さて、いずれのカードを引くのだろうか。間もなく分かる。
<必然だった「モンロー主義」の復活
「今のアメリカの姿は、国の成り立ちに遡れば合点がいきます。17世紀のヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントによる『三十年戦争』が泥沼化していました。この凄惨な殺し合いへの反省から、宗派が違っても互いの主権を認め合い、勢力均衡を保つ『ウェストファリア体制』という国際秩序が産声を上げます。これが近代国家体制の原型です。しかし、アメリカはこの秩序に居場所のなかった人々が作った国なのです」(西谷氏)
アメリカの源流は、イギリスを追われた清教徒(ピューリタン)たちが、大西洋の彼方に「信仰の自由」を求めて渡ったことに始まる。
「彼らは新大陸に降り立った際、そこに先住民がいたにもかかわらず、その大地を持ち主のいない『無主の地』と勝手に決めました。発見した者が所有者だという、独りよがりな理屈を押し通したのです。当然、土地を所有するという概念すらなかった先住民は困惑しますが、入植者たちはそれを『権利』として振りかざし、先住民を抹消して、大地を『解放』していきました。
既成の国際秩序を『脱出』(エクソダス)し、海を渡って先住民を駆逐し、奪った大地を『私有地』として切り売りする、これがアメリカの建国原理なのです」(同前)
独立当初は東部13州に過ぎなかった米国は西へ南へ版図を広げ、ついにラテンアメリカをも自らの庭と称する「モンロー主義」へ行き着いた。
この伝統を現代に蘇らせたのが、不動産屋出身のトランプ氏が掲げる「ドンロー主義」だ。西半球を米国の勢力圏と見なし、ベネズエラなどへの軍事介入も辞さない姿勢は、決して突発的な暴走ではない。その原型は、アメリカという国家の建国原理に深く刻み込まれていたのだ。
「アメリカ・ファースト」の本質を読み解く
しかし、ここで一つの疑問が浮かんでくる。トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げ、莫大な戦費と犠牲を強いる中東などの「終わりのない戦争」からは手を引くと公言してきたはずだ。
にもかかわらず、なぜイランとの戦争に踏み切ったのか。その謎を解く鍵について、今ベストセラーとなっている『新書 世界現代史』の著者で、共同通信編集委員の川北省吾氏は、トランプ政権が昨年末に発表した「国家安全保障戦略」の一節を挙げる。
「注目すべきは、『いかなる国であっても、米国の利益を脅かす支配力を手にすることは許容しない』という一文です。これは世界のどこであれ、米国の権益を脅かす『地域覇権国』の出現は阻止するという宣言に他なりません。世界の石油確認埋蔵量の半分が眠り、エネルギー貿易の要衝であるホルムズ海峡を抱えるペルシャ湾。もしイランが核を手にすれば、米国の権益構造は根底から覆ります」
さらに川北氏はトランプ氏の掲げる「アメリカ・ファースト」の本質をこう読み解く。
「彼らが究極的に目指すのは、単なる自国第一主義ではありません。真の狙いは、圧倒的な製造業の力と軍事力を誇った'50年代の『黄金時代』を復活させるための、壮大なレコンキスタ(失地回復)なのです。まずは西半球で覇権を取り戻し、盤石な基盤を築く。それは孤立主義への回帰ではなく、再び世界へ打って出るための布石なのです」
足元のベネズエラを抑え、同時に中東のイランを叩く。この一見矛盾する行動は、「黄金時代」の再興というゴールへと繋がっているのだ。
「爆撃」の引き金になったものとは
とはいえ、一国の政府を牽制する手段は、なにも軍事力だけではないはずだ。経済制裁の強化や、新たな条約交渉といった「外交カード」はいくらでも残されていた。にもかかわらずトランプ政権は、「爆撃」という手段を選んだ。
その背景には同盟国であるイスラエルの存在がある。昨年6月に「12日間戦争」を仕掛け、サイバー攻撃など「影の戦争」が「リアル・ウォー」に転換して以来、「宿敵」イランとの緊張は、いつ火を噴いてもおかしくなかった。
「ニューヨーク・タイムズが開戦の内幕を報じていましたが、ヴァンス副大統領は泥沼化を警告し、ルビオ国務長官も体制転換に懐疑的だったのに、ネタニヤフ首相が迅速な行動を迫り、トランプ氏を戦争へと駆り立てたのです」(同前)
加えて今回の爆撃の引き金となったのは、そうした同盟関係だけではなかった。トランプ氏が抱く「個人的な復讐心」が、事態を決定的な局面へと押し進めたというのだ。
「'24年の大統領選。あのペンシルベニアでの暗殺未遂の直前、トランプ氏の暗殺を企てていた別のパキスタン人の男が逮捕されました。その後の裁判で、男がイランの革命防衛隊から訓練を受けて入国した事実が明らかになりました。
