安倍氏の言葉は「巧言令色少なし仁」だ。

 言葉により人を魅了し支持を獲得するのは政治家として大きな資質だろう。しかし人を惹きつけようとするあまり、言葉が真実から乖離し「嘘」を語るようになっては「羊頭狗肉」政治家に堕してしまう。
 安倍氏は外遊で忙しく海外へ出掛けて数々の会議をこなしている。当初組んでいた外遊予算はとっくに底をつき、外務省から官邸予算に組み替えているほどだ。それなりに日本の国際的立場を高揚させる効果はあるだろうが、気になるのは空虚な、もしくは「嘘」と思われる言葉を平然と発信していることだ。

 たとえば「福一原発放射能漏れ事故」に関して、安倍氏は「放射能漏れは完全に制御している」とアルゼンチンで発言した。しかし現実は制御しているどころか、400億円かけた凍土壁方式は全く機能せず原子炉建屋に流入する地下水一つ止められないでいる。汚染水処理施設として二系統設置したALPSプラントは不具合により90%以上の割合で止まっている。そして海へ高濃度放射能汚染された地下水は垂れ流しのままだ。
 今回の外遊で安倍氏はアベノミクスと何度も繰り返して、諸外国の日本への投資を促している。株高を維持するのが安倍政権の生命線だと安倍氏は認識しているようだが、外国投機家による資金投入で株高が維持されている現象は国民の生活とは無縁なものだ。金融緩和による円安を引き起こして、国民の生活に深刻な影響を与える「輸入物価高」を他所に、勝手な「博奕相場」を展開しているに過ぎない。そこに国民の貴重な年金基金の50%も投じるように法律を変えたのは狂気の沙汰だ。

 国民は一体いつまで安倍氏の言葉に騙されるのだろうか。国民の生活が第一の政治を行うなら「製造業」にまで規制緩和を進めた派遣業法を元に戻して、派遣の範囲を「特殊で高度な業種」に限定して規制すべきだ。「恒産なくして恒心なし」とは古人の言葉だ。それは現代社会でも生きている。国民にまずは「恒産」を与えるべく政治を行うべきだ。
 新自由主義者たちが「派遣業こそが国際基準だ」「自己責任だ」と叫ぶのは彼らが外国の1%の走狗だという証拠に他ならない。

 国民は国際基準で生きているのではない。日本国内で日本国民として生きている。日本には長年培った「年功序列賃金体系」があったし、「終身雇用制」という社会秩序の安全装置があった。
 それらをブチ壊して、家庭から女性を強引に引き剥がして、一体何が「少子対策」だ。外国人労働者を20万人も「移民」させて、国民の多くをその日暮らしの派遣業に帰属させて使い捨てる社会が「恒心」を育むだろうか。安倍氏は彼が目指すと言った「美しい日本」の基盤となる地域社会までも破壊しようとしている。それで「地方創生」とは悪い冗談というしかない。

 彼は頭が悪いのか、それとも理屈を承知したうえで、素知らぬ顔をして「巧言令色」を放言しているのだろうか。それを批判しないマスメディアの機能不全は昨日今日始まったことではないが、テレビに登場する「顔馴染み」の政治評論家や経済評論家やコメンテータたちの程度の悪さはどうにかならないのだろうか。
 マスメディアの安倍氏総応援団と化している現状でも、しかし支持率は50%を切った。国民は身に迫る困窮と、明日をも知れぬ「馘首」の恐怖をヒシヒシと感じている。成長戦略と称して玩具箱をひっくり返したようなガラクタ政策ですら政権発足二年後も「協議」している段階だ。安倍政権に何を期待せよというのだろうか。
「巧言令色少なし仁」とは孔子の言葉だ。かつて儒学は武士の学問であった。武士とは江戸時代を通じて行政を執り行う「官僚」でもあった。「社会保障のために消費増税は必要だ」とお為ごかしに国民を欺く、現代の財務官僚や政治家たちに煎じて呑ませたい言葉である。


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