著名な建築家の作品を勝手に解体するのは「文化」の破壊では。
<香川県高松市の中心部から約2km、閑静な住宅街のなかに「旧香川県立体育館」はある。大きく反り返った屋根が和船を連想させることから「船の体育館」と呼ばれ、地域のシンボルとなってきた。
そんな体育館の解体工事が始まったのは、今年4月10日のことだ。
そんな体育館の解体工事が始まったのは、今年4月10日のことだ。
解体費用「8億4700万円」に住民も猛反発
5月中旬、本誌記者が現地を訪ねると、建物はフェンスで囲われ、敷地内ではオレンジ色のクレーン車が作業音を響かせながら石を吊り上げていた。
しばらく工事の様子を眺めていると、近隣に住む高齢男性が通りかかり、記者の近くで足を止めた。動き回るクレーン車を見つめながら、男性はポツリとこう呟いた。
「子供の頃からこの体育館を利用してきた。香川が世界に誇る文化遺産だよ。それを壊してしまうのは寂しいね」
「船の体育館」は、代々木第一体育館や東京都庁舎、広島平和記念資料館など数々の名建築を生み出してきた世界的巨匠・丹下健三の設計のもと、'64年に建設された。
長年、スポーツ大会やイベントに利用されてきたが、老朽化と耐震性の不足を理由に'14年に閉館。その後、県は建物の再利用を模索してきたが有効策は見つからず、'23年に解体の方針を決定した。
そして'25年12月、香川県議会で解体工事請負契約の議案が可決され、今年4月についに解体工事が始まった。解体費用は実に、8億4700万円に上る。
戦後モダニズム建築の至宝とも称される建物だけに、解体を巡っては、ニューヨーク近代美術館やハーバード大学の教授陣が異例の「保存嘆願声明」を出す事態に発展。'25年11月には、市民団体「旧香川県立体育館再生委員会」が県に対し、解体工事費の公金支出差し止めを求める住民訴訟を起こした。
独自調査では「耐震性は問題ない」はずが…
同委員会の代表で建築家の長田慶太氏が語る。
「県は『耐震性の不足』を根拠に解体を強行したわけですが、我々はそもそもの調査の方法が間違っていると主張しています。県は一般的な四角いRC造(鉄筋コンクリート造)向けの指針を基準としていますが、『船の体育館』は特殊な吊り屋根構造であり、適用範囲外です。
我々は独自に建築防災協会の理事に調査を依頼し、『対象外』だと明言されている。加えて、神田順・東大名誉教授や齋藤公男・日本大学名誉教授といった耐震構造の権威たちも、『現行基準並みの強度がある』『地震で倒壊する危険は極めて低い』と太鼓判を押しています」
「再生委員会」は民間で土地と建物を買い取り、体育館をホテルなどに転用する事業プランも提案したが、県が採用することはなかったという。
そして、何より問題視しているのが、8億円超に上る体育館の解体工事費用だ。
「解体費を坪単価にすると、約55万円。通常のRC造の場合は4万~8万円とされていますから、明らかに高すぎる。実際、'25年6月に解体が完了した岐阜県羽島市庁旧本舎は、面積・杭の本数・アスベストの含有量など、すべてにおいて『船の体育館』を上回っていましたが、費用は約4億7000万円でした」(長田氏)
はたして、「船の体育館」の解体費用は適正な価格なのか>(以上「週刊現代」より引用)
5月中旬、本誌記者が現地を訪ねると、建物はフェンスで囲われ、敷地内ではオレンジ色のクレーン車が作業音を響かせながら石を吊り上げていた。
しばらく工事の様子を眺めていると、近隣に住む高齢男性が通りかかり、記者の近くで足を止めた。動き回るクレーン車を見つめながら、男性はポツリとこう呟いた。
「子供の頃からこの体育館を利用してきた。香川が世界に誇る文化遺産だよ。それを壊してしまうのは寂しいね」
「船の体育館」は、代々木第一体育館や東京都庁舎、広島平和記念資料館など数々の名建築を生み出してきた世界的巨匠・丹下健三の設計のもと、'64年に建設された。
長年、スポーツ大会やイベントに利用されてきたが、老朽化と耐震性の不足を理由に'14年に閉館。その後、県は建物の再利用を模索してきたが有効策は見つからず、'23年に解体の方針を決定した。
そして'25年12月、香川県議会で解体工事請負契約の議案が可決され、今年4月についに解体工事が始まった。解体費用は実に、8億4700万円に上る。
戦後モダニズム建築の至宝とも称される建物だけに、解体を巡っては、ニューヨーク近代美術館やハーバード大学の教授陣が異例の「保存嘆願声明」を出す事態に発展。'25年11月には、市民団体「旧香川県立体育館再生委員会」が県に対し、解体工事費の公金支出差し止めを求める住民訴訟を起こした。