これは、第一次トランプ政権時にイランの英雄ガーセム・ソレイマニ司令官を爆殺したことへの報復の企てだったと見られています。ホワイトハウスの元高官によると、トランプ氏は自分を亡き者にしようとした人物の背後にイランがいることを、恨んでいたようです」(同)
開戦直後に、ABCテレビのインタビューでトランプ氏が放った言葉が、その傍証だ。
「奴らは俺を二度も狙った。だから、奴らがやる前に俺が仕留めたんだ」>(以上「現代ビジネス」より引用)
意味不明な論評が掲載された。題して「なぜトランプは“勝てない戦争”に踏み切ったのか「真の答え」知の巨人たちが言語化したらこうなった」というものだが、まずトランプ氏はイラン戦争で「勝てない」のだろうか。戦争の勝敗が何で決まるのかにも因るが、少なくともテロ支援国家・イランの子分というべきヒズボラやハマスが弱体化すれば「勝利」とみるべきだろう。
「今のアメリカの姿は、国の成り立ちに遡れば合点がいきます。17世紀のヨーロッパでは、カトリックとプロテスタントによる『三十年戦争』が泥沼化していました。この凄惨な殺し合いへの反省から、宗派が違っても互いの主権を認め合い、勢力均衡を保つ『ウェストファリア体制』という国際秩序が産声を上げます。これが近代国家体制の原型です。しかし、アメリカはこの秩序に居場所のなかった人々が作った国なのです」(西谷氏)
アメリカの源流は、イギリスを追われた清教徒(ピューリタン)たちが、大西洋の彼方に「信仰の自由」を求めて渡ったことに始まる。
「彼らは新大陸に降り立った際、そこに先住民がいたにもかかわらず、その大地を持ち主のいない『無主の地』と勝手に決めました。発見した者が所有者だという、独りよがりな理屈を押し通したのです。当然、土地を所有するという概念すらなかった先住民は困惑しますが、入植者たちはそれを『権利』として振りかざし、先住民を抹消して、大地を『解放』していきました。
既成の国際秩序を『脱出』(エクソダス)し、海を渡って先住民を駆逐し、奪った大地を『私有地』として切り売りする、これがアメリカの建国原理なのです」(同前)
独立当初は東部13州に過ぎなかった米国は西へ南へ版図を広げ、ついにラテンアメリカをも自らの庭と称する「モンロー主義」へ行き着いた。
この伝統を現代に蘇らせたのが、不動産屋出身のトランプ氏が掲げる「ドンロー主義」だ。西半球を米国の勢力圏と見なし、ベネズエラなどへの軍事介入も辞さない姿勢は、決して突発的な暴走ではない。その原型は、アメリカという国家の建国原理に深く刻み込まれていたのだ。
「アメリカ・ファースト」の本質を読み解く
しかし、ここで一つの疑問が浮かんでくる。トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げ、莫大な戦費と犠牲を強いる中東などの「終わりのない戦争」からは手を引くと公言してきたはずだ。
にもかかわらず、なぜイランとの戦争に踏み切ったのか。その謎を解く鍵について、今ベストセラーとなっている『新書 世界現代史』の著者で、共同通信編集委員の川北省吾氏は、トランプ政権が昨年末に発表した「国家安全保障戦略」の一節を挙げる。
「注目すべきは、『いかなる国であっても、米国の利益を脅かす支配力を手にすることは許容しない』という一文です。これは世界のどこであれ、米国の権益を脅かす『地域覇権国』の出現は阻止するという宣言に他なりません。世界の石油確認埋蔵量の半分が眠り、エネルギー貿易の要衝であるホルムズ海峡を抱えるペルシャ湾。もしイランが核を手にすれば、米国の権益構造は根底から覆ります」
さらに川北氏はトランプ氏の掲げる「アメリカ・ファースト」の本質をこう読み解く。
「彼らが究極的に目指すのは、単なる自国第一主義ではありません。真の狙いは、圧倒的な製造業の力と軍事力を誇った'50年代の『黄金時代』を復活させるための、壮大なレコンキスタ(失地回復)なのです。まずは西半球で覇権を取り戻し、盤石な基盤を築く。それは孤立主義への回帰ではなく、再び世界へ打って出るための布石なのです」
足元のベネズエラを抑え、同時に中東のイランを叩く。この一見矛盾する行動は、「黄金時代」の再興というゴールへと繋がっているのだ。
「爆撃」の引き金になったものとは
とはいえ、一国の政府を牽制する手段は、なにも軍事力だけではないはずだ。経済制裁の強化や、新たな条約交渉といった「外交カード」はいくらでも残されていた。にもかかわらずトランプ政権は、「爆撃」という手段を選んだ。
その背景には同盟国であるイスラエルの存在がある。昨年6月に「12日間戦争」を仕掛け、サイバー攻撃など「影の戦争」が「リアル・ウォー」に転換して以来、「宿敵」イランとの緊張は、いつ火を噴いてもおかしくなかった。
「ニューヨーク・タイムズが開戦の内幕を報じていましたが、ヴァンス副大統領は泥沼化を警告し、ルビオ国務長官も体制転換に懐疑的だったのに、ネタニヤフ首相が迅速な行動を迫り、トランプ氏を戦争へと駆り立てたのです」(同前)
