マスメディアやSNSを誰も規制してはならない。

＜新型コロナウイルスワクチンに関する誤情報がフェイスブックなどＳＮＳ（交流サイト）上で拡散している問題をめぐり、バイデン米大統領は１９日、改めて対策強化を求める一方、ＳＮＳが「人々を殺している」とした先週の発言を事実上撤回した。

　バイデン氏は１６日、フェイスブックのようなＳＮＳは誤情報の拡散に直接責任があるとの見方を示し、人命を奪っていると非難していた。
　１９日にＣＮＮがこの発言について尋ねたのに対し、同氏は「フェイスブックが人々を殺してはいない」と明言。米ＮＰＯ「デジタルヘイト対策センター（ＣＣＤＨ）」の報告書でワクチンをめぐる誤情報の拡散者が特定されたことを念頭に、「１２人の人物が偽情報を送り出し、これを聞くだれもが害を受けている。それが人々を殺している。有害な情報のせいだ」と述べた。

　またフェイスブックに対しては、「私がフェイスブックは人を殺していると言ったように悪く受け取るのではなく、とんでもない誤情報に何らかの対策を講じてほしい。それが私の言いたかったことだ」と語った。

　これに先立ち、サキ大統領報道官も同日、ホワイトハウスが戦っている相手はフェイスブックでなく、ウイルスだと強調した。
　フェイスブック側はすでに誤情報を削除したり、ワクチン情報の提供を強化したりしてきたと反論している。同社のローズ副社長は１７日、公式サイトへの投稿で、バイデン氏が今月４日までに成人の７割にワクチンを接種するという目標を達成できなかったのは「フェイスブックのせいではない」と主張した＞(以上「CNN」より引用)

　自身にとって不利な情報であれ、それが「嘘」だと証明されない限り、権力者に表現の自由を規制することは許されない。そしてSNＳも投稿された「情報」を勝手に削除したり、「嘘情報」だと規制することも許されない。

　バイデン氏があの手この手でワクチン接種の拡大を目指しているが、ネットを中心としてワクチン陰謀論が拡散していて、それがワクチン接種を妨げている、との苛立ちからSNS批判したようだ。ただバイデン氏は「私がフェイスブックは人を殺していると言ったように悪く受け取るのではなく、とんでもない誤情報に何らかの対策を講じてほしい。それが私の言いたかったことだ」と釈明したようだが、フェイスブックが「誤情報」の書き込みに対策するように、との発言はもっと頂けない。

　権力の座にある者が情報を操作しようとしてはならない。そしてマスメディアやSNS関係者は権力と常に距離を置くべきだ。それでなくてもマスメディアは権力の広報機関に堕しがちだ。

　CNNでは「これに先立ち、サキ大統領報道官も同日、ホワイトハウスが戦っている相手はフェイスブックでなく、ウイルスだと強調した。フェイスブック側はすでに誤情報を削除したり、ワクチン情報の提供を強化したりしてきたと反論している」と、バイデン氏のSNS批判の火消しに躍起になっているようだ。しかしフェイスブックが「誤情報を削除した」り「ワクチン情報の提供を強化した」というのは最悪だ。これではフェイスブックは政府運営の「公式SNS」ではないか。米国の表現の自由は何処へ行ったのだろうか。

　もちろん「嘘」や「誤情報」はアウトだ。しかし、それを判断するのは政府やSNSのCEOではない。ネットを利用する市民だ。ネットは特定の者の「私物」ではないし、政府のモノでもない。いかなる理由であれ、ネットの表現の自由を制限する者に反対する。

　政府がコロナワクチン接種を推進したいのなら、政府の責任においてワクチンの安全性を公報すべきだし、SNS上で拡散されている「誤情報」を正す「Q＆A」を政府ホームページ上に発表すべきだろう。

　日本でもネット上に「ワクチン陰謀説」が雲霞のごとく湧いている。それに惑わされて接種を拒否するつもりの若者が多いという。mRNAワクチンが全身の細胞に影響を与え、時限爆弾と化して接種した者を殺害する、というミステリー小説じみた論を展開しているようだが、それこそ種痘を接種したら「牛」になる、と喧伝した医学に無知な江戸庶民と同レベルの話だ。

　中にはワクチンにマイクロチップが混入されている、という荒唐無稽な珍説まであるようだ。しかし、そうした異論や反論がネット上に飛び交うのは「正常」の証拠だ。川の流れでもすべてが一定方向に流れるのではない。川辺では逆流していたり渦巻いていたりする。それが川に様々な生物を育む重要な要素でもある。コンクリート張りの用水路と川の異なる点だ。

　ネットの中に湧く「誤情報」をネット利用者が正誤を見分ける能力を涵養する、と受け止めるべきだろう。もしかするとあなたの信じていることが間違っているかも知れない。信念の拠り所とすべきは真贋を見分ける鑑識眼だ。玉石混交のネットこそ、真贋を見分ける格好の訓練の場ではないだろうか。