舛添氏の「中国サマサマ」論評を発表する動機は何なのか。

トランプ大統領の関税攻勢の最大の対象は中国である。軍事、経済など、あらゆる分野で、中国は国力を増しており、アメリカに迫り、追い越している。それに危機感を抱いたトランプは、中国の力を殺ぐことに懸命だ。しかし、狙い通りの成果を上げていない。なぜか。

中南米は中国へ期待を高める
 私は、昨年末に訪中し、中国の要人とも会ったが、丁薛祥副首相ら中国政府の幹部は、トランプ大統領の誕生を見越して、1年前から周到に対策を準備してきたと述べた。それは、貿易相手国の拡大、先端技術製品の自力開発など様々である。
 2017年に発足した第一次トランプ政権でも、米中貿易戦争が繰り広げられたが、その苦い体験から、大豆輸入などの対米比率を下げてきた。
 今回も、中国は、アメリカへの対抗措置として、大豆やトウモロコシの輸入を停止した。その代替となるのが南米である。ブラジルから大豆、アルゼンチンから大豆、トウモロコシ、植物油を購入するなど、事前の準備の成果があらわれている。
 5月13日には、北京で、中南米・カリブ海諸国33ヵ国から成る「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)」と中国との閣僚会合が開かれた。閣僚会合にもかかわらず、ブラジルのルラ・ダルシバ大統領、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領、チリのガブリエル・ボリッチ大統領が参加したが、中南米側の期待の大きさを物語っている。
 習近平主席は、この地域の発展のためとして、660億元(約1兆3600億円)の融資枠を設定、さらには中南米産品の輸入拡大を表明した。2000年と比べて、この地域と中国との貿易額は40倍に増えている。
 4月中旬には、習近平は、ベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪し、貿易や投資の拡大を図っている。

米の規制強化は逆効果だった
 AIのディープシークの開発成功は、その低開発コストで世界を驚かせた。中国共産党幹部も、先端技術開発に全力を挙げていることを私に力説した。
 第一次トランプのときに、アメリカやその同盟国から締め出しを食らった華為(ファーウェイ)は、半導体を自社開発するなど、自力で再生する努力を重ねて見事に復活した。自前でAI基盤を開発するところまで行っている。
 ファーウェイは、アメリカの制裁対象となった2019年以降に中国の半導体関連60社以上に出資し、国内で独自のサプライチェーンを築いたのである。
 また、スマートフォン大手の小米(シャオミ)は、回路線幅3ナノメートル先端半導体の開発に成功している。
 これらの例を見ると、アメリカによる規制が逆効果だったことがよく分かる。

レアアースは中国の独壇場に
 レアアースもまた、トランプ関税への強力な対抗手段となっている。
 レアアースとは、鉱物から抽出される金属のうち、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プロメチウムなど17元素である。現代の先端技術産業には不可欠で、たとえば、これを使って作る強力な磁石は、EVのモーター、風力発電の発電機に使われている。その他、スマホ、ロボット、医療機器、戦闘機や原子力潜水艦や駆逐艦などの兵器などに広く用いられている。
 中国は、4月4日から、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種類の輸出規制を始めた。これらのレアアースは、ほぼ100%を中国が加工している。
 これが効果を現して、5月14日、トランプ政権は、対中追加関税145%を115%引き下げた。
 中国のレアアース輸出規制で、日本の自動車メーカーのスズキも、5月26日に小型車「スイフト」の生産を停止する羽目になっている。
 1980年代には、レアアース生産で、アメリカが世界の3分の1を占めていたが、その後は、中国の独壇場となっていった。今では、採掘で62%、精錬で83%、リサイクルで97%を中国が占めている。
  この中国の独占的な地位が、外交交渉でも武器として活用されている。2010年に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の船に衝突し、船長が逮捕されたが、それに反発した中国は、レアアース輸出規制を行った。それには世界中が困り、日本、アメリカ、EUがWTOに提訴したため、中国は規制措置を撤廃した。
 しかし、それから15年が経過し、中国の国力が相対的に増大し、しかもトランプはWTOへの拠出金支払いを留保したり、脱退を仄めかしたりするなど、この国際機関を軽視している。そこで、WTO提訴を解決手段としては使わないだろう。それだけに、レアアースの輸出規制は、以前よりも遙かに大きなインパクトを持つ。
 日本は、2010年の教訓から加工技術の発展に邁進してきたが、アメリカ、カナダ、ブラジル、オーストラリアなども同様な努力を開始している。
 トランプがグリーンランドを領有したいと述べたり、ウクライナの鉱物資源を入手しようとしたりしているのは、レアアースを獲得しようとしているからである。
 5月12日の米中高官級交渉と、6月5日の首脳の電話会談を機に、中国は、レアアースの対米輸出を一部許可した。しかし、アメリカは、それでは十分ではないとしている。

