水素社会の実現に日本政府は全力を尽くせ。

脱炭素化と水素利用で世界をリードしようと腐心するEU
 次世代エネルギーの一つとして、水素の利用に世界的な注目が集まって久しい。
 水素を燃料として使う場合、その最大のメリットは、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を排出しないことにある。水素を燃やしても、生じるのは水である。そのため、いわゆる脱炭素化の観点から、水素は極めて有望なエネルギーとなるわけだ。
 したがって、脱炭素化で世界をリードしようと腐心するEUにとっては、水素の利用の推進もまた重要な政策的課題となっている。
 水素は「二次エネルギー」(利用のために加工の過程が必要なエネルギー)であり、基本的に水を電気で分解することで生産される。そのための電気を再エネで賄えば、実にグリーンな水素が出来上がる。
 周知のとおりEUは、脱炭素化の観点から再エネによる発電を重視している。再エネによって発電を行い、その電力で水を分解して水素を生産できるなら、脱炭素化という観点からは極めて理想的な電力の発電から消費への流れが構築される。

天然ガスに代わる打ってつけの次世代エネルギー

 そのためEUは、あくまで再エネによって発電した電力による水素の生産を、普及の基本に据えている。
 加えてEUの場合、ロシア産の化石燃料に対する依存の軽減、つまり「脱ロシア化」を図ろうとしていることも、水素の利用に向けた動きに弾みをつけたといっていいだろう。
 金融・経済制裁に反発するロシアがヨーロッパ向けの天然ガスの供給を絞り込んだことは、かえってEUの脱ロシア化に向けた意思を強固なものにしたと考えられる。
 特にロシアに対する依存度が高かった天然ガスに関しては、米国などからの液化天然ガス(LNG)輸入の増加に加えて、地中海・西アフリカでのガス田開発といった試みが進む模様である。
 また天然ガスに代わるエネルギー源も必要となるが、脱炭素化の理念にも適う水素は、EUにとってはまさに打ってつけの次世代エネルギーということになる。

アドリア海で大規模な実証実験が始まった

 EUの執行部局である欧州委員会が、化石燃料の「脱ロシア化」を掲げて2022年5月に公表した行動計画である「リパワーEU」の中でも、再エネ発電によって生産した水素の利用を広めていく方針が強調されている。
 脱炭素化と脱ロシア化の両立を図りたいEUにとって、水素の利用は確かに有効な戦術になりえるのかもしれない。
 その水素の利用に向けた実証実験が、アドリア海の沿岸で始まることになった。
 中心となるのは、アドリア海に面する人口210万の小国スロベニアの国営電力会社HSEである。このHSE社は2月1日に、自社が主導する水素利用の実証実験を開始するに当たって、EUから2500万ユーロ(約35億円)の補助金を獲得したと発表した

水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築

 この実証実験の正式名称は「北アドリア海水素バレープロジェクト」という。いわゆる官民連携のかたちで、水素の利用に向けた研究・開発を後押しすることがその目的である。先導役のHSE社に加えて、スロベニアとクロアチア、そしてイタリア北東部フリウリベネチア・ジュリア州の政府が参加し、さらに34の事業体が参加する。
 このプロジェクトの下で、各事業体は水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築し、今後の水素の利用に向けた可能性を探ることになる。
 将来的に再エネ由来の水素を年間5000トン生産するとともに、製造業や交通網で用いることが最終目標となる。プロジェクトの期間は6年間が想定され、2023年後半の稼働を目指す。
 EUには「ホライズン・ヨーロッパ」という、EU加盟各国の研究・開発投資を支援するための補助金支援プログラムが設けられている。このプログラムの予算は、EUの中期予算(多年次財政枠組み)から拠出されるが、今回、HSEが主導する水素利用の実証実験は、このホライズン・ヨーロッパによる補助金支援を得ることになる。

日本と欧州が技術覇権を争う構図に

「北アドリア海水素バレープロジェクト」の全容はまだ明らかではないが、HSE社のプレスリリースによると、このプロジェクトでは鉄鋼やセメントといった素材産業での水素利用の実現を視野に入れている模様だ。素材産業では多くの化石燃料が利用されるため、ここで水素の利用が広がれば、脱炭素化が大いに進むと世界的に期待されている。
 特に、鉄鋼業で水素の利用が進むことは、脱炭素化の象徴的な観点からも歓迎される動きとなる。製鉄の過程で、コークス(石炭を蒸し焼きして炭素部分だけを残したもの)は欠かせない材料である。
 一方、高炉にコークスを投入して鉄鉱石を溶かす際に、コークスに含まれる炭素と鉄鉱石に含まれる酸素が結合し、大量のCO2が生まれる。その過程で、コークスの代わりに水素を使えば、水が生まれることになる。
 この高炉水素還元技術を確立することができれば、脱炭素化に大きく資するとともに、この分野における技術覇権を制することができるだろう。なお日本でも、2030年ごろまでに1号機を実機化し、以降の普及・実用化を目指そうと実証実験が進められている。

