西側世界はトランプ氏の暴走に手を焼いているが、それでも中国に密かに嗤(わら)う余裕はない。

<7月7日と8日、NATO(北大西洋条約機構)の年に一度の首脳会議が、トルコのアンカラで開かれた。2日間注視していたが、元オランダ首相のマルク・ルッテ事務総長とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、眠そうな目で米国からやって来たドナルド・トランプ米大統領に、異様に気を遣う様子ばかりが目立った。
 あげく、「フーテンのトラさん」は、8日にウクライナから参加したウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談後の記者会見で宣(のたも)うた。
「日本イスラム共和国から米国の空母が攻撃を受けた」

◇西側諸国も、そして米国務省までも、トランプの任期切れを首を長くして…
 もちろん、日本は同盟国の米国を攻撃などしていないし、そもそも「イスラム共和国」でもない。さらに、記者団の前でゼレンスキー大統領を指差しながら続けた。
「誰かプーチン大統領に質問はあるか?」
 米国の「破壊」、NATOの「自壊」、そして西側諸国の「崩壊」ここに極まれりである。日本外務省のOB(元外務省幹部)も、ため息交じりに語る。
「いま西側諸国は、(トランプ大統領の任期が切れる)あと2年半の年月が早く経ってくれることを、首を長くして待っている状況だ。それは日本もそうだし、当の米国国務省も同様だ。ただ、今後2年半の間に、世界がどれだけ混乱に陥るかは、誰にも予想できない」
 こうした状況を、密かに嗤(わら)っているのが中国だ。7月6日午後、国営新華社通信が、物騒な記事を配信した。
<7月6日12時01分、中国人民解放軍海軍の戦略核潜水艦1隻が、太平洋の関連公海海域に向けて、訓練用模擬弾頭を搭載した潜水艦発射型戦略ミサイル1発を発射し、予定海域に正確に着弾させた。
 今回のミサイル発射試験は、中国側の年次軍事演習における定例的な措置であり、事前に関係各国に通告済みである。これは国際法および国際慣例に合致しており、いかなる特定の国や目標も標的としていない>

◇射程距離1万kmの巨大ミサイル
 今回中国が発射したのは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の「巨浪3」と思われる。昨年9月3日に北京で行われた「中国人民抗日戦争・反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレード」で、初めて長安街を東から西に向けて「パレード」した巨大なミサイルだ。射程距離は1万km以上と言われる。東アジアの海も物騒になってきた。
 同日、中国外交部の定例会見で、NHKの記者がこの件を質した。毛寧報道局長はすまし顔で答えた。
「中国側はすでに情報を発表している。具体的な状況については主管部門に問い合わせることをお勧めする。今回の試験発射は中国側の年次の軍事訓練における定例的な予定であり、国際法および国際慣例に合致しており、特定の国家や目標を対象としたものではない」
 翌7日、「多くの国が中国を批判している」と問われて、毛寧報道局長が反論した。
「私が強調したいのは、中国は平和発展の道を堅持し、自衛防御の核戦略を堅持するということだ。一部の国が過度に詮索する必要はない」
 9日には、「台湾メディアが広東省より南の(海底でなく)海上から発射されたと報じているが」と問われて、答えた。
「この問題について、私はすでに何度も(中国の)立場を紹介しており、さらなる提供できる情報はない」

