いかに高邁な理想を掲げようと、その理想の前で国民生活が破綻しては本末転倒だ。

給料の半分を国にもっていかれる
 経済協力開発機構(以下、OECD)によれば、2025年、ドイツの平均的な独身者の税金と社会保険料の負担率は収入の49.3%で、ベルギー(52.6%)に次いで2番目に高かった。ちなみにOECDの平均は35.1%。それにしても、お給料の半分を国に持っていかれてしまうというのは悲劇だ。
 ところが、ドイツ連邦統計局の発表では、昨年のドイツの歳入は約2兆1402億ユーロで前年比5.7%、史上最高! 歳入の内訳は、税収が約半分の1兆ユーロ超で、あとの半分は社会保険料、「年金」、「医療」、「介護」、「労災」、「失業」の掛け金だ (社会保険料は税金と同じく強制的に徴収されるため、ドイツでは歳入として計上されている)。
 しかし、支出は前年比5.6%増の2兆2593億ユーロで、1200億ユーロ近い赤字。収入が史上最高でも、お金は全然足りていない。そこで政府は2026年1月1日より、税率は変えなかったものの、社会保険料(年金、医療、介護など)の計算の基準になる収入の額を動かし、実質の大幅値上げに踏み切った(医療保険料の値上げは、昨年に続いて2年連続)。
 この変更の一番の犠牲になったのが、特に中〜高程度の収入を得ている人たち。つまり、莫大な資産を持っていたり、それを動かして儲けたりしている裕福な人たちではなく、毎日一生懸命働いて、家賃を払い、子育てをし、税金を支払っている人たち。こういう実質の労働でドイツ経済を下支えしている人たちが、収入は変わらないのに負担だけが跳ね上がるという結果になった。

9000億ユーロという“史上最高の借金”
 そもそも、歳入が史上最高にもかかわらず財政が赤字というのは、支出の問題だ。それがわかっていたからこそ、選挙運動中のフリードリヒ・メルツ氏(CDU・キリスト教民主同盟)は、当時、盛んに「財政引き締め」を主張していた。ところが、選挙が終わった途端にコロッと豹変、社民党に押されるまま、9000億ユーロという“史上最高の借金”を押し通した。
 そればかりか同氏は、せっかく検討されていた年金改革も放り出した。それにより、社民党の推した現況の人口動静からはほぼ不可能と思われる年金制度が、多くの反対を押し切って成立。私にはこれは、未来の納税者を圧死させる時限爆弾付きの年金制度に思える。
 いずれにせよ、刷新を謳っていたメルツ政権でちょうど1年が過ぎ、ドイツは完全に停滞中。血税のばら撒きだけが続いており、納税者は報われない。当然、メルツ氏の評価は地に落ち、ここのところ政治家人気ランキングでは20人中20位だ。
 ただ、社会保険料の重荷で苦しんでいるのは雇用者側も同じ。その上、行き過ぎた書類主義や多すぎる規則も相まって、多くの企業が疲弊している。何をするにも、それがサプライチェーンを遡っても持続可能な経済活動であるか、個人情報守秘義務が守られているかなどという複雑な証明が求められ、さらに、各種統計の報告義務、極めて煩雑な補助金や認可の申請など、書類を作るためだけでとんでもない時間と労力がかかる。

今年のメーデーで起きたこと
 ifo経済研究所の試算(2024年11月)では、過剰な官僚主義、行政コストの負担により、ドイツが年間1460億ユーロの経済的損失を余儀なくされているといい、特に、大企業のような専属スタッフを増員できない中小企業が犠牲になっている。ちなみにこの官僚主義は、外国からの投資を妨げている原因の一つでもある。
 現在、ドイツは不況だ。大型販売業から個人商店、サービス業、運送業、旅行業者など、様々な産業分野が縮小中だ。ドイツ商工会議所のレポートでは、現在22分に一件の企業が倒産している計算になるといい、しかもここには、閉店、撤退などは含まれていない。これ以上、企業を苦しめると、急激に納税者が減り、社会保障費が膨らみ、大変なことになる。
 労働者の祭典、メーデーは、ドイツでは祝日。2026年5月1日は例年通り全国のあちこちで大々的なデモが繰り広げられた。ただ、今年の統一スローガン「まず我々の雇用、それからあなた方の利益」には、違和感を持たずにはいられなかった。これでは、雇用者VS労働者という前々世紀からの「労働闘争」と何ら変わらない。
 その後、5月12日には、全国の労働組合の統括組織であるDGB(ドイツ労組総同盟)の年次集会が開催されたが、そこでも労組は“賃上げ”、“8時間労働の順守”、“社会的公平”といったカビの生えたスローガンを叫んでいた。DGBというのは非常に力のある組織だが、その幹部らは、「敵は雇用者(資本家)だ!」と本気で思っているのだろうか。
 ドイツ経済はすでに過去6年間、実質成長していない。経済成長の最大の足枷になっているのは資本家ではないし、ウクライナ戦争やイラン戦争とも言えない。真の元凶は高い電気代だ。

