EVの終焉で中国は地下水汚染と土壌汚染を未来に遺すことになるのか。

中国EV産業の「大躍進」
 中国人はとにかく「躍進」することが大好きである。1950年代末期、毛沢東自らが鉄鋼の増産を呼び掛け、大躍進運動を発動した。大躍進とは無理してでも普段ではありえない成長を実現することである。当時、鉄鋼工場の労働者だけでなく、学校の先生や農家などはみんなが本来の仕事を放棄して鉄鋼生産に励んだ。高炉がなくて、泥で作った釜を使って各家庭から持ち寄った鉄製の道具を溶解して、鉄生産量に算入された。当時、ほぼすべての中国人は正気を失ったようだった。
 今、中国では、EV産業の大躍進が起きている。2024年、中国のEVメーカーの販売実績をみると、BYDは37.4%増、吉利汽車は30%以上増、テスラは8.9%増、上海通用五菱は14%増、長安汽車は30%以上増、理想汽車(Li Auto)は169.8%増、奇瑞新エネルギーは158.9%、賽力斯汽車は269.8%、広汽Aionは24.1%減、長城汽車はNA(いずれも前年比)である。それに対して、同年、中国の実質GDP伸び率は公式統計では5%だった。
 エコノミストとして中国経済をみるとき、絶対に鵜呑みしないで統計を疑う目で常識を以て検証することにしている。EVメーカーの生産量であれば、数十%の増産することができるかもしれないが、販売台数は経済成長率(実質GDP伸び率)と密接に相関するはずである。すなわち、公式統計の実質GDPは5%しか伸びていないのに、EVメーカーの販売台数は269.8%(賽力斯汽車)も伸びたといわれても、信用できない。なんといっても実質GDP伸び率の54倍に相当する伸びでまさに大躍進である。
 中国のEVメーカーの寵児と目されているBYDでさえ、販売台数は37.4%増加したといわれ、実質GDP伸び率の7.5倍に相当する規模である。果たしてこんなことがあり得るものだろうか。

大躍進の終焉と大倒産フェーズの始まり
 中国EVメーカーのほとんどは2000年代以降、EV生産を始めたものである。BYDが1995年に創業された電池メーカーだった。自動車産業に参入したのは2003年で、当時倒産した西安のある自動車メーカーを買って、小型内燃エンジン車の生産を始めた。その後、BYDを追うように他業種からの参入が急増した。すでに倒産した大手不動産デベロッパーの恒大集団でさえEV車を生産する子会社を設立した。2019年当時、中国には400社以上のEVメーカーが存在していたといわれている。まさに雨後の筍のようだった。その背景に二つの要素がある。一つはEV産業の参入障壁が低いこと。もう一つは中国政府(含む地方政府)の補助金がある。
 もともと中国政府はナショナルカーという民族ブランドを育成するプランがあった。外国完成車メーカーを誘致して、地場メーカーに技術の習得を促す。具体的に「三大三小二微」プランが策定され、乱立された大型車、中型車と小型車のメーカーを集約して、重点的に育成する政策だった。しかし、内燃エンジン車のエンジンとトランスミッションなどの基幹部品について地場メーカーの技術は一向に外国メーカーに近づくことができなくて、2010年代頃から内燃エンジン車のキャッチアップをほぼほぼ断念して、EVの開発に注力することにした。
 その前に、日本の電池メーカーが電池の開発・生産を断念したのを受け、BYDのほか、寧徳時代(CATL)の電池の開発・生産は急伸した。中国政府がEV車開発に注力したのは先進国メーカーのEV車への転換が遅れ、中国のEVメーカーは一気に先進国メーカーと同じスタートラインに立つことができたからである。問題は政府が関与すると、絶対に「大躍進」が起き、EVメーカーが一気に乱立状態になっていった。
 中国には、独特なビジネスサイクルがある。ある企業(主に民営企業)がある開発を確立すると、政府が支援して補助金を惜しみなく払うようになる。その補助金は釣りの餌のような役割を果たし、魚の群れが現れるように後続メーカーが大量に参入する。その結果、業界で価格競争が不当に繰り広げられ、最後は共倒れになってしまう。その典型例は太陽光パネルの開発と生産である。EV業界も同じトラップに陥っているようだ。
 2024年現在、EV業界の過当競争の結果、最盛期に比べ、多くのEVメーカーが倒産して、40社前後に減少したといわれている。それでも多すぎる。中国国内の専門家によると、最後に残れるのは3社程度ではないかと予想されている。

