第三次世界大戦は不可避でもないし、ドル基軸通貨体制も崩れない。

　様々な評論家が似非・占師のように近未来を予測する。その中に最も顕著なのが「第三次世界大戦(核戦争)は不可避」とする予言と、ドル基軸通貨体制が崩壊して多極化へ向かうというものだ。
　確かにロシアの「気の触れた独裁者」プーチン氏はウクライナ侵略戦争で核兵器の使用に言及した。ロシア国民全体が気が触れているなら核兵器の使用から核戦争へ発展することもあり得るが、ロシア国民すべてが気が触れているわけではない。

　独裁者プーチン氏にとってウクライナ侵略戦争の失敗は「失脚」を意味するから、ウクライナ侵略戦争に勝てなければ世界が存続していても意味がない。しかしプーチン氏以外はプーチン氏の失脚は最高権力者になる栄達の可能性が生じることだ。つまりプーチン氏の不幸はポスト・プーチンを狙う者にとってはチャンスだ。そのチャンスをみすみす核兵器使用でブッ潰すことはあり得ない。

　さらに、プーチン氏が資源取引でルーブル立ての取引を条件としてドル基軸通貨以外の経済圏を打ち立てようとしているようだが、ルーブルに如何ほどの信認があるというのだろうか。それは中国「元」に関しても同様だ。ローカルカレンシーでしかないルーブルや元を信任して取引するお人好しの国家が世界にあるとは思えない。

　しかも中国の主要取引相手先は米国をはじめとする先進自由主義諸国だ。それらはSWIFTコードに基づく貿易取引を行っている。中国が「元」で取引すべき、と命じることは出来ない。それどころか、ドル基軸通貨から排除されれば中国経済は崩壊するしかない。

　それはロシアも同じだ。いかに地下資源があっても、ロシア国民は地下資源だけで生きていけるわけではない。先進自由主義諸国の消費財や食品がなければ満足できないだろう。もちろんプーチン氏の命は永遠でもないし、むしろロシア人としては平均寿命を超えた老人でしかない。近未来にプーチン体制は確実に終焉を迎える。

　プーチン氏は独裁者の常として後継者を育成していない。日本の政党のような政治家グループすらない。それかといって北朝鮮の金一族ような世襲体制も敷いていない。ロシアはプーチン氏の死と共に新体制へ移行する可能性が高い。

　独裁者は独裁政権を維持するために「唯我独尊」を貫き通す。自由や民主主義は独裁者の対極に位置している。政権の頂点に立つ者が任期と共にその座を去るなど独裁者には考えられないだろう。プーチン氏もまさにその通りで、そうした独裁者の宿命が彼を汚辱にまみれた晩年を迎えさせようとしている。

　プーチン氏はロシア軍は偉大で世界最強だと考えているかも知れないが、ロシア軍を支えるGDPは韓国の次でしかない。軍隊は国力GDPと比例する、というのが冷酷な現実だ。

　ゼレンスキー氏は今後10年以上戦う、と意思表明したが、先進自由主義諸国の援助があればウクライナ人から戦意が喪失しない限り、戦えるだろう。しかしロシアはそうではない。他国からの援助は殆ど望めず、自国内から兵士はもちろん兵器や糧秣を調達しなければならない。そうすると継戦能力は自ずと知れている。決して第三次世界大戦には到らない。

　経済圏でも先述したようにロシアだけでルーブル経済圏を形成することは出来ないし、中国が元を基軸通貨とする経済圏を形成することもではない。なぜなら中国経済の屋台骨を支えているのは先進自由主義諸国だからだ。

　つまり中国経済は外国投資と外国企業進出によって急成長した。「世界の工場」として巨額な貿易取引で中国のGDPは世界第二位の地位を築いている。それらは決して中国が牽引して築き上げているものではなく、中国は土地と労働力を提供しただけに過ぎない。先進自由主義諸国の投資資金と企業が撤退したなら、中国は改革開放以前の世界最貧国クラスに忽ち転落する。いわば中国のGDPは先進自由主義諸国によって支えられて実現している。本末転倒した中国が世界経済を牽引しているという幻想を習近平氏は見ているだけだ。元を基軸通貨とする経済圏を中国が形成することなど夢のまた夢でしかない。

　ロシアも中国も先進自由主義諸国との「お付き合い」があって、はじめて経済成長していることを自覚すべきだ。国力を獲得したから軍事力を振り回して何をやっても良い、と勘違いしては国そのものを滅ぼすことになる。その道をプーチン氏は歩み、暴走している。

　プーチン氏の究極の勘違いは、ロシア国民すべてが最後までプーチン氏の僕として対先進自由主義諸国との戦いに賛同してくれるだろう、と思い込んでいることだ。プーチン氏が「自決＝核兵器使用」を決断すれば、ロシア国民全員がプーチン氏と運命を共にすると思い込んでいる。しかし現実はそうはならない。プーチン氏が「自決＝核兵器の使用」を決断すれば、誰もが「「自決」は勝手にお一人でして下さい、私たちは死にたくありません」とプーチン氏を突き放す。それでプーチン氏の命運はすべて尽きる。それだけの話だ。