漂流する中共政府。

<中国外交部がおかしい、ご乱心だ、とチャイナウォッチャーたちの間でもっぱら噂になっている。
 最近の出来事でいえば、旧ソ連から独立した小国の主権に関する、盧沙野・中国駐フランス大使の発言だ。発言から3日経って、ようやく外交部が訂正。だが謝罪はしておらず、むしろ西側メディアの挑発だと言いがかりをつけていた。
 また在韓中国大使館の外交官たちがソウルのレストランで女性と破廉恥行為に及んだことが韓国のテレビで報じられたが、中国大使館も中国外交部もだんまりを決め込んだ。
 中国の外交官は、もともとこんなに低レベルだったろうか? いや、習近平政権になってからではないか? 昨年、“戦狼外交官”として勇名を馳せた趙立堅が僻地に左遷され、さすがに習近平の外交路線が見直されるのではないか、と思われていたが、依然として中国外交官の「ご乱心」が絶えない。

旧ソ連国家の主権を否定

 盧沙野の発言は、4月21日のフランスのテレビLCIのニュース番組にゲスト出演した際のものだ。
 話がクリミアの帰属とソ連解体に及んだときのことである(ロシアは、ウクライナの領土と見なされていたクリミアを2014年に一方的に「併合した」と宣言している)。盧沙野は、クリミアはもとよりロシアに所属していると主張、ソ連共産党第一書記のニキータ・フルシチョフがクリミアをウクライナに譲渡したがこれをどう見るかによる・・・などと語った。
 番組司会者のダルス・ロシュバンが「国際法からみれば、クリミアはウクライナに属するのではないか」と言うと、盧沙野は「国際法によれば、(ウクライナなど)旧ソ連国家に主権国家の実際的地位はない。主権国家の地位を具体化するような国際協議はなんらないのだから」と答えた。
 ロシュバンが「クリミアの帰属はウクライナにとって非常に重大な問題で、些細な問題ではない。中国の一部がなくなって、それが中国にとって些末な問題ではないのと同じだろう」と質問すると、盧沙野は「紛争に至るまでの流れを考慮すると、一概には論じられない」と述べた。
 バルト3国はじめ旧ソ連から独立した諸国は、盧沙野の発言に衝撃を受け、一斉に反論した。その発言は、ロシアのウクライナ侵攻を正当化するだけでなく、1991年のソ連解体後に成立したすべての独立国の主権、すでにEUのメンバー国にもなっている国々の主権を否定するものだからだ。
 中国はウクライナ独立後、すぐさま国家承認をし、ウクライナの主権に関してずっと擁護の立場にあったはず。一外交官が中国のこれまで公式に打ち出していた立場と全く異なる発言をした意図は何なのか、と世界が外交部の対応を見守った。

失言を謝罪せずメディアに責任転嫁

 中国外交部は3日経って、ようやく4月24日、定例記者会見で毛寧報道官が次のような公式見解を発表した。
「中国はこの問題に関しての立場に変化はない。領土主権の問題については、中国の立場は一貫しており明晰だ。中国は各国の主権独立領土の完全性を尊重し、国連憲章の主旨と原則を擁護する。ソ連解体後、中国は最も早く関係国と外交関係を樹立した国家の一つである。建国以来、中国は終始相互尊重、平等に相対することを原則とし、双方の友好協力関係を発展させてきた。中国はソ連解体後、その加盟共和国の主権国家の地位を尊重してきた」
「ウクライナ問題に関しては、中国の立場は明確であり、一貫している。国際社会と一緒にウクライナ危機の政治解決を推進するために貢献したい。一部メディアが中国のウクライナ問題に対する立場を曲解し、中国と関係国の関係を挑発しているが、我々はこれに警戒感を持っている」
「ソ連加盟国の主権は、国際法に基づくしっかりした根拠に欠く」という盧沙野大使の発言について否定するのか? という質問については、毛寧は「ソ連は連邦制国家であり、対外的には全体で国際法の主体的地位を持つが、これはソ連解体後に、各加盟共和国が主権国家の地位を持つことを否定するものではない」と答えた。
 さらに毛寧は「いかなる離間工作の挑発によっても、中国と関連の国家との関係を妨害、破壊しようという企みは、すべて下心があり、成功しないのだ」と強調した。
 盧沙野の発言にしても、毛寧の外交部としての正式な態度表明にしても、実に奇妙ではないか。一大使に過ぎない盧沙野がなぜ、ウクライナおよび旧ソ連加盟共和国の主権問題について、中国のこれまでの公式見解から大きく外れる踏み込んだ発言を、なぜフランスのテレビで吹聴したのか。
 しかも、この発言はその後ネットで転載されて、「ネット紅衛兵」と呼ばれる愛国ネットユーザーから賞賛されている。この発言は、中国の利益に大きく相反することは明らかなのに、自称愛国者たちは支持しているのだ。
 そして外交部がこれを訂正するまで、なぜ3日もかかったのか。さらに、公式見解と違う発言をした盧沙野がそもそもの発火点なのに、外交部は失言を謝罪するどころか、「中国と関連の国(ウクライナなど旧ソ連加盟共和国)」の離間を狙った下心ある企みだと、周囲に責任転嫁しようとしている。

