国家は国民を閉じ込める「檻」であってはならない。

＜２５日に開かれた第９３回米アカデミー賞授賞式は、中国出身のクロエ・ジャオ監督（３９）が手掛けた「ノマドランド」が作品賞に輝いたほか、ジャオ氏自身もアジア系女性として初めて監督賞を受賞した。
「ノマドランド」は、景気低迷で住居を失い、自家用車で季節労働現場を渡り歩く高齢者を描いたロードムービー。このほか、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞を獲得した。

中国生まれのジャオ監督は１４歳まで北京で育ち、その後ロンドンやロサンゼルスで教育を受けた経歴を持つ。
　受賞後、「好きなことを仕事にできるのは非常に幸運なことで、こうしたことでより多くの人が自分の夢を実現できるのであれば、私はとてもうれしい」と述べた。
　しかし、中国ではジャオ氏の快挙は生中継されなかった。米紙ワシントン・ポストによると、中国当局は３月、国内で授賞式を生中継させないことを決定。ジャオ氏は母国で議論の的になっており、ソーシャルメディアでは、過去に中国を侮辱する発言があったと指摘される。

　また、香港でも１９６９年から授賞式を毎年放送してきたＴＶＢが「商業的な理由」として今年は放送を見送った。この決定を受け、中国による国家安全維持法の制定以来、香港の自由が縮小している懸念が高まった。
　上海ではジャオ氏の母校ニューヨーク大学の卒業生らが主催した授賞式の中継イベントが行われたが、２時間近くＶＰＮ（仮想プライベートネットワーク）に接続できない状態になり、主催者は遮断されたと説明。また、対話アプリ「微信（ウィーチャット）」にジャオ氏を称える投稿をしたところ、アカウントが閉鎖されたとも述べた＞(以上「REUTERS」より引用)

　25日に開かれた第９３回米アカデミー賞授賞式で「中国出身のクロエ・ジャオ監督（３９）が手掛けた「ノマドランド」が作品賞に輝いたほか、ジャオ氏自身もアジア系女性として初めて監督賞を受賞した」という。ハリウッドに巨額投資している中共政府はさぞかし鼻高々かと思いきや、「中国当局は３月、国内で授賞式を生中継させないことを決定」したという。その理由が「ジャオ氏は母国で議論の的になっており、ソーシャルメディアでは、過去に中国を侮辱する発言があったと指摘される」からだという。

　中共政府がそれほど「脆いガラスのハート」をしているのかと驚く。中国を侮辱する発言が過去にあったなら、その人物のことを忘れず永遠に憎み続ける、というのは「狂気の沙汰」でしかない。それほど強烈な思想統制しなければならないほど中国内は危うい状況にある、ということなのだろうか。

　引用記事では「香港でも１９６９年から授賞式を毎年放送してきたＴＶＢが「商業的な理由」として今年は放送を見送った。この決定を受け、中国による国家安全維持法の制定以来、香港の自由が縮小している懸念が高まった」とある。

　国家が国民を閉じ込める「檻」であってはならない。国民を守る「家」でなければならない。しかし中国は中共政府を守る「家」であっても、国民にとっては閉じ込められた「檻」でしかない。それはすべての国民がパスポートを取り上げられ物理的に出国できないことでもあるが、同時に情報を遮断され外国との通信の自由すらも奪われ、牢獄で監視され発言はおろか集会の自由すらも奪われた、国家そのものが「収容所大陸」と化している。

　中国出身のクロエ・ジャオ監督の受賞作「ノマドランド」は「景気低迷で住居を失い、自家用車で季節労働現場を渡り歩く高齢者を描いたロードムービー」だそうだ。ノマドとは英語で「遊牧民」という意味で、定住しないで自動車などで暮らしつつネットなどで仕事をしている「現代の遊牧民」を指す言葉だ。

　現在、中国には主として「農民工」を中心に2億人の失業者がいるという。対中デカップリングにより海外から進出して来た製造工場が相次いで中国から撤退し、中国に暗い影を落としている。習近平氏は内循環経済を標榜しているが、GDPの約半分を占めていた外国資本企業と貿易取引が失われたなら、中国経済は失速どころの話ではない。

　中国は「見せかけ」の繁栄を続けて来た。例えばハウスメーカーの新築現場に入っている工務店が売り上げに新地家屋の売上価格を計上していたに過ぎない。もちろん工務店の売り上げは「人件費と若干の諸経費」の合計でしかない。しかし「中国」という工務店は建築現場へ運び込んだハウスメーカーの建築資材や設備などは「輸入」として計上し、そして完成した住宅価格を「輸出」として全額計上してきた。

　本来の中国の取り分は「人件費」だけだ。しかし総額を計上することにより中国のGDPは水膨れ状態で表示されてきた。それを見て中共政府は、中国経済は日本経済の三倍以上の規模になった、と誇大妄想狂状態に陥った。それが間違いのもとだ。

　しかし外国企業が撤退して行くと、想定を超える勢いでGDPが萎んで行くのに中共政府は驚愕しているに違いない。何が起きているのか、おそらく習近平氏も解らないのではないか。もちろん地方政府にも解らない。

　ただ国民が大量に失業し、新卒の就職率も50%を切るほどの状況に国民の離反を恐怖している。だから中国の初等教育から中国共産党を支持する思想教育を強化している。そして「台湾を統一する」と勇ましく宣言し続けるしかないのだ。自由主義世界は対中デカップリングを維持して、国民を閉じ込める「国家」から中国民を「解放」すべきだ。しかし多くの中国民に「閉じ込められている」との実感はないそうだ。生まれながらにして自由が奪われている人たちにとって、自由とは何かが分からない。しかし国外で活躍しているクロエ・ジャオ氏の目には中国民は「ノマド」に見えているのかも知れない。