現時点では日本も負けていない

 そもそも、水素の利用に向けた技術では、日本も勝る点が多い。
 その中心である兵庫県の神戸市は、「水素スマートシティ神戸構想」を掲げ、産官学の連携の下で様々な実証実験を行っている。例えば神戸港内の人工島「ポートアイランド」では、2018年に水素燃料によるガスタービン発電の実証実験が行われ、成功している。
 それに2022年2月には、オーストラリアより液化水素を積載した運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が帰港、話題となった。同年6月に神戸市内で2カ所目となる商用水素ステーションがポートアイランドに整備されることが決定、2023年春の稼働が目指されている。日本がヨーロッパ勢に後れを取っているというわけでは必ずしもない。
 脱炭素化は世界的なメガトレンドであり、その点において水素は期待されるエネルギーである。加えてこの動きは、脱ロシア化という観点からも、ヨーロッパで加速することになった。
 水素の利用に向けた技術に関しては、日本が先行している分野も多く、日本の事業者にとっても、ヨーロッパ向けに輸出の機会が増える可能性は高いだろう。

一気に水素シフトを進める欧州に日本は勝てるのか

 そもそも水素の実用化にあたっては、インフラの整備を含めて、様々なハードルを越える必要がある。そのためには政府による巨額の支援が不可欠であるが、この点に関しては財政に余力があるヨーロッパの方が優位だろう。すでに歳出の2割強が国債費となっている日本の場合、産業政策に費やすことができる財源はそれほど多くない。
 他方で、水素の調達という観点からすれば、日本とヨーロッパはライバル関係にある。再エネ発電による水素の生産を目指すEUだが、実際はその生産に限界があると考えており、海外からの輸入を視野に入れている。水素の輸入に関しては、天然ガスと同様に、各国単位ではなくEU27カ国として輸入を行うスキームも念頭に入れている。
 日本もまた、国内での生産だけではなく、海外からの水素の輸入を志向している。水素を輸入するうえで、日本とEUはライバル関係にある。
 需要家としての経済規模は、日本よりもEUのほうがはるかに大きい。主な輸入先としてはオーストラリアや中東が想定されているが、そうした国々との間で戦略的な友好関係を構築する必要がある>(以上「PRESIDENT」より引用)



 「水素があれば「ロシア依存」から抜け出せる…欧州が着々と進める次世代エネルギー戦略のしたたかさ「脱炭素」の主導権を握り、脱ロシアも達成できる」と題する土田陽介氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員)の論評がPRESIDENTに掲載された。何もエネルギーでロシア依存からの脱却を目指すだけでなく、石油でもEUや日本は中東諸国依存からの脱却も果たすべきだと考える。
 さもなくば中東諸国が「王族」や「宗教指導者」と称する独裁者の支配する国々と、いつまでも辞を低くして付き合わなければならないからだ。先進自由主義諸国であれば、中東諸国に対しても民主化し自由化すべきである、と正々堂々というべきではないか。さらに「人権」であれほど煩い国連機関がイランの女性蔑視や極端な差別に対して口を噤んでいるのはなぜなのか。やはり石油依存が、そうした理由の一つではないのか。

 エネルギーの対ロ依存はEU諸国の大失態だった。口ではCO2排出ゼロを謳いながら、天然ガスをロシアから爆買いして、大量消費していたのが世界中にバレてしまった。2035年にはEVに全面的に切り替える、と言っているが、化石燃料に依存していてどの口が云うのか、と批判されるのがオチだろう。
 ゼロカーボン社会を謳う紳士面した欧州人たちの実態が、化石燃料依存から少しも脱していない、というのが世界にバレたからには、ゼロカーボン社会実現の中身のある議論をしなければ世界中から詐欺師扱いされるだろう。

 しかし世界がEU主導のゼロカーボンというデマゴーグに洗脳され、そうした方向で動いている限り日本だけが抗うことは出来ない。そうだとすれば、ゼロカーボンの流れに従いつつ、内燃機関技術が廃絶されることのないエネルギーのあり方を選択するのが現実的だろう。
 そのような考えから水素エネルギーという選択肢を選ぶしかない、というのが結論として出て来た。幸いなことに水素をエネルギーとして利用する現実化の技術研究は日本の方が進んでいる。その最たるものは水素圧縮化技術だ。水素を気体のまま運搬したのでは非効率的だ。そのため2021年に川崎重工と岩谷産業などが協力して開発し国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援して水素運搬船を開発した。

 その核心的な技術により川崎重工の開発した運搬船はマイナス253度に冷却し液体化することで体積を800分の1にし、大量輸送を目指す。建造した水素運搬船は全長116メートル、総トン数は約8千トン、一度に運べる液化水素は1250立方メートルで、水素を使う燃料電池車(FCV)1・5万台の燃料に相当する量という。2030(令和12)年の商用化を目指す。川崎重工の担当者は「日本の技術を生かした簡単にまねできない製品だ」と述べた。
 日本のモノ造り・製造技術の大半を無に帰し、裾野の広い自動車産業を陳腐化させようとするEUのゼロカーボン戦略に、このまま巻き込まれてはならない。EVを打ち負かす水素自動車を実用化するためにも水素ターミナルを整備して、日本国内でEU諸国に先駆けて水素社会を実現すべきだ。CO2温暖化という魔女狩りが横行し大きな顔をしている昨今、残念ながら日本の自動車産業を守るにはCO2排出を伴わない内燃機関を開発するしかない。それが現実的な打開策だろう。

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