トランプ大統領を「瘋子」(頭のオカシイ奴)と呼んで面白がっている習近平氏はトランプ大統領の相手ではない。

＜世界がトランプの言動に振り回されるなか、習近平は、対トランプのための特別な部隊まで作って虎視眈々と対米戦略を練り上げている。

突如飛び出した「爆弾発言」
「アメリカはガザ地区を占領し、われわれもこれに責任を負う。われわれはこの地を所有するのだ！」
　アメリカ東部時間の2月4日午後、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談を終えたドナルド・トランプ大統領は、共同記者会見に臨んだ。
　アメリカがガザ地区を所有する―この「爆弾発言」が飛び出したのは、共同記者会見のさなかだった。
　すぐに太平洋の彼方の中国でも、速報が流された。5日朝（北京時間）のことだ。
　中国は前日の4日まで春節（旧正月）の8連休で、この日が仕事始めだった。中国共産党中央政治局委員（トップ24）、党中央外事工作委員会弁公室主任、外相という3つの輝かしい肩書を持つ王毅は、そそくさと「南院」に駆けつけた。

王外相の提言
　南院とは、北京の最高幹部の職住地である「中南海」（天安門広場の西北）の南側に位置する中国共産党本部を指す。つまりは習近平総書記の弁公室だ。
　ここへ入れるのは、ごく少数の最高幹部のみ。王外相は習近平総書記に深々と頭を下げると、要件を伝えた。
「新春早々ですが、『瘋子』がまた、とんでもない発言をしました。中東のパレスチナ自治区であるガザを、アメリカが所有すると宣言したのです。いま世界中で、怒りの声が上がり始めています。中国政府として改めて、『巴人治巴』（パレスチナ人がパレスチナを統治すること）を主張した方がよいかと思われます……」
　習総書記はうんうんと肯き、二人はしばし「瘋子」談義に耽った。
　「瘋子」とは、「頭のオカしいやつ」のことで、このところ中国政府内部で、トランプ大統領の隠語として使われている。実際「瘋子」のせいで、少なからぬ外交部（外務省）や商務部（経済産業省）などの官僚たちが、春節休暇返上となった。

対トランプのために作られた「特別な部隊」
　外交部には、「特信班」と俗称で呼ばれる数十人規模の部隊まで作られた。「特朗普」（トランプ）の「信息」（情報）を収集する「班」（グループ）だ。
　彼らは24時間365日、交代で北京朝陽門の外交部に待機し、トランプ大統領の発言やXの投稿などをチェックしているのだ。もしも急を要する「つぶやき」が出れば、深夜だろうが明け方だろうが、直ちに上層部に報告し、緊急対策を練る。
　アメリカの瘋子にかき回され、北京の官僚たちは早くも疲弊している。だが、四苦八苦しているのは部下たちばかりで、当の習近平主席はこのところ意外に上機嫌だ。
　それは、「特信班」からの新たな情報が入るたびに、トランプ政権が世界で孤立していく様子が窺えるからだ。
　関税問題でカナダやメキシコを敵に回し、グリーンランド買収宣言やパリ協定（地球温暖化防止）からの脱退などで欧州を敵に回し、今度は「ガザ占領宣言」で中東全体を敵に回した。おまけにイーロン・マスクがワシントンの官僚組織をブチ壊している。トランプ大統領が国内外を敵に回すほど、アメリカが自壊し、「中国の仲間」は増えていくと、ほくそ笑んでいるのだ＞(以上「現代ビジネス」より引用)

　トランプ大統領の暴走に世界中が引っ掻き回されているが、そうした混乱は習近平氏にとってはさぞかし愉快だろう。「対トランプ専用の「特別部隊」まで創設して……暴走大統領をあざ笑う皇帝・習近平の極秘対米戦略」と題する論評を読むまでもなく、習近平氏はご機嫌ではないか。

　しかし「瘋子」の発言はめまぐるしい。プーチンにウクライナ停戦の秋波を送ったかと思ったら、今度(28日)にはゼレンスキー氏と会談するという。「瘋子」がプーチンに持ち掛けた停戦会談のハードルをプーチンが次々と引き上げたため、「瘋子」はプーチンを停戦会談の相手として見限ったようだ。

　もちろんプーチンは停戦会談の当事者に自分を入れない会談は無効だと批判しているが、そんなことなど「瘋子」は構ってなどいない。「瘋子」はディベートを専らとする人物だ。ディベートの場に出ない者など相手にしない。

　ゼレンスキー氏とはウクライナのレアメタル資源開発利権取引で妥協できそうだ、との感触に「瘋子」は気を良くしている。そうした動きから、プーチンは慌てて習近平氏と連絡を取ったようだが「南院」でいかなる会話が囁かれているのだろうか。

　トランプ大統領のことを「瘋子」(頭のオカシイ奴)と符丁で呼んでいるとは面白い。そのことをトランプ大統領は知っているのだろうか。誰かトランプ大統領に教えてやって欲しいものだ。そうするとトランプ大統領は習近平氏のことを如何なる符丁で呼ぶだろうか。

　だが「ガザ地区を米国が管理する」という発言がそれほど頭のオカシイ奴の発言だとは思わない。パレスチナ人の味方を装って、実はハマスが国連の膨大な援助を喰い物にし、イランからも支援を受けてパレスチナ人をイスラエル戦争の「人の盾」に利用してきた。ガザ地区こそがハマスの活動拠点であり、パレスチナ人の守護神然として振舞うことで生き延びてきた。だから米国がガザ地区を統治管理してハマスを徹底して殲滅させようと考えるのは米国大統領としては極めて自然な発想だ。

　関税問題でカナダやメキシコを相手にトランプ大統領が大立ち回りを演じているのも、カナダやメキシコの仮面を被った中国を徹底して追い出すためだろう。トランプ氏を「瘋子」と呼んで面白がっている習近平氏たちはトランプ大統領の意図を読み違えているようだ。

　グリーンランドの買収発言も、グリーンランド開発に中国が乗り出そうとしていることに対する対抗措置だ。トランプ大統領が最終攻撃相手としているのは中国だ。パリ協定「体制」を壊そうとしているのも、レアアースとEVで世界支配を目論む中国の野望を砕くためだ。そうした遠謀深慮を理解しないで、トランプ氏を「瘋子」と呼んで面白がっているとは事態の深層を読んでいない証拠だ。トランプ大統領は習近平氏が相手出来るような人物ではない。

　トランプ大統領が世界中に対中包囲網の布石を着々と打っている現実に習近平氏が蒼褪めていない現実こそ、習近平氏が「瘋子」である証拠だ。もちろんトランプ大統領は関税引き上げが米国内にコストプッシュ・インフレを招くことなど承知の上だろう。それよりも、対米輸出が中国経済最期の頼みの綱だという事実から、中国を叩く最も有効な手だと読んだのだろう。

　関税引き上げに対抗して中国がレアアース禁輸の報復も考えられるが、そうすれば中国だって痛手を受ける。世の中はすべてディベートだと思っているトランプ大統領は、「勝ちか負けるか」で判断するなら、多少の痛手など「勝ち」の前では大した問題ではない。そのことに習近平氏は果たして気付くだろうか。