新聞が8月11日に報じたところでは、デジタル庁の2022年の会議で有識者から「勝手に登録されたとの印象を持たれないか」と慎重論が出て、2023年の国会でも野党が「あまりに乱暴だ」と問題視した経緯があるそうで。
◇失敗すれば破綻する自治体続出
で、日程を並べてみてください。オプトアウト登録が2026年8月から2027年2月、所得連動給付の先行導入と食料品減税の開始がどちらも2027年4月。段取りとしては当然なんですが、城内実さんが8月10日に知事会へ「申請不要にするので事務負担は軽くなる」と譲歩カードを切れたのは、この1600万人分の作業が5週間前から静かに走っているからです。減税と給付で騒いでいる足元で、別の制度が黙って動いている。
ちなみに、ご実家のご両親のところにこの簡易書留が届いている可能性があります。中身を確認せずに放置すれば、それが同意になります。
つまり地方から見ると、1兆6000億円の減収穴埋めという第一の交渉と、新設される給付制度の事務・費用負担という第二の交渉が、同時に走っている。しかも後者は前例がないので、地方側に相場観がありません。というか、掘られる穴が大きいことと、ハシゴが外れたときに破綻する自治体が続出することが予見されることから、失敗したときに受け身が取れない案件なんすよ。「急きょ示されて驚いている」というのは、そういうことです。
で、日程を並べてみてください。オプトアウト登録が2026年8月から2027年2月、所得連動給付の先行導入と食料品減税の開始がどちらも2027年4月。段取りとしては当然なんですが、城内実さんが8月10日に知事会へ「申請不要にするので事務負担は軽くなる」と譲歩カードを切れたのは、この1600万人分の作業が5週間前から静かに走っているからです。減税と給付で騒いでいる足元で、別の制度が黙って動いている。
ちなみに、ご実家のご両親のところにこの簡易書留が届いている可能性があります。中身を確認せずに放置すれば、それが同意になります。
つまり地方から見ると、1兆6000億円の減収穴埋めという第一の交渉と、新設される給付制度の事務・費用負担という第二の交渉が、同時に走っている。しかも後者は前例がないので、地方側に相場観がありません。というか、掘られる穴が大きいことと、ハシゴが外れたときに破綻する自治体が続出することが予見されることから、失敗したときに受け身が取れない案件なんすよ。「急きょ示されて驚いている」というのは、そういうことです。
◇国主導で進めたことによる問題点
現場の温度差として、地味だけど重要な報道が乱舞しました。財務大臣・片山さつきさんは8月9日の静岡市内での講演で、消費減税について「国が決めることだが、自治体財政に影響を与えないようにするとお答えしている」「消費税はないかもしれないが国税は何回も減税しているので、そういった時のこともよくおわかりいただいているので、一定の信頼感は持っていただけていると思っている」と述べました。
一方、静岡県知事の鈴木康友さんは「しっかり代替財源を確保していただかないと。県だけでなく、あらゆる自治体に影響が出る」と要求しています。静岡県の試算では、基礎自治体を含めて約280億円の減収見込みです。
裏を返すと、城内実さんは「2年9兆円の財源はある」としつつも、現場で数字を積み上げている人間からしますと「一つの市町村レベルで見れば、目の前の6億円が足りない自治体が臨財債の発行に追い込まれるが、自治体収入が足りず2年待てずに元金を国が保証しても利払いで死ぬ可能性」を考える必要が出てきます。困りましたなあ……。
現場の温度差として、地味だけど重要な報道が乱舞しました。財務大臣・片山さつきさんは8月9日の静岡市内での講演で、消費減税について「国が決めることだが、自治体財政に影響を与えないようにするとお答えしている」「消費税はないかもしれないが国税は何回も減税しているので、そういった時のこともよくおわかりいただいているので、一定の信頼感は持っていただけていると思っている」と述べました。
一方、静岡県知事の鈴木康友さんは「しっかり代替財源を確保していただかないと。県だけでなく、あらゆる自治体に影響が出る」と要求しています。静岡県の試算では、基礎自治体を含めて約280億円の減収見込みです。
