中共政府の断末魔。

中国の悲願だった香港での国家安全条例成立
 香港国安法の全容がわかるのは、528日に可決されたあとだ。全人代開幕の3日前に急遽、全人代で草案が審議、可決されるという抜き打ちのようなアナウンスがあった。いったい何を根拠にそんな法律ができるのか、キツネにつままれたようだった。
 香港には基本法と呼ばれる香港の憲法に相当する法律がある。英国統治下から中国に返還されたときにつくられた法律で、香港の「一国二制度」を担保するものだ。
 この基本法には中国の民主化を将来的に期待する英国と、香港の中国化を望む中国の思惑を反映した内容がともに含まれている。
 英国側は、付属文書に「いずれ特別行政長官選挙(間接選挙)を普通選挙に移行できる」という条項を盛り込み、香港に民主主義を根付かせようとした。そうすれば香港から中国に民主主義が広がるかもしれない。
 中国側は基本法23条で、香港政府が、国家反逆、国家分裂、動乱煽動、中央政府転覆、国家機密窃取の行為を禁止し、外国の政治組織や団体が香港で政治活動をすることを禁止し、香港の政治組織・期間が外国の政治組織や国体と関係をもつことを禁止する法律を自ら制定すべし、という「国家安全条例」制定条項を規定した。国家安全条例は、香港を拠点に中国の民主化を企む勢力を一網打尽にできるという法律だ。
 この国家安全条例を香港で成立させる(香港政府に制定させる)ことは中国共産党の悲願の1つであった。この法律がないと、いつか香港から民主化の波が押し寄せてくる、という不安は解消できない。実際、香港では西側の“工作員”が活動し、中国本土から邪教として迫害され追い出された“法輪功学習者”や、文化大革命、天安門事件で迫害されてきた人々も逃げ込み、定着している。彼らが民主主義や自由の価値観と中国共産党の悪辣さを香港市民に“布教”し、その影響力が広東地方へ波及し、中国共産党の政権の安定を揺るがすかもしれない──というのが香港返還後、ずっと中共政権の不安の種だった。
 英国との約束の一国二制度50年維持の縛りから、中国が勝手に香港のこうした反中分子を取り締まることは本来許されない。だが、香港自らが望んで、彼らを取り締まる法律をつくれば問題ない。基本法23条に基づいた国家安全条例ならば、直接・間接選挙で選ばれた市民の代表である香港立法会を通じて制定された法律である。つまり香港市民の総意であり、一国二制度を維持したまま、香港の反中分子を合法的に取り締まることができる。
国家安全条例に代わる法律を強引に制定
 2003年、胡錦涛政権はこの23条に基づく国家安全条例を成立させようと、当時の董建華香港政府に強く働きかけたことがあった。だが、この年の71日、香港市民は香港返還後最大規模の50万人以上の反対デモを起こし、香港の安定を損なうことを恐れた胡錦涛は、このときの国家安全条例案を棚上げにした。胡錦涛政権はその代わり経済緊密化協定(CEPA)によって静かに香港を経済面から取り込む戦略をとった。
 だが習近平政権になって、胡錦涛政権の静かなる香港取り込み路線は大きく変更され、あからさまな香港中国化路線がとられた。
 2018年暮れには23条に基づく国家安全条例を香港に制定するように強く求めたという。だが、林鄭月娥行政長官は国家安全条例制定より先に、まず逃亡犯条例改正を試みようとした。その方がたやすいと見たからだ。結果的に、逃亡犯条例改正に反対する香港“反送中”デモが起き、空前の反中運動に発展した(その背景と経緯は拙著新刊『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』に詳しく記してあるので参照してほしい)。
 香港政府に国家安全条例を制定する能力がないとみた習近平政権は、同様の法律、つまり香港国安法を、香港立法会を無視して成立させることにした。本来、一国二制度下でありえないことだ。建前もくそもなく、一国二制度を堂々と無視したわけだ。
習近平はなぜ暴挙に出たのか
 なぜ、いきなり、こんな暴挙に出たのだろう。私の個人的な見立てとして、背景を3つあげたい。
1)香港デモの決着をつけたい習近平
 1つは昨年の香港デモの決着をこれでつけよう、と習近平が最後の賭けに出た。
 習近平の昨年の香港デモ対応はすべて失敗であり、デモがあれほど過激化したにもかかわらず、国際社会は中国の言う「暴徒」の味方についた。201911月の区議選挙では民主派が大勝利した。この責任を香港の中央政府出先機関・駐香港連絡弁公室(中聯弁)主任の王志民にとらせたが、党中央内では「習近平の失敗」との批判も少なくない。このリベンジをしなければ、習近平は党中央内で権勢を保てない。
 今年(2020年)秋には香港で立法会選挙がある。万が一にも立法会選挙で民主派議員が過半数とるようなことがあってはならない。新型コロナ感染拡大予防で、香港ではデモが規制され、外国人の渡航制限も継続されている今こそ、力ずくでデモ参加者を一網打尽にできるときだと判断した。そのために必要な国安法の成立を急いだ。この立法に反対する香港市民がデモを起こしても、デモ参加者を「国家に反逆する犯罪者」として逮捕できる法的根拠がすでにできているのだ。
 解放軍関係者がこの法律について支持表明を出しているのが不気味だ。香港駐留部隊指令の陳道祥は「国家統一を破壊するたくらみ、国家分裂の行動を抑制し懲罰し、各種分裂勢力、外国干渉勢力を震えあがらせ、我らが国家主権と領土の完全性を守る堅い意志を知らしめることができる」と国安法制定支持を表明し、「香港の国家主権と安定を守る自信と覚悟がある」とコメントした。全人代では、解放軍、武装警察の全人代代表から「解放軍はいかなる国家統一の破壊、分裂行為も粉砕できる能力と自信がある。国家主権を維持し、領土の完全性を守る能力と自信がある」といった発言が相次いだ。解放軍が“香港暴動”鎮圧に乗り出す可能性もゼロとは言い難い。
