果たして米国は衰退し覇権を失いつつあるのか。

世界の覇権を握ってきた軍事大国
 世界のGDPの半分を占めると言われた戦後の黄金期から比べれば衰えたとは言え、米国のGDPはまだ世界のおおよそ四分の一を占める。いまだに、世界一のGDP大国であることは間違いがないが、2022年の中国のGDP世界シェアは2割弱でありその差をかなり縮められている。
 それに対して、GLOBAL NOTE「世界の軍事費 国別ランキング・推移 <2022年>」を見ればわかるように、2位の中国のほぼ3倍と圧倒的な軍事大国として世界を恫喝している(ただし、中国の軍事費は公表されているものよりも実際にはかなり大きいとの推測もなされている)。
 防衛省「主要国との国防費比較」によれば、米国の2022年の国防費の対GDP比率は2.85%とかなり多い。日本は0.93%(当時)だが、日本経済新聞1月29日「防衛費、27年度にGDP比2%、非防衛省予算は2兆円規模 データで読む安保3文書」へと向かっている。中国の1.19%というのは前述のとおり信憑性の問題はあるが、中国のGDPは近年急速に増加したので、GDP比率では意外に少ないという可能性も捨てきれない。
 参考までに、同数値はドイツ1.31%、フランス1.88%、英国、1.94%、オーストラリア1.96%、韓国2.54%である。
 そして、ロシアは3.09%であり、対GDP比で米国同様軍事支出の多い国だ。
 注目すべきは、一人当たりの軍事費支出である。日本の4万円は突出して少ないが、ドイツも8万円と比較的少ない。第2次世界大戦の敗戦国であり、軍備増強に色々な制約が加わった結果だと考えられる。
 フランス10万円、英国10万円、オーストラリア12万円、韓国12万円であるが、意外ともいえるのが、ロシアの11万円である。西側の国々とロシアを比較すると、一人当たりではほぼ変わらないということである。
 そして、ずば抜けて多いのが米国の21万円である。セカイハブ「【2024年最新】世界の一人当たりGDPランキング(IMF)」によれば、一人当たりGDPにおいて米国は約8万5000ドルで世界第6位であるから、それほどの負担感は無いかもしれない。しかし、米国民が軍事費に対して多額の支出を行っているのは否定できない事実だ。
 中国は、一人当たりの軍事費支出において突出して少ない日本をさらに下回る2万円(ただし、前述のように信憑性の問題はある)。もっとも、一人当たりGDPは約1万3000ドルで世界第72位であるから、それなりの負担感はあるといえよう。だが、一人当たりGDPにおいて米国が中国の約6.5倍であるのに対して、一人当たりの軍事費支出は10倍以上である。
 ロシアとの一人当たりの軍事費支出と比べても、米国は約2倍であるから、結局、米国は「軍事大国」であり、その軍事力という「げんこつ」によって、特に1991年のソ連邦崩壊以降の世界を「ジャイアン・アメリカ」として牛耳ってきたといえる。

今の好景気は「米国最後の輝き」か?
 だが、米国の「軍国主義」を支える経済の方は、長期的に見れば衰退している。前述のように、戦後の黄金期には世界のGDPの半分を生みだしていたとされるが、現在の世界シェアはその半分の25%程度である。
 その中で、2022年3月18日公開「プーチンだけが悪玉か―米国の『幅寄せ、煽り運転』がもたらしたもの」で述べたような「煽り運転」も含めて、世界中で戦争を引きおこし「げんこつ」を振るうための軍事費の負担が重くなっている。
 日本だけではなく、欧州諸国にもGDP比2%の軍事費を「強要」しているのは、「米国の戦争」の費用を自国だけで賄うのが困難になってきた証拠といえよう。
 しかしそれでも、1990年代前半以降のIT・インターネット、「新型金融」の隆盛によって好調であった米国経済は、絶え間ない戦争のための軍事支出に耐えることができた。
 しかし、これからはどうであろうか?
 1990年代前半から始まった米国の経済発展は、今や完全にバブルとなったことは3月18日公開「今、目の前にある1989年のデジャヴ~上り調子の市場で損をする人々の生態とは」で述べた。
 かつての日本のバブルを凌駕するほど膨らんだバブルは、2008年のリーマンショックを新たなバブルでごまかしたことによって生じた。つまり、「二重バブル」である。日本のバブル以上の惨劇になるであろう。場合によっては、昨年8月31日公開「中国は崩壊か? それとも『失われる50年』か? いずれにせよ日本のバブル崩壊以上の惨劇が待っている」を超える惨劇となる可能性もある。
 米国の経済的衰退は、2022年10月14日公開「米国は1971年にすでに死んでいた!?インフレで見えた本当の姿」で述べたように、半世紀以上も前から始まっていたが、いよいよごまかしが効かなくなって、本格的な落ち込みを見せるのではないだろうか?

