日本は日本国民が暮らす国だから、外国人観光客は多少は気兼ねすべきではないか。
<スペインで抗議デモが続発し、イタリア北部ベネチアで富豪の結婚式が妨害され、仏パリのルーブル美術館で職員がストを起こす。オーバーツーリズムをめぐるそんな場面を見るたび、英旅行社サンビルのノエル・ジョセファイズ会長は心の中でこうつぶやいてきた。「だから言ったのに」 「こうなることは10年前から分かっていた」「現に私は、そのうち手に負えなくなると忠告した」 同社は1970年から英富裕層向けのツアーを手掛けてきた。会長を長年務めるジョセファイズ氏は、英旅行業協会(ABTA)と独立ツアーオペレーター協会(AITO)の会長も歴任した、欧州旅行業界の大物だ。 同氏は2013年、クロアチア南部ドブロブニクで開催されたABTAの年次総会で「この先、重大な問題が起きる」と予告した。 欧州では当時、米民泊仲介大手Airbnb(エアビーアンドビー)に代表されるシェアリングエコノミー(共有経済)が各地で急成長していた。だが同氏の懸念対象は、短期の民泊にとどまらなかった。 同氏が予見したのは、いくつもの条件が重なって生じる深刻な状況。格安航空の急拡大と短期宿泊レンタルの急増が重なり、新たな旅行者受け入れ能力が大量に開拓された結果、価格が下落して、大規模な格安旅行の時代が到来するという事態だ。 将来の問題を警告したのに、だれも行動を起こそうとしない。それはちょうど、ギリシャ神話で予言を信じてもらえなかった王女カサンドラのような立場だった。同氏が恐れた最悪の事態は、今や現実となっている。 同氏は各地に広がる抗議行動について、「地元住民の言い分はもっともだ」と話す。「状況は手に負えなくなっている。私自身の事業に影響が及ぶのは確かだが、それでも私は抗議団体を支持する」 「流れに逆らうサケのよう」 コロナ禍が欧州を襲った5年前は、どの街からも人けが消えていた。だが旅行制限が解除されると観光地はすぐ元通りになり、「リベンジ旅行」と呼ばれる現象で状況が悪化するケースも多かった。 スペイン東部バルセロナの旧市街に住み、近くのポンペウ・ファブラ大学に勤務するマイテ・ドミンゴ・アレグレ准教授は、この10~15年で街がすっかり変わり果てたと話す。もともと多かった観光客は今や季節を問わずに連日押し寄せ、住民の数をはるかに上回るようになった。 道路が混雑するだけではなく、その波及効果はさらに深刻だと...