裏を返すと、城内実さんは「2年9兆円の財源はある」としつつも、現場で数字を積み上げている人間からしますと「一つの市町村レベルで見れば、目の前の6億円が足りない自治体が臨財債の発行に追い込まれるが、自治体収入が足りず2年待てずに元金を国が保証しても利払いで死ぬ可能性」を考える必要が出てきます。困りましたなあ……。
◇「検討を行う」が事実上の「断行」へ
静岡産業大学学長の小泉祐一郎さんは「地方との調整が不十分なまま方向だけ決まってしまったことに非常に問題がある」とプロセスそのものを問題視していて、これは国主導で議論が進んだことへの、地方自治の側からの割と本質的な批判です。
言い方は悪いですが、高市早苗さんがこだわり、国民有権者にお示しした消費税減税の【検討を行う】という公約が、事実上の消費税減税の【断行】という内容に刷り替わった結果、地方消費税その他の財源でなんとか生きてきた道府県・地方自治体の財源を直撃するというお粗末な流れにならざるを得ません。
そして、本来ならそういうことは、政策がわかっている人ならば誰もが予見できることなのですから、担当大臣である片山さつきさんや城内実さんは、公約実現のために走っていく高市早苗さんを羽交い絞めにしてでも現実的な政策案に着地させなければならなかったはずです。
◇国民に「いい顔」して詰んだ
あるいは、消費税減税は国民に対する公約の一つで、国としては国民の税負担軽減のために断行するので、地方自治体も有権者の考えを理解して地方消費税2年間消滅の減収を飲め、と説得しないといけないわけです。
しかし、その現実的な財源探しは12月までずれ込み(片山さんがそう言ってる)、財源はあると言い(城内さんがそう言ってる)、特例国債に頼らないと言い(高市さんがそう言ってる)、じゃあどうするんだという話になります。国民にいい顔をしようとして、詰んでるんじゃないですかねえ、この将棋。
年内の答え合わせのポイントは、だいたい次の順番で来ます。
9月の税制改正大綱、秋の臨時国会での法案審議。ここで財源の具体策が示されるかどうか。示されなければ、日本経済新聞が社説で書いたとおり「数の力で突き進む」ことになります。
とはいえ、どうやって数の力で進んでいくのかは、よくわかりません。火の玉になるんでしょうか。
そして本丸は、例年12月の総務相・財務相による地方財政対策折衝(令和9年〔2027年〕度分)です。ここで地方特例交付金による補填の規模がいくらになるか、臨財債をどう扱うか、そして「一般財源総額実質同水準ルール」を維持できるのか。この辺どう着地させる考えなのかは、さっぱりわかりません。「検討が始まった」と聞きましたが、何の検討をどうするつもりなのか、妙案が浮かばないですね。
静岡産業大学学長の小泉祐一郎さんは「地方との調整が不十分なまま方向だけ決まってしまったことに非常に問題がある」とプロセスそのものを問題視していて、これは国主導で議論が進んだことへの、地方自治の側からの割と本質的な批判です。
言い方は悪いですが、高市早苗さんがこだわり、国民有権者にお示しした消費税減税の【検討を行う】という公約が、事実上の消費税減税の【断行】という内容に刷り替わった結果、地方消費税その他の財源でなんとか生きてきた道府県・地方自治体の財源を直撃するというお粗末な流れにならざるを得ません。
そして、本来ならそういうことは、政策がわかっている人ならば誰もが予見できることなのですから、担当大臣である片山さつきさんや城内実さんは、公約実現のために走っていく高市早苗さんを羽交い絞めにしてでも現実的な政策案に着地させなければならなかったはずです。
◇国民に「いい顔」して詰んだ
あるいは、消費税減税は国民に対する公約の一つで、国としては国民の税負担軽減のために断行するので、地方自治体も有権者の考えを理解して地方消費税2年間消滅の減収を飲め、と説得しないといけないわけです。
しかし、その現実的な財源探しは12月までずれ込み(片山さんがそう言ってる)、財源はあると言い(城内さんがそう言ってる)、特例国債に頼らないと言い(高市さんがそう言ってる)、じゃあどうするんだという話になります。国民にいい顔をしようとして、詰んでるんじゃないですかねえ、この将棋。
年内の答え合わせのポイントは、だいたい次の順番で来ます。
9月の税制改正大綱、秋の臨時国会での法案審議。ここで財源の具体策が示されるかどうか。示されなければ、日本経済新聞が社説で書いたとおり「数の力で突き進む」ことになります。
とはいえ、どうやって数の力で進んでいくのかは、よくわかりません。火の玉になるんでしょうか。
