中国社会を直撃するトランプ関税。
<疑わしい時にはブロック体の大文字を使うといい。
ドナルド・トランプは13日、「NOBODY is ‘getting off the hook’(誰も『難を逃れる』ことはない」と投稿した。これは米国がスマートフォンと家電製品を関税の対象から除外することを明らかにした先の発表への紛らわしい追加説明だった。
この適用除外自体が、中国からのすべての輸入品に145%の「相互関税」をかけると発表した前週の政策からの転換だった。そして、この政策自体が、ほんの数日前に発表された関税率を劇的に引き上げる内容だった。読者の皆さんは話についていけているだろうか。
「米中貿易戦争、習近平がドナルド・トランプより強い切り札を持っているワケ」と題してギデオン・ラックマン(英国人ジャーナリスト)氏がトランプ関税の趨勢を「習近平氏有利」と分析している。
ドナルド・トランプは13日、「NOBODY is ‘getting off the hook’(誰も『難を逃れる』ことはない」と投稿した。これは米国がスマートフォンと家電製品を関税の対象から除外することを明らかにした先の発表への紛らわしい追加説明だった。
この適用除外自体が、中国からのすべての輸入品に145%の「相互関税」をかけると発表した前週の政策からの転換だった。そして、この政策自体が、ほんの数日前に発表された関税率を劇的に引き上げる内容だった。読者の皆さんは話についていけているだろうか。
米中が繰り広げる関税ポーカーゲーム
成り行きをそれとなく見守っている人は、関税政策のこうした唐突な変更はホワイトハウスのカオスの証拠だと考えるかもしれない。
トランプファンの考えは違う。金融界の大物のビル・アックマンは以前の唐突なUターンを「鮮やかに実行された・・・教科書通りのディールの技巧」と称賛した(編集部注:『The Art of the Deal』はトランプ自伝の原題)。最も熱心なトランプ支持者は相変わらず、大統領は手練れの戦略家だと主張している。 そうではないと言う人は「トランプ錯乱症候群(TDS)」を患っていると批判される恐れがある。残念ながら、筆者はまだTDSに侵されている(ワクチンは禁止された)。
熱に浮かされた筆者の頭で考える限り、トランプは中国を相手に繰り広げている関税ポーカーゲームで、自分が持っていると考えていたカードよりはるかに弱い手札しか持っていない。
トランプがこれをはっきりと認めるのに時間がかかればかかるほど、トランプ自身と米国が失うものが大きくなっていく。
トランプとその配下の「貿易戦士」が起点とするのは、関税をめぐる紛争では中国が自動的に不利な立場に置かれるという想定だ。財務長官のスコット・ベッセントは、中国は「2のペアで勝負している・・・(中略)我々が向こうに輸出しているものは向こうが輸出してくるものの5分の1に過ぎないため、これは相手にとって不利な手札だ」と主張した。
成り行きをそれとなく見守っている人は、関税政策のこうした唐突な変更はホワイトハウスのカオスの証拠だと考えるかもしれない。
トランプファンの考えは違う。金融界の大物のビル・アックマンは以前の唐突なUターンを「鮮やかに実行された・・・教科書通りのディールの技巧」と称賛した(編集部注:『The Art of the Deal』はトランプ自伝の原題)。最も熱心なトランプ支持者は相変わらず、大統領は手練れの戦略家だと主張している。 そうではないと言う人は「トランプ錯乱症候群(TDS)」を患っていると批判される恐れがある。残念ながら、筆者はまだTDSに侵されている(ワクチンは禁止された)。
熱に浮かされた筆者の頭で考える限り、トランプは中国を相手に繰り広げている関税ポーカーゲームで、自分が持っていると考えていたカードよりはるかに弱い手札しか持っていない。
トランプがこれをはっきりと認めるのに時間がかかればかかるほど、トランプ自身と米国が失うものが大きくなっていく。
トランプとその配下の「貿易戦士」が起点とするのは、関税をめぐる紛争では中国が自動的に不利な立場に置かれるという想定だ。財務長官のスコット・ベッセントは、中国は「2のペアで勝負している・・・(中略)我々が向こうに輸出しているものは向こうが輸出してくるものの5分の1に過ぎないため、これは相手にとって不利な手札だ」と主張した。
トランプのロジックに欠点、値上げで苦しむのは米国人
トランプとベッセントのロジックに潜む欠点は、アダム・ポーゼンがフォーリン・アフェアーズ誌に寄せた最近の論文で明快に説明されている。
ポーゼンが指摘するように、中国の対米輸出が米国の対中輸出よりはるかに大きいという事実は、実は中国にとって力の源泉であって、弱みではない。米国は慈善心で中国から製品を買っているわけではない。米国人は中国が生産するものを欲しがっている。このため、そうした製品の値段が大幅に高くなったり、店頭の棚から完全に消え去ったりすれば、苦しむのは米国人だ。
