プーチンは「終活」を始めるべきだ。
<Foreign Policy誌(web版)の5月18日付け解説記事が、「占領地奪還のための消耗戦からロシア領内への戦略打撃によって経戦能力を削ぐことに重点をシフトさせる、ウクライナの戦略が今春から奏功し始め、これに対しロシアは明らかに動揺して、戦争目的に関する説明振りなどを変え始めている」と指摘している。要旨は次の通り。
2025年3月、ゼレンスキー大統領はこの戦争を「ロシアに押し戻す」戦略を表明した。これは、ロシア占領地奪還のための膨大な犠牲を伴う攻勢作戦に代えて、ロシア経済の弱体化、軍事生産の麻痺、市民の士気低下を目的とする長距離・非対称戦を採用したことを意味する。今春、この戦略が実を結び始め、激戦の戦況をも変える兆候が見え始めている。
ウクライナの新型兵器の能力、特に長距離ミサイルと高精度ドローンは、エネルギーインフラ、兵器・爆発物工場、軍司令部・兵站拠点を攻撃し、ほぼ毎日、ロシアに甚大な被害をもたらしている。
ロシア各地の石油精製所の破壊は、ウクライナがロシアの経済生命線の締め付けに成功していることを示す。4月から5月にかけて、ウクライナ軍は20の石油精製所と輸出ターミナルを攻撃した。
攻撃はウクライナから最大1750キロメートル(km)離れた地点まで、4年前の射程距離の2.5倍に及ぶ。これら攻撃により、ロシアはイラン戦争による原油価格高騰の恩恵を十分に活用できなくなっている。報道では、ロシアの石油精製所の平均生産量は4月に09年12月以来の最低水準となった。
また、防空システム、飛行場、兵器工場などの軍事施設への攻撃により、戦場でのロシアの前進は事実上停止状態にある。半導体産業や巡航ミサイル計画の中枢企業にも被害を与えている。米国の戦争研究所(ISW)によると、ロシア軍はこの4月、24年8月以来初めて占領地を純減した。ロシアの春季攻勢は今のところ失敗に終わっている。
ISWのアナリストによれば、この戦略は、「ウクライナが主導権を握れる交渉の場にロシアを誘い込むことが目的」だ。これまでプーチンはロシアが西側を凌駕し、長期的には勝利すると考えていたが、いまやロシアは明らかにこれまでとは違う形で動揺しているとみられている。
ロシアがパニックに陥っている兆候で恐らく最も顕著なのは、プーチンが5月9日の戦勝記念日に停戦を呼びかけたことだろう。プーチンはウクライナに対し、祝賀行事を妨害しないよう懇願し、軍事パレードも今年は軍事装備を一切披露しなかった。これは、ウクライナがモスクワ中心部で行われる最高レベルの公共イベントを攻撃する能力を持っていることを認めたものだ。
ロシアの独立系メディア、モスクワ・タイムズによると、クレムリンは戦争目的と、「特別軍事作戦」に関する説明の仕方を見直し、その重要度を下げつつある。クレムリンは、ウクライナ全土、特にキーウの占領という従来の目標から、ロシアが既に支配している東部および南部ウクライナの占領地を掌握するという目標へと、世論へのメッセージを転換しようとしている。
* * *
プーチンの「成功体験」
ウクライナは25年の春までに、領土奪還に集中する消耗戦から、ロシア領内への戦略的打撃によりロシアの経戦能力を削ぐことを重視する方針に転換した。これが今春から目に見えて効果を発揮し始めている。一方、ロシアは戦場で成果が出せないことに加え、グローバルな戦略環境の悪化、経済の不振が続いている。
問題は、このような状況の中で、プーチンがこれまでの強硬路線を変更し和平に向けてより柔軟な方針を打ち出してくるのか、それとも従来どおり、あるいは一層の強硬姿勢で臨むのか、ということだ。本件記事は前者のニュアンスで書かれているが、なお後者の可能性の方が高いように思われる。その理由は二つある。
一つは、5月9日の戦勝記念日に停戦を呼び掛けたこと、また「戦争目的と、『特別軍事作戦』に関する説明の仕方」の「見直し」など、最近のロシア側の言動を「ロシアの後退」を示すものと解するには無理があることだ。
戦勝記念日における「停戦」の呼びかけは昨年も行っており(但し守られていない)、停戦期間が終わればそれまで同様、あるいはそれ以上の攻撃が続いた。