2)国際世論の「新型コロナ」責任追及をかわしたい
 2つ目は、新型コロナ肺炎のパンデミックにより中国責任論が国際社会で大きく盛り上がってしまったことだ。米国やオーストラリアだけでなく、インド、トルコ、ポーランド、アルゼンチンなどでも、中国に損害賠償を求めて国際法廷に訴える動きが高まっている。この国際社会からの中国責任論、賠償問題は中国共産党中央にとって、目下一番対応に苦慮しているテーマだ。
 習近平は、トランプならやる、と思っている。逆にそれをやらなければトランプは大統領選挙で勝てない。中国には、こうした国際裁判で争えるような経験豊かな弁護士はいないので、提訴されれば無視するのだが、そうなると欠席裁判で必ず負ける。負ければ、米国における中国共産党資産が差し押さえられる。具体的にいえば中国が購入している米国債の債権だ。次に、国有企業資産か。
 習近平はこうした国際世論の責任追及をかわすために、国際社会の関心を新型コロナの賠償問題から他に移す必要があった。
 それが香港である。香港で国安法を制定しようとすれば、香港デモの若者たちは怒り荒れ狂う。それを「動乱発生」「暴動発生」として、解放軍、武装警察動かし、武力鎮圧を行う。国際金融都市でそれをやれば、国際社会は大慌てだろう。それこそコロナ賠償どころではない。それをやらない代わりに、賠償責任追求をあきらめろ、と米国に交渉を持ちかけることもできよう。
3)貿易交渉で米国に配慮する必要がなくなった
 3つ目は、新型コロナ肺炎のパンデミックによって米中関係が急激に悪化したことから、米中貿易交渉で米国からより大きな妥協を引き出すために米国に配慮する必要がなくなった。
 米国はすでに香港人権民主法案を施行しており、香港の一国二制度を破壊する中国の動きに目を光らせている。中国は、米国とうまくやっていくために香港の一国二制度を維持する必要性を感じなくなったのだ。一国二制度が崩れれば香港の国際金融都市としての価値は失われる。しかし習近平にとっては、党内の責任追及をそらすことの方が優先されたのだ。
習近平は追い詰められているのか?
 だが、冷静に考えて、香港を犠牲にして、習近平が国内外の責任追及を逃れようとするのは、中国で言うところの「臭棋」、囲碁の悪手もいいところだ。自分の目を全部自分でつぶしているような感じだ。自由都市・香港の経済的価値を全く計算できていない。
 香港国安法など成立させなくても、林鄭月娥長官を通じて、立法会選挙の民主派候補の出馬資格に難癖をつけて剥奪などすれば、選挙結果をコントロールすることくらいできるだろう。すでに中国共産党は気に入らない人物を秘密逮捕し北京に連行して裁判にかけるようなこともやっている。中国は法治国家ではないのだから、本当は無理して法律など作る必要はないはずである。
 一部国際社会の中には、いち早く今回のパンデミックを抜け出した中国をポジティブに評価する声もある。米フォーリン・ポリシー誌は「コロナ禍は習近平の窮地を救った」とまで書いた。だが、香港でこんな臭棋を打てば、そのアドバンテージは消し飛ぶどころか再び窮地に陥る。そんな判断もできないほど、習近平は追い詰められているのか。
米中対決が危険水域に近づくリスク
 この香港国安法が日本ではあまり危機感をもって受け取られていないのは残念だ。日本には「中国に制裁をほのめかして、この立法を阻止しなければならない」と主張するような政治家はいないのか。これは米中新冷戦が熱戦(直接的な武力行使)の入り口に近づくくらいのリスクがあると私は思う。
 中国に帰属する自由都市・香港は、長らく西側の自由主義社会と中華式全体主義社会をつなぐ回廊の役割を果たしていた。多くの金と人が香港を通じて行き来している。その香港をつぶすということは、中国は西側社会との決別を決心したということではないか。米国はじめ西側諸国の出方はまだ不明だが、本当に香港に対するビザや関税の優遇が取り消され、中国への経済制裁が行われることになれば、次に起こりうるのは冷戦ではなく熱戦だ。
 中国党内には、最近、トランプが中国に戦争を仕掛けてくる、という危機論が出ている。日本に真珠湾攻撃をさせたように、巧妙な情報戦で中国を追い詰め、戦争を仕掛けさせるつもりだ、といった意見を言う人もいる。台湾への米国の急接近もその文脈で説明する人がいる。だから挑発に乗らないようにしよう、という話にはならなくて、それなら米国から手を出させてやる、と言わんばかりの「戦狼外交」(挑発的、恫喝的、攻撃的な敵対外交を指す)で対抗するのが今の習近平政権なのだ。
 こういう局面で、今や世界は一寸先は霧の中だ。
 香港国安法が制定されば香港はどうなるか。「香港暴動」が仕立て上げられて、軍出動となるかもしれないし、そうならないかもしれない。だが、中国唯一の国際金融市場が消滅する運命になるのは、ほぼ間違いなかろう。多くの香港知識人や社会運動家やメディア人や宗教家が政治犯として逮捕の危機にさらされ、政治難民が大量に出るだろう。
 台湾蔡英文政権は、それを見越して、政治難民の受け入れも想定した「可能な人道的援助」に言及している。今年1月に再選を果たしてから、新型コロナ感染対応を経て、蔡英文は見違えるほど頼もしくなった。言うべきときに言うべきメッセージを国際社会に発している。
 私のひそやかな願いとして、もし国際金融都市で自由都市である香港が消滅するのであれば、台湾が香港を吸収する形で香港の役割を肩代わりできるようにはならないだろうか。米国や英国、日本、EU、オーストラリアあたりが本気で協力すれば、台湾を正式メンバーとして組み入れた国際社会の枠組みを再構築することも可能だと思うのだが、どうだろう。そういう希望の光を、この深く暗い霧の中で見出したいものだ>(以上「JB Press」より引用)



