中国が台湾進攻に踏み切ることはあり得ない。
< 愚公移山――習近平国家主席が、重要講話で好んで使う成語だ。出典は戦国時代に書かれた『列子』だが、習主席が敬愛する毛沢東元主席が好み、それをまねているのだ。 眼前の山を動かして見せると豪語する老人がいて、周囲は愚かなことと嘲笑していた。だが、老人の子々孫々が少しずつ掘り起こして、ついには山を移させたという寓話だ。 習近平という政治家の半生を追うと、まさに「愚公移山の精神」で、14億人の頂点に上り詰めたことが分かる。 炸裂する「愚公移山式外交」とは? 本人にそうした自負があるから、外交にもこの手法を使う。日本に対しても同様で、例えば国家副主席時代の'09年12月の訪日で、「天皇への面会」をゴリ押しした。 「オレは天皇に会うのだ」。この一点張りで、「1ヵ月前までの申請ルール」を無視し、ついには「山」(日本)を動かした。羽毛田信吾宮内庁長官(当時)が、「今後二度とあってほしくない」と異例の発表を行う後味の悪い訪日となった。それもあってか、習主席は国家主席になってから12年あまりで、延べ100ヵ国以上も訪れているのに、日本への公式訪問は避けている。 そんな習主席の「愚公移山式外交」が、再び炸裂した。先月7日の衆議院予算委員会で高市早苗首相が行った、台湾有事に関する「存立危機事態」発言を撤回させるというものだ。この1ヵ月、平時の日中外交をほぼすべてストップさせて、この一点張りで「戦狼外交」(狼のように戦う外交)を激化させている。 習近平主席が推し進めるこの強引な対日外交の背景には、一体何があるのか? 習近平政治に脈々と流れる「克日の精神」 習近平政治の原点は、中国共産党トップの総書記に就任した'12年11月の第18回中国共産党大会である。私は人民大会堂2階の記者席から、この大会をつぶさに目撃した。 習新総書記は、自らの新体制のスローガンを、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」と定めた。略して「中国の夢」。ここで言う「復興」とは、1840年のアヘン戦争以来、欧米列強に蹂躙され、1894年の日清戦争以来、日本に蹂躙された「屈辱の100年」以前の状態に戻すという意味だ。 習主席がやはり好んで使う言葉に、「不忘初心」(初心忘るべからず)がある。習主席にとって「建国の初心」とは、「悪の日本帝国を打ち破った中国共産党が、1949年に中華人民共和...