独裁国家では軍隊は独裁者の玩具なのか。

ロシア兵に偽装する北朝鮮兵士
 金正恩氏は、北朝鮮の特殊部隊約1500人をロシア海軍の揚陸艦でウラジオストックに送るに先立ち、特殊部隊の訓練を視察していた。国情院が10月18日に公開した報道資料は、その背景を次のように記している。
 「金正恩は先月11日と今月2日、派兵に先立ち特殊部隊を2回視察した。
北朝鮮軍はロシアの軍服とロシア製兵器を支給され、北朝鮮人と似た容貌をもつシベリアのヤクーチア地域、ブリヤート地域の住民に偽装する身分証明書も発給された。戦線への投入の事実を隠すため、ロシア軍に偽装したものとみられる。」
 広大な国土をもつロシアは多民族国家で、その民族数は182に上る。もちろん、ロシア軍も多民族で構成されるので、北朝鮮人と似たヤクート人(広義のトルコ系)やブリヤート人(モンゴル系)の将兵も存在する。そんな中で、北朝鮮将兵がロシア軍の姿で現れたら、誰も北朝鮮軍が来たとは思わないだろう。
 ロシア、北朝鮮のどちらが考えたことなのかわからないが、これを認めた金正恩氏は自国の将兵を極めて危険な目にあわせることになり、その罪は重いと言わざるを得ない。
 ある国の軍隊が別の国の軍隊に偽装することは、ジュネーブ条約が禁止する「背信行為」に該当する。背信行為とは、「(略)紛争当事者でない国の標章又は制服を使用して、保護されている地位を装うこと」などを指す。
 厳密な条約の解釈は専門家に任せるが、仮に北朝鮮特殊部隊の将兵がウクライナ軍に捕まった場合、「捕虜」として扱われず、「傭兵」か最悪の場合は「間諜(スパイ)」として扱われるおそれがある。
 この差はとても大きく、捕虜であれば人道的に処遇されるが、傭兵やスパイは抑留国の法律で訴追される。ウクライナは死刑を廃止しているので殺されることはないが、重罪に処され、北朝鮮に帰国できなくなる可能性がある。
 筆者は、別の記事でウクライナに派兵される北朝鮮工兵部隊のある将校の話として、「ウクライナへの派遣は秘密裏に行われるため、戦死すると家族には病死と告げられ、遺体や遺骨も戻されない」と紹介した。
 この工兵部隊が国境の街に現れたのは8月末のこと。工兵部隊は特殊部隊が戦線に到着する前に陣地構築などのために投入されたのかもしれない。その最中、ロシアとウクライナの国境付近で、北朝鮮兵士18人が集団脱走したと報じられた。彼らは未だ拘束されていないが、捕虜として扱われない彼らの身を思うといたたまれない気持ちになる。

どこまでも確証と言えないまでも
 国情院が18日に公開した報道資料を筆者が分析した内容は以上だ。しかし、ここまで読んでもらえばわかると思うが、「北朝鮮特殊部隊約1万2000人がウクライナに派兵」という話はどこにも出てこない。
 実は、この話は報道資料には掲載されておらず、聯合ニュースは「情報消息筋」の話として伝えている。おそらく、報道資料を配布した後、国情院の幹部がバックグラウンドブリーフィング(背景説明)で話したものだろう。改めてその内容を見てみよう。
「北朝鮮が最精鋭特殊作戦部隊である第11軍団、いわゆる暴風軍団所属の4個旅団、計1万2000人規模の兵力をウクライナ戦争に派兵すると予測される」
 報道資料の「確認」「把握」と比べ、「予測」とトーンダウンしていることがわかる。これはインテリジェンス独特の言葉使いで、国や組織によって表現は若干異なるが、各種センサーでの探知状況などで事実と判断される順に、確認、把握、予測となる。つまり、国情院は1万2000人規模の特殊部隊が派兵されることを事実と判断するまでの確証は持っていないと考えられるのだ。
 今は「特殊部隊1万2000規模の派兵」について多くを語るときではないが、北朝鮮の特殊部隊も各国と同じでやや複雑だ。
 北朝鮮軍で特殊部隊を統括するのは、陸海空軍と戦略軍に続き5つ目の軍種として2017年に創設された「特殊作戦軍」である。報道された第11軍団とは、特殊作戦軍隷下の陸軍の特殊部隊で、韓国に浸透して要人暗殺や後方撹乱などを任務とする。
 第11軍団は練度は高く、装備も優秀と指摘されるものの、約110万人といわれる陸上兵力の相当数が建設や農作業に従事しているのが、北朝鮮の実情だ。その中で相対的に練度が高いというだけで、米陸軍のグリンベレーや陸自の特殊作戦群のように高度な能力は備えておらず、実際には各国の歩兵と同程度のレベルとみられる。

