日本政府は中国の台湾海峡および台湾周辺海域を「沿岸水域(Coastal Waters)」指定に反対すべきだ。

<◇台湾海峡は中国の「内水」
 6月11日、中国は台湾海峡および台湾周辺のいくつかの海域を「沿岸水域(Coastal Waters)」に指定した。
 国連海洋法条約(UNCLOS)に詳しくない方のために説明すると、中国のこの指定は、当該水域内におけるあらゆる海洋活動を統制・規制する権限を宣言するものである。
 UNCLOS第8条から第11条は、沿岸国に対し、その「内水」についてはるかに広範な権限を認めている。内水とは、領海の12海里の境界を示す地理的基線より陸側にある水域を指す。内水には、港湾、河川、内陸水路、そして中国側が主張する「近海」が含まれ、これらは干潮線から基線まで広がっている。

 沿岸国は、これらの水域に対して、自国の陸上領土と同様に主権と権限を有している。例えば、軍艦や商船は他国領海を通過する際、平和・秩序・安全を害さない事を条件として、沿岸国に対して事前通告無しで領海を通航できるという無害通航の権利を有するが、「内水」「沿岸水域」または「近海」には、沿岸国の許可なしには進入できない。実際、中国の宣言では、「台湾の東側の水域は、我々が存在し、管轄権を行使し、統治している我々の沿岸水域である」と具体的に述べられている。
 日本および国際社会は、この主張を直ちに退けなければならない。さもなければ、中国は沈黙を黙示的な承認と解釈するだろう。

◇海上支配は拡大された
 台湾海峡は、UNCLOS第37条に定義される国際海峡である。この海峡は、公海または排他的経済水域の一部分と、公海または排他的経済水域の別の部分との間の国際航行に利用されている。さらに、2018年に領海と宣言する以前、北京当局は台湾海峡が国際水域であることを認めていた。にもかかわらず現在、同水域を自国の「内水」であると宣言している。
 UNCLOS第38条は、国際航行に利用される海峡においては、すべての船舶および航空機が通航権を享有し、その通行は妨げられてはならないと極めて明確に規定している。 UNCLOSで定義される中国の領海は、台湾海峡全域に及ぶものではない。だからこそ、中国による今回の海洋領土宣言は極めて深刻な問題なのである。この指定は表面的には無害に見えるが、実際には、日本とフィリピンの台湾近海での「海上境界画定交渉」に反発して行われた6月6日から5日間にわたる「海上法執行作戦」に続く、海洋権益の奪取に他ならない。
 北京当局は、台湾周辺での5日間にわたる作戦中に198隻以上の船舶や小型船を検査したと主張している。また、台湾の東および北東の海域で海洋調査や海底測量も実施したが、これは間違いなく、同海域の海底ケーブルの位置に関する北京当局の情報を精緻化するためのものである。中国海警局の巡視船4隻の支援を受け、中国交通運輸部海事局は、排水量5000~10000トンの最大級巡視艇4隻のうち3隻を投入した。
 これは大規模な展開であった。海事局が保有する約300隻の巡視船の大半は排水量100トン未満だが、そのうち8隻は標準排水量3000トンを超える外洋航行可能な船舶である。これは、商業漁船や商船を威嚇し、必要に応じて乗船検査を行うには十分すぎる能力である。さらに重要なのは、中国のすべての海上部隊と同様に、その戦力が拡大し続けている点である。
 1998年11月11日に設立された海事局は、交通運輸部傘下の民間法執行機関である。同局は、環境および海上安全に関する規制を執行し、中国の内水および沿岸水域における海上法執行、事故調査、港湾保安、捜索・ 救助活動を担当している。また、指定された地理的範囲および期間内における軍事活動を含む安全上の問題について、航空機や船舶に警告する「航空・航海者向け通知(NOTAM)」の発行も担当している。
 海事局は過去4年間、台湾に対する威嚇作戦への関与、すなわち大陸沿岸沖の台湾諸島に入る台湾のフェリーやその他の船舶を阻止・挑発(ただし乗船は行わない)することで、その存在感をますます高めてきた。6月の海事局の展開は、その活動範囲と権限の大幅な拡大を意味するものであった。
 中国当局は、今回の挑発行為をフィリピンと日本による海洋境界線に関する協議への対応であると正当化したが、実際には、この作戦およびそれに続く海洋権益の拡大は、近隣諸国が依存する航空路や海路の支配権を掌握しようとする中国の戦略における、最新の段階に過ぎない。

