イイ紛争で原油価格が今以上に高騰したり世界が第三次世界大戦に突入することなど決してない。

慎重姿勢のアメリカ、積極攻勢のイスラエル
 イスラエルはイランが核爆弾15個を製造できる量の濃縮ウランを貯蔵していることを問題視し、イランの核開発関連施設や軍事施設など数十カ所を突如先制攻撃した。イスラエルのネタニヤフ首相は、攻撃対象はイランの核や弾道ミサイル開発だとし、「作戦は脅威がなくなるまで続く」と述べた。
 こうしたイスラエルの強硬姿勢を受けて、巷では第三次世界大戦につながるのではないかという心配の声も高まっているが、私は、それは完全に杞憂ではないかと思っている。
 今回の先制攻撃に先立ち、アメリカはヘグセス国防長官が中東各国に駐留する軍関係者の家族の自主的な出国を承認し、トランプ大統領も中東に駐留する米大使館職員らの退避が始まったことを認めていた。
 トランプ米大統領は、イランとの核交渉が失敗した場合はイランへの攻撃を辞さないとの警告を発しながらも、イスラエルのネタニヤフ首相に対しては、イランを攻撃しないよう繰り返し圧力をかけていた。
 ルビオ米国務長官は「今夜、イスラエルはイランに対する単独での行動に踏み切った。我々は対イラン攻撃に関与していない。我々の最優先事項は地域に派遣されている米軍を守ることだ」との声明を発表し、今回の攻撃はイスラエルが勝手にやったもので、アメリカは関与しないとの姿勢を示した。
 こうしたアメリカ側の姿勢から、今回のイスラエルの攻撃はアメリカが積極支援したものではないのは明らかだ。そこには、世界戦争のリスクをトランプ政権が感じていた可能性も否定はできない。この段階で中国が台湾侵攻に動いた場合に、米軍は台湾有事に対処できるのかという不安はあったのかもしれない。
 アメリカがウクライナとの戦争において、ロシアに対して煮えきらない態度を取っているのも、ロシアを刺激することでアメリカが核戦争に巻き込まれる事態は何としても避けなければならないとの考えがあるからだろう。
 だが、アメリカが慎重姿勢を示す中でもイスラエルが強硬姿勢に出ているのは、イスラエルはイラン側の国防能力が高くないことをよく理解していたからではないかと思う。
報復を行いたくとも
 昨年の7月31日に、イランのペゼシュキアン新大統領の宣誓式に出席するためにテヘランに宿泊していたハマスの最高指導者のハニヤ政治局長が暗殺される事件が起こった。イランイスラム革命防衛隊が厳重な警備を行っているはずの建物がいとも簡単に狙われて、イランにとって最重要の要人が暗殺されることを許してしまった。
 その後9月27日に、ヒズボラの最高指導者のナスララ師とイラン革命防衛隊のニールフォルシャーン准将がバンカーバスターによる地下構造物の破壊により殺害される事件もあった。
 これに対してイラン側は報復行動として180発の弾道ミサイルによってイスラエルを攻撃したが、イスラエル軍は弾道ミサイル防衛システム「アロー2(大気圏内)」、「アロー3(大気圏外)」によってその多くを迎撃し、イスラエルの受けた人的被害は死者1名にとどまった。
 イランがその受けた被害に見合った報復をイスラエルに対して行わなかったのは、行わなかったというよりも行えなかったと見るのが合理的だ。
 今回イスラエルが行った空爆に対して、イラン側の防空システムが作動した形跡は見られない。今回の攻撃に合わせて、イスラエルの諜報機関のモサドが、イラン国内で防空システムと長距離ミサイル施設への破壊工作を実施したと、タイムズ・オブ・イスラエルは報じた。
 当初の攻撃においてイスラエルは200機以上の軍用機を参加させ、330発以上の弾薬を投下した。

