果たして「日本まで損する」か否か、真壁氏は米中貿易戦争の帰趨を見届けるが良いだろう。

<米中貿易戦争の初動は、大方の予想よりも慎重で拍子抜けするほど穏やかな開戦となった。しかし、経済専門家の間では、ある企業が「制裁の切り札」になると指摘される。また、中国はレアメタルとレアアース生産量で世界トップ。どちらも半導体や車載用バッテリーに重要な部材だ。米中貿易戦争が本格化すれば、世界的な株価下落により急激な円高が発生し、日本企業に業績悪化をもたらすだろう。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫) 

● 米中貿易戦争の「切り札」となる企業は…  
 自らタリフマン(関税男)を自任する米トランプ大統領は、大方の予想通り関税政策を振りかざしている。2月1日、カナダとメキシコからのほぼ全ての輸入品に25%、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名した。9日には米国が輸入する鉄鋼やアルミニウムに25%の関税をかけると表明した。
  最も注目したいのは、米国と中国の貿易戦争の行方だ。両国の初動は思ったよりも慎重だった。米国は追加関税率を10%に抑える一方、中国が報復関税の対象を影響が少ない分野に絞った。事前予想では、トランプ大統領と習近平国家主席は、もっと派手にやり合うかと思いきや、拍子抜けするほど穏やかな開戦となった。 
 しかし、先行きは決して楽観できない。3カ国に対する関税は、合成麻薬フェンタニルの流入や不法移民の入国を阻止することを大義名分にした。今後、トランプ大統領は徐々にトーンを上げて、本格的な戦闘モードに突入するとみられる。 
 特に、中国製品に対する関税、IT先端分野での規制をじりじりと強化するはずだ。米国の対中締め付けが強くなると、当然のことながら、中国も対抗措置を繰り出すだろう。
  経済専門家の間では、「中国サイドの報復措置の中で、切り札となり得るのは米エヌビディアへの制裁かもしれない」との指摘もある。米中の貿易戦争が激化すると、わが国をはじめ世界経済には重大な影響が及ぶことが懸念される。

● 思ったよりも慎重だった!?米中の「関税」合戦 
 メキシコ、カナダ、中国に対する関税発表の後、トランプ氏は3カ国の首脳と協議する意向を示した。交渉の結果、相手国から満足のいく提案が得られれば、関税引き上げの実行に猶予期間を設ける考えを持っているという。 
 その時点で、トランプ氏は関税を取引(ディール)の手段として使う姿勢が明らかだ。実際、トランプ氏はメキシコとカナダの首脳と協議した。両国が国境管理を強化する見返りに、25%の関税の発動を遅らせた。 
 トランプ氏は、中国の習主席とも協議を持つ意向だったようだ。しかし、関税発効前の米中首脳会談は開かれなかった。中国側のプライドが、即時の会談を許さなかったのだろうか。トランプ氏は習氏との協議を急ぐ必要はないとして、予定通り10%の追加関税を実施した。 
 それに対抗して2月4日、中国政府は米国産石炭とトランプ大統領が増産を主張する液化天然ガス(LNG)に15%、原油、農業機械、大型自動車に10%の追加関税を課すと発表した。ただしこの中国側の対抗措置は、拍子抜けするほどその効果は小さいだろう。  この米中のやりとりを見る限り、双方は過度に対立が高まらないよう慎重に動いたようだ。米国は、大統領就任当日の対中関税の実施は見送った。追加関税の理由も、どちらかといえばメキシコとの関連性が強い合成麻薬と不法移民にとどめている。 
 トランプ大統領は、中国政府との距離感を測ろうとしているのかもしれない。あるいは、中国にいきなり高関税をかけ、テスラなど米企業の中国事業に悪影響が及ぶのを避ける狙いもありそうだ。 
 中国の対米報復関税も控えめなものだ。10日に中国が関税を課した80品目は、対米輸入全体の8.5%を占める。初動は激しくせずに、米国との対話の余地を確保しようとしているとみられる。 
 米中双方が慎重に対応したことで、2月4日、5日と米国の株価は上昇した。世界の主要投資家に、米中貿易戦争の激化が避けられるかもしれないといった楽観を与えたのだろう。2018年3月に米国が対中関税を発動し世界的に株価が下落したのと対照的だった。