また、プーチンは本年の戦勝記念式典終了後のロシア・メディアとの対話で、「戦争は終結に向かっている」と述べたと報じられているが、実際の発言は「事態が収束に向かう」と抽象的に言っただけで、問題はどのように「収束」するかであるにも拘わらず、その点についてこれまでの主張を変更したと解すべき材料は見当たらない。
さらに、ロシア側がドンバス制圧を重視しているのも戦争当初から一貫した対応であるが、それはウクライナ支配の一段階に止まる。現に5月初めには、ウシャコフ外交担当大統領補佐官が改めて、これが「交渉の前提条件」であると確認している。
要するに、最近のプーチン政権の発言を仔細に見れば、多少の修辞上の違いはあっても、これまでの主張の延長にあるとする以外の解釈は難しいのである。
一層の強硬姿勢に出る可能性を考えるもうひとつの、かつ、より本質的な理由は、プーチンの実体験からくる信条だ。プーチンはこれまでいくつもの危機的状況に直面してきたが、その都度、引き下がるのではなく、逆に一層の強硬姿勢で臨むことで乗り切ってきたという「成功体験」をもっている。
例えば、02年のモスクワ劇場占拠事件や04年のベスラン学校占拠事件では、大量の人質の生命を犠牲にしてでも強硬策により制圧した。チェチェンに対しては空爆を含む圧倒的な火力投入で制圧し、09年には紛争の終了を宣言した。さらに最近では23年、武装反乱を起こしかけたワグネルのプリゴジンも、「航空機事故」で死亡させることで、軍に対するコントロールを取り戻した。
2025年3月、ゼレンスキー大統領はこの戦争を「ロシアに押し戻す」戦略を表明した。これは、ロシア占領地奪還のための膨大な犠牲を伴う攻勢作戦に代えて、ロシア経済の弱体化、軍事生産の麻痺、市民の士気低下を目的とする長距離・非対称戦を採用したことを意味する。今春、この戦略が実を結び始め、激戦の戦況をも変える兆候が見え始めている。
ウクライナの新型兵器の能力、特に長距離ミサイルと高精度ドローンは、エネルギーインフラ、兵器・爆発物工場、軍司令部・兵站拠点を攻撃し、ほぼ毎日、ロシアに甚大な被害をもたらしている。
ロシア各地の石油精製所の破壊は、ウクライナがロシアの経済生命線の締め付けに成功していることを示す。4月から5月にかけて、ウクライナ軍は20の石油精製所と輸出ターミナルを攻撃した。
攻撃はウクライナから最大1750キロメートル(km)離れた地点まで、4年前の射程距離の2.5倍に及ぶ。これら攻撃により、ロシアはイラン戦争による原油価格高騰の恩恵を十分に活用できなくなっている。報道では、ロシアの石油精製所の平均生産量は4月に09年12月以来の最低水準となった。
また、防空システム、飛行場、兵器工場などの軍事施設への攻撃により、戦場でのロシアの前進は事実上停止状態にある。半導体産業や巡航ミサイル計画の中枢企業にも被害を与えている。米国の戦争研究所(ISW)によると、ロシア軍はこの4月、24年8月以来初めて占領地を純減した。ロシアの春季攻勢は今のところ失敗に終わっている。
ISWのアナリストによれば、この戦略は、「ウクライナが主導権を握れる交渉の場にロシアを誘い込むことが目的」だ。これまでプーチンはロシアが西側を凌駕し、長期的には勝利すると考えていたが、いまやロシアは明らかにこれまでとは違う形で動揺しているとみられている。
ロシアがパニックに陥っている兆候で恐らく最も顕著なのは、プーチンが5月9日の戦勝記念日に停戦を呼びかけたことだろう。プーチンはウクライナに対し、祝賀行事を妨害しないよう懇願し、軍事パレードも今年は軍事装備を一切披露しなかった。これは、ウクライナがモスクワ中心部で行われる最高レベルの公共イベントを攻撃する能力を持っていることを認めたものだ。
ロシアの独立系メディア、モスクワ・タイムズによると、クレムリンは戦争目的と、「特別軍事作戦」に関する説明の仕方を見直し、その重要度を下げつつある。クレムリンは、ウクライナ全土、特にキーウの占領という従来の目標から、ロシアが既に支配している東部および南部ウクライナの占領地を掌握するという目標へと、世論へのメッセージを転換しようとしている。
* * *
プーチンの「成功体験」