イランの甚大なダメージ
 イラン側が受けた損傷は大きい。イランの軍関係者では、モハマド・バゲリ・イラン軍参謀総長(イラン軍トップ)、ホセイン・サラミ・イランイスラム革命防衛隊司令官(革命防衛隊トップ)、ゴラム・ラシド統一戦闘司令部司令官、ハメネイ師の側近のアリ・シャムハニ・元イラン国家安全保障最高評議会書記、アミール・ハジザデ・イランイスラム革命防衛隊航空宇宙軍司令官ら、少なくとも20名のトップレベルの人材の死亡が確認された。
 これほど多くのトップレベル人材を一気に失ったのは、イスラエルの罠にまんまとハマり、ミーティングに集まってしまったからだ。イスラエルはその諜報能力の高さを今回もいかんなく発揮した。

核科学者についても既に9人の死亡が確認された。
 イラン中部にあるナタンズの核施設の防空システムは、設置されたレーダーの連携が取れないようになっていることは、イスラエル側にバレていた。この最重要施設への攻撃も、イスラエルにしてみれば容易だったのだ。
 イスラエルのネタニヤフ首相は「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した」と発言した。
 イラン国営テレビなども、イラン原子力庁の報道官の話として、イスラエルによる攻撃を受けたナタンズの核施設の内部で放射性物質か化学物質による汚染が発生しているようだと伝えており、ネタニヤフ発言を事実上認めている。
 イスラエルが持っているバンカーバスターは、米軍のバンカーバスターと比べると威力が弱く、地中深くにあるイランの核施設を攻撃するには弱いのではないかと見られていたが、実際にはかなりの効果を上げているようだ。

強気の発言をするものの
 こうしたイスラエルの攻撃に対して、イランの最高指導者ハメネイ師は「イスラエルは必ず報いを受けるだろう」と強気の発言を行っているが、実際にはそんな能力は恐らくない。
 イランは100機を超えるドローンをイスラエルに向けて飛ばしたとされるが、こうしたドローンはすでにイランを飛び立つ段階でイスラエル軍に確認され、全てイスラエルに到達する前に撃ち落とされた。イスラエル軍はこうしたドローンを撃墜する映像も公開している。
 ここで興味深いのは、サウジアラビアの放送局のアルアラビヤが、イランはこうしたドローンをイスラエルに向けて飛ばしたこと自体を否定していると報じたことだ。既に飛ばしたドローンがイスラエルに対して何らの脅威も与えなかったために、飛ばしたこと自体を否定せざるをえなくなったのではないか。
 その後、イランは極超音速ミサイルを含めた多くのミサイルを波状攻撃でイスラエルに打ち込み、私が確認しただけでも死者10名、負傷者200名ほど出した模様だ。極超音速ミサイル1発がイスラエルの軍本部に命中したとの報道もある。今後もこうした攻撃は繰り返されるのかもしれない。
 これらはもちろん決して小さい犠牲ではないが、それでもイスラエルが受けた被害は、イランが受けた被害ほど重いものではない。
 イランがミサイルを発射すると、ミサイルの発射地点をその都度イスラエルに伝えることになる。そこをイスラエルが叩けば、ミサイルの発射地点も徐々に潰されていくことになる。イランの波状的なミサイル攻撃がいつまでも続くものではないだろう。
 核兵器保有前のイランには大きな脅威はなく、今ならイランを叩けるとイスラエルは踏んだのではないか。
 イスラエルはハマスに壊滅的な打撃を与え、ヒズボラの戦力を潰し、シリアのアサド政権も潰えた。こうしたイランと深い関係を持ち、イランの軍事的支援を受けてイスラエルに脅威を与えるところがなくなった中で、いよいよ本丸のイランを潰しに出たということだろう。