ロシアと中国を叩き潰したかったが
 米国が世界の覇権国家としての地位を維持するために、2番手を徹底的に痛めつけその差を広げる努力を欠かさないことは、日本人も「ジャパン・バッシング」によって思い知らされた。
「平和憲法」を自らが押し付け、事実上の武装解除を行った日本に対してさえ、経済的脅威とみなすや、1985年5月に対日非難決議が上下両院で可決された。そして激烈なバッシングの対象となった。読者の多くも「日本製自動車をハンマーで打ち壊す画像」をご覧になったことがあるであろう。
 同様に、経済的に2番手として追い上げてきた中国や核武装では米国に並び立つロシアも、米国の覇権を脅かす存在としてバッシングの対象となったのだ。

米国一極支配から「南北冷戦」へ
 ところが、バイデン民主党政権の軍事・外交政策の稚拙さもあって、その「バッシング」が上手くいかない。むしろ、2022年6月24日公開「ナポレオン大陸封鎖令の大ブーメランに学ぶ経済制裁で自滅する歴史」で述べたような大ブーメランによって、米国だけではなくG7を始めとする西側諸国のさらなる衰退を引き起こした。
 米中貿易戦争においても、中国側がダメージを受けているのは明らかだが、米国側も部品やサービスの調達を始めとする多方面でブーメラン攻撃を受けている。泥沼状態だといえよう。
 また、世間で騒がれている共産主義中国による「台湾侵攻」問題も実際には、前記「プーチンだけが悪玉か―米国の『幅寄せ、煽り運転』がもたらしたもの」で述べたように、「米国の煽り運転」である。
 2022年10月8日公開「ノルドストリーム・パイプラインを破壊したのは、本当にロシアなのか?」で述べたように、ロシアには自国の貴重な財産であるパイプラインを爆破する理由が無い。蛇口を締めればよいだけのことである。
 同様に、「台湾統一」は共産主義中国の悲願だが、日本を含む世界中のほとんどの国々が、共産主義中国を「唯一の政府」と認め、共産主義中国が「唯一の政府」として常任理事国の地位を占めている。
 米国でさえ、共産主義中国が「唯一の政府」と認めているのだ(ただし、台北経済文化代表処を通じて台湾との非公式な外交関係を維持している)。米国が「煽り運転」をしない限り、中国が軍事侵攻という強硬手段で台湾を完全掌握する動機は乏しい。
 米国は、実のところ「台湾有事」を煽って、その機会に中国を叩き潰そうというわけである。

結束を固める「非欧米」
 だが、このようなバイデン民主党政権の外交政策が、非欧米の大きな反発を招き、前篇「まもなく米国中心vs.BRICS主導の『南北冷戦』が始まる…!そして日本は『脱欧入亜すべき』と言える理由」のように、(拡大)BRICSを経済同盟だけではなく「軍事同盟」へと変質させつつある。
 その結果、米国が軍事的優位を維持している間に中国を叩き潰す作戦が、機能しない事態になっている。特に、核保有において米国と並び立つロシアがBRICSの中核同士として中国に近づいた影響が大きい。
 しかも、毎日新聞「中国核弾頭、推計500発 世界総数は1万2000発超に」にあるように、中国の核弾頭保有数も前年同月から2割強増加と急速に増えている。
 しかも、米国の「煽り運転」で始まったウクライナ戦争によって、これまで距離感があったロシアと北朝鮮がロイター 6月20日「焦点:ロシア『北朝鮮シフト』鮮明、北東アジアの地政学どう変わる」のように急接近した。

英国の次の「腐った鯛」
 米国以前の世界の覇権国家は、「日の沈まない国」とも言われた英国である。
 英国も産業革命の経済力を背景に、世界の多くの国々を軍事侵攻によって植民地化。世間では「ブリカス」とも呼ばれる「非人道的な支配」を植民地の人々に対して行った。
 経済力と共に、軍事力が覇権国家としての英国の基盤であったが、その「基盤」が劣化したことは第1次世界大戦終結時にはすでに明らかであった。
 だが、それでも世界の覇権国家として振舞い、ポツダム宣言の際にも、米国とまるで並び立つ国であるかのように振舞った。しかし、実際のところは、ルーズベルトの「お情け」によっていかにも対等かのように見せかけたというのが真実だ。すでに世界の覇権は、米ソ二大国で争う時代に入っていたのである。
 そして、それ以後の80年間の英国の衰退ぶりは、読者もよくご存じのはずだ。
 同様に、前記「米国は1971年にすでに死んでいた!?インフレで見えた本当の姿」で述べたように、米国の覇権国家としての衰退のサインは、半世紀前にすでに出ている。
 そして前記「まもなく米国中心vs.BRICS主導の『南北冷戦』が始まる…!そして日本は『脱欧入亜すべき』と言える理由」で述べたように、(拡大)BRICSの台頭が、米国はもう「軍事・経済における世界の覇権国家ではない」ということを白日の下にさらすであろう>(以上「現代ビジネス」より引用)




