TPPのバスに乗り遅れるな、という議論は国益に適うのか。

 TPPの発足した歴史は昨日述べた。元々米国の入らない４ヶ国で始まった貿易協定に米国が入ることによって性格がまるで変ってしまった。それまでは後進国の弱小４ヶ国が貿易協定を結んで自由化しそれぞれの国の比較優位にある産業を伸ばしそれぞれの国民の安くて良い品物やサービスを提供しようとするものだった。

　しかし米国が入ることによって米国のTPPへと全く異なるモノへと変貌した。つまり米国の世界戦略の一環として米国流グローバリズムを世界へ伝搬する手段と化した。

 

　米国流グローバリズムの危険性は先の「市場原理主義」の結果日本国内で何が起こったかを検証すれば明らかだろう。米国にない日本の終身雇用制度を目の敵とし、企業と従業員が家族的結束で「カイゼン」を積み上げる日本的経営を徹底して破壊し、労働力を派遣社員に置き換えることで安易に労働単価を切り下げ経営利益を即座に手に入れる道へと突き進んだ。結果として格差は人為的に拡大され、貧困層が若年層にも拡大した。これが国民の望む社会だっただろうか。

 

　米国が目指しているのは中国やインドなどのアジア市場だ。そこを米国流の経済社会化する包囲網としてTPPを利用しようとしている。韓国とはFTA二国間協定を結んで米国流のやり方で韓国を経済的のみならず社会的にも変貌させようとしている。

 

　TPPを第三の開国と称する人たちがいるが、第一の開国で安政時代の徳川幕府の幕閣は開国の意味すら知らないのを良いことに米国は関税自主権を奪った不平等条約を日本に押し付けた。その改定に明治政府は努力し５０年かかって対等な関税条約を得た。第二の開国が先の大戦による敗戦であるならば、６０年以上も経過した現在も米軍が日本各地の基地に駐留して「外国の脅威から守ってやる」と言いつつ、最も脅威となっているのは当の米国でしかない。戦後占領政策は今も根強く日本のあらゆる場面に浸透し、官僚や大マスコミを手先に使って日本の真の独立を妨げている。

 

　TPPは日本社会の骨抜きを企むものだ。２４分野にわたる条約だが詳細に語られているのは前原発言にある通り「GDPの僅か１．５％でしかない農業により９８．５％の産業を犠牲にするのか」という感情的なアジテーションにくっきりと現われている。農業分野と産業分野だけが突出して語られているが、米国の真意は金融と保険にあるといわれている。

　竹中平蔵氏が貢物を差し出すように、米国の禿鷹ファンドに公的資金を注入した銀行を捨て値同然で売却したことにより、米国は日本の潤沢な金融資本の存在に括目した。すべてを支配下に置けたならその利益たるや計り知れないと思うのは当然だ。その捨て値同然で日本の金融・保険事業を手に入れるチャンスは迫っている。日本国債の金利上昇が始まれば加速度的に日本国債は紙屑化する。そうすれば日本国債の大部分を買っている銀行と保険は債務超過に陥るだろう。紙屑と化した日本国債の穴埋めに僅かな資金を投入することにより米国の禿鷹たちは日本の金融・保険事業を棚ボタのようにして手に入れ、あとは中身の純資産を換金して本国へ送金すれば良いだけだ。

 

　日本は律儀に日本国債の消費を日本国内で行ってきた。それが欧米諸国とは決定的に違うところだ。日本は世界に冠たる最大の債権国だ。世界各国が羨む金満国家なのだ。財務省や御用評論家が宣伝している「最大の借金大国」はプロパガンダに過ぎない。家庭や企業の借金と国債発行による国家の借金は決定的に異なる。その特異点は通貨発行を国にはできることだ。日本を外から眺めれば日本の膨大な国債残高は国内のマネーフローの一種に過ぎない。対外的には借金でも何でもない。つまり財務省の唱える「借金大国」は国内問題に過ぎないのだ。

 

　TPPはもしかすると日本を拉致する罠のバスかも知れない。慌てて乗り込む必要はない。日本が参加しなければTPPは米国の独り舞台となり米国はタコ足を食べるタコのようになるだけだ。いい加減すべてを米国に頼り切る呪縛から醒めたらどうだろうか。米国と付き合って日本に良いことが何かあっただろうか。戦後の日本を護ってくれた、という能天気なお人好しがいるが米国が守ったのは米国であって、防波堤にされた日本にさざ波程度しか押し寄せなかっただけだ。結果として北方四島は盗られたままだし尖閣に中国は触手を伸ばしている。米軍がいても何の役にも立っていないのは歴然としているではないか。日本を守るのは日本国民だ、という自覚を持たない限り米国の呪縛から逃れられないだろう。

　TPPは急いで乗り込むべきではない。そろそろ米国から一歩離れて付き合う時期に来ている。日本はアジアの一員としてアジアへ軸足を移すべき時だ。