ウクライナは25年の春までに、領土奪還に集中する消耗戦から、ロシア領内への戦略的打撃によりロシアの経戦能力を削ぐことを重視する方針に転換した。これが今春から目に見えて効果を発揮し始めている。一方、ロシアは戦場で成果が出せないことに加え、グローバルな戦略環境の悪化、経済の不振が続いている。
問題は、このような状況の中で、プーチンがこれまでの強硬路線を変更し和平に向けてより柔軟な方針を打ち出してくるのか、それとも従来どおり、あるいは一層の強硬姿勢で臨むのか、ということだ。本件記事は前者のニュアンスで書かれているが、なお後者の可能性の方が高いように思われる。その理由は二つある。
一つは、5月9日の戦勝記念日に停戦を呼び掛けたこと、また「戦争目的と、『特別軍事作戦』に関する説明の仕方」の「見直し」など、最近のロシア側の言動を「ロシアの後退」を示すものと解するには無理があることだ。
戦勝記念日における「停戦」の呼びかけは昨年も行っており(但し守られていない)、停戦期間が終わればそれまで同様、あるいはそれ以上の攻撃が続いた。
また、プーチンは本年の戦勝記念式典終了後のロシア・メディアとの対話で、「戦争は終結に向かっている」と述べたと報じられているが、実際の発言は「事態が収束に向かう」と抽象的に言っただけで、問題はどのように「収束」するかであるにも拘わらず、その点についてこれまでの主張を変更したと解すべき材料は見当たらない。
さらに、ロシア側がドンバス制圧を重視しているのも戦争当初から一貫した対応であるが、それはウクライナ支配の一段階に止まる。現に5月初めには、ウシャコフ外交担当大統領補佐官が改めて、これが「交渉の前提条件」であると確認している。
要するに、最近のプーチン政権の発言を仔細に見れば、多少の修辞上の違いはあっても、これまでの主張の延長にあるとする以外の解釈は難しいのである。
一層の強硬姿勢に出る可能性を考えるもうひとつの、かつ、より本質的な理由は、プーチンの実体験からくる信条だ。プーチンはこれまでいくつもの危機的状況に直面してきたが、その都度、引き下がるのではなく、逆に一層の強硬姿勢で臨むことで乗り切ってきたという「成功体験」をもっている。
例えば、02年のモスクワ劇場占拠事件や04年のベスラン学校占拠事件では、大量の人質の生命を犠牲にしてでも強硬策により制圧した。チェチェンに対しては空爆を含む圧倒的な火力投入で制圧し、09年には紛争の終了を宣言した。さらに最近では23年、武装反乱を起こしかけたワグネルのプリゴジンも、「航空機事故」で死亡させることで、軍に対するコントロールを取り戻した。
「核の脅し」や「ハイブリッド戦」を強化か
ただ「一層強硬に出る」と言っても、露側も武器・弾薬、人員の不足という客観的諸条件が一定の制約として働くことは間違いなく、その場合、プーチンは戦場での劣勢を「核の脅し」や「ハイブリッド戦」をこれまで以上に強化することで補おうとするだろう。
「核の脅し」については、ウクライナへの全面侵攻開始以来、ロシアは核攻撃を示唆する発言を繰り返し、24年には「先制核攻撃」を可能とするよう軍事ドクトリンを改訂、25年後半にはベラルーシに超極超音速核弾道ミサイルと称する「オレシニク」を配備したが、この流れをさらに推進するだろう。
もうひとつは、ウクライナを支援する欧州諸国へのハイブリッド攻撃の強化だ。ウクライナはもちろん、ドイツなど欧州でのウクライナ向けドローン生産工場の妨害、選挙介入、海底ケーブルの切断、サイバー攻撃、放火等々、これまでも行ってきた破壊活動や情報戦・認知戦をさらに強化する可能性がある。
今後、プーチンがどのくらい強硬姿勢を維持できるかの見通しは難しいが、西側諸国にとって重要なことは、制裁を含めロシアに対する圧力の手綱を緩めないことだ。ウクライナが多大な犠牲を払って築いてきたロシアに対する相対的な優位性をさらに拡大するために支援することが重要だ>(以上「Wedge」より引用)
ただ「一層強硬に出る」と言っても、露側も武器・弾薬、人員の不足という客観的諸条件が一定の制約として働くことは間違いなく、その場合、プーチンは戦場での劣勢を「核の脅し」や「ハイブリッド戦」をこれまで以上に強化することで補おうとするだろう。
