イスラエル-イラン紛争の見通しは「長期」か「短期」か。
<<習近平はイスラエルを非難し、双方の即時停戦を呼び掛けているが>
イスラエルとイランの紛争がより広範な地域戦争に発展する恐れが高まる中、中国の中東依存のエネルギー供給が深刻な混乱に直面する可能性がある。
中国経済の規模は19兆ドルに上るが、製造業を支えるために石炭、天然ガス、原油に大きく依存している。ロンドンに拠点を置くエネルギー研究機関によると、中国は2024年に世界最大のエネルギー消費国であり、アメリカに次ぐ世界第2位の石油消費国であった。
イスラエルは6月13日から、イランの核計画に関係する施設を含む複数の拠点を対象に空爆を行っているが、現在イランのエネルギー輸出インフラは攻撃を受けていない。
ただ、戦闘が激化すれば状況は一変する可能性がある。アメリカの軍事介入に対してイランが戦略的要衝ホルムズ海峡の封鎖で応じるのではないかという懸念が高まっているのだ。
中国の公式統計を見る限り、2024年に中国はイランから石油を輸入していないとされている。しかし、研究者たちは、非公式な手段で輸送されたイラン産の石油が、中国の中小製油所などに輸出されていると指摘している。西側諸国もこれには気付いており、アメリカは制裁に反してイランの秘密裏の石油取引を支援しているとされる中国企業に制裁を科している。
ベルギーに本社を置く貿易分析会社Kplerによると、制裁対象となっているために安価なイラン産原油の90%以上が中国に向かっており、その多くはマレーシアなどの転送地点を経由しているという。中国のエネルギー輸入先を見ると、輸入先はペルシャ湾周辺に位置する国が多く、石油の輸入先に至っては10カ国のうち6カ国がペルシャ湾周辺に集中している。
「イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメージが大きい」理由...世界経済への影響を分析」と題する論評が目に付いた。「イイ紛争は米国にとってマイナス」論が多い中、中国にとってマイナスが大きい、とは正鵠を得ている。
イスラエルとイランの紛争がより広範な地域戦争に発展する恐れが高まる中、中国の中東依存のエネルギー供給が深刻な混乱に直面する可能性がある。
中国経済の規模は19兆ドルに上るが、製造業を支えるために石炭、天然ガス、原油に大きく依存している。ロンドンに拠点を置くエネルギー研究機関によると、中国は2024年に世界最大のエネルギー消費国であり、アメリカに次ぐ世界第2位の石油消費国であった。
イスラエルは6月13日から、イランの核計画に関係する施設を含む複数の拠点を対象に空爆を行っているが、現在イランのエネルギー輸出インフラは攻撃を受けていない。
ただ、戦闘が激化すれば状況は一変する可能性がある。アメリカの軍事介入に対してイランが戦略的要衝ホルムズ海峡の封鎖で応じるのではないかという懸念が高まっているのだ。
中国の公式統計を見る限り、2024年に中国はイランから石油を輸入していないとされている。しかし、研究者たちは、非公式な手段で輸送されたイラン産の石油が、中国の中小製油所などに輸出されていると指摘している。西側諸国もこれには気付いており、アメリカは制裁に反してイランの秘密裏の石油取引を支援しているとされる中国企業に制裁を科している。
ベルギーに本社を置く貿易分析会社Kplerによると、制裁対象となっているために安価なイラン産原油の90%以上が中国に向かっており、その多くはマレーシアなどの転送地点を経由しているという。中国のエネルギー輸入先を見ると、輸入先はペルシャ湾周辺に位置する国が多く、石油の輸入先に至っては10カ国のうち6カ国がペルシャ湾周辺に集中している。
原油の輸送にとってのチョークポイント、ホルムズ海峡
本誌が貿易統計を調べたところ、2024年の中国にとって最大の石油輸入先は隣国のロシアだった。しかし、サウジアラビア、イラク、オマーン、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールといった中東諸国からの輸入量を合算すると、中国の石油輸入全体の過半数を占めていた。
一方、アメリカは原油の大部分をカナダから輸入していた。サウジアラビアとイラクもアメリカにとっての上位10カ国の供給国に含まれていたが、輸入全体に占める割合は約8%に過ぎなかった。
エネルギー市場は神経質になっている。ドナルド・トランプ米大統領が6月17日、イランに対して「無条件降伏」を要求したことにより原油価格は上昇。もしイランがペルシャ湾とオマーン湾、インド洋全体を結ぶ要衝であるホルムズ海峡を封鎖した場合、原油価格はさらに急騰する可能性がある。
アメリカエネルギー情報局(EIA)の推定によると、幅34キロしかない狭いホルムズ海峡では、1日あたり最大2000万バレルの原油が輸送されている。
イスラエルとイランの衝突以降、原油価格は依然として上昇を続けている。アメリカの価格指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油は1バレル76ドルを超え、5カ月ぶりの高値を記録した。国際的な指標であるブレント原油も1バレル77ドルに達し、4カ月ぶりの高値となった。