スマートフォンをめぐる苦悩が持つ重要な意味は、トランプがついに、常々否定してきたことを明確に認めざるを得なくなったことだ。つまり、関税を払うのは輸入企業であって、輸出企業ではないということだ。米国で販売されているスマホの半数以上はアップルのiPhoneで、そのうち80%が中国で生産されている。米国人はiPhoneが2倍に値上がりしたら声高に文句を言うだろう。トランプの言う「解放記念日」はスマホからの解放を意味するはずではなかった。携帯電話とコンピューター機器は、関税で譲歩する品目の最も明白な候補だ。これらは特殊な例ではない。
世界のエアコンの約80%、そして米国が輸入している扇風機の4分の3が中国で生産されているため、トランプは今年の夏が猛暑でないことを祈らなければならない。ホワイトハウスは間違いなく、クリスマスまでに貿易戦争が終わっていることを願うだろう。米国が輸入している人形と自転車の75%も中国製だからだ。
トランプとベッセントのロジックに潜む欠点は、アダム・ポーゼンがフォーリン・アフェアーズ誌に寄せた最近の論文で明快に説明されている。
ポーゼンが指摘するように、中国の対米輸出が米国の対中輸出よりはるかに大きいという事実は、実は中国にとって力の源泉であって、弱みではない。米国は慈善心で中国から製品を買っているわけではない。米国人は中国が生産するものを欲しがっている。このため、そうした製品の値段が大幅に高くなったり、店頭の棚から完全に消え去ったりすれば、苦しむのは米国人だ。
スマートフォンをめぐる苦悩が持つ重要な意味は、トランプがついに、常々否定してきたことを明確に認めざるを得なくなったことだ。つまり、関税を払うのは輸入企業であって、輸出企業ではないということだ。米国で販売されているスマホの半数以上はアップルのiPhoneで、そのうち80%が中国で生産されている。米国人はiPhoneが2倍に値上がりしたら声高に文句を言うだろう。トランプの言う「解放記念日」はスマホからの解放を意味するはずではなかった。携帯電話とコンピューター機器は、関税で譲歩する品目の最も明白な候補だ。これらは特殊な例ではない。
世界のエアコンの約80%、そして米国が輸入している扇風機の4分の3が中国で生産されているため、トランプは今年の夏が猛暑でないことを祈らなければならない。ホワイトハウスは間違いなく、クリスマスまでに貿易戦争が終わっていることを願うだろう。米国が輸入している人形と自転車の75%も中国製だからだ。
好機を待つ中国に切り札を温存する余裕
こうしたものをすべて米国で生産できるのか。ギリギリできるかもしれない。だが、新たな工場を立ち上げるまでには時間がかかり、最終製品の値段はこれまでよりも高くなる。
トランプは悪いニュースを伝える見出しを嫌い、そうした見出しが消え去ってほしいと思う。このためモノ不足とインフレの痛みに耐えるよりは、関税の適用除外製品のリストに次々と品目を加えていく公算が大きい。
こうした状況下では、中国には待ちの戦術を取る余裕がある。だが、いざ激しく攻めることにすれば、中国が繰り出すことができる本当に強力な手段がいくつかある。中国は米国人が依存している抗生物質に使われる原材料のほぼ50%を生産している。米空軍の屋台骨である「F35」戦闘機には、中国から調達されるレアアース(希土類)の部品が欠かせない。
また、中国は外国としては世界で2番目に大きな米国債の保有者だ。市場がストレスにさらされた時には、これが重要な意味を持つ可能性がある。
米国から消えても誰も困らない輸入品のカテゴリーをトランプ政権が見つけられたとしても、それで形勢を一変させるダメージを中国に与えられるとは思えない。
こうしたものをすべて米国で生産できるのか。ギリギリできるかもしれない。だが、新たな工場を立ち上げるまでには時間がかかり、最終製品の値段はこれまでよりも高くなる。
トランプは悪いニュースを伝える見出しを嫌い、そうした見出しが消え去ってほしいと思う。このためモノ不足とインフレの痛みに耐えるよりは、関税の適用除外製品のリストに次々と品目を加えていく公算が大きい。
こうした状況下では、中国には待ちの戦術を取る余裕がある。だが、いざ激しく攻めることにすれば、中国が繰り出すことができる本当に強力な手段がいくつかある。中国は米国人が依存している抗生物質に使われる原材料のほぼ50%を生産している。米空軍の屋台骨である「F35」戦闘機には、中国から調達されるレアアース(希土類)の部品が欠かせない。
また、中国は外国としては世界で2番目に大きな米国債の保有者だ。市場がストレスにさらされた時には、これが重要な意味を持つ可能性がある。
米国から消えても誰も困らない輸入品のカテゴリーをトランプ政権が見つけられたとしても、それで形勢を一変させるダメージを中国に与えられるとは思えない。
米国市場は中国の輸出の14%程度しか占めていない。在中国欧州連合(EU)商工会議所の会頭を務めたイエルク・ブトケは、米国の関税は「不都合だが、経済への脅威にはならない・・・(中国経済は)14兆~15兆ドル規模の経済であり、対米輸出は5500億ドルに過ぎない」と主張している。
ホワイトハウスは悲しげな様子で、中国国家主席の習近平は電話をかけてくるべきだと言い続けている。だが、トランプが大急ぎで後退していることから、中国の指導者には対話に臨む動機がない。ましてや慈悲を乞う理由などない。
これぞディールの技巧か?
