市場介入効果は短期的・限定的だ。

　市場介入とは円高対策ならば円売りを演じてドル買いを市場に対して行うことだ。この場合、円買いを世界の投機家が行っている円高圧力に見合う円売りを行うためには為替特別会計から円を調達してドル買いを続けなければならず、国際基軸通貨として信用の揺らいでいるドルを日本が貯めこむことになり、米国債保有と同時に日本の外貨準備を米国へ傾斜させることになり危険なことだといわざるを得ない。

 

　米国も米国経済の改善のためには輸出を活発に行う必要からドルを緩和してドル安として世界への輸出競争力をつけようとしている。そうした政策は、しかし世界通貨政策を歪めるものでしかない。米国は国際基軸通貨国としての責任を放棄してドルを世界にタレ流し国際通貨の安定化を日本の「円」に一身に負わせようとしている。それはもう一極を形成するユーロも圏内に国家財政破産の危機に瀕している数ヶ国を抱えるという不安定要素を抱えているため、ユーロ安政策を転換することが出来ないでいるためだ。

 

　国際通貨を歪め各国の経済状態を停滞に沈めている元凶は中国の「元」だ。欧米は中国を今後も有望な市場と見て強く制裁を打ち出すのをためらっているが、中国の「元」安固定為替は世界へ中国製品のタレ流しに繋がり、欧米へ失業と景気悪化を輸出しているのに他ならない。中国経済が世界に与える影響が小さかったままなら「元」安固定為替を無視しても良かったが、世界第二位まで巨大化した経済規模の我儘を放置して、国際通貨安定化の責任を日本の「円」一身に負わせるのはいかがなものだろうか。

 

　欧米は中国を将来も有望な投資先であり市場であると見做しているが、本当にそうだろうか。中国はいつまでも科学技術後進国ではないだろう。外国の膨大な投資に支えられてきたとはいえ、中国は年率8ないし10％という猛烈な勢いで成長してきた。その経済力は必然的に国民の教育にも注がれ、中国があらゆる面で欧米と肩を並べる時が来るだろう。その時に中国だけを特別な基準に甘やかしてきたのに気づいても遅いだろう。

 

　中国は実に我儘な振る舞いを世界に対して行っている。まだ後進国で大した産業が成長していなかった頃ならそれほど国際的に問題はなかったが、いまはそうではない。中国も国際通貨に相応の責任を負うべきだし、世界の安定的な秩序に対して責任ある態度を取らなければならない。その第一が国際通貨相場の世界基準に「元」を合せるべきだ。つまり完全変動相場へ「元」を移行させることだ。世界はその基準に中で行動している。「元」だけを特別扱いするには図体が大きくなり過ぎている。世界は中国の我儘な輸出攻勢に逼塞している現実を見なければならない。中国を甘やかして日本の「円」にだけ国際通貨の皺寄せを受け入れさせる現在の通貨政策に日本は異議を申し立てるべきだ。

 

　国際通貨会議では「投機」による通貨相場変動と貿易決済として形成される国力反映の通貨相場とを分けて論議すべきだ。そして中国に対して将来への思惑から「物言わぬ」態度は止めた方が良い。中国が将来も世界の投資を受け入れて世界の投資家を肥えさせてくれる市場であり続ける、という保証はどこにもない。むしろ中国は不透明な商法や登記法や法人法を放置したままでいるが、いつの日にか外国資本を国外へ追放する措置へ移行しないとも限らない。共産党一党支配下にある中国国内投資市場をいつまでも楽天的に信用していて良いのだろうか。

 

　困ったことに国内経済評論家にも円高にはモノが海外から安く買える利点もある、などと評して円高を容認する者すらいるのには呆れ返る。確かに総額で比較すれば輸入が47兆円程度で輸出が53兆円程度と、日本の輸出入額だけで比較すると円高の影響は両方に作用するからそれほど大きな損失ばかりではないか、という議論が出てくるのは理解できる。しかし、原材料の輸入と円高による製品の輸入と分けて議論しなければならないのはいうまでもないだろう。日本は加工貿易立国だから、原材料が安く手に入るのは好ましいが、それは日本経済が成長して外国通貨と比較として安く入るのが望ましいのであって、円高による為替換算だけで安く手に入るのは決して良い影響を及ぼさない。そして問題なのは円高により海外製品が安価に日本へ入ってきて日本国内産業に打撃を与えていることだ。そして輸出に関して円高がどれほど国内産業に打撃を与えているかは言うまでもない。つまり、円高対策は喫緊の日本の課題なのだ。

 

　しかし円高介入は対して効果を現さないだろう。病理の根本を治療しない限りは対症療法の膏薬を張った程度の効果しかない。根本治療は「元」の完全変動制への移行だ。国際会議で日本は強力にそれを求めるべきだし、欧米が日本提案に見向きもしないなら日本も「円」を垂れ流すぞ、宣言し覚悟のほどを示す準備を行うべきだ。