この地域からの供給網が遮断される大規模な紛争が発生すれば、世界経済に衝撃を与え、原油価格は1バレル100ドルを超える可能性がある。この水準は、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年3月に最後に記録されたものである。
本誌が貿易統計を調べたところ、2024年の中国にとって最大の石油輸入先は隣国のロシアだった。しかし、サウジアラビア、イラク、オマーン、アラブ首長国連邦、クウェート、カタールといった中東諸国からの輸入量を合算すると、中国の石油輸入全体の過半数を占めていた。
一方、アメリカは原油の大部分をカナダから輸入していた。サウジアラビアとイラクもアメリカにとっての上位10カ国の供給国に含まれていたが、輸入全体に占める割合は約8%に過ぎなかった。
エネルギー市場は神経質になっている。ドナルド・トランプ米大統領が6月17日、イランに対して「無条件降伏」を要求したことにより原油価格は上昇。もしイランがペルシャ湾とオマーン湾、インド洋全体を結ぶ要衝であるホルムズ海峡を封鎖した場合、原油価格はさらに急騰する可能性がある。
アメリカエネルギー情報局(EIA)の推定によると、幅34キロしかない狭いホルムズ海峡では、1日あたり最大2000万バレルの原油が輸送されている。
イスラエルとイランの衝突以降、原油価格は依然として上昇を続けている。アメリカの価格指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油は1バレル76ドルを超え、5カ月ぶりの高値を記録した。国際的な指標であるブレント原油も1バレル77ドルに達し、4カ月ぶりの高値となった。
この地域からの供給網が遮断される大規模な紛争が発生すれば、世界経済に衝撃を与え、原油価格は1バレル100ドルを超える可能性がある。この水準は、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年3月に最後に記録されたものである。
中国は最悪の事態を想定し動き始めている
中国政府は最悪の事態を想定しているようだ。ロイターによれば、中国は輸入・国内生産量の一部を製油せずに備蓄に回すことで、原油在庫を積み増しているという。本誌は中国外交部にコメントを求めているが、回答はまだ得られていない。
また、中東での混乱は、世界有数のエネルギー輸出国であるロシアにとっては直接的な利益にもなりうる。
「イスラエルによるイラン攻撃の開始とともに原油価格は急騰した。これは、石油市場がリスクの増大を認識していることを示している。しかし、世界経済への影響について具体的な判断を下すのは時期尚早だ」と、米ランド研究所のハワード・J・シャッツ上級エコノミストは指摘する。
「今後の判断材料として注視すべき2つのファクターがある。第1に、イランが湾岸アラブ諸国の石油インフラを攻撃するかどうか。第2に、ホルムズ海峡の通航が遮断されるかどうか。このいずれか、あるいは両方が発生すれば、エネルギー価格はさらに高騰し、世界的不況のリスクが高まる。一方で、どちらも発生しなければ、リスクは高まるものの、世界は比較的穏やかな価格上昇に適応可能であり、世界経済は少し鈍化する程度で済む」
世界の指導者たちは、中東における緊張緩和に向けて動き出している。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日に電話会談を行い、イランへの空爆により緊張を激化させたとしてイスラエルを非難した。
中国国営の新華社通信によると、習は「もしこの紛争がさらにエスカレートすれば、交戦当事者のみならず、中東諸国も甚大な被害を受ける」と述べた。
「特にイスラエルを含む関係各国は、事態のさらなる悪化を防ぐため、即時停戦を実現し、戦争の波及を断固として回避すべきである」>(以上「Newsweek」より引用)
中国政府は最悪の事態を想定しているようだ。ロイターによれば、中国は輸入・国内生産量の一部を製油せずに備蓄に回すことで、原油在庫を積み増しているという。本誌は中国外交部にコメントを求めているが、回答はまだ得られていない。
また、中東での混乱は、世界有数のエネルギー輸出国であるロシアにとっては直接的な利益にもなりうる。
「イスラエルによるイラン攻撃の開始とともに原油価格は急騰した。これは、石油市場がリスクの増大を認識していることを示している。しかし、世界経済への影響について具体的な判断を下すのは時期尚早だ」と、米ランド研究所のハワード・J・シャッツ上級エコノミストは指摘する。
「今後の判断材料として注視すべき2つのファクターがある。第1に、イランが湾岸アラブ諸国の石油インフラを攻撃するかどうか。第2に、ホルムズ海峡の通航が遮断されるかどうか。このいずれか、あるいは両方が発生すれば、エネルギー価格はさらに高騰し、世界的不況のリスクが高まる。一方で、どちらも発生しなければ、リスクは高まるものの、世界は比較的穏やかな価格上昇に適応可能であり、世界経済は少し鈍化する程度で済む」