 上記記事はJBPressに再掲された福島 香織氏の「国家安全法」を制定した中共政府に関する論評だ。福島氏は日本を代表する中国ウォッチャーであり女性評論家だが、常に冷静な彼女にしては珍しく「米中戦争」の危機を論じている。
 「中国党内には、最近、トランプが中国に戦争を仕掛けてくる、という危機論が出ている。日本に真珠湾攻撃をさせたように、巧妙な情報戦で中国を追い詰め、戦争を仕掛けさせるつもりだ、といった意見を言う人もいる。台湾への米国の急接近もその文脈で説明する人がいる。だから挑発に乗らないようにしよう、という話にはならなくて、それなら米国から手を出させてやる、と言わんばかりの「戦狼外交」(挑発的、恫喝的、攻撃的な敵対外交を指す)で対抗するのが今の習近平政権なのだ」という下りは米中戦争近し、との感を抱かせるが、果たしてそうだろうか。

 私は常に「中国は張子の虎だ」と評してきた。大きく見えるが中身は空っぽだ、という意味だ。確かにGDPは日本を抜いて世界第二位になっているが、それは貿易の「両建て」によって成り立っている。
 つまり膨大な貿易取引が中国経済規模を膨らましているだけで、実態は「世界の組み立て工場」に過ぎないということだ。習近平氏はそうした実態を熟知しているからこそ、日本及び欧米先進国から生産技術や知的財産を略奪しようと企んできた。