 引用文を一読して酷い論評だと思った。それは大原 浩(国際投資アナリスト,人間経済科学研究所・執行パートナー)氏が書いた「軍事・経済における世界の覇権国家の座を失い始めた米国、その緩やかな衰退の過程を考える」という論評だ。
 副題には「いよいよトランプ、そしてどこへ行く米国・後篇」とある。一々反論したいが、一つだけ項目を絞るなら「米国は衰退している」という事実の検証をしたい。
 1980年から2022年までの米国GDPのグラフを見るまでもなく、米国は少しも衰退していない。むしろ同期間の世界の平均成長率を凌駕している。だから大原氏が「衰退する米国」と表現するのは正しくない。

 ただ同時期のBRICSの一部の国は米国の成長率を凌ぐ勢いで経済成長した(と自称する)中国があるため、相対的に米国の地位が低下しているかのように見えるだけだ。しかし、そのBRICSの優等生を自称していた中国は経済崩壊している。しかも、その崩壊を習近平氏も誰も止めることは出来ない。
 日欧米が結束を強めている、と大原氏は論じているが、国家間の結束とは何だろうか。たとえばブラジルが中国とスクラムを組んで日米欧と対峙する、とでもいうのだろうか。しかしBRICSにBRICSだけで経済循環の輪を完成することは出来ない。彼らにはそれだけの技術・研究の基礎すらない。ましてや半導体製造で日米欧を凌駕することなど到底できない相談だ。

 大原氏は英国の没落の次に米国が没落する、と「腐った鯛」に米国を擬えているが、彼には英国が覇権を握った当時の経済構造と米国が第一次世界大戦後に覇権を握った当時の経済構造の相違が分からないのだろう。確かに七つの海を支配した英国だが、それは帝国主義に基づく侵略と植民地化による世界からの収奪によって成立した富だ。概ね先の大戦前の欧州諸国は似たような経済構造により繁栄し欧州諸国は文化の華を咲かせた。
 しかし先の大戦で日本が欧米の植民地主義を破壊した。それにより先の大戦後にアジアや南米、アフリカ等の各地で植民地が陸続と独立した。米国は「遅れて来た帝国主義」の一人員だったため、植民地はスペインから奪ったフィリピンだけだったため、帝国主義の没落の影響をそれほど受けなかった。英国が覇権を失った没落の原因は植民地を失ったからだ。現在の米国と英国の盛衰と比較するのはお門違いだ。

 BRICSは先進自由主義諸国の存在とは無関係に躍進しているわけではない。世界の経済は連通管のようなもので、たとえ政治体制が異なろうと国際的な協調は不可欠だ。その証拠に先進自由主義諸国が経済制裁を行えばロシア経済でもデフォルトの事態に見舞われている。
 中国経済もトランプが提唱した対中デフォルト策以降、経済成長が鈍化し遂にはマイナスへと転落した。経済力であれ軍事力であれ、あらゆる意味で中国が米国を凌駕することはないし、世界の覇権を中国が握る人はあり得ない。「腐っても鯛」とは米国に対して余りに失礼だろう。

 自由主義社会は時として混乱したり統制を欠いたりする。国民は自由であり平等だから、権利を行使して社会活動を活発に行う。人心面の如しで、百人いれば百もの異なる意見がある。それらの一つ一つの意見が尊重され、社会に発信されれば、混乱し分裂しているように見えて当然だ。
 しかし一旦事があれば米国民は団結する。決して国家が分裂しているわけではない。確かに米国の主要マスメディアは特定の金融資本によって支配されているが、それも株式社会であれば、ついて回る弊害の一つだ。自由には弊害があるが、国民がそのことを理解していれば大した問題ではない。弊害を乗り越えて真実を求めるのが自由主義の良い処だ。一時的にCO2地球温暖化というプロパガンダが先進自由主義諸国を席巻したが、真実は力を得て国際社会を正常へ導こうとしている。蛇が前進する際に身をくねらせるように、自由な人類社会も前進するために試行錯誤するのは正常の証だ。米国は独裁者が支配する統制・監視社会ではないのだから。

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