世界の指導者たちは、中東における緊張緩和に向けて動き出している。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日に電話会談を行い、イランへの空爆により緊張を激化させたとしてイスラエルを非難した。
中国国営の新華社通信によると、習は「もしこの紛争がさらにエスカレートすれば、交戦当事者のみならず、中東諸国も甚大な被害を受ける」と述べた。
「特にイスラエルを含む関係各国は、事態のさらなる悪化を防ぐため、即時停戦を実現し、戦争の波及を断固として回避すべきである」>(以上「Newsweek」より引用)
「イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメージが大きい」理由...世界経済への影響を分析」と題する論評が目に付いた。「イイ紛争は米国にとってマイナス」論が多い中、中国にとってマイナスが大きい、とは正鵠を得ている。
なぜなら米国にとってマイナスは中国にとってプラスであり、米国にとってプラスは中国にとってマイナスだからだ。イイ紛争はイランにとって圧倒的な「負け戦」であって、いかなる勝利も決して手に出来ない。
イランが紛争当事者になればホルムズ海峡封鎖があり得るのではないか、という観測は常に出る。かつてイラクとイランが戦火を交えた時にも、ホルムズ海峡をイランが封鎖するの出来ないか、と騒ぎ立てた評論家がいた。当時、私は決してそんなことはない、と断言した。今回もイランがホルムズ海峡を封鎖することは決してない、と断言する。
なぜならイラン原油の主要な手段は海上輸送だからだ。もちろんLPGと原油はイランにとって主要な収入源だ。それなくしてハメネイ師が「暖衣飽食」することも、ヒズボラやハマス、シーア派などのテロ集団に支援することも出来ない。「油断」はイランにとって考えられないことだ。
イスラエルもイランの軍事基地や核開発施設を攻撃しているが、原油施設や輸送基地は攻撃していない。イスラエルがそうした節度ある攻撃をしているのは評価できる。だから引用論評が「イスラエルとイランの衝突以降、原油価格は依然として上昇を続けている。アメリカの価格指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油は1バレル76ドルを超え、5カ月ぶりの高値を記録した。国際的な指標であるブレント原油も1バレル77ドルに達し、4カ月ぶりの高値となった。
この地域からの供給網が遮断される大規模な紛争が発生すれば、世界経済に衝撃を与え、原油価格は1バレル100ドルを超える可能性がある」と騒ぎ立てているは節度ある論評とは云えない。なぜならウクライナがロシアの石油基地を攻撃したのを引き合いに出して論じるのが間違っているからだ。 ウクライナは侵略したロシア軍をウクライナ領内から追い出す必要がある。だからロシア軍の兵站を攻撃し、石油基地を攻撃して機動部隊の足を止める必要がある。しかしイスラエルは直接イラン軍に攻め込まれたわけではない。しかもイスラエルはイラン全土を手中に収めようとも考えていない。
ただイラン革命政府と独裁者ハメネイ師を倒せば良いだけだ。独裁体制を打倒してイランを民主化できれば上出来だろう。だからイスラエルはイランの攻撃目標を広げる必要はない、というより限定的な攻撃に終始すると見る方がマトモではないか。中東に戦火が拡大して、中東原油が途絶する、というのは誇大妄想狂も甚だしい。
中国はイランから大量に原油を輸入しているが、現在では備蓄に回しているという。周知のように中国経済は崩壊過程にあって、原油消費も対前年比で落ち込んでいると思われる。世界最大の原油輸入国が原油消費を減らしているから、原油市場では原油はダブつき気味だ。しかし産油国にもそれぞれの「お家の事情」があって協調減産がなかなか実現しない。
今後の原油価格の推移だが、引用文中で米ランド研究所のハワード・J・シャッツ上級エコノミストは「今後の判断材料として注視すべき2つのファクターがある。第1に、イランが湾岸アラブ諸国の石油インフラを攻撃するかどうか。第2に、ホルムズ海峡の通航が遮断されるかどうか。このいずれか、あるいは両方が発生すれば、エネルギー価格はさらに高騰し、世界的不況のリスクが高まる。一方で、どちらも発生しなければ、リスクは高まるものの、世界は比較的穏やかな価格上昇に適応可能であり、世界経済は少し鈍化する程度で済む」と予測しているようだ。私は前者ではなく、後者の予測を支持する。イランが湾岸アラブ諸国の石油インフラを攻撃して破壊したとして、イランが国際的に孤立するだけで手にするものは何もないからだ。
ハメネイ師は自身の立場を死守し、独裁体制を守るためにイイ紛争の早期終結を望むだろう。イスラエルはイランの民主化を求めるだろうがイランの民主化はイラン国民に望みを託して、核施設の破壊で妥協して紛争を終結するだろう。
イスラエルにすればイラン攻撃の最低目的「イランがハマスやヒズボラ、シーア派などテロ集団への支援を止める」を達成すれば良いわけだ。テロ集団は資金源を断たれれば活動が沈静化するから、イスラエルの安全は守られることになる。よってハメネイ師次第だが、今回のイイ紛争は「短期」で終息すると思われる。