 軍事面においても「人海戦術」から「電子戦争」へ切り替えようと躍起になってきた。そして表面的には空母も二艦就役させて米国に次ぐ海軍力を保持していると誇っている。
 しかし、その実態はお寒い限りだ。米国の就役している七艦と比べれば一目瞭然だ。碌な防空能力や護衛船団を持たない空母は海に浮かぶ巨大な標的に過ぎない。しかも艦載機の性能は米国の艦載機とまともに空中戦を戦える代物ではない。

 確かに中国は中型のミサイル発射艦を大量に建造して、射程距離の長いミサイル攻撃で空軍力の弱さを補おうとしている。そして原子力潜水艦を大量に建造して、世界の海を支配しようと目論んでいる。
 そうした巨額な軍事支出が可能なのは好調な経済成長が持続すればこそだ。そのためには香港の世界金融センター機能を今後も利用しなくてはならない、と習近平氏は百も承知のはずだ。なぜなら「元」は未だに「円」のように国際通貨になってないからだ。中共政府が外貨として「ドル」を保有していなければ、「ドル」を裏打ちとして「元」を発行できなくなる。それなら、と「元」経済圏を構築して世界を「元」経済圏にすれば「元」が国際通貨になる、との野望で取り組んだのがAIIBと「一帯一路」という世界戦略だった。

 AIIBと「一帯一路」は密接な関係にある。いずれも習近平氏の世界制覇の夢を託した巨大な経済侵略構想だ。確かにAIIBは欧州各国をはじめとして世界102ヶ国が参加し、資金量も2019年3月末の貸借対照表では196億ドルに達している。AIIBの理事会で承認された累計融資額120億ドルとされているが、実際に融資されたのは2割にも満たないといわれている。しかもその多くはADB(アジア開発銀行)や世界銀行(World Bank)のプロジェクトに相乗りするような協調融資となっている。
 つまり中共政府が決裁権の30%を握る巨大な投資銀行を設立したものの、実際に投資先を決定する能力も地域開発するノウハウも持ち合わせてないのが実情だ。ここにも「張子の虎」が顔を出している。
 そして「一帯一路」も「張子の虎」で終わりそうだ。経済侵略を目論んで「過剰投資」を後進諸国に持ち掛けて港湾や空港などのインフラを「過剰」に整備させ、過剰投資の返済が滞ると港湾や空港などを「租借地」として召し上げる、という手法を多用して中国の軍事基地化させているが、その魂胆に気付いたアフリカの何ヶ国かが償還破棄の宣言を行った。つまり公明正大に「踏み倒す」と宣言した。恐らく「一帯一路」に飛びついた他の後進諸国も先例に倣って「踏み倒す」だろう。

 引用論評で福島氏は「中国は法治国家ではないのだから、本当は無理して法律など作る必要はないはずである」と看破している。まさしくその通りだ。習近平氏は「国家安全条例」など制定する必要はなかった。しかし彼は敢えて「国家安全条例」を制定した。
 なぜなのか。それは国内統治がままならなくなったからだ。香港の自由化を求めるデモが中国本土に飛び火すれば中南海はアッという間に灰燼に帰す。中国でそうした歴史が何度も繰り返されてきた。中国の政権が倒れた原因の多くは民衆蜂起だった。

 だから習近平氏は性懲りもなく日本政府に握手を求めている。恐らく米国にも何らかのチャンネルを通して平和的外交を持ち掛けているはずだ。表では大声で喧嘩していても、裏ではしっかりと握手している、という例は世界史にゴマンとある。
 万が一にも福島氏が危惧する通りに中共政府が戦争の愚挙に出たなら、その瞬間に中共政府は瓦解する。中南海は蜂起した民衆の海に呑み込まれるだろう。現在ですら中国には失業者が二億人いるといわれている。必死になって中共政府は企業に命じて操業を開始させたが、工場で製造された製品を買う相手国は武漢肺炎で閉店状態だ。中国で四月の自動車生産が対前年11%増だというが、その自動車を買う国は何処にもない。

 生産されればGDPにカウントされるが、それが売れなければ不良在庫となり資金を圧迫する。しかし明日のことなどに構う暇などないのだろう。習近平氏は自らの保身のために破れかぶれになっている。ただ、それだけのことだ。
 世界は中国の香港化を願っていたが、習近平氏は香港の中国化を宣言した。いよいよ習近平氏は終わりの時が近づいたようだ。

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