偽装兵の決定的証拠、ロシア軍から軍服受領の映像
 これまで伝えてきた、国情院が公開した北朝鮮のウクライナ戦争への参戦について、その内容があまりに衝撃的すぎたからか、日本では一部の有識者までもが、「国情院の情報だから信用できない」旨をSNSで発信していた。
 私はこれを片腹痛いと横目で見ていたが、このような意見が出てくる背景には、上述した情報の読み解き方のほかに、軍事情報活動がどのような形で行われているのか、その実態を知らないということがある。
 例えば、前編で触れた北朝鮮特殊部隊を輸送したロシア海軍揚陸艦の動きは、不鮮明な合成開口レーダーの画像以外に、米軍の偵察衛星が航行レーダなどを掴んだELINT(電子情報)、無線を傍受したCOMINT(通信情報)など表に出せないデータが隠されている。
 そして、同じく前編で触れたミサイル3人組と言われる金正植氏のウクライナ視察や上述した北朝鮮特殊部隊がロシア軍に偽装しているような情報は、その多くがHUMIT(人的情報)の成果であり、韓国が独自で掴んだものもあれば、ウクライナから提供されたCOLLINT(交換情報)もある。
 これを裏付けるように、ウクライナ政府が偽情報対策で設立した戦略コミュニケーション・情報セキュリティセンター(SPRAVDI)は19日、ロシア沿海州地方にあるセルギエフスキー訓練所で北朝鮮将兵がロシア軍から軍服を受領する映像を公開した。
 この映像から「そこ越えるな」「こっち来い」など朝鮮語が聞こえる。そして、北朝鮮将兵は全体的に痩身小柄で、一般にイメージする特殊部隊像からはほど遠い。この姿からも、北朝鮮特殊部隊が過大に評価されてきたことが思い出される。
 果たして、北朝鮮はウクライナ戦争にどこまで、どのような形で加担していくのか。そして、ロシアと北朝鮮の軍事同盟とその成り行きが日本と国際社会にどのような影響を与えるのか。
 北朝鮮が参戦し、戦闘行為が確認されれば、参戦国である北朝鮮への軍事的圧力は最大限に高められる。その結果、南北間の緊張が物理的な衝突に発展する可能性は否定できず、間隙を突いた中国が何らかの動きをとるおそれもある。北朝鮮のウクライナ戦争への参戦は、日本の喉元に匕首を突きつけたに等しい状況を生み出した。これからもしっかりとウォッチして、お伝えしていきたい>(以上「現代ビジネス」より引用)




ロシア兵に偽装する北朝鮮兵士の姿が…!「特殊部隊1万2000人」のウクライナ参戦が事実なら、「朝鮮半島情勢」は一気に緊迫する!」と題して吉永 ケンジ(ジャーナリスト/セキュリティコンサルタント)氏が論評している。もちろん北朝鮮が正規軍をロシア戦線へ派遣したのなら、北朝鮮は明確な西側諸国に対する「侵略当事国」になる。だから北朝鮮による拉致被害日本人の救出に関する「対話」も出来なくなる。
 ただ、それが直ちに朝鮮半島情勢が緊迫するのかと云うとそうではない。北朝鮮はウクライナ戦線へ正規軍を派遣したことにより、事実上NATOと事を構えることになったが、日本や韓国と事を構えることになったのではない。ただ西側諸国の一員として、日本は北朝鮮が対NATOに軍隊を派遣したことを前提として対応しなければならない。

 引用記事では北朝鮮軍のロシアへの派遣は確証がないとされているが、北朝鮮の港から揚陸艦が出て、ウラジオストクへ入港しているのが偵察衛星で追跡されている。それも一度でないことから一万人規模の軍隊が移動したことになるという。
 さらにウラジオストクから鉄道に乗り、移動したことも追跡されているから北朝鮮軍がウクライナ侵略戦争に参戦していることは明らかだ。吉永氏は北朝鮮が派遣したのは特殊部隊だというが、市街戦に特化した部隊という意味ではなく、北朝鮮は百万人以上もの陸軍を擁しているが、それらのすべてが銃器を持って戦闘する兵隊というわけではない。多くはシャベルや鶴嘴を手にして土木工事をする作業員だ。だからロシアへ移動した1万2千人の「特殊部隊」は北朝鮮の殆ど全ての戦闘部隊ということになる。

 だからこそ、北朝鮮は南北直通鉄道のみならず南北道路を破壊して、韓国軍が北朝鮮に越境攻撃するのを防御するために陣地を備えたのだろう。つまり北朝鮮の国内の実戦部隊は殆ど払底した。それを誤魔化すための昨日ミサイルを日本海に発射した。強気の姿勢を金正恩は維持しているが、内実は極めて脆弱になっていると考えられる。
 北朝鮮が火薬庫と化して朝鮮半島で軍事行動を起こすのではないか、危惧する評論家がいるが、事を起こす国が自国の精鋭軍を他国の前線へ移動させるだろうか。

 ただ日本は経済支援を取引材料にして、北朝鮮に拉致被害者を救出の会談を申し込むことが出来なくなった。ロシアに軍隊を派遣した北朝鮮にあらゆる支援をすることは、理由は何であれ出来ない。
 そして既にウンライな戦線に到着した北朝鮮軍がウクライナの砲弾によって何人か爆死し、百人を超える兵隊が脱走したと伝えられている。北朝鮮の兵隊にとって国にいるよりもウクライナ戦線へ参加した方が自由へ近づける、というのは皮肉だ。しかし、それが独裁国家・北朝鮮の実情だ。

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