そして本丸は、例年12月の総務相・財務相による地方財政対策折衝(令和9年〔2027年〕度分)です。ここで地方特例交付金による補填の規模がいくらになるか、臨財債をどう扱うか、そして「一般財源総額実質同水準ルール」を維持できるのか。この辺どう着地させる考えなのかは、さっぱりわかりません。「検討が始まった」と聞きましたが、何の検討をどうするつもりなのか、妙案が浮かばないですね。
◇結局は「地方切り捨て」となる末路
平成23年(2011年)度以降ずっと守られてきたこのルールが、名目だけ掲げて実質は目減り、という形になるかどうかが一つの分水嶺です。もっと言えば、ドル円相場だけでなく日本経済の状況によって大きく左右される話になるでしょう。
そのとき総務大臣が誰なのか、財務大臣が誰なのか。冒頭の人事の話は、ここでようやく実務と接続します。
減税は来年4月に「実績」として先に見せる。地方の穴埋めが不十分だった場合の影響は、保育や介護や子育て支援の縮小という形で、時間差を伴って、自治体ごとにばらけて現れると見られます。言い方は悪いですが、結局は、地方切り捨てとならざるを得ません。この非対称性がある限り、財源の詰めは甘くなりやすい。
参考までに、平成6年(1994年)度の税制改革では、所得税減税による交付税減への対応として消費税の法定率そのものを引き上げて補った前例があります。何度も説明してきましたが、減収局面で率を積極的に調整するという手段は、制度上ちゃんと存在するんです。今回それに類する言及がまったくないのが、何よりも雄弁だと思います。
なんかこう、詰めない詰将棋の盤面とにらめっこをしている感じですね。波高し>(以上「PRESIDENT」より引用)
平成23年(2011年)度以降ずっと守られてきたこのルールが、名目だけ掲げて実質は目減り、という形になるかどうかが一つの分水嶺です。もっと言えば、ドル円相場だけでなく日本経済の状況によって大きく左右される話になるでしょう。
そのとき総務大臣が誰なのか、財務大臣が誰なのか。冒頭の人事の話は、ここでようやく実務と接続します。
減税は来年4月に「実績」として先に見せる。地方の穴埋めが不十分だった場合の影響は、保育や介護や子育て支援の縮小という形で、時間差を伴って、自治体ごとにばらけて現れると見られます。言い方は悪いですが、結局は、地方切り捨てとならざるを得ません。この非対称性がある限り、財源の詰めは甘くなりやすい。
参考までに、平成6年(1994年)度の税制改革では、所得税減税による交付税減への対応として消費税の法定率そのものを引き上げて補った前例があります。何度も説明してきましたが、減収局面で率を積極的に調整するという手段は、制度上ちゃんと存在するんです。今回それに類する言及がまったくないのが、何よりも雄弁だと思います。
なんかこう、詰めない詰将棋の盤面とにらめっこをしている感じですね。波高し>(以上「PRESIDENT」より引用)
「高市首相の「消費税減税」で日本が終わる…国民にいい顔をしたいだけの政策で地方に1.6兆円を押し付ける無責任」との見出しに「緊縮・増税」のエース級論評が掲載されたと喜ぶ。なぜなら「緊縮・増税」派の論理がすべてこの論評に集約されているからだ。それはつまり、この論評を論破すれば「緊縮・増税」派の根拠が崩壊することになるからだ。
引用論評を書いたのは山本 一郎(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)氏だ。云うまでもなく一般財団法人情報法制研究所(JILIS)は、理事長の鈴木正朝(新潟大学教授)をはじめ、法学、情報工学、経済学などの専門家や研究者、実務家によって構成されている。主な役員・メンバーには、副理事長の曽我部真裕氏や高木浩光氏らが名を連ねる日本を代表するシンクタンクだ。だが「実戦部隊」の研究員の肩書を見れば多くが民間企業の社員だ。それも電通や博報堂や各種社団などに所属している。いわば日本世論をオールドメディアを通して操作してきた支配体制側の人たちとも云える。
まず各章ごとに検証してみたい。
「◇減税「財源」をめぐり大バトル勃発」の章では、今年2月の総選挙で高市自民党が「食料品消費税ゼロ」を公約として戦い、大勝した結果を受けての話であることを忘れてはならない。なぜ食料品消費税ゼロが国民から圧倒的な支持を受けたのか。それは昨年から以上にコメ価格が高騰したからだ。国民生活にとって「基礎素材」というべき食料品の価格高騰は既にエンゲル係数が高い数値を示していたからだ。
