イタリアの労働者賃金ゼロ成長と日本の労働者賃金ゼロ成長を照らし合わせると、その原因が見えて来る。

< アルプス山脈に近いイタリア北部のリゾート地でウエートレスをしていたディアナ・パリーニさん(44)は先月、退職した。賃金と労働環境のひどさにうんざりしたからだ。時給8ユーロのうち現金手渡し分が6ユーロ、福利厚生も年金積み立てもなし。大卒のパリーニさんは故郷のミラノに帰り、ドッグシッターの仕事に就いた。

 イタリアでは何百万人もが同じような話を抱えている。ほとんどの職業にきちんとした規制の枠組みが適用されないという、欧州で特異な状況に置かれた同国は、賃金水準が30年にわたって停滞している。
 ユーロ圏全般は消費者物価の高騰に伴って、賃金も上昇する気配が見える。だがイタリアは域内第3位の経済規模を誇りながら、そうした流れとは無縁だ。
 第1・四半期にユーロ圏で妥結された賃金は前年同期比で2.8%上がった。主導したのはドイツで上昇率は4%に達した。一方イタリアの上昇率は0.6%に過ぎない。
 経済協力開発機構(OECD)がまとめた欧州22カ国の1990年から2020年までの実質賃金上昇率はもっと対照的だ。スペインの上昇率は6%、バルト諸国に至っては200%を超えるのに、何とイタリア1カ国だけが3%の下落となった。
 OECDのこうしたデータは、「なぜイタリアは安定的で十分な給与が得られる雇用を生み出せないのか」という議論を巻き起こしている。そしてエコノミストが用意した答えは、特に教育と技術分野への過小投資、低い生産性、景気拡大の勢いの弱さが負の連鎖をもたらしているというものだ。また問題の根も深い。

 ローマのルイス大学とパリ政治学院で経済学の教授を務めるフランチェスコ・サラチェノ氏は「われわれは1980年代に間違った成長モデルを選択してしまった。グローバル化への対応で、ドイツのような質の高い生産につながる投資をするのではなく、コストを下げて新興国と競争しようとした。つまり安月給が続いたというわけだ」と説明した。
 イタリア経済は1999年のユーロ導入以降、加盟19カ国で最もさえないままだ。イタリア中央銀行によると、時間労働当たりの生産でほぼ測定できる労働生産性は1995年からの伸び率が13%と、ドイツの44%を大きく下回っている。
 この落差の背景には、急速な高齢化や労働者の技能の低さを含めたさまざまな問題が存在する。さらにイタリアがユーロに加盟したため、競争力維持のために自国通貨を切り下げるという手っ取り早い対策も封じられた。

 「闇経済」の規模が大きいのもイタリアの特徴だ。とりわけ南部では、一部の正規雇用を持つ労働者が収入を補うために非正規雇用でも働き、これら非正規雇用は公式の賃金統計に反映されないうえ、賃金が一段と低く設定されていることがほとんどだ。
 1990年代以来の幾つかの改革措置によって、イタリアの労働市場はある部分が規制緩和され、低賃金の非正規雇用が増える余地が広がった。今では新規雇用の過半数はこうした非正規雇用が占める。

4月の非正規労働者数は315万人超と1977年以降の最高水準を記録した。
 ミラノのボッコーニ大学の労働経済学者ティト・ボエリ氏はイタリアの労働市場について、大半が改革以前に採用されてがっちり保護されている人々と、改革後に雇われて雇用の保障がなく賃金が低い人々の間で分断され、機能不全に陥っているとの見方を示した。
 同氏は「真の問題は非正規雇用から正規雇用の契約に切り替えるのが極めて困難なところにある」と話す。
 
