政治家は令和の列島改造計画を提唱すべきだ。

<2025年度の予算案が衆議院議員を通過した。当初予算としては一般会計の総額が過去最大を記録。そうした財政状況下で政府はAI・半導体分野に多額の公的支援を表明しており、その旗振り役となっているのが経済産業省だ。経営コンサルタントの大前研一氏はいまの経産省について「成果不明の経済対策に血税を垂れ流す、ふしだらな役所になっている」と指摘する。
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 自民党・公明党と日本維新の会が「高校授業料の無償化」「小学校の給食無償化」「社会保険料の引き下げ」で合意し、2025年度予算案の成立が確実になった。同予算案は、一般会計の総額が当初予算としては過去最大の115兆1978億円。新規国債を28兆6490億円発行するので、ますます財政が悪化する。
 にもかかわらず、政府は「経済対策」と称して2024年度から2030年度までの7年間でAI(人工知能)・半導体分野に10兆円規模の公的支援を行なうことを決め、まず2024年度補正予算で約1兆6000億円を確保した。
 その旗振り役は経済産業省である。おかしなことに経済対策という名目だと、いとも簡単に予算がつく。
 たとえば、米IBMの製造技術を使って2027年から世界最先端となる回路線幅2nm(ナノメートル)の次世代ロジック半導体の量産を目指す“国策プロジェクト”のラピダス(北海道千歳市)に対しては、9200億円の補助を決定している。2025年度の当初予算では1000億円の予算を確保し、トヨタ自動車やNTTなどの民間企業も合計約1000億円の出資に応じる見込みだという。
 また、世界最大手の半導体ファウンドリー(受託製造企業)TSMC(台湾積体電路製造)の熊本第1・第2工場(熊本県菊陽町)には、最大1兆2080億円の補助が決まっている。
 こうした半導体産業への補助金について、私は本連載で何度も批判してきた。特定の民間企業に対して巨額の国費を投入するのは大いに疑問だし、1986年の第1次日米半導体協定以降、半導体産業政策で30年以上も眠っていた経産省に今さらまともな舵取りができるとは思えないからだ。
 そもそもTSMCの熊本工場の場合は、政府が支援する理由がさっぱりわからない。いま熊本はTSMC進出による“半導体バブル”が膨らみ続けて人手不足が深刻化し、時給や不動産が高騰している。さらに、世界62か国500都市の交通状況を分析した「トムトム・トラフィック・インデックス」(2024年度版)によると、渋滞レベルランキングで熊本市が4位だ。
 そういう状況になっているのはTSMCという中核企業があるからで、私は以前から九州の経営者たちに九州経済界が「6兆円規模の半導体ファンド」をつくるべきだと提言している。そうすれば、世界中から資金が集まるから、税金を投入する必要はないのである。
 一方のラピダスはプロジェクトそのものに大きな疑問符がつく。まだTSMCもサムスン電子も量産に成功していない2nmの次世代ロジック半導体の国産化に取り組むというが、いま日本企業が国内で作れる半導体は40nmにとどまる。半導体製造は経験の積み重ねがすべてなので、回路線幅を一気に20分の1にするのは至難の業である。
 だから、もし北海道経済界が「半導体ファンド」をつくったとしても、資金は全く集まらないだろう。
  しかも、ラピダスはTSMCと違ってまだ事業を開始していない会社であり、民間企業は失敗する可能性が高いとみているから、さらなる出資には二の足を踏むと思う。量産開始までに5兆円の資金が必要とされているが、残り4兆円を確保できるかどうか、大いに疑問である。政府による債務保証も検討されているそうだが、そんなことが許されてよいはずがない。