「核の脅し」については、ウクライナへの全面侵攻開始以来、ロシアは核攻撃を示唆する発言を繰り返し、24年には「先制核攻撃」を可能とするよう軍事ドクトリンを改訂、25年後半にはベラルーシに超極超音速核弾道ミサイルと称する「オレシニク」を配備したが、この流れをさらに推進するだろう。
もうひとつは、ウクライナを支援する欧州諸国へのハイブリッド攻撃の強化だ。ウクライナはもちろん、ドイツなど欧州でのウクライナ向けドローン生産工場の妨害、選挙介入、海底ケーブルの切断、サイバー攻撃、放火等々、これまでも行ってきた破壊活動や情報戦・認知戦をさらに強化する可能性がある。
今後、プーチンがどのくらい強硬姿勢を維持できるかの見通しは難しいが、西側諸国にとって重要なことは、制裁を含めロシアに対する圧力の手綱を緩めないことだ。ウクライナが多大な犠牲を払って築いてきたロシアに対する相対的な優位性をさらに拡大するために支援することが重要だ>(以上「Wedge」より引用)
「「ロシアに押し戻す!」ウクライナの戦略転換に動揺するプーチン、パニックに陥っている兆候も…戦況の変化もプーチンが強硬姿勢を強める理由」と、Wedge氏が的確な論評を掲載した。現在のウクライナ戦争の状況を最も的確に表現した秀逸の論評ではないだろうか。
プーチンは確かにパニックに陥っているようだ。習近平氏がトランプ氏との会談を終えた直後に北京を訪れて、習近平-トランプ会談による中国のロシア離れを警戒したのもその一環ではないか。既に北京はロシアを準・同盟国扱いしていない。単に安価な原油を購入する相手国でしかない。
そしてまた北京も経済崩壊のさ中にあって、世界戦略からの撤退を余儀なくされている。中国の巨大経済力を背景に経済貿易圏を確立し、ドル基軸通貨に代わり「元」を基軸通貨に押し上げようとした。しかし中国の経済崩壊が「一帯一路」戦略からの撤退を余儀なくされ、「新シルクロード」構想の破綻を招いている。
「元」を基軸通貨とする目論見は習近平氏の「改革開放」政策から「戦狼外交」への転換などにより、西側諸国の企業群が中国から徹底を決めたことにより脆くも崩壊した。ロシアと中国が手を握れば確実に世界を二分して半分を支配出来る、との「同床同夢」状態から始めたプーチンのウクライナ軍事侵攻だった。もちろん、習近平氏も台湾を軍事侵略して軍事大国中国を世界に見せつけるつもりだった。それが2022年北京冬季オリンピックで交わしたプーチン-習近平会談の「密約」だったはずだ。
しかしプーチンのウクライナ戦略はウクライナの頑なな抵抗により崩壊した。三日から一週間程度でウクライナ全土をロシアの重戦車で踏み潰せると踏んでいたが、軍事侵攻から四年余り経過してロシアの敗北が確実になろうとしている。
遠くはドプチェク氏の「プラハの春」をソ連は重戦車で蹂躙した。プーチンになってからも、様々な独立運動を重戦車で踏み潰してきた。西側諸国()もプーチンがチェチェン人の独立運動を弾圧した直後の2014年のソチ冬季オリンピック開催を受け入れた。2014年のソチ冬季オリンピックでは、国家として組織的な参加ボイコットや出場拒否を行った国はなかったが、ロシアの同性愛者宣伝禁止法に対する人権面からの抗議として、アメリカのオバマ大統領、フランスのオランド大統領、ドイツのガウク大統領など、欧米の主要国首脳が開会式への出席を見送る外交的ボイコットを行っただけだった。
しかし現在の国際社会は往時の国際社会と異なる。オランダのハーグにあるICCは、2023年3月17日にウクライナの占領地域から子どもたちをロシアへ違法に連れ去った(不法移送)戦争犯罪に関与した疑いでプーチン大統領の逮捕状を出している。
誇りある「大ロシア」大統領の「自分」という自尊心を蹂躙され、ロシア自慢の重戦車で蹴散らそうとしたウクライナの大統領が「差し」で首脳会談しよう、と呼び掛けられるまで落ちぶれた。しかもロシア人男性の平均寿命は約68歳に対して、プーチン大は73歳(1952年10月生まれ)になっている。平均寿命五年も上回る「高齢者」だ。いかに若々しく振舞っても、ロシア国民の目には「過ぎ去った時代の指導者」でしかない。物事には「潮時」がある。そろそろプーチンは「終活」を始めてはどうだろうか。それこそが「有終の美」で人生を飾るいきかたではないだろうか。