所得階層別にエンゲル係数を示すと以下の通りだ。
低所得層(年収200万円未満): 約34%〜35%中間層(年収500万円前後): 約29%〜30%
高所得層(年収1,500万円以上): 約22%〜23%
と、このようになっている。
国税庁の民間給与実態統計調査(令和6年分)によると、1年間を通じて勤務した給与所得者の平均年収(平均給与)は478万円(平均給料・手当403万円、賞与75万円)だが、それは労働者所得の実態を反映していない。労働者所得の実態を知るには労働者所得の中央値を見るべきだ。日本の給与所得者(個人)の年収中央値はおよそ350万〜400万円程度、政府統計を基にした全世代の世帯所得の中央値は451万円になっている。平均値は高所得層に引き上げられる傾向があるため、実態に近い「真ん中の金額」として中央値をみなければならない。さらに全労働者の約四割を占める非正規労働者の所得の中央値は各種統計の推計でおよそ178万円〜200万円前後となっている。それほどまでに、日本国民は貧困化している。だから高市自民党が食料品消費税ゼロを掲げた公約が広く国民の支持を集めたのだ。
次章の「「財務省エース」が飛ばされたワケ」や「実務を回せる人材が抜けた影響」の章はどうでも良い。なぜなら、その表題からして週刊誌的で他の財務省官僚に対して失礼だからだ。そして「維新の入閣をめぐる嫌な予感」や「もし総務相ポストが回ったら…」は揣摩臆測の域を出ないタラ・レバでしかない。そんな揣摩臆測に対して私が論評する暇はない。
次の「城内経財相の「難しくない」発言」は城内氏が「消費減税に必要とされる約5兆円の財源について、歳出・歳入や基金、租税特別措置の見直しを通じた捻出は「それほど難しくない」と述べ、国債発行に頼る必要はないと言い切りました」との発言に山本氏は噛みついているが、実際に5兆円程度の財源探しなら、現在の日本財政では「難しくない」。
2025年度も税収の上振れがあって、予算を約9兆円も上回った。しかも予算の未消分が2.6兆円もある。今年2月に約9兆円の為替介入と7月30日・31日などの一連の円買い介入の総額は、市場の推計でおよそ12兆〜13兆円規模に達したとみられている。それらにより外為特会には10兆円程度の外国為替売却益があったとみられる。その売却益を一般会計に振り替えれば二年間の消費減税分は十分にある。城内氏が「(消費減税の財源は)難しくない」と発言したのは当然のことだ。それを「財源が~」と大騒ぎするのは国家財政を知らない者の戯言でしかない。
山本氏が実務の話だと云う「地方財源に1兆6000億円の穴」に関しても、地方交付金を1.6兆円上乗せすれば簡単に終わる話だ。かつて小泉内閣当時「平成の大合併」を推進すると同時に、市町村など地方自治体が3500程度から1600ほどに減少するのを理由に、地方交付金を一律30%削減した。その当時は大騒ぎしなかったが、今回は地方自治体はどうなるのか、と山口県知事の談話を引き合いにして騒ぎ立てている。県民から知事と議長用に公用車として二台もプレジデントを採用しているのはケシカランと批判されている知事が「地方交付金削減はケシカラン」と国政批判するとは穏やかでない。
しかし地方交付金も見直すべき項目はゴマンとある。意味不明な補助金ブラ下がり団体にカネを配るためだけとしか思えない「環境」や「女性の権利」や「家庭子育て」といった補助金メニューにはウンザリする。SDGsやLGBTqといった活動団体のための政策メニューとしか思えない無駄遣いをすべて廃止すれば、地方交付金を上乗せゼロでもやって行けるのではないだろうか。新たに徴収し始めた「森林税」の収支決算書を見せて頂きたいものだ。
「岸田政権時と同じスキームの浮上」の章や「ようやく解消した負債の再来」の章や「「もう一つの穴」が同時進行する恐怖」の章は読むに堪えない。この三章は税の「国と地方の配分」を形を変えて繰り返し論述しているにすぎない。
国家と地方の税の配分は明治維新の際に支配と統制上から設けられた制度だ。地方がそれぞれの地方住民に関する政策を実施し、国は国防や国全体に関係する社会インフラの整備・維持・管理を行うとの役割分担を仕分けした。それにより各藩が保有していた兵馬を国が一元管理することになり、近代国家の仲間入りを果たした。明治維新以来の国と地方との税の配分割合は時々によって変化してきた。その割合が令和の時代で変化したとして、どれほどの大問題があるというのだろうか。仕事に見合った地方交付金が国から支給されれば、それで済む話だ。
