今一度問うべきは「新自由主義」か「富の再配分社会」か、だ。

 　日本の社会政策の変遷は税制改革に明快に表れている。それは所得税の超過累進課税の緩和と消費税導入に象徴的されているだろう。

　つまり「富める者」により多く負担して頂き、「貧しき者」に配分する「富の再配分型税制」から、消費税が端的に表す通り「誰もが」平等に税を負担し「貧者は永遠に貧しいまま」暮らしていくしかない、という自由主義社会への転換だ。

 

　自由主義とは「弱肉強食」社会のことだ。それは水平的に見た場合で、垂直的に見れば勤労世代がそれ以外の世代の面倒を見ない社会だ。

　社会保障費は削減され、経済至上主義の名の下に税制は富める者に有利な制度になって益々富める構造的な社会の構築を意味する。自公政権が行っている「改革」はまさしく新自由主義社会へと日本の社会を導くものだ。

 

　マスメディアも自公政権の広報機関となってアベノミクスを煽っているが、株高で一体誰が儲け、円安で誰が損して誰が儲けているのかを考察すれば一目瞭然だ。世界経済に力強い成長力が見られないのは新自由主義の病理が国際金融を蝕み、貧者の手に渡るべき社会保障費が削減され社会的動態を阻害しているからに他ならない。

 

　富める者は子々孫々まで富める者であって欲しいと願い、富める者が子々孫々まで富め続けられる仕組みを政策として社会に埋め込む。この国でいえば孫への贈与一人当たり1500万円まで非課税、とはまさしく「現預金をふんだんに持つ」富める者の孫は教育費の心配をある程度しなくて済む制度だ。そして相続税の非課税枠を引き下げたが、それにより「薄く広く課税」される道を開いたに過ぎない。

 

　富める者にとってかつての所得税率のありようは懲罰的ですらあった。しかし年間所得が数千万円を超える個人所得が果たして必要なのだろうか。個人の生存に必要な所得なのかを政治家は問うべきだ。そして年間所得200万円に満たない派遣社員の存在は犯罪的だと反省すべきではないだろうか。

 

　それは死ぬまで固定された年金制度にも言えるだろう。国民年金加入者は年金で生活することが出来ない老後を送る覚悟をしなければならない。その反面、30％ほどの老人たちは年金だけで悠々と暮らせる支給金額を手にする。共済年金受給者が全体の約十数％だから、厚生年金の上位と高額年金受給者と共済年金受給者にとって、現今年金制度は「非の打ちどころのない」完璧な制度だ。だから年金改革など行わず、政治家は「年金改革を行う、年金の一元化を行う」とだけ主張して、現実には社会保障制度改革を決して行わない現在の政治家たちは心強い限りだろう。

 

　そしてマスメディアの存在だ。彼らも現役時代に高額な年収を得て、年金受給者になってから高額年金が頂戴できる現行年金制度は決して矛盾した制度ではないと思っている。マスメディアが庶民の味方だというのは間違っている。マスメディアもマスメディアに携わっている人たちの意見を代表しているに過ぎない。つまりNHKの職員の平均年俸が1050万円だから、NHKの主張は年俸1050万円の階層の意見を代表していると思わなければならない。そして彼らにとって現行年金制度は甘美な蜂蜜の味だから、早急に改革せよなどと過激な論調には決してならない。

 

　日本の社会は貧者の方が圧倒的多数なのに、なぜ選挙では冨者を代表する政治家たちを当選させるのだろうか。何度でも繰り返すが、社会保障とは「負担は応能で、支給は一律」というのが大原則だ。だから支給するとした金額に問題があるものの「最低保障年金一律支給」を謳った2009民主党マニフェストが社会保障としての年金のあり方に最も近いはずだった。しかしマスメディアは「財源が明示されていない、」と摩訶不思議なイチャモンをつけて反対キャンペーンを繰り広げた。なぜならば彼らマスメディア従事者たち高額年俸者にとって脅威だったからだ。もちろん官僚たち共済年金で優雅な老後が約束されている人たちにとって暮らせない年金受給者の存在など眼中にない。自分たちさえ充分な年金を手に出来れば問題ないからだ。

 

　社会保障制度と新自由主義とは相反する水と油の関係だ。だからマスメディアは財政が持たないから社会保障を削減しようと世論を誘導する。しかし政府の大きな役割は「富の再配分」だったはずだ。「富の再配分」により「社会的公平さ」の確保こそ政治の根源的な存在理由だったはずだ。それを放擲して社会保障の削減も仕方ない、とする報道を繰り返すのが正しいマスメディアのあり方だろうか。むしろ社会保障たる年金の原点回帰を主張する方が正しいのではないだろうか。