造船や原発でもアメリカは敗北
 レアアースのみならず、造船の分野でもアメリカのシェアはゼロに近い。2023年の統計を見ると、世界の造船量に占めるシェアは、中国が50.7%、韓国が28.3%、日本が15.4%で、アメリカは0.1%である。
 中国は、軍艦も大量に建造しており、急速に海軍力を拡充させて、アメリカに追いつき、追い越そうとしている。2022年の海軍の艦船数は、中国が351隻で、アメリカの294隻を上回った。
 1980年代以降に、アメリカの造船業は衰退していったが、トランプは、3月の施政方針演説で、アメリカの造船業を復活させると述べている。そして、それを促進させるために、米国外で建造された自動車運搬船に10月から入港料を課すという。
 自動車をアメリカに輸出している日本にとっては、関税と同じような影響を及ぼす。3年以内にアメリカで運搬船を建造する計画があれば、入港料は免除されるが、そもそもアメリカに建造能力があるのだろうか。
 トランプ関税とのディール(取引)で、日本や韓国が、造船業におけるアメリカへの協力を提案するのも、現在の米造船界の惨状を前提にしている。
 原子力発電についても、中国は、世界一を目指している。4月に、中国政府は、5カ所10基の原発建設プロジェクトを認可した。2024年末時点で、57基の原発が稼働しており、発電容量は5976万キロワットで、アメリカ、フランスに次いで世界3位である。2030年には1億1000万キロワットに達し、世界一となる。
 全ての産業を自国で保持するような自給自足体制は、今の世界では無理である。自由貿易体制の下では、それぞれの国が得意分野で生産し、それを輸出して得た資金で必要なものを外国から輸入するという相互依存関係のネットワークが機能する。
 トランプのアメリカ第一主義は、期待した結果をもたらさないのみならず、アメリカの衰退を早めることになる>(以上「現代ビジネス」より引用)




 またしても舛添 要一(国際政治学者)氏の奇想天外な「対アメリカ、4勝0敗で中国の勝ち…習近平に「トランプの関税攻勢」がまるで効かない理由」と題する論評を引用した。なぜなら日本がどれほど表現の自由を保障している国かを世界に示したかったからだ。
 舛添氏は引用文中でも書いているように「私は、昨年末に訪中し、中国の要人とも会った」日本人でも稀有な評論家だ。たとえば私が訪中すれば、おそらく空港に到着した段階で身柄を拘束されるだろう。なぜなら中共政府当局にとって好ましくない論評をブログで書き続けてきたからだ。中共政府は私のような小者でも、しっかりとチェックしている。