<最低賃金法制化に冷淡>
現在欧州連合(EU)加盟国で最低賃金が法律で決まっていないのはイタリアなど6カ国にとどまる。中でもイタリアは、賃金が平均の60%未満という「ワーキングプア(働く貧困層)」の比率が最も高い国の一つだ。
 それなのにEUが先週、最低賃金と労働搾取問題を対象とした共通ルールの策定指令を承認した際も、イタリア国内に歓迎ムードは乏しかった。
 右派政党の支援を受けている多くの企業はコスト増大を懸念。労働組合は賃金交渉への介入を拒み、最低賃金を定めればそこまで実際の賃金が下がる恐れがあると主張する。
 ボッコーニ大学のボエリ氏は労組の交渉力に疑問を呈し、団体交渉の場から数百万人の労働者が阻害されている現在のシステムは有効に作用していないと批判した。
 経営者の間からは、最低所得保障制度に対する不満も聞こえてくる。イタリアの平均手取り給与の約25%に当たる毎月450ユーロ前後を失業者に支給するこの制度のため、失業者の採用が不可能になっているという。
 経営者団体のトップは「若者に仕事を提供しようと思っても、手ごわい競争相手がいる。それが最低所得保障だ」と強調した。
 経済学者のサラチェノ氏は、これがイタリアの苦境を端的に表していると指摘。「幾つかの企業は毎月500ユーロならそれなりの給与だと考えているわけで、ばかげている」とあきれかえった。
 サラチェノ氏によると、事態を改善するには課税ベースを給与から家賃収入や資産に転換しつつ、長い視野に立った公共投資計画を開始する必要がある。折しも、EUが整備した新型コロナウイルスのパンデミックからの復興基金からイタリアは2026年までにおよそ2000億ユーロを受け取れるので、従来のように歳出を圧縮せず、逆に拡大しながらでも、改革策を採用できるはずだという。
 ボエリ氏は、イタリアが優先すべき改革としてサービス産業の競争力向上と民事司法制度および行政機構の改善を挙げたが、今のところはほとんど進展がないとみている。「現在の挙国一致政府はイタリアが大幅に成長できるような改革を法制化しただろうか。残念ながらそうではない」と述べた。(Gavin Jones記者)>(以上「REUTERS」より引用)




 日本と同様にイタリアも最近の30年間、労働賃金は上がっていない。日本の労働賃金が30年間も上昇していない大きな原因はグローバル化と非正規化だ。果たしてイタリアはどうなのか、と30年間上昇しない労働賃金の原因を探ってみたい。
 引用したREUTERSの記事によると、イタリアの場合もやはり「エコノミストが用意した答えは、特に教育と技術分野への過小投資、低い生産性、景気拡大の勢いの弱さが負の連鎖をもたらしているというものだ」という。日本の場合と良く似ていないだろうか。

 記事によと「1990年代以来の幾つかの改革措置によって、イタリアの労働市場はある部分が規制緩和され、低賃金の非正規雇用が増える余地が広がった。今では新規雇用の過半数はこうした非正規雇用が占める」という。
 日本でも令和2(2020)年における非正規雇用労働者の割合を見ると,女性は54.4%,男性は22.2%であり,いずれも前年に比べて低下した。 年齢階級別に長期的な傾向を見ると,平成2(1990)年から令和2(2020)年にかけて最も割合が大きく上昇したのは,男女とも65歳以上の層となっている。

 イタリアで労働生産性が伸びていないことの大きな理由の1つとされているのが、1980年代からスタートした労働市場の規制緩和だ。雇用契約の多様化が進み、賃金に対する規制も緩和された。それにより最近の30年間にイタリアのGDPは約2.27倍になったにも拘らず、労働者賃金は殆ど引き上げられなかった。
 つまりGDPを拡大しても労働者市場が緩和された状態では必ずしも賃金引き上げに繋がらない、ということだ。労働者賃金引き上げを阻止している最大の要因は労働市場の規制緩和だ。日本は最近の30年間に「構造改革」と称する派遣業法の度重なる規制緩和により非正規労働者が増大した。それが労働者賃金の引き上げを阻害してきた大きな要因なのだろうか。

 そして更に日伊共通の問題として労働移民(国際機関では1年以上滞在する外国人は「移民」と認定している)が上げられる。イタリアには東欧や中東から労働者移民の流入があった。日本では「技能実習生」と称する外国人労働者移民が日本に流入した。2020年現在、外国人技能実習生は387,200人となっている。さらに安倍自公政権は345,000人の外国人労働者を移民させようとしている。
 外国人労働移民は賃金の引き下げ要因として働く。さらに非正規労働者も人件費抑制に使われている。やっと「同一労働同一賃金」という労働原理が働くようになりそうだが、そうしたとしても非正規労働者と正規労働者の間には待遇に関する巨大な壁が存在している。日本の労働賃金の引き上げのためには野放図に緩和した派遣業法の見直しが必要ではないだろうか。役場の窓口業務を担当している人員の大部分は「派遣労働者」だという。いつの間にか派遣業者が幅を利かす世の中になっている。それで公務員の守秘義務が守られるのだろうか。

 労働賃金が引き上げられない限り、個人消費の拡大はない。それではGDPは拡大しないし、確実な経済成長は期待できない。そのためには非正規派遣業法を厳しくし、ピンハネ派遣業者が跋扈する世の中を改めるべきだ。
 そして企業が生産性向上のために投資する環境を、あらゆる政策を出動させ政府主導で行うべきだ。もちろん中国から企業をUターンさせるために強力な減税策などの政策を展開すべきだ。国内製造業の立て直しに政治が裏方として働かなければならない。もちろん財政出動に躊躇してはならないし、円安物価上昇に対して消費減税(あるいは停止)で応じるべきだ。

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