経済成長よりもCO2削減に邁進
 経済活動には安価で安定したエネルギーが必要だが、ドイツは2023年4月15日に原発を全て止め、近年、石炭・褐炭も随時減らしてきた。しかも、ウクライナ戦争以来、ロシアの天然ガスもボイコット。そのため、現在、ガスや石油の調達に膨大なお金がかかっている。
 3万本以上の風車と500万枚の太陽光パネルはせっせと発電しているが、これら再生可能エネルギーはお天気次第なので、要るときに足りなかったり、要らないときに出来すぎたりする。しかも電気の買取りや送電線の敷設、絶えず増減する電力の調整費、バックアップの電源の維持など莫大な経費(年間180億ユーロ)がかかり、採算は合わない。そして、それをまるまる補填しているのが税金。だから、ドイツの電気代はEU一高い。
 高いエネルギーで高い製品を作っても誰も買ってくれない。そこで、力のある企業は生き延びるために外国に脱出し、出ていけない中小企業は倒産、あるいは撤退するというのが、今、ドイツで起こっていることだ。それについてIfo経済研究所のクレメンス・フースト所長は、「エネルギー消費の縮小を現在のテンポで進めれば、30年の経済は14%縮小する」と警鐘を鳴らしている。
 ところが政府は聞く耳を持たず、目下の対策は、電気代の補助などという一時凌ぎの税金のばら撒きばかり。なぜ、エネルギーを安くするための抜本的な政策を打たないか? その答えは簡単。政治家の頭の中は未だに経済成長よりもCO2削減なのだ。
 さらにいうなら、現在のDGBのトップ、ヤスミン・ファヒミ氏は、社民党の大物。脱原発、脱炭素は氏にとっては国是だ。「エネルギー消費が減ったのは、エネルギー効率が良くなった成果!」という欺瞞が罷り通っている。
 さて、財政を圧迫しているもう一つの無駄は社会保障費。これが歳出で46.7%と最大のポジションを占める。少子高齢化の昨今、年金や医療保険などに国庫からの補助が必要なのは仕方ないが、問題は、働いていない人が全員もらえる手厚い生活保護の受給者のほぼ半分が外国人であること。これについてifo経済研究所のハンス=ヴェルナー・ジン前所長は、「ドイツは一度も税金も社会保険料も払ったことのないあまりにも多くの人たちを養い過ぎている」と苦言を呈している。

雇用者は敵ではない
 ところが2026年5月6日、国会答弁でこの深刻な問題について質問を受けたバース労働相(社民党)は、「社会保障のために我が国にやってくる人間は1人もいない!」と言ってのけ、皆を唖然とさせた。日頃からフェイクニュースの取り締まりに躍起になっている社民党だが、これほどのフェイクニュースはないともっぱらの評判。この政党が政権にいる限り、各種のばらまきが止むことはないだろう。
 ただ、問題は、将来いったい誰が税金や社会保険料を納めるかだ。IAB(ドイツ労働市場・職業研究所)は、今年は2009年以来初めて社会保険料を納める労働者が減ると予測している。しかし、年金も、医療費も、失業保険も、受給者はおそらく増え続ける。
 つまり、労組の今年のスローガン、「まず我々の雇用、それからあなた方の利益」は矛盾している。真の問題は、どうやってその雇用を生み出すかだ。
 そのためには、産業を活性化しなければならない。産業を回す源は、熱、圧力、回転、冷蔵、運搬などという実際の力なのに、そのための肝心なエネルギーを、ここ10年ほどの間に、企業からじわじわと奪っていったのは政府だ。これで雇用を増やし、配分するための利益を出せというのは無理な話なのに、労組はその肝心なことを見ようとしない。それどころか、雇用者が敵だと決めつけ、あたかも問題は間違った再配分にあると言わんばかりだ。
 本来なら、労組は雇用者とともに一丸となって、補助金のばら撒きしかできない政府を責めるべきだと思うが、労組のトップ、ファヒミ氏の思考は、同じ社民党党員として、労働相とはおそらく“異床同夢”。
 私は今も、メーデーのデモは、財務省と首相官邸の前で行うべきだったと思っている。>(以上「現代ビジネス」より引用)