独自調査では「耐震性は問題ない」はずが…
同委員会の代表で建築家の長田慶太氏が語る。
「県は『耐震性の不足』を根拠に解体を強行したわけですが、我々はそもそもの調査の方法が間違っていると主張しています。県は一般的な四角いRC造(鉄筋コンクリート造)向けの指針を基準としていますが、『船の体育館』は特殊な吊り屋根構造であり、適用範囲外です。
我々は独自に建築防災協会の理事に調査を依頼し、『対象外』だと明言されている。加えて、神田順・東大名誉教授や齋藤公男・日本大学名誉教授といった耐震構造の権威たちも、『現行基準並みの強度がある』『地震で倒壊する危険は極めて低い』と太鼓判を押しています」
「再生委員会」は民間で土地と建物を買い取り、体育館をホテルなどに転用する事業プランも提案したが、県が採用することはなかったという。
そして、何より問題視しているのが、8億円超に上る体育館の解体工事費用だ。
「解体費を坪単価にすると、約55万円。通常のRC造の場合は4万~8万円とされていますから、明らかに高すぎる。実際、'25年6月に解体が完了した岐阜県羽島市庁旧本舎は、面積・杭の本数・アスベストの含有量など、すべてにおいて『船の体育館』を上回っていましたが、費用は約4億7000万円でした」(長田氏)
はたして、「船の体育館」の解体費用は適正な価格なのか>(以上「週刊現代」より引用)
「香川が誇る「丹下健三の名建築」不自然すぎる解体強行…!《8億超えの解体費》に市民も猛反発」との記事に接して、旧東京都庁(東京都庁旧本庁舎・丸の内)の解体を思い出した。奇しくも、旧東京都庁も丹下健三氏が設計したものだった。ポストモダンを代表する建築物だったが、現新宿庁舎の完成に伴って解体されてしまった。同時に旧都庁舎に設置されていた岡本太郎氏の陶板壁画群も1991年の庁舎解体に伴い取り外されて廃棄され、現存していない。
丹下氏に壁画を依頼された際、岡本氏は「都庁舎の壁画なら永く残るだろう」と快諾されたそうだが、既に失われてしまった。
もとより建築物は「家」でしかない。建築物に「文化的価値」を見出すのは建築者の勝手かもしれないが、巨大なオブジェだと考えれば、それはそれで当時の「文化」の息吹を内蔵した「彫像文化」の一種だと云えなくもない。
日本も数々の著名な建築家を輩出してきた。現在も世間に名を馳せる建築家がいるが、丹下氏を凌駕するほどの建築家が果たしているだろうか。 日本の若者で建築家を目指す者にとって、時代を切り拓いてきた建築家諸氏の作品を見ることは何よりも大切だ。デジタル画像としてではなく、現地で現物を見ることがどれほど大切か、行政マン諸氏も地方自治体の議員諸氏も解らないのだろうか。そうした建築を日々見られる幸福を実感しない感性の持ち主が「解体」を決定するとは、悍ましさ以上に儚さを痛感する。
失われた「文化」は二度と蘇らない。イタリア・ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の修道院食堂の『最後の晩餐』はレオナルド・ダ・ヴィンチによって1495年から1498年にかけて描かれた。そのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の修道院食堂の『最後の晩餐』は現在も世界中の絵画愛好家を魅了している。イタリア・ミラノの人たちが保存していればこそ、現代の私たちも鑑賞することが出来る。
戦後だけでも日本で多くの著名な建築家が活躍してきた。彼らによって、日本の都市空間と自然と調和した景観が形作られてきた。そうした「芸術作品」を「芸術」だと感じない人たちが多数を占めれば、「芸術作品」は簡単に破壊され撤去されてしまう。
旧都庁の壁画を描いた泉下の岡本太郎氏もさぞかし残念に思われていることだろう。何とかして旧都庁舎を残すか、或いは岡本氏の壁画を現在の都庁舎に移す術はなかったのか、と思わずにはいられない。
日本建築学会は早急に著名な建築家による建築物を厳選して「建築文化財」として指定すべきだ。さもなくば2019年に解体撤去された黒川紀章氏が設計した山口県下松市の宿泊施設「笠戸島ハイツ」や今般の香川県の例のように、弊衣のように打ち捨てられてしまいかねない。「文化財」とは何たるかを、今を生きる私たちは世間の人々に知らしむる義務がある。
丹下健三氏の作品がまた一つ失われることを心から残念に思う。