「政府補助金」という毒がもたらす産業としての死
 EV業界で異変が見られたようになったきっかけは、寵児のBYDがいきなり最大34%の値下げを発表したことだった。日本のマスコミの報道をみると、BYDはまるで世界のEV産業を凌駕する勢いをみせていることになる。なぜ突然34%も値下げしないといけなかったのだろうか。自動車メーカーは34%も値下げすると、昨日までに車を買った人が怒り、これから買おうと思う人は買い控えするはずである。まさに自殺行為といえる。
 BYDの値下げ発表とほぼ同じタイミングで山東省などのBYDの正規ディーラーが連鎖倒産したと報じられた。そのときにある造語が一気に拡散された。「ゼロキロ中古車」(Zero kilometer used car)である。日本でも「新古車」というものがある。新車だが、ディーラーが先に登録したので、ある程度、値下げして売る手法である。
 中国のEVメーカーは政府の補助金を獲得するために、売れていない車を売れたように見せかけるために、ディーラーの名義でいったん登録する。その車検証を以て補助金を申請する。補助金を手に入れれば、当該EV車は車の墓場行きになる。しかし、中国政府のEV車補助金は減額・終了するフェーズに入っているため、それはEV業界の大躍進の終焉を意味するものである。
 予想されるこれからの展開はEVメーカーの大規模倒産である。現状をみると、中国EV業界の過剰設備問題は一目瞭然である。その過剰設備が生まれたのは政府の補助金である。補助金が減少・終了すれば、EVメーカーは価格競争に走る。言ってみれば、中国のEV産業はすでにそのビジネスサイクルの最後のフェーズに入っているとみたほうがいい。
 それでもBYDは生き残れると思われる。なぜならば、BYDの強みは関連産業への多角化をずっと図っているからである。EV車の開発・生産のほか、空を飛ぶクルマの実用化を研究・開発を行っている。その事業はすぐに収益化しにくいが、政府が後押ししてくれている。もう一つのビジネスはモノレールの開発・生産である。これはすでに収益化しており、ブラジルなど海外からの受注にも成功している。このビジネスは「一帯一路」イニシアティブに合致するため、中国政府と国有銀行の資本注入を獲得することができる。問題はそれ以外のEVメーカーがこのまま途方に暮れ、多くは倒産を余儀なくされるだろう。
 EV車の将来性という議論の原点に立ち返って問題を掘り下げておこう。EV車が果たして環境にやさしいかどうかについて軽々に結論をつけることができない。中国のような電源構成の6割以上は石炭に頼っている国にとってEV車が増えるから環境にやさしいとは限らない。EV車を普及させ環境に配慮するならば、太陽光や風力などの割合を増やす必要がある。最近の内燃エンジン車やハイブリッド車などはEVに負けないぐらい環境基準をクリアしている。何よりも消費者がEV車を受け入れるかどうかは重要な課題である。EV車の将来性を疑うわけではないが、エネルギー構成の合理化をまず図らなければならない>(以上「現代ビジネス」より引用)




 柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員・静岡県立大学グローバル地域センター特任教授)氏が「まもなく中国EVに「大倒産の波」がやってくる…補助金だのみの「大躍進」が終わり「生き残れるのはBYDぐらい」の理由」と題して中国製EVの終焉を論評している。
 しかし柯隆氏の論評の「中国EV産業」に対する認識は余りに遅過ぎはしないだろうか。今年当初から中国製EVは欧州諸国で輸入制限が始まり、ドイツ政府に関しては電気自動車(EV)の一台当たり数十万円の購入補助制度を2023年12月18日までに打ち切った。当初は2024年末まで継続する予定だったが、独憲法裁判所が新型コロナ対策で使用しなかった予算の転用を憲法違反と判断した。