習近平の意向を汲んでプーチンに肩入れの発言か

 果たして盧沙野の発言は、外交官個人の「失言」だったのか、それとも何か背景があるのか。
 ニューヨーク在住の華人評論家の陳破空などは、党内の質の悪い対立が表面化したという見方だ。
 盧沙野は、習近平がこの10年続けてきた、いわゆる“戦狼外交”路線に迎合してきた。2022年8月にはフランスメディアの取材に「台湾統一後は台湾人を再教育する」と過激な発言をし、物議をかもした。彼がこうした発言を行ってきたのは、そういう戦狼的発言が習近平の意を汲んだもので、当時、外交官の出世につながるという考えがあったからだろうと思われてきた。だから今回も、盧沙野の発言は習近平の意向を汲んだものではないか、という見方がある。
 だが、中国の外交路線は昨年(2022年)、戦狼路線から“魅力外交”路線へ転換を打ち出していたはずだ。西側諸国との外交関係悪化が経済に深刻に響いており、党内から是正を求める声があった。この結果、戦狼外交官の筆頭と目されていた趙立堅が左遷され、米国との関係改善のために駐米国大使として功績のあった秦剛が外相に抜擢された、と言われていた。
 ただし、外交路線について党内で統一されたコンセンサスはまだ固まっていなかった。やはり戦狼外交を志向する習近平と、米国はじめ西側諸国との関係改善を望む勢力との間で路線のずれがあり、外交部の中で政策の方向性の不一致が起きてしまった、という見方だ。
 対ロシア外交は、中ロ蜜月外交だったのが、ロシアがウクライナに侵攻して後、ロシアと一定の距離をおいて中立を維持するという路線に修正され、そのために親ロシア派の外務次官が左遷された。ところが習近平は3月にモスクワでプーチンと会談し、中ロ関係のさらなる緊密化をアピール。習近平が3期目の権力を掌握したことで中ロ接近路線が復活した、と見られた。
 折しも中国がロシアに武器供与を検討しているという米国からの情報もあり、習近平の本当の狙いは「平和の使者」のふりをしながら、欧米を離間させ、旧ソ連加盟国を取り込んで、西側と対峙する二極構造に国際社会を再構築するつもりではないか、との見立てもでてきた。
 こうした習近平の中ロ緊密化、プーチン支援の意向を汲んだ盧沙野が、あえてかうっかりか、ロシア・プーチンに肩入れした発言をした、というわけだ。
 結果から言えば盧沙野の発言は、中国の「大国の平和外交」路線を妨害し、国家利益を傷つけることになった。外交部が訂正までに3日かかり、しかも盧沙野の発言を「失言」と断ずることなく、あたかも西側メディアの「下心ある企み」とあらぬ方向の批判返しで対応したのは、外交部側が盧沙野発言の背後に習近平の姿を感じて躊躇したからではないか?