加えて今回の爆撃の引き金となったのは、そうした同盟関係だけではなかった。トランプ氏が抱く「個人的な復讐心」が、事態を決定的な局面へと押し進めたというのだ。
「'24年の大統領選。あのペンシルベニアでの暗殺未遂の直前、トランプ氏の暗殺を企てていた別のパキスタン人の男が逮捕されました。その後の裁判で、男がイランの革命防衛隊から訓練を受けて入国した事実が明らかになりました。
これは、第一次トランプ政権時にイランの英雄ガーセム・ソレイマニ司令官を爆殺したことへの報復の企てだったと見られています。ホワイトハウスの元高官によると、トランプ氏は自分を亡き者にしようとした人物の背後にイランがいることを、恨んでいたようです」(同)
開戦直後に、ABCテレビのインタビューでトランプ氏が放った言葉が、その傍証だ。
「奴らは俺を二度も狙った。だから、奴らがやる前に俺が仕留めたんだ」>(以上「現代ビジネス」より引用)
意味不明な論評が掲載された。題して「なぜトランプは“勝てない戦争”に踏み切ったのか「真の答え」知の巨人たちが言語化したらこうなった」というものだが、まずトランプ氏はイラン戦争で「勝てない」のだろうか。戦争の勝敗が何で決まるのかにも因るが、少なくともテロ支援国家・イランの子分というべきヒズボラやハマスが弱体化すれば「勝利」とみるべきだろう。
いや、そもそも米国がイラン戦争の踏み切った理由から明らかにすべきではないか。そうしなければイラン戦争の「定義」すら出来ないからだ。
ハマスがイスラエル国内で大規模なテロ攻撃を行ったのは2023年10月7日の早朝だった。その日ハマスはイスラエルの野外音楽広場へロケット弾の飽和攻撃を行い、地上から侵入して イスラエル市民が約1,200人を殺害し、250人以上が人質としてガザに連れ去った。この攻撃を受けて、イスラエル政府は正式に戦争状態を宣言し、ガザ地区への空爆と地上侵攻を開始した。
それ以来2年半以上もの長期間、イスラエルはハマスやヒズボラの掃討作戦を実行している。しかしそれらテロ集団を支援するイランから資金や武器が供給され、戦闘は際限なく続いている。だからトランプ氏はテロ支援国家・イランの政治体制の崩壊を目的に2月28日にイラン空爆を実施した。
意味不明な論評は米国を建国したピューリタンにまで言及して、「彼らは新大陸に降り立った際、そこに先住民がいたにもかかわらず、その大地を持ち主のいない『無主の地』と勝手に決めました。」と批判の矛先を向けている。
しかし現代ビジネス氏は侵入者が先住民を殺害や追放して国家を樹立するのを常とした人類史を御存じないのだろうか。遠くはゲルマン民族の大移動により西ローマ帝国は分割され、フランク王国(北西フランス〜ドイツ(現在のフランスの起源))、西ゴート王国(イベリア半島(現在のスペイン・ポルトガル))、東ゴート王国(イタリア半島)、ヴァンダル王国(北アフリカ(かつてのカルタゴ))、ブルグンド王国(南西フランス(ガリア東南部))、アングロ・サクソン七王国(ブリテン島(後のイングランド))、ランゴバルド王国(北イタリア)といった国が出来た。それらの国々が基となって、現在の国家が形成されることになった。
欧州史を紐解くまでもなく、日本にも出雲の「国譲り神話」があるが、それこそ大和朝廷による出雲地方に存在した「国」を侵略し滅ぼした証拠ではないだろうか。だからこそ、巨大神社が造営され、侵略により大虐殺された出雲の人々の現在に到るまで鎮魂しているのではないだろうか。
先の大戦まで人類は侵略と大虐殺の歴史を繰り返してきた。1960年代まで、人類世界には奴隷が存在していた。現代ビジネス氏は「知の巨人たちが言語化したらこうなった」と、自分たちは知の巨人の一部であるかのように振舞っているが、その論理は稚拙というしかない。
現在行われている停戦協議の前段階と称する「覚書」交渉の鍔競り合いは利権確保の折衝でしかない。「知の巨人」と自称する人たちが「分析」するような形而上学的な話ではなく、極めて下世話な算盤勘定でしかない。しかし算盤がイラン国民に見えてしまっては「神権」を背景に統治してきたイラン革命政権の化けの皮が剥がれるため、必死になって「神国イランを守る宗教指導者」を演じ続けているだけだ。
イラン革命防衛隊が国際海域・ホルムズ海峡を封鎖するのは「海賊行為」以外の何物でもない。それは世界経済を人質に取る蛮行でしかなく、米国によるホルムズ海峡逆封鎖と同列に論じること自体が間違いだ。
イランが油井を止めざるを得なくなるタイムリミットが近づいている。革命防衛隊の資金源たる原油が輸出できないどころではなく、油井を一度閉じると再開しても原油産出できなくなる可能性さえある。革命防衛隊の手の中にあるカードは米国艦艇に対する自爆攻撃か、それとも無条件降伏かしかない。さて、いずれのカードを引くのだろうか。間もなく分かる。