● レアメタルの中国依存から抜け出すのは難しい 
 しかし、今後の展開を楽観するのは時期尚早だ。トランプ大統領は、「中国は米国との貿易で得た資金で軍備を拡張している」と批判した。また、ルビオ国務長官は中国を「最も危険な敵」と断言した。米国にとって、対中関税は覇権国の地位を守るため必要な方策の一つであることは間違いない。 
 1月下旬、商務長官候補のラトニック氏は、中国のディープシーク社が米国からの輸出規制を迂回してAIモデルを開発したとの見方を示した。また、「関税に裏打ちされていない輸出規制は、もぐらたたきのようだ」と発言。中国のAIチップやデータの不正入手を批判した。  関税をかけて、世界の有力企業に米国での製品製造を迫るトランプ政権の方針は明確だ。一方、中国は米国の圧力に黙っていないだろう。中国経済は今、不動産バブルが崩壊して不況が長引いている。雇用・所得環境の悪化から、市民を狙った無差別攻撃事件が増えて社会不安も高まっているようだ。 
 中国政府は一党独裁の政治基盤を維持するため、米国の対中締め付け策に対抗せざるを得ないだろう。2月4日に中国政府が発令した関税以外の対抗措置を見てみよう。 
 まず、グーグルの独占禁止法違反調査というのがある。グーグルに対する調査開始は、米国企業全般に対する警告とも解釈できる。仮に、テスラ車の利用が中国で制限されれば、マスク氏がトランプ氏に対中政策を修正するよう求め、トランプ政権に関係する人物間の対立が表面化する懸念がある。 
 そして、重要金属(タングステン、テルル、モリブデン、ビスマス、インジウム)の輸出規制もある。中国は、希少金属(レアメタル)と希土類(レアアース)生産量で世界トップだ。いずれも、半導体や車載用バッテリー、軍事品の部材として重要性が高まっている。米国はレアメタルの中国依存の低減に取り組んでいるが、脱中国の実現には時間がかかる。  他には、アパレルブランド「カルバン・クライン」運営会社のPVHコープ、バイオテクノロジー企業のイルミナを、「信頼できない企業リスト」に掲載している。 
 中国は、米国の強硬姿勢によっては、重要鉱物の供給を絞るなどと警告したといえる。米中の関税掛け合いの初動は静かなものに見えたが、それが続くと楽観するのは適切ではないだろう。