「全てを失う前に取引しないといけない」けれど
 注目されるのは、イスラエルの最初の攻撃が行われた後のトランプ大統領の発言だ。トランプ大統領は攻撃が「非常に成功した」とし、「イスラエルを支持している」と表明した。そのうえでイランに対して「全てを失う前に取引しないといけない」と語った。
 攻撃前の中立的な姿勢から明らかにイスラエル寄りの姿勢に転じているのがわかるが、それはそれだけイスラエルの攻撃が高い効果を上げているからだろう。
 イランのミサイルによる攻撃に対して、トランプ政権はイスラエルの防空システムを支援する姿勢も見せた。
 トランプの「全てを失う前に取引しないといけない」との忠告は正しいだろうが、イランのハメネイ政権がこの屈辱的な状態で話し合いに応じることは考えにくい。
 かといって突っぱねても、イスラエルにどんどん攻め込まれ、イスラエルに対する攻撃能力はさらに下がっていくことになるだろう。そんな中、ろくすっぽ反撃もできない姿をさらけ出すことしかできないとなれば、ハメネイ政権の無力さは国内の反体制派を勢いづかせることになるのは確実だろう。
 イスラエルのネタニヤフ首相は、今回の軍事作戦がイラン国民が自由を掴み取る道を切り開くことになるのを願うとし、イランの体制転換に期待を示した。これに呼応するように、イーロン・マスクは、イランの体制側がイラン国民のネット接続を許さないなら、イラン上空で衛星によるインターネットサービスであるスターリンクを使えるようにすると発言した。
 軍トップが根こそぎ命を奪われた中で、イラン体制内の動揺は明らかに大きい。革命一歩手前まで進んでいながら、コロナの蔓延で一旦沈静化したイランの反体制運動が、この機に再び盛り上げることも見えてきたと言えるだろう>(以上「現代ビジネス」より引用)




イスラエルがついにイラン核施設を徹底攻撃~それでも第三次世界大戦は杞憂と言い切れる理由」と題する朝香 豊(経済評論家)氏の論評が掲載された。マスメディアは第三次世界大戦になるのではないかと大騒ぎしているが、朝香氏はそうならないと見通しを述べている。私も朝香氏の見解に同意する。
 なぜならイランがイスラエルと比べて防空能力が格段に劣るからだ。イスラエルのミサイル攻撃で核開発施設の中核をなすウラン濃縮設備などが破壊され、革命軍司令官や将校などがミーティングしていた建物がミサイル攻撃されて司令官を含む20名が殺害された。これは容易ならざる事態だ。

 なぜならイランのミサイル攻撃に対する防空体制が全く役立っていないことと、核開発施設の位置や防空体制や革命軍の動向がイスラエルに筒抜けだという証だ。それに対して、イランのイスラエルに対するミサイル攻撃は多くが「アイアンドーム」によって迎撃され、わずかに着弾したミサイルにより民間施設が破壊されただけだ。
 もちろんイランはロシアに供与しているご自慢の攻撃ドローンをイランから雲霞の如く発出したが、それらはイスラエルに到達する前にすべて撃墜された。そうした第一波の攻守を分析して、トランプ氏はイランに「全てを失う前に取引しないといけない」と忠告した。イスラエル攻撃するミサイルを発射すると、イスラエルはイランが発射したミサイル基地を特定して、その基地をミサイルで破壊している。だから「全てを失う前に取引しないといけない」とイランを脅したのだ。

 イランの最高指導者ハメネイ師がトランプ氏やプーチンの仲介を簡単に受け入れるとは思えない。なぜなら独裁者は譲歩した段階でカリスマ性を失い最高指導者の地位から転落するからだ。それに対して「イスラエルのネタニヤフ首相は、今回の軍事作戦がイラン国民が自由を掴み取る道を切り開くことになるのを願うとし、イランの体制転換に期待を示した」という。
 イランの最高権力者にハメネイ師がいる限り、対イスラエル敵視戦略を改めることはないだろう。なぜならハメネイ師がイスラム教を政権の拠り所にしている限り、異教徒のイスラエルと敵対しなければならないからだ。

 イラン国内情勢は「軍トップが根こそぎ命を奪われた中で、イラン体制内の動揺は明らかに大きい。革命一歩手前まで進んでいながら、コロナの蔓延で一旦沈静化したイランの反体制運動が、この機に再び盛り上げることも見えてきたと言える」のようだから、ハメネイ師は短期決着を目指さなければならない。さもなくばイラン国内で反体制運動が盛り上がりかねない。
 なんとか独裁者の大命を保ちつつ、ハメネイ師は停戦協議を開始しなければ足元から火の手が上がりかねない。イスラエルにミサイルの波状攻撃を繰り返せるのもイランのミサイル基地が破壊され尽くすまでだ。イスラエルはイランのミサイル基地を潰していけば良いだけだ。今回のイスラエル-イラン紛争の終着点は既に見えている。原油価格が今以上に高騰したり世界が第三次世界大戦に突入することなど決してない。

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