習近平氏のアキレス腱は「台湾紛争抑制法」だ。

米中国交回復以来の「きつい」警告
 今月6日、中国の習近平主席は共産党政治局常務委員の王滬寧・蔡奇氏らを率いて開催中の政治協商会議の経済界関連の分科会に出席し、「重要講話」を行った。
 その中で彼は、中国の置かれている国際環境を語る文脈において、「米国を頭とする西側諸国はわが国に対して全方位的な封じ込めや包囲、抑圧を行い、わが国の発展に未曾有の厳しい試練を与えている」と、注目の対米批判発言を行なった。
 それまでには、習主席自身は米国のことを名指して批判することはほとんどない。昨年8月のペロシ訪台や今年2月の「気球撃墜事件」に際しても習主席はいっさい発言せずに、対米批判はもっぱら中国外務省のレベルで行われた。しかし今回、政治協商会議という公の場で、習氏が自ら対米名指し批判を行うのはまさに異例のことである。
 習主席の対米発言の翌日の7日、中国の秦剛外務大臣(外交部部長)は全人代関連の記者会見を行い、1時間50分に渡って14の質問に答えたが、米中関係・台湾問題・インド太平洋戦略・一帶一路について語る場面では彼は終始一貫、米国を名指して批判した。
 その中でも特に注目すべきなのは以下の発言である。
「米国が中米関係にガードレールを設置して衝突してはいけないというが、もし米国側がブレーキを踏まないで誤った道に従って暴走すれば、いくら多くのガードレールがあっても脱線と横転を防止できないため、必然的に衝突と対抗に陥るだろう。その災難的な結果の責任を誰が負うのだろうか」と。
 この秦剛対米発言はおそらく、米中国交樹立以来の両国関係史上、中国外相が米国に対して行った最も激しい批判であると思う。「衝突と対抗」や「災難的な結果」という際どい言葉を発した秦外相は明らかに、米国に対してこの上なく強い警告を行い、ある意味での「最終通告」を行ったとも理解できよう。

しかし何のため? 気球問題ではない

 しかしよく考えてみれば、米国のQUADなどの中国に対する戦略的封じ込めや台湾支援、そして中国への先端技術禁輸などは、この数年間ずっと継続されており、別に今、始まったことではない。どうして今、習主席-秦外相のラインは突如、これほどの対米批判・警告を発すこととなったのだろうか。
 原因の1つは、2月初旬に起きた中国の偵察気球が米軍によって撃墜された事件にあると考えられる。中国軍による外交妨害工作の可能性もあったが、結果的には習政権の対米改善外交が中断し挫折したことは、2月15日公開の「中国軍が偵察気球で『米中関係改善潰し』に暗躍…習近平政権、実は内部分裂?」で指摘した通りである。
 秦外相は前述の記者会見でもやはり、「気球事件」を取り上げて米国を厳しく批判した。しかしそれだけでは、秦外相が発した米国への「最終通告」の真意は解釈しきれない。
 実際、気球撃墜事件が起きた当時、秦外相は一切発言せずに対米批判を避け、関係改善に余地を残したはずだが、今になって全面的な米国批判に踏み切ったのは一体なぜか。そして、「米国側がブレーキを踏まないで誤った道に従って暴走すれば」という彼の対米批判発言に出た「暴走」という言葉は一体何を指しているのか。