外交官の質低下による「事故」との見方

 一方、華人評論家の鄧聿文は米メディア「ボイス・オブ・アメリカ」の自分のコラムで「おそらく、フランスメディアの鋭い質問に、不用意に自分の本当の考えを言ってしまったのだろう」と推測し、習近平の意見を特に反映したものではない、単なる「外交事故」との見方を示した。
「盧沙野は直接習近平と話ができるような立場ではない。仮に王毅などを通じて習近平の意向を伝えられたとして、こんな発言に何の目的がある? ロシア・ウクライナ戦争の調停工作に向けたすべての努力を無駄にするだけではないか?」
 だが外交事故だとしても、この悪影響は非常に大きい。ロシア・ウクライナ戦争における「大国の平和外交」のための布石を着々と進め、スペインのサンチェス首相もフランスのマクロン大統領も着々と篭絡しつつあったのに、今回の盧沙野の発言で、欧州の警戒感が再び覚醒してしまった。鄧聿文は「おそらくそう遠くない将来、何かの名目で盧沙野は召還される」と予測する。
 鄧聿文の見立てが正しいとすれば、中国外交官の質が今や信じられないほど落ちている、ということかもしれない。

中国外交官が韓国人女性と乱痴気騒ぎ

 ソウルのレストランで中国大使館の外交官たちが、公衆の面前で連れの女性たちの破廉恥な真似をした事件も韓国のテレビで流され、騒ぎが拡大している。
 2月23日夜、明洞のレストランで中国大使館の外交官が韓国人女性を膝にのせ胸をもんだり、キスしたりながら食事をしていたという。そのレストランはごく普通のレストランで女性客も子供連れ客も大勢いた。店主が注意すると、彼らはトイレにこもり、中で破廉恥な行為をしている大きな声が聞こえたという。
 この様子の動画がネットにアップされ、韓国のテレビ局JTBCでも批判的に報じられた。中国大使館がこの問題についてのテレビ局から問い合わせへの返答を拒否したので、韓国社会の中国への反感が一気に高まった。
 2002年から2008年まで私が北京に駐在した経験を振り返れば、中国の外交官というのは、官僚の中でも最も汚職が少なく、考えや思想が開明的で洗練されているイメージがあった。ほとんどの外交官が外国での留学経験があり西側の価値観に触れてきたのだから、当然そうであろう、と思っていた。なので、戦狼外交官が登場したときも、それは官僚として出世を考える上で必要に迫られた演技であろう、と考えた。王毅や秦剛が戦狼外交官っぽい言動をしても、以前に彼らが極めて紳士的で洗練された外交官であった記憶とのギャップが大きかった。
 だが盧沙野の発言が、習近平への阿(おもね)りでもなく、本当に外交事故であるとしたら。中国大使館員のソウルの破廉恥なふるまいが今の外交官の質の表れだとしたら。それを外交部として対外的に陳謝することもできないのだとしたら。これは、中国外交官が本当に劣化しているということではないか。
 習近平政権のこれまでの10年、「韜光養晦」(とうこうようかい:「才能を隠して内に力を蓄える」の意味)の本音を隠し、数手先を読み合う老練な外交を放棄し、相手を挑発し、自らも挑発に乗って瞬間湯沸かし的に乱暴な発言を繰り返すだけの外交を演技として続けているうちに、本当にそれ以外できない外交官が増えているということではないだろうか。
 これは、中国とライバル関係にある私たちの国にとって決して良いことではない。華人ユーチュバーの江森哲が「戦狼外交」から「瘋狼外交」(精神状態が正常ではない外交)になった、と指摘していたが、そのような“狂った”外交で、どうやって戦争の危機をうまく回避することができるというのだろう>(以上「JB press」より引用)




 福島香織氏(中国評論家)の論評「習近平政権長期化の弊害か?「ご乱心連発」中国外交官の劣化が止まらない」を取り上げた。日本ではこうした中共政府の本質を顕著に表すニュースがなぜか殆ど報じられない。日本の主要マスメディアは中共政府に配慮して報道の自主規制でもしているのかと疑わざるを得ない。
 事の発端は盧沙野駐仏大使の発言からだ。盧氏は正式な記者会見の場で「クリミアはもとよりロシアに所属している」と主張したから大変だ。さらに盧氏は「旧ソ連から独立したバルト三国などの小国は主権を持つ国家ではない」と発言したから欧州諸国は大騒動になっている。