◇「米国が中国のミサイル発射実験に口出しするのは二重基準」
 さらに、「米国が、中国からの通知が遅く、5大国の通例に違反していると批判している」と問われて、答えた。
「中国側が繰り返し強調している通り、今回の発射実験は年次軍事訓練の定例的な計画に沿ったものだ。関連する兵器システムの信頼性・安全性・有効性を検証することを目的としている。国際法と国際慣例に合致するもので、いかなる特定の国家や目標物を対象としたものではない。かつ中国側は速やかに関連情報を公表し、事前に米国などに通告しており、これは中国人民解放軍の開放性と透明性を体現したものだ。
 米国は、世界で唯一実際に(戦争で)核兵器を使用した国であり、世界最大かつ最先端の核兵器庫を保有する国だ。毎年、原子力潜水艦による戦略ミサイル発射を実施しながら、中国の正常なミサイル発射に対してあれこれと口出しし、指図するのは、典型的なダブルスタンダードであり、覇権主義である。米国は、中国の国防と軍隊の建設・発展を、客観的かつ理性的に捉え、世界の戦略的な安定を、確実に維持保護すべきだ」
 中国共産党系の国際紙『環球時報』(7月7日)は、長文の論評「中国の戦略核パワーが強いほど、地域の平和もさらに保証される」の中で、こう述べている。
<中国の核戦力態勢の構築は、再び画期的な瞬間を迎えた。7月6日、中国人民解放軍海軍の戦略核潜水艦1隻が、太平洋の関連する公海海域に向けて、訓練用模擬弾頭を搭載した潜水艦発射型戦略ミサイル1発を発射し、予定海域に正確に着弾させた。
 前回、同様の発射が行われたのは2024年だった。当時、中国は太平洋の関連する公海海域で、地上発射型大陸間弾道ミサイルの試射に成功していた。それから2年後に、新型の潜水艦発射型戦略ミサイルの試射が、予定通り順調に遂行されたことは、中国の『三位一体』の戦略核戦力の全体的な抑止力が、大幅に向上したことを示している。これは、われわれが国家の主権・安全、領土保全を断固として守る決意と能力を有していることを外部に示すだけでなく、アジア太平洋地域の平和と安定に強固な保証をもたらすものでもある。
 外部から大きな注目を集めた今回の潜水艦発射型戦略ミサイルの型式について、分析によれば、「巨浪3」ミサイルである可能性が極めて高い。このミサイルの射程は1万km以上に達し、昨年の抗日戦争勝利80周年記念の閲兵式で正式に公開された。今回の発射実験の成功により、兵器システム全体の実用性が全面的に検証され、極めて強力な戦略的抑止力が示されたのだ……>

◇「中国の軍事力が米国と対等になったと言えるのは、SLBM発射実験に成功した時だ」
 このように、今回の物騒なSLBM実験を、「アジア太平洋地域の平和と安定に強固な保証をもたらすもの」と開き直っているのだ。実際、私はコロナ禍の前に、ある中国人から、こんな話を聞いていた。
「中国は国連安保理の5大国の中で唯一、核兵器の先制使用放棄を宣言している。そのため今後、中国が米国の軍事力に対して対等になったと言えるのは、SLBMの発射実験に成功した時だ。なぜなら、米国に中国大陸の核ミサイル施設を先制攻撃で空爆されたとしても、原子力潜水艦からSLBMを発射することにより、米国本土全域を狙えるからだ。これが抑止となって、米国は先制攻撃をためらうだろう。
 米国もそのことは重々承知しているから、中国に圧力をかけてSLBMの発射実験を阻止しようとしている。だから中国は、実験を行っても絶対に米国が反撃をしてこないという確信を得た時に実行する」
 おそらく、5月13日から15日までトランプ大統領が訪中した際、中国は、いまなら実験しても大丈夫だと判断したのだろう。トランプも舐められたものだ。
 そう言えば、米国は中国に対して貿易赤字に怒り、EUは「ダンピング輸出」に怒っていた。ところが猛暑に見舞われている現在、米国もEUも中国製エアコンの緊急増産を要求している。そんな姿を、6日の会見で毛寧報道局長が皮肉った。
「過剰なのか、不足なのか、それは消費者が自分で判断を下すものだ。世の中のニーズに合致し、品質が良く価格も手頃な商品は、自然と人気を集めるものだ」>(以上「JB press」より引用)