● エヌビディアが標的になれば急激な円高になる恐れ 
 2期目のトランプ政権の閣僚の顔触れを見ると、同氏に忠誠を誓う人物が多い。「米国ファースト」の実現を目指して、追加関税、半導体やAI関連知的財産の輸出規制、人権問題の制裁で中国を締め付けることだろう。貿易赤字を削減して米国を世界一の製造大国にするため、同盟国の自動車に関税をかける恐れもある。
  その一方、中国にとって対米対抗措置の切り札は、画像処理半導体(GPU)世界最大手のエヌビディアになるだろう。24年8〜10月期、エヌビディアは売上高の約15%を中国で得ている。
  今のところ規制もあって、エヌビディアはダウングレード版チップを供給しているが、中国は重要市場であることは確かだ。エヌビディアのチップ調達リスクに備えて、中国政府はAIや半導体産業の育成を急いでいるという。食料や天然ガスを備蓄しているのも、中国が米国との貿易戦争に向けて準備していることを示唆する。 
 エヌビディアは、AI時代の幕開けを知らしめたスター企業だ。AI分野の成長期待は上昇しており、わが国では素材、電力インフラ、情報システム関連分野の業績が拡大基調にある。  中国が対米報復措置として、エヌビディアを標的にすることは十分考えられる。それが現実になれば、世界全体でAI分野の成長期待は低下し、世界的に株価が下落するリスクが強くなる。「逆資産効果」で米国の個人消費は減少し、わが国を初め世界経済の成長は下振れするだろう。 
 外国為替市場では、リスク削減に動く投資家が増え、円キャリートレードの巻き戻しから円が急上昇するかもしれない。急激な円高は、日本企業に業績悪化をもたらし、主要投資家のマインドを冷え込ませる恐れもある。 
 米中貿易戦争が本格化すれば、中国の景気悪化も長引くだろう。トランプ政権の関税率引き上げによる影響で米国のインフレが再燃し、世界的に金利上昇圧力がかかる可能性もある。 
 トランプ政権の政策リスクに対応するために、中国との関係を修復しようとする国や地域が増えれば、世界経済のデカップリング(分断)が鮮明化する展開も考えられる。 
 いずれの展開も、世界経済の下振れ要因になる。トランプ政権に世界経済、金融市場が振り回され不安定化する懸念は引き続きある>(以上「DIAMOND」より引用)




そりゃトランプもビビるわ…米中貿易戦争で中国が使える「切り札」が最強すぎて日本まで損する」とはただ事でない。真壁昭夫(エコノミスト)氏が指摘することが本当なら、トランプ氏の関税戦略は厄介なことになる。
 真壁氏が「中国の切り札」として注目しているのはレアメタルだ。確かにレアメタルでは中国が占めるシェアは品目によっては90%を超えている。レアメタルの国債市場で中国の存在は圧倒的だ。

 しかし前回の2010年前後に高まった中国の反日騒動で日本企業に対するレアアースの供給がストップしたことがある。当時は中国への依存度が90%近かったため、日本企業が受けた打撃は計り知れなかった。そのため、日本企業各社は中国への依存度を下げることに是力を注いだ。
 結果として中国へのレアアースの依存度は2009年の86%から2015年は55%まで低下した。一方、中国のレアアース業界は2014年に赤字を記録した。レアアースの価格が急落したためだ。 WTOで敗訴した中国政府は、2015年1月、レアアース輸出規制を全面撤廃した。

 現在も日本企業の多くは企業防衛の観点からレアアースの対中依存度を下げるため、研究開発を行っている。結果として高性能モーターに欠かせない重希土類のジスプロシウム不要の永久磁石の実用化を果たした。
 2016年7月12日、大同特殊鋼株式会社と本田技研工業株式会社がジスプロシウム(Dy)など重希土類のレアアース ・ジスプロシウムを一切使用しない磁石を世界で初めて 実用化し、今秋発売予定の新型ハイブリッド車の駆動モーターに採用することを公表した。これは日本の資源調達上のリスクを解消する大きな成果と言える。

 さらに、世界的にレアアースは“便利なもの”から“厄介なもの”と認識されるようになり、あたかも厄介払いをするようにレアアースの省資源化、代替化が進められることになった。そして、今回ついにリスクの高かった重希土類を一切使わないですむ永久磁石の実用化に至ったことは、レアアースの資源としての価値を著しく引き下げることになりかねない。日本が生み出したレアアースの価値を今度は日本自らがその価値を消し去るという皮肉な結果と言える。
 そして京都大学やトヨタ自動車などの研究グループは「全固体フッ化物イオン電池」用正極の体積当たりの容量をリチウムイオン電池の約3倍に向上させた。 電池に組み込んだ場合の体積エネルギー密度はリチウムイオン電池の2倍以上が見込める。 電気自動車(EV)用途で2035年以降の実用化を目指す。