誰が責任を取るのか
 経産省による産業支援はエネルギー分野でも行なわれている。その最たるものが、福島第一原子力発電所事故を起こした東京電力だ。同社は現在も上場企業として存続しているが、実は何重にもつぶれている“ゾンビ企業”だ。政府と原子力事業者の共同出資で設立された「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が、福島第一原発事故の被害者に対する東京電力の損害賠償資金などを肩代わりしているから、生き残っているのだ。同機構の所管は経産省、文部科学省、内閣府である。
 経産省は、ソーラー(太陽光)発電にも補助金を出している。しかし、メガソーラー(出力1000kW以上の大規模な太陽光発電施設)の建設では、全国各地で環境破壊や景観悪化などの問題が起きている。2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」は再生可能エネルギーを初めて最大の電源と位置づけ、ソーラーの比率を全体の23~29%程度としているが、トラブルが頻発しているメガソーラーに補助金を出すのはいかがなものかと思う。
 経産省は航空宇宙産業にも補助金を投入している。三菱重工業が開発に失敗した国産小型ジェット旅客機「スペースジェット(SJ)」には、総額500億円超の補助金を出していた。最後はボーイング社とも組んだが、アメリカの型式証明を取得できなかった。
 ところが、それに懲りず、2035年以降の事業化を目指す次世代の国産旅客機開発案を公表した。SJの失敗を踏まえて1社単独ではなく複数社で開発し、今後10年間で約5兆円を投資する計画だというが、再び失敗するのは目に見えている。あまりに馬鹿げていて、失笑するしかない。
 宇宙のほうも政府は経産省を中心としてJAXA(宇宙航空研究開発機構)に対する「宇宙戦略基金」という名の補助金を2024年に設置し、2023年度補正予算で合計3000億円(うち経産省が1260億円)を措置している。しかし、JAXAのロケットは「H3」初号機や「イプシロン」の打ち上げに失敗し、すこぶる効率が悪い。
 いわば経産省が“打ち出の小槌”のような官製ファンドになっているわけだが、それが民間ファンドと根本的に異なるのはリターンを気にしていないことだ。
 民間ファンドは投資したら、その会社の価値を高めて3~5年後に株式の売却益を得てエグジットすることを目的にしている。しかし、経産省の場合は投入した資金のペイ(採算)がどうなっているのか、さっぱりわからない。つまり、経産省は成果不明の経済対策に血税を垂れ流す、ふしだらな役所になっているのだ。
 実際、経産省が支援した企業はエルピーダメモリが破綻し、ルネサスエレクトロニクスとジャパンディスプレイも官製「日の丸」企業の失敗例とみなされた。前述したプロジェクトが同じ轍を踏んだら「結果責任」を経産省の誰かに取ってもらわねばならないが、担当者は2年ごとに代わってしまうので、うやむやになる。この無責任体制が、税金の無駄遣いを招いているのだ>(以上「週刊ポスト」より引用)




 いうまでもなく、政府が特定の企業に利益供与することは、会社法違反となる可能性がある。大前研一(経済評論家)氏は「AI・半導体・原発・再エネ支援に巨額の税金投入の無責任 経産省が“打ち出の小槌”のような官製ファンドと化している」と題して昨今の政府投資が特定の企業に偏り過ぎてはいないか、と警鐘を鳴らしている。
 地方自治体でもPFI(「プライベート・ファイナンス・イニシアティブ」とは、公共施設の建設や維持管理、運営などを民間の資金や経営能力、技術を活用して行う手法)と称して民間企業とセッションして箱物などを建設する手法が採用されている。しかし、それらがすべて成功するわけではなく、失敗した場合のリスクをすべて公共団体が負うことになっている。

 大前氏が引用論評で例示した数社の企業も必ずしも成功する保証はない。失敗した場合にはいかなる処理方法を想定しているのだろうか。そして経済対策のためとして投資することにどれほどの正当性があるのだろうか。
 むしろ政府は大まかな指針を示して、そのための社会インフラ事業を実施するなどの、民間企業とは距離を置いた予算執行の方が、公的団体としてのあり方として望ましいのではないだろうか。

 別の観点から見れば大前研一氏が指摘したのは経産省が日本国家としての経済成長戦略や地方活性化といった大きな構想に基づく個々の投資行動ではない、ということではないか。
 たとえば大規格道路を地方へ通しその先に大規模企業団地を造成すことによって企業誘致を促進することが出来る。例えば大震災があった能登半島を縦貫する大規模道路を建設して、その先の海岸に港湾施設を建設し陸には大規模工業団地を造成して企業誘致を促進すれば能登半島が日本海を中心とした経済圏のハブになれるだろう。そうした大胆な地方振興策無くして地方創生など出来ない。チマチマとした「地域おこし隊」を結成しても、若者たちがボランティア精神だけで安定した家庭を築くのは困難だ。

 地方が衰退している主たる要因は安定的な雇用が圧倒的に不足していることだ。そして非正規雇用が正規雇用を上回り、ことに一人親世帯(主として女性だが)の貧困率が高いことだ。だから若い女性は仕方なく都会へ移住せざるを得ない。地方では女性が働ける事務職などの雇用がほとんどないからだ。
 さらに災害大国日本の国土形成を考えるなら、徳島県や高知県や和歌山県などの工業振興は内陸部の津波被害の及ばない地域を開発して、工業団地造成から新規住宅団地開発を国家事業として実施することだ。ミスミス何万人かが犠牲になると想定されているまま、被災すると思われる地域を放置するのは犯罪的ではないか。津波シェルターに避難するのも良いが、町を丸ごと高台に移すくらいの基本計画を国が策定して、地方自治体に災害に強い道路建設や各種団地造成事業の計画を予算措置を付けて下ろすことが肝要ではないか。

 経産省が現在実行している各種企業への投資は単発的な投資ではなく、日本経済と日本科学技術の全体像を描いた上での投資だろうが、かつてあった国家レベルの「国土総合開発」といった大きな開発像が国民には見えない。そうした日本経済と開発の全体像が見える構想を示した上での投資であれば、他の関連企業も安心して投資できるだろう。
 そして企業立地に必要な人手と道路と港湾の建設・整備もセットでなければならない。令和の列島大改造計画を国家がまず示さなければならない。そうした気宇壮大な政治を展開する政治家が日本に不在なのか残念でならない。

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