 それに伴い、中国から雪崩のように欧州諸国へ輸出されていた中国製EVは埠頭や港湾の沖合に投錨した自動車輸送船上に放置されていた。ドイツより遅れたがフランスでも2024年12月1日付の官報に「EV補助金打ち切り」が掲載され翌2日に施行された。 同政令により、(1)EVの乗用車新車購入とリース契約に対する環境報奨金を減額し、(2)個人や法人向け電気小型トラックに対する環境報奨金が廃止された。この他の欧州諸国もEV補助金に対しては似たような措置を講じた。
 アメリカは欧州諸国より遅れたが、トランプ氏が大統領に就任するとEV化政策を転換し、2025年2月8日に電気自動車(EV)充電器に対する連邦政府の助成金を停止する声明を出した。 ただ日本政府は中國EV企業に配慮しているのか現在まだEV補助金は打ち切られてなく、EV補助金申請受付終了期日が令和7年2月13日(木)とされている。 ただし1,291億円の予算が早期に使い切られた場合は、その時点で受付が終了する。

 このような世界各国の動きから中国製EVの世界販売に急ブレーキがかかり、中国EV企業の業績は2023年末から急速に悪化している。既に中国EV業界第一位のBYDですら遅配が始まり、大規模なレイオフが断行されているという。そして中国のEVメーカーで破産した会社は複数あるが、特に有名なのは奇点汽車、雷丁汽車、威馬汽車、そしてHiPhi(ヒューマン・ホライズンズ)などが上げられる。また、百度と吉利汽車が出資する極越汽車も経営破綻の危機に瀕しているという。
 中国経済の起死回生を期したEV各社が業績を急速に悪化させ、EV車の在庫の山を築いている。BYDに到っては在庫が1兆円あると云われているほどだ。柯隆氏は「生き残るのはBYDだけ」と記しているが、そのBYDすら企業経営は事実上破綻している。その規模からいって不動産業界の恒大集団の破産に匹敵するのではないかと云われている。

 引用した論評中で柯隆氏は「EV車の将来性という議論の原点に立ち返って問題を掘り下げておこう。EV車が果たして環境にやさしいかどうかについて軽々に結論をつけることができない」と書いているが、EVが環境に優しいというのはファンタジーでしかないということは明らかになっている。そしてエネルギー効率からいってもEVは内燃機関に劣ることも自然科学の観点から一次エネルギー利用(内燃機関)の方が二次エネルギー利用(EV)よりも勝るというのは自然科学の真理だ。
 CO2地球温暖化を唱える人たちにとっては不都合かも知れないが、CO2濃度がそれほど深刻な温暖化をもたらさない、と云うことは地球の歴史が証明している。光合成生物が誕生するまで、地球の大気中CO2濃度は約96%を占めていた時期もある。しかし地球は寒冷化して生物が生存できる環境となり光合成生物が誕生してCO2濃度は下がり、現在の地球の大気中CO2濃度は約0.035%となっている。CO2濃度が約96%あった灼熱地獄の原始地球から寒冷化したという事実は誰にも覆せない。つまり平均気温が20℃~25℃に寒冷化したから光合成生物が誕生してCO2濃度が暫時低下して現在の濃度になったのだ。繰り返すがCO2濃度が下がったから寒冷化したのではない。

 EV熱が冷めたのはEVの安全性と利便性が問われたからだ。もちろん高額な販売価格やレアアース掘削・精錬時の環境汚染も見逃せない。さらに間もなく大量廃棄されるリチウムイオン電池の処理・処分方法などは全く未解決のままだ。そうした負の遺産を残して、中国のEV企業はバタバタと破産している。その負の遺産と中共政府はどう向き合うのだろうか。向き合うこともなく、お家芸で地中に「埋める」のだろうか。それこそ地下水汚染と土壌汚染を未来に遺すことになるのか。

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