◇沈黙はさらなる侵略を呼ぶ
 中国共産党の指導部は、台湾の沿岸水域を自国の領海と主張することは、台湾が国家の権威と統治を受け入れていなくとも中国の省であるという中国の立場と一致していると主張するだろう。これは中国の台湾に対する政策や立場と整合している。が、それだけではない。中国の行動や宣言は台湾問題の枠を超えて影響を及ぼしており、不吉なことに、台湾政府やその国民だけでなく、国際規範や国際社会に対する中国の威嚇作戦は、情勢を不安定化させる新たなエスカレーションを意味している。
 さらに、これらは将来、台湾周辺に排他的経済水域(EEZ)を宣言するための潜在的な足がかりとなる。したがって、中国がそうする意図を阻止するためには、日本と国際社会は今、こうした主張を正式に拒否することが不可欠である。
 沈黙はさらなる侵略を助長するだけである。
 例えば、思い出してほしい。中国が南シナ海の近隣諸国の島々を数か所占拠または封鎖した後、米国が沈黙を守ったことで、中国は占拠した島に基地を建設し、当該海域に対する支配を確固たるものにする基盤とした。
 日本をはじめ西側の指導者たちは、こうした過ちから学ぶべきである。侵略を阻止するコストは、何の抵抗もないと確信した侵略者による戦争行為に対応するコストよりもはるかに低い>(以上「現代ビジネス」より引用)




中国の台湾周辺「沿岸水域」指定を日本政府は断固として拒絶しなければならない納得の理由」との論評に賛同する。書いたのはロバート・D・エルドリッヂ(政治学者・台湾外交部フェロー・淡江大学客員研究員/元米海兵隊太平洋基地政務外交部次長)で、台湾の安全保障に精通している。だからこそ、米軍が関与できない手段で中共政府が台湾進攻を目論んでいる「意図」をものの見事に看破している。
 つまり中共政府の台湾進攻のシナリオはこうだ。まず「沿岸水域」を指定して、台湾海峡周辺は中国の内水だと主張する。中国の「内水」であれば、そこは中国の領海となり、日本の海上保安船に相当する海警船が警備することは当然の権利だ。従って、中国の内水に侵入する船舶を海警船が「臨検」するのは中国の国家主権の範囲であって、何ら問題はない。

 そうした既成事実を作った上で、台湾のLNG運搬船を臨検して入港を阻止する。そうすれば台湾は二週間足らずで電力供給が止まる。なぜなら台湾の電力の8割はLNG火力発電で100%輸入している。しかもLNG備蓄は二週間分しかない。
 台湾は食糧も輸入に頼っている。自給率は日本よりも低く、食糧輸入船を止められたら台湾は大混乱に陥る。そこが中共政府の望むところではないか。

 しかも、海警船の「臨検」に対して米軍が出動することは出来ない。なぜなら海警船は「海上保安」の警察に相当し、海軍ではないからだ。その時になって日本政府が「台湾有事」と認定して動こうとしても、台湾海峡とその周辺が中国の「内水」である、と認定されていたなら、自衛隊派遣は中国の内政干渉になってしまう。
 だから、中国の台湾周辺を「沿岸水域」指定に対して、国際世論を巻き込んで反対運動を展開しなければならない。つい先日、台湾の国民党代表鄭麗文主席が米国を訪問して、米国政界関係者や経済関係者と会談したようだが、まさか中国の台湾周辺海域の「沿岸水域」指定を容認するように働きかけたのではないだろうか。なぜなら彼女はまさに中共政府のエージェントでしかないからだ。

 中国は既に南シナ海で「沿岸水域」の模擬演習を経験している。それは九段線という南シナ海のほぼ全域は中国の「内水」だという主張だ。その根拠は中国が岩礁を埋め立てて建設した軍事基地を「中国領土」と主張し、その領海を中国の「内水」だと主張する極めて乱暴な論理の承認を沿岸諸国に強要している。もちろんオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年7月12日に「南シナ海仲裁判断」で、国連海洋法条約に基づき中国が南シナ海のほぼ全域に設定した「九段線」には国際法上の法的根拠がないと結論づけている。しかし中共政府はお構いなしに南シナ海の岩礁を埋め立てた軍事基地の拡張を続けている。
 台湾周辺もまた「台湾は中国の領土だから、その周辺海域も中国の「内水」だ」という理屈なのだろう。しかし台湾が中国の領土でないことは明白だ。台湾は中共政府に帰属したことなど一度もないし、台湾は「独立国」の要件をすべて満たしている。中国の「沿岸水域」の模擬演習や「内水」宣言に対して、日本政府は国際的な批判を高めて、中国の野心を粉砕する必要がある。そうすることがアジアの平和と安定につながる。

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