 だが、舛添氏は中国を訪問しただけではなく「要人と面会した」という。中共政府が並々ならぬ配慮を舛添氏にしている証拠だ。だから舛添氏が発表する現在の中国に関する論評は全く的外れだと云わざるを得ない。正鵠を得た論評を書く日本人評論家を中国政府要人が持て成すことなど考えられないからだ。
 そうした予備知識を確認した上で、舛添氏の論評を一読して頂きたい。現在の中国に対する何とも滑稽な現状認識が随所に見られて驚くだろう。私は6月9日付の「世界を敵に回すトランプ関税は間違っている、トランプ氏は同盟国と連携すべきだ」と題するブログで2010年に中国からレアアース禁輸措置を課された時の経験からレアアース禁輸措置に対する打開策を研究開発してきたことを紹介している。米国政府はとっくの昔から中国の対米レアアース禁輸措置を見越して、対策を講じているはずだ。そうした予測すらしないで「米国は中国のレアアース禁輸措置で音を上げるだろう」と見下すのは見当違いも甚だしい。

 確かに米国は金融屋が支配している間に「重厚長大」の製造業が弱体化した。かつて世界に冠たる11隻もの巨大空母を建造した造船大国も往時の面影はない。いや造船だけではない。繊維産業や半導体産業など、かつて米国の独壇場だった製造業が次々と凋落し、当時は「日本がノシて来たからだ」と日本を悪者に仕立てて日本叩きを行った。そして日本の繊維産業を潰し、造船業を潰し、半導体産業を潰した。しかし、米国の繊維産業や造船業界や半導体産業が蘇ることはなかった。
 その代わり米国を席巻したのは金融工学なるイカサマ・ジャンク債投資で、ついにはリーマンショックを起こして世界中に迷惑を掛けた。それで投機家たちは懲りたのかと思いきや、DSとしてマスメディアを支配し政党を支配して米国を背後から仕切っている。トランプ氏はそうした米国社会の構造を破壊すべく辣腕を振るっているが、準備期間も人材招聘も不十分だ。

 ただ舛添氏が論述している内容は概ね現状の逆だ。「中南米は中国へ期待を高める」どころか中国が仕掛けた「投資の罠」に気付いて離反している。「米の規制強化は逆効果だった」ならば、秘かに英国などで米中両国の実務者がトランプ関税の関する協議を重ねることなどないだろう。さらに「レアアースは中国の独壇場に」と中国最大のカードも日本などの技術力の前に無力化しつつある。米国が中国のレアアース・カードに恐れをなして譲歩するとは思えない。
 また「造船や原発でもアメリカは敗北」に関しては事実だが、同盟国に協力を仰げば総合力で米国の方が中国に勝るのは誰の目にも明らかだ。最新鋭の米海軍艦艇の建造を米政府は日本の造船企業に発注している。建造船腹の量では中国造船業は圧倒的だが、その質においては日本の足元にも及ばない。そもそも中・韓の造船技術はかつて日本が米国から造船ドック数の削減を強要された際に中・韓に活路を求めて技術移転させたものだ。中・韓の造船業界の技術水準は三十年も前の日本から技術移転した当時のままだ。だから世界各国は高品質な船の建造に関しては日本へ発注している。

 米国には信頼できる同盟国が世界中にある。だから総合力では依然として超大国のままだ。経済崩壊しつつある中国とは比べ物にならない。そして中国社会は「世界の工場」から「世界の廃墟」に転落し、金融崩壊も銀行破産の段階まで進行し政情不安定になっている。習近平氏は名目だけの「主席」となって、中南海の自宅に軟禁されているという。中共は中国共産党理一党独裁体制を守るために胡錦涛派が主導する集団指導体制に移行したとみられている。
 しかし崩壊する中国社会に適切な処方箋を示すことが出来るだろうか。最後はすべての責任を習近平氏に負わせ、公開処刑さながらに裁判劇を繰り広げて投獄して中国民の留飲を下げようとするのではないか。しかし政治劇を見たところで中国民の飢えた腹が満たされるわけではない。再び先進自由主義諸国に支援を求めても、どの国も暖かい手を差し伸べることはないだろう。なぜなら彼らの所業が余りにも酷かったからだ。温和な日本国民ですら大半の者が中国に対して反感しか抱いていない。舛添氏も中国贔屓が過ぎると贔屓の引き倒しになりかねない。そろそろ現実の中国に目を向けた方が良いのではないか。

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