中国共産党によって厳しく統制されている権威主義的な政治体制は恐らく、経済的な混乱がすぐに政治的な圧力に発展する米国よりも、一定期間の政治的、経済的な痛みを吸収する準備がしっかりできている。 習近平も当然、ひどい過ちを犯すことができる。新型コロナウイルスのパンデミックへの対応がその証拠だ。 だが、中国は何年も前から米国との貿易戦争に備えてきた。そして自分たちが持つ選択肢について考え抜いてきた。
対照的に、ホワイトハウスは行き当たりばったりで対応を考えている。 トランプは自分自身に負ける手札を配った。早晩、ゲームを降りなければならない。これぞまさに教科書通りのディールの技巧だ!>(以上「Financial Times」より引用)
中国共産党によって厳しく統制されている権威主義的な政治体制は恐らく、経済的な混乱がすぐに政治的な圧力に発展する米国よりも、一定期間の政治的、経済的な痛みを吸収する準備がしっかりできている。 習近平も当然、ひどい過ちを犯すことができる。新型コロナウイルスのパンデミックへの対応がその証拠だ。 だが、中国は何年も前から米国との貿易戦争に備えてきた。そして自分たちが持つ選択肢について考え抜いてきた。
対照的に、ホワイトハウスは行き当たりばったりで対応を考えている。 トランプは自分自身に負ける手札を配った。早晩、ゲームを降りなければならない。これぞまさに教科書通りのディールの技巧だ!>(以上「Financial Times」より引用)
「米中貿易戦争、習近平がドナルド・トランプより強い切り札を持っているワケ」と題してギデオン・ラックマン(英国人ジャーナリスト)氏がトランプ関税の趨勢を「習近平氏有利」と分析している。
確かにラックマン氏が指摘しているように、中国の対米輸出割合が全体の14%ほどでしかないとしたら、対米輸出のすべてがトランプ関税で停止したとしても、中国の貿易に対する損害はたったの14%でしかない。
しかしここにカラクリがある。中国は貿易相手国のトップ2の中に香港が入っているが、香港に輸出された品物は香港で組み立てられて、しゅつして米国へ輸出されている。さらに詳細な金額は把握できていないが、中国が部品段階でメキシコなどへ輸出して、そこで中国資本の企業で製品に組み立てて米国へメキシコ製として輸出する第三ヶ国経由の「三角貿易」を行っているケースもある。
現に日本国内で中国資本による企業設立が急増しているという。つまり日本を経由して米国へ輸出すれば現段階で24%の関税で輸出できる。そうした三角貿易を習近平氏は東南アジアを歴訪して各国に持ちかけているようだが、最初の訪問地ベトナムでは断られたようだ。
またラックマン氏は「中国は米国人が依存している抗生物質に使われる原材料のほぼ50%を生産している。米空軍の屋台骨である「F35」戦闘機には、中国から調達されるレアアース(希土類)の部品が欠かせない」と対中デカップリングは現実的に不可能だとトランプ氏が習近平氏からの電話を心待ちにしている、と論じている。
しかしトランプ氏は対中依存体制そのものを見直そうとしている。だから50%を中国に依存している抗生物質が輸入できなくなれば、必然的に米国内で生産せざるを得なくなり、それは米国の医療安全保障の面からも必要不可欠なことだと判断しているだろう。さらにレアアースに関しても日本はかつて中国からレアアース規制を掛けられたときに、輸入レアアースを用いない独自技術開発などでレアアースの対中依存度を劇的に下げている。その例に倣って米国も中国産レアアースを用いないで済む技術開発を行うだろうし、そうしなければならないとトランプ氏は決断しているに違いない。
ラックマン氏もそうだが、なぜ多くのエコノミストやジャーナリストたちは中国が創出した中国の虚像を見ているのだろうか。現実の中国はもちろん私も知らないが、中国政府発表でない「未確認情報」によるネット市民が発信する中国の「今」を見る限り、中国は経済のみならず社会崩壊の段階にあると解る。
トランプ関税がどれほど中国の対米輸出日用雑貨を製造している地域を直撃しているか、ラックマン氏は知らないようだ。今時期、本来なら中国の日用雑貨を製造している中小零細企業はクリスマス注文が舞い込んで、目が回るほど忙しいはずだが、実際は注文もなく従業員は解雇されている。そしてコンテナ埠頭には米国向けの日用雑貨が満載されたコンテナが山のように積み上がっている。トランプ関税はまさに中国社会を直撃しているのだ。