中国のSLBM発射成功は「米国と肩を並べた」と同じ意味、強硬姿勢とれない米国、見くびられたトランプ」と近藤 大介(ジャーナリスト・明治大学講師)氏は書いているが、別にトランプ大統領は中国から見縊られてはいない。その証拠にトランプ氏は対中半導体制裁に本腰を入れた。
 確かに原潜から発射するSLBMは世界中の国にとって脅威だ。世界のどこの海からでも、中国の原潜が核攻撃できるからだ。しかし敵国がSLBMを保有する脅威は米国にとって初めてのことではない。かつてソ連も原潜とSLBMを保有していた。ソ連の代わりに中国が遅ればせながらSLBMを装備した、ということだ。

 いまさら言及する必要はないだろうが、SLBMは最新兵器ではない。既に確立された技術だ。その肝は原潜内でミサイル・エンジンをスタートすると原潜が破壊されるから、空気圧で原潜から発射され、海上に出てからエンジンをスタートする、という発射タイミングがうまくいくか否かだ。そうした一呼吸置いたエンジンスタートが上手くいった、というだけのものだ。SLBM脅威論を煽る必要など何もない。
 旧ソ連当時から、米国はSLBM対策を練ってきた。そのための原潜追跡技術を磨き、発射されたSLBMを迎撃するための軌道計算などのデータ収集のために軍事衛星を複数打ち上げている。

 ミサイルで核爆弾を運ぶ「核戦略」は日本がレールガンやメガ粒子砲を開発したことから時代遅れになろうとしている。米国も日本から技術の供与を受けて、レールガン開発を再開した。現在、日本のレールガンは射程を200kmから300kmに伸ばす技術開発を続けている。こうしたエポック・メイキング兵器開発により、核兵器は無用の長物になろうとしている。
 一躍ウクライナ戦争で非対称戦の花形になった攻撃ドローン対策の高出力マイクロ波砲も実用段階に達している。米国は高出力マイクロ波砲をレオニダスと命名して実戦配備している。もちろんレーザー砲も日本は出力100kwを実験艦に装備している。米軍が艦艇に実用配備しているレーザー砲の出力が30kwであることと比べると、日本の方がいかに勝っているかお分かりだろうか。

 確かにトランプ氏の独断専行による暴走は目に余る。発言のブレ具合も常軌を逸している。フロリダ州の空港に自身の名をつけようとしてみたり、ワシントンD.C.の文化施設「ケネディ・センター」に自らの名を冠しようとしたが、裁判所によって違法と判断され、名前は撤去された。その他にも、ニューヨークのペンシルベニア駅やワシントンD.C.のダレス国際空港などに「トランプ」の名前を付けようとしている。
 二期目のトランプ氏は正常とは思えない。自身が所有するビルに「トランプ・タワー」と名付けるのは構わないが、現役の大統領が公共施設に自分の名をつけることなどありえない。ホルムズ海峡は米軍が管理する、とトランプ氏は宣言し「通行料として20%の手数料を徴収する」と発言した。もはやトランプ氏は正常な判断する下すことが出来なくなったようだ。トランプ氏は錯乱状態に陥っているかのようだが、それでも中国に密かに嗤(わら)う余裕はない。

 なぜなら中国は国家崩壊に瀕しているからだ。不動産バブル崩壊から始まった経済崩壊は金融崩壊に到り、そして現在は国家財政破綻の危機に直面している。地方政府と中央政府を併せた政府債務は4,000兆円を超えて、公務員や人民解放軍兵士の遅配はもちろんのこと、公安警察にまで給与支払いが滞りだしたようだ。
 50%近い失業率と金融崩壊により小規模な暴動は全土で日に500件以上起き、国際都市・上海ですら商店で略奪行為が起きているという。もはや暴動が全国規模になるのは時間の問題だ。飢えた人が「食料よこせ」デモを起こせば、それが契機となってデモの人波が全国規模になるのは必然だ。人民の不満は溜まりに溜まって、発火点に向かっている。それに対して、習近平体制は有効な手立てを持たない。もはや習近平氏は地方視察へ出かけなくなった。世界は大きなパラダイム転換期にある。二大超大国が力を失い、中堅国家が連合して世界を主導する時代が始まろうとしている。私たちはその歴史的転換期を目撃している。

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