 ドイツ在住の川口 マーン 惠美(作家)氏が「資本家でもイラン戦争でもない…ドイツ国民の生活を追い詰める「高すぎる電気代」と「膨らむ社会保障費」の裏にいる真の敵」と題して「ドイツ」の宿痾について報告している。
 彼女の言によればドイツの宿痾は「経済成長よりもCO2削減に邁進」しているフリードリヒ・メルツ政権の責任だという。国民負担は実に50%に及び、税収は過去最大の約2兆1402億ユーロに達しているが、支出は前年比5.6%増の2兆2593億ユーロで、1200億ユーロ近い赤字を記録している。その主因は血税のばら撒きだという。

 ドイツの政府債務残高(国債などを含む公的債務)は、約2兆6,600億ユーロ(約440兆円)に達しているが、決して財政が悪いわけではない。経済成長政策に政治運営を転換すればドイツ経済はすぐにでも良くなるだろう。
 そのためには中国へ移転した自動車産業などを国内へ回帰させるべきだ。なぜなら製造部門の海外移転は廉価な労働力を利用することで企業利益は増大するが、ドイツ国民にとっては雇用の減少として跳ね返ってくるだけでしかないからだ。さらに国内部門にとっては中国の廉価な労働者賃金と競わされることにより労働賃金が上がり難くなる。

 そして火力発電に切り替えるべきだ。もしもCO2排出を問題にするのなら、日本が開発した石炭タービン発電を導入すればよい。ドイツは現在もノルトライン=ヴェストファーレン州や東部のラウジッツ地方(ブランデンブルク州・ザクセン州)などで「褐炭(亜炭)」を大量に産出して世界有数の産出規模を誇っている。
 しかし環境負荷が高いとしてドイツ政府は2030年までの石炭採掘および石炭火力発電の段階的廃止を目指している。なんというバカげたことだろうか。 「CO2地球温暖化」詐欺に騙された政治家によってドイツ国民は公的負担の重さで圧し潰されようとしている。なぜ褐炭を大量に掘削して、石炭火力発電を発電事業の主力にしないのだろうか。日本の石炭タービン発電技術により、排出されるCO2は95%も削減されている。それを使えば非効率で電気代を高騰させるだけの自然エネルギー発電を廃止しても問題はない。しかも石炭事業による雇用が拡大するし、火力発電事業の拡大による雇用も期待できるだろう。

 川口氏は「雇用者は労働者の敵ではない」と書いている。確かに雇用者は敵ではないかもしれないが、製造業を海外へ移転させた企業の雇用者は労働者の敵だ。そしてCO2排出ゼロを叫ぶ環境活動家たちは国民の敵だ。彼らは「環境」を人質に取って、国民に負担増を求めている。だが地球環境はCO2の排出量とは関係なく変動している。たまたま中世寒冷期から現代の温暖期へと到る過程の曲線が、CO2増加曲線と一致しただけだ。だがその一致も、現在では少しづつズレ始めている。
 断っておくが数次に渡って出現した氷河期と間氷期という気候変動は大気中CO2濃度とは無関係に起きている。恐竜が生きていた恐竜時代の平均温度は現代より3~5℃高かったといわれているが、地球は沸騰しなかった。国連事務総長が「このまま温暖化すれば地球は沸騰する」と荒唐無稽な発言をしてCO2こそが人類を滅ぼすかのように扇動したが、CO2は物質循環の一形態でしかなく、大気中からCO2が失われたなら光合成植物は死滅して人類をはじめ酸化エネルギーで生命活動を維持している生命もまた死滅するしかなくなる。

 もちろん地球環境は守らなければならない。人類に地球を汚染する権利などない。全生命の一部として、地球を利用させていただいている生命体の一つでしかない。そうした意味で省エネに努めるべきだが、かといって放射性廃棄物という「厄介なゴミ」を大量に出す原発にまい進するのは環境破壊する愚行でしかない。また太陽光や風力などの再エネ発電は自然環境を著しく破壊し、電気代などに賦課して国民に分担金の支払いを強要する。もはや環境を食い物にする怪しげな活動家の言いなりになるのは止めよう。
 ドイツ政府はドイツの国家と国民を守るために存在する。成果の疑わしいCO2排出ゼロ社会のために存在しているのではない。現在の国民負担率50%は生存権を侵害するレベルだ。政府は国民を磨り潰すために存在しているのではない。いかに高邁な理想を掲げようと、その理想の前で国民生活が破綻しては本末転倒だ。

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