「政府が示した申請不要給付の背景」として山本氏は一章を設けて論述しているが、これからどうなるか判らない話を「章」で取り上げるほどの問題ではない。現にマイナンバーカードの「義務化」を見送ったではないか。次の「失敗すれば破綻する自治体続出」ではマイナンバーカードに紐付けされた銀行口座に自動で「給付金」を振り込む、という手続きが始まっている、と山本氏は警鐘を乱打している。しかし、それはこれから「お手並み拝見」という段階でしかないし、自動で国から直接各個人口座に振り込んで何が悪いというのだろうか。
「国主導で進めたことによる問題点」の章は奇異でしかない。政治を国主導でなければ、どこが取り仕切って決めるというのだろうか。まさか日本最高のシンクタンクを自称する「情報法制研究所」が決めると云うのではないだろう。
「「検討を行う」が事実上の「断行」へ」の章は食料品消費税ゼロに関して「検討する」といったのを「断行」してしまったと論じているが、先の総選挙で高市自民党は「食料品消費税ゼロを二年間実施する」と公約を示し国民と「約束」した。その高市自民が衆院の2/3以上の議席を得たからには敢然と実行するのが筋だ。右顧左眄したから「食料品消費税1%と所得減税給付を併用して実質ゼロ」などと複雑怪奇な話になってしまった。給付は税として徴収して戻すことだ。そんな手間暇をかける必要があるのか。食料品消費税ゼロの方が分かり易いし、ゼロならばインボイスを発行しなくて済むではないか。
いよいよ山本氏の本丸というべき「国民に「いい顔」して詰んだ」章を見る。
何度読み返しても「消費税減税は国民に対する公約の一つで、国としては国民の税負担軽減のために断行するので、地方自治体も有権者の考えを理解して地方消費税2年間消滅の減収を飲め、と説得しないといけないわけです」とは意味不明だ。地方交付金で「手当てする」と片山さつき財務大臣は8月9日の静岡市内での講演で述べているではないか。
山本氏は「その現実的な財源探しは12月までずれ込み(片山さんがそう言ってる)、財源はあると言い(城内さんがそう言ってる)、特例国債に頼らないと言い(高市さんがそう言ってる)、じゃあどうするんだという話になります。国民にいい顔をしようとして、詰んでるんじゃないですかねえ、この将棋」と書いているが、すでに財源探しする必要ないほど日本財政には財源となる資金は潤沢だと説明している。
また経済の原則論からいうと「減税は増収をもたらす」という側面があることを指摘しておきたい。それは税収弾性値で計算できるが、端的に言うと減税した分だけ国民の可処分所得が増えて新たな消費が喚起され、その需要が企業の「供給増=企業投資」を触発させて経済規模が膨らむ。よって経済は好転して税収増になる、という仕組みだ。
来年四月から実施されるから再来年の税収は必ず増収となる。単年度主義の小さな井戸の中で国家財政を微視的にみているお歴々には理解し難いだろうが、結果は必ずそうなる。ただし、馬鹿な日銀が銀行利益のために金利引き上げをして景気の足を引っ張らないことを条件にしておく。
最終章の「結局は「地方切り捨て」となる末路」には同感だ。地方は「平成の大合併」により地方行政の「合理化」の掛け声の下、国策に従って多くの町や村を市部に併呑させて潰した。山本氏は「平成23年(2011年)度以降ずっと守られてきたこのルール」と地方交付金の消費税分を問題にしているが、小泉内閣による地方交付税の削減(カット)は、2002年度(平成14年度)から2006年度(平成18年度)にかけて推進された「三位一体の改革」の一環として、2004年度(平成16年度)予算から本格的に実施された。それにより地方自治体の周辺町・村部は急激に衰退してしまった。クマなどによる被害が深刻化した原因の一つが中山間地域が人口の急減により里山が荒れたことにあることは論を俟たない。平成の大合併から二十年余りだが、周辺部町・村では人口が半分以下になった地域も珍しくない。山本氏は食料品消費税減税で地方自治体の「切り捨て」を論じる前に、「平成の大合併」こそ批判すべきではないか。出来ることなら市部に併呑された町や村を再び分離・独立させるための「特例法」を設けてもらいたい。是非ともサイト「kumage2003」を開いて一読して頂きたいと希望を述べてこのブログを終える。