 もちろんバルト三ヶ国をはじめ旧ソ連邦時代に連邦諸国の一部とされていた小国は一斉に中共政府に噛み付いた。それどころかEU連邦政府も中共政府に事の見解を尋ねる事態に発展した。しかし中共政府から正式な謝罪は今のところないし、盧氏本人の発言取り消しや訂正もない。
 しかし中共政府は1991年当時、国連に於いてソ連崩壊後の小国の独立に関して是認する決議に参加している。もちろん当時はクリミア半島も主権国家ウクライナの一部として承認している。盧氏の記者会見での見解は1991年の中共政府のソ連邦から独立した「国家承認」を覆すものだ。しかし、そうした重大な発言をしたという認識が盧氏にはないようだ。これは福島氏の云うような「外交官の劣化」で済まされる問題ではない。

 習近平氏は崩壊する経済に驚いて「内循環経済」から「双循環経済」に転換し、さらに外国資本を積極的に受け入れる方針に転換した。中共政府は欧米や日本の経済界にまで微笑を送っている。
 しかし、その一方で盧沙野氏のような外交官が前世紀の遺物のような発言をし、中共政府外交部が三日後に訂正するものの盧沙野氏の発言をするのではなく、欧州マスメディアが盧沙野氏発言を意図的に歪曲したものだ、と批判する始末だ。

 記事によると「華人ユーチュバーの江森哲が「戦狼外交」から「瘋狼外交」(精神状態が正常ではない外交)になった、と指摘し」たというが、中共政府が「瘋狼外交」に転じたとしたなら、中国は世界最大の孤児になるだろう。
 習近平氏は「韜光養晦」から「戦狼外交」に外交政策を転換し、日米欧に激しく吼え立て噛み付いた。今更「微笑外交」に転じたところで気色悪いだけだ。しかし「瘋狼外交」を展開するとしたら、いよいよ中共政府は「貧すれば鈍する」と思わなければならない。もはや相手するだけ無駄だ。

 日米欧が中国に投資し工場を移転したのは「国際分業」というグローバル化の流れと、廉価で豊富な労働力を経営者が短期利益実現のために便利に使っただけだ。決して中国文化や中国共産党一党独裁政治に心酔したからではない。
 国民が人としての素養を身に着け、国が国家としての洗練された文化と、政治として自由と平等に裏打ちされた人権尊重が国全体に行き渡らない限り、その国は先進自由主義諸国からマトモに相手されないだろう。ただ経営方針なき安易な利益最優先の経営者と、守銭奴意識丸出しの投機家たちだけが中共政府と握手するだろう。

 福島氏は中共政府が「瘋狼外交」に転じたとしたなら、戦争の危機が高まると危惧しているが、「瘋狼外交」では戦争などできない。周到な準備と国民総動員体制を可能にする国民総洗脳状態にする必要がある。たとえば日本国民の多くが「敵地攻撃能力を保有することが必要だ」と洗脳されたなら、それは戦争への危険水域に足を踏み込んだことになる。
 習近平氏は繰り返し「台湾統一」を叫んでいるが、中国民は必ずしも「台湾統一が喫緊の国家目標だ」とは思っていない。第一、台湾を統一したからといって中国民の日々の暮らしにどれほどの利があるというのか、と彼らは考えている。むしろ台湾と商売した方が儲かるのではないか、香港を国安法で中国と一体化させて何か利があったか、と彼らは疑問に思っている。

 習近平氏がいかに「台湾統一」を叫ぼうと、中国民は「その前に職を寄こせ」と叫んでいる。社会主義国は計画経済であって、失業などあってはならないからだ。そうした国家としての根本原理が揺らいでいて、戦争どころではないだろう。しかも中国の外国資本の約四割は台湾人が握っている。台湾と戦争を始めれば、たちまち中国経済は頓死する。
 ロシアは金の成る木(石油や天然ガス)があるから国家予算の大半を戦費に回しても、何とか一年有余は経済が回った。しかしロシアの国家破綻は目前に迫っている。ルーブルの下落とアルゼンチン並みのハイパーインフレの導火線に火が付いた状態だ。しかし中国が戦争を始めたなら、ロシアのように一年有余も持たずして経済が破綻して、経済崩壊どころではなく木っ端微塵に壊滅するだろう。習近平体制は三期目に入った途端に大きく揺らぎ始めたようだ。

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