「台湾紛争抑制法案」米下院で可決

 実は、この秦剛発言の1週間前の2月28日、米連邦議会下院金融委員会は台湾に関する3つの法案を圧倒的な多数で可決した。「台湾紛争抑制法案」「台湾保護法案」「台湾差別禁止法案」の3つである。いずれも中国の台湾抑圧に抗して台湾を支援し、中国の台湾侵攻を抑制するための法案であるが、その中で特に注目すべきなのは、「台湾紛争抑制法案(Taiwan Conflict Deterrence Act)」である。
 というのはこの本案には、米国財務省に中国共産党幹部とその親族たちの在米資産の調査を求める条項と、米国金融機構に対し中共幹部と親族に金融サービスを提供することを禁じる条項が含まれているからである。
 アメリカンボイスの中国語Webが報じたところによると、法案の提出者である下院議員フレンチ・ヒル氏は、その意図について「法案は中国共産党に次のことを知らせようとしている。台湾を危険に晒し出したら、彼らの財産状況が中国公衆の知るところとなり、彼らとその親族は厳しい金融制裁を受けるのであろう」と語っているという。
 つまり、この「台湾紛争抑制法案」が成立すれば、中国共産党政権が台湾侵攻に踏み切った場合、共産党幹部とその親族たちの米国での隠し資産が白日の元に公開されてしまうだけでなく、その資産が制裁の対象となって凍結・没収される可能性もあるのである。そして、これを持って中国共産党の台湾侵攻を阻止する狙いの法案であろう。

アキレス腱を狙う

 もちろんそれは、中国共産党に対して大変な威力のある「戦争阻止法案」となろう。共産党政権を支える高官たちの大半(もっといえばほとんど)が米国に隠し資産を持っていることは「公開の秘密」でもある。それが米国の法律によって凍結・没収される危険性が生じてくると、共産党幹部集団にとっての死活問題となるからである。
 2021年7月26日、中国の謝鋒外務次官は中国の天津でシャーマン米国務副長官と会談したが、その中で謝外務次官は、「やめて欲しいことのリスト」を米国側に手渡したことは明るみになっている。
 そしてリストの筆頭にあるのは、実は「中国共産党員とその親族に対する入国ビザの制限」とのことである。共産党の幹部たちは米国に「虎の子」の財産を持ち、彼らと彼らの親族の米国入国に対する制限は政権全体にとっての大問題となっているからこそ、それは米国に「やめてほしいこと」のリストの筆頭に上がったわけであるが、このことは逆に、中国共産党政権のアキレス腱がどこにあるのかを暴露している。
 したがって、前述の「台湾紛争抑制法案」が米国の国内法として成立すれば、中国共産党政権の高官たちは、自分たちの財産を守るために習主席の企む「台湾併合戦争」を、全力を挙げて妨害し、阻止しなければならない。それはまさしく「法案」の狙うところである。

反応を見る限り効果的な法案

 もちろんそれでは習主席と習政権は大変窮地に立たされることとなる。法案が法律として成立した後で台湾併合戦争を強行すれば、軍幹部を含めた共産党政権の幹部集団のほぼ全員を敵に回してしまうし、彼らによる様々な形での妨害を受けることも予想される。極端の場合、幹部たちの集団的反乱を招く可能性もある。
 しかし台湾併合をそのまま断念してしまえば、習主席にとっては歴史的な大敗退であって自らの権威失墜と政権の弱体化を招きかねない。まさに「進も地獄退くも地獄」なのである。
 だからこそ、前述の法案が米国議会下院の金融委員会で可決された直後から、習主席自身と秦外相は激しい言葉で異例の対米批判し、「米国側がブレーキを踏まないで誤った道に従って暴走すれば、(米中関係は)必然的に衝突と対抗に陥る」との前代未聞の警告まで秦外相の口から吐かれたのである。
 彼がここでいう米国側の「暴走」とは、まさに「台湾紛争抑制法案」の金融委員会可決と今後の法律化への動きであると理解できよう。
 今後、米国議会(下院・上院)においてこの法案が審議に上がって可決・成立する可能性は非常に高いと思われるが、それを何とか阻止したいのは今の習近平政権の本音であろう。しかしそれでは、台湾侵攻に関する習近平政権の最大のアキレス腱の一つが目に見える形で暴露された訳である。
 今後、米国だけでなくEU・日本が歩調を合わせて、中国共産党政権が台湾侵攻を敢行した場合、共産党と親族の在外資産の凍結・没収を法的に定めてそれを高らかに宣言しておけば、それは間違いなく、台湾併合戦争の発動を阻止するための抑止力となるのであろう>(以上「現代ビジネス」より引用)