 全固体電池の特長としては①セ氏100度を超える高温でも問題なく動作する②セ氏-30度といった極低温でも容量や出力が大きく低下しない③10分以下の急速充電が可能④発火の危険性が低い⑤小型軽量なので車両性能を向上させる⑥車体デザインの自由度が増す。
 と「全固体フッ化物イオン電池」は現行広く用いられているリチウムイオン電池の欠点をすべて補って余りある。現在は中国が世界のリチウム市場を支配しているが、「全固体フッ化物イオン電池」が実用化されればEV積載電池からリチウムイオン電池を一掃するだろう。

 つまり真壁氏が中国のレアアース市場の独占的立場から、対米関税引き上げ対抗措置は強力だとする根拠は殆ど消え去っている。もちろん米国に対して中国が関税引き上げの対抗措置としてレアアースの「禁輸措置」を講じれば、同盟国たる日本政府はレアアースが不要な技術や「全固体フッ化物イオン電池」などの新製品提供といった支援を行うだろう。
 そうすると、中国は崩壊している経済を唯一支えている「貿易経済」すら失うことになりかねない。真壁氏は米国が関税引き上げを実行すると、その対抗措置としてNVIDIAからの輸入を制限るのではないかと危惧しているが、NVIDIA製品は単独で機能を発揮する製品ではない。その主力製品はGPUで、その製品は高性能PCに組み込んで高速処理する際に必要不可欠な部品だ。むしろNVIDIA製品が中国に輸入されなくなると、中国が輸出しているPCは陳腐化して国際市場競争力を失いかねない。

 最終章で真壁氏は「トランプ政権の政策リスクに対応するために、中国との関係を修復しようとする国や地域が増えれば、世界経済のデカップリング(分断)が鮮明化する展開も考えられる」とトランプ政権の政策リスクから対中関係改善に動く国や地域が増えるのではないか、と予測しているが、果たしてそうだろうか。
 本人が10%だ25%だと公言しているトランプ氏が実施するだろう関税引き上げは深刻な影響を貿易関係諸国に与えるだろう。しかし、それは同時に米国内の輸入製品を購入している米国民にも深刻な影響を与える。しかも米国は民主主義国家だ。トランプ氏は大統領だが、習近平氏のような独裁者ではない。連邦議会や米国民世論の動向を気にしなければならない存在だ。だからこそ、関税を引き上げるゾ、と観測気球を打ち上げて国内世論や国際世論の動向を観測している。

 一方、中国は経済崩壊の真っ最中で、国営企業まで「労働争議」が起き、公務員も遅配によりゴミ収集が大都会ですら滞ってゴミの都市になっている。もちろん人民解放軍兵士たちの給料も遅配して、軍事統制権まで揺らぎかねない状況だ。
 不動産バブル崩壊から始まった経済崩壊は序章に過ぎず、中共政府がその不良債権処理を誤ったため金融崩壊へと進み、全国規模で金融機関のデフォルトが進行している。中央省庁のみならず、地方政府までデフォルト状態に陥ったため、数十兆円に相当する「元」を大増刷して中央と地方政府機関に配ったが、その資金が民間に回るどころか焼け石に水だった。

 既に外資は中国からあらかた撤退し、中国の富裕層まで中国から逃げ出している。もはや中国経済が崩壊するのは時間の問題で、最終的に飢えた国民が暴徒となって政府機関に殺到するのも時間の問題になっている。
 歴史的に中国は内乱によって歴代王朝は倒れてきた。今回も同じ轍を踏むと考えられる。習近平氏は「改革開放」政策を廃すことによって、中国共産党一党支配体制の終焉を迎えさせた。トランプ氏が掲げる関税引き上げ策に対抗措置を講じる、と強気の発言をしているが、習近平氏の「超限戦」や「戦狼外交」に倦み、コロナ禍以後距離を置いて来たドイツを除く先進自由主義諸国にそれほど大きな影響を与えることはない。果たして「日本まで存する」か否か、真壁氏は米中貿易戦争の帰趨を見届けるが良いだろう。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。