 これまで対米批判は部下に任せていたが、ここに来て習近平氏が自ら対米批判を口にしたという。その変化を見逃さなかったのは引用した論評の執筆者・石平氏(中国評論家)だ。
 何が習近平氏を変化させたのか。それは米国議会下院の金融委員会で可決された「台湾紛争抑制法案」だという。その中身が習近平氏を震撼とさせたからだ。

 震撼とさせた中身とは「中国共産党政権が台湾侵攻に踏み切った場合、共産党幹部とその親族たちの米国での隠し資産が白日の元に公開されてしまうだけでなく、その資産が制裁の対象となって凍結・没収される可能性もある」というものだ。
 習近平氏は「腐敗撲滅」を合言葉に、ライバルの共産党幹部を相次いで牢獄送りしてきた。しかし最も腐敗しているのは他の誰でもない習近平氏自身だ。米国政府が米国内の隠し財産を公表したなら、習近平氏は中国民の底知れない怒りを買うのは確実だ。生きて亡命できないかも知れない。

 しかし「台湾併合を断念する」と宣言しても、習近平氏の命取りになる。習近平氏は何が何でも「台湾紛争抑制法案」が米国議会(下院・上院)においてこの法案が審議に上がって可決・成立することを阻止しなければならない。
 そのために何を成すべきか。習近平氏は結論として3月20日にロシアを訪れてプーチンと会談することにした。習近平氏の切り札は「ロシア支援」であって、そのカードで「台湾紛争抑制法案」を賭けさせようと目論むしか妙案がない。

 習近平氏はお粗末な頭脳で博奕を打つ。しかしクレムリンを訪れるのに「手ぶら」というワケにはいかない。連結した列車に満杯の家電製品や半導体や電子部品などをロシアへ向けて出発させた。まさか砲弾まで貨車に積載されてないだろうが、習近平氏は国際舞台に躍り出ることで米国政府とサシで話し合おうとしている。
 おそらく習近平氏は「ロシアを支援してほしくないなら、「台湾紛争抑制法」を廃案にしろ」と米国政府に取引を持ち掛けるだろう。しかし先進自由主義諸国がデカップリングした中国に如何ほどの経済力があるというのだろうか。中国がロシアを支援したいのなら、どうぞご勝手に、と先進自由主義諸国は習近平氏を突き放し、ニベもない返事をすべきではないか。

 人は自分の価値観で相手を見る。米国政府は米国政府の常識で習近平氏を見ている。米国人なら大統領選挙に当選しなければ大統領にはなれないし、なれたとしても二期八年までだ。そうした前提で大統領に就任した者は国家と国民のために働く。だから小さな腐敗は別として、政治家や官僚までが当然のように袖の下を求める国家ぐるみの腐敗は起きない。
 しかし中国の政治権力者は米国人が考える常識的な政治家像とは異なる。彼らは国家と国民のためではなく、彼自身と彼の一族のために働く。もちろん習近平氏も彼自身と彼の家族のために働いている。決して中国の国家と国民のためには、働いてはいない。しかし表向きは「中華思想」を掲げて国威発揚のために働いていることになっている。だから繰り返し「台湾統一」「一つの中国」と叫んでいる。

 石平氏は中国から日本に帰化した人物だから、中国民の常識をも熟知している。彼が考えれば習近平氏が突如として米国批判を開始した理由など簡単に解かる。「台湾紛争抑制法案」が成立して発動されれば、彼が国民から掠め取った「不正蓄財」が国民にバレるからだ。
 いつまでも政治権力に固執する独裁者に高邁な理念などない。彼らは一様に心地よい暮らしを永遠に維持したい、と希っているだけだ。なぜ現代に於いて民主国家が地球上の全国家の過半数にも達していないのか。それは国民が基本的人権や民主主義を知らないからだ。そして日常的に独裁者がマスメディアを駆使して国民を洗脳しているからだ。私たち民主主義国家が全人類のために果たすべき役割を殆ど何も果たさずして、後進国支援と称して独裁者への献上ばかり行っているのではないだろうか。

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