第二次半導体戦争を仕掛ける米国の戦略は。
<台湾の半導体産業へ厳しい言葉を続けていたトランプ大統領。東アジアの経済や安全保障の要である台湾にトランプ2.0はどう影響し、それにいかに対応すべきか議論が広がる。
トランプ政権発足前夜、旧知の台湾人研究者からメールが届いた。その中には、「日本経済・産業の長期にわたる苦境は1980年代のアメリカの政策に起因していると思いますか」という問いが含まれていた。
日米貿易摩擦とそこでの日本の対応が日本の「失われた30年」の起点になったのだとすれば、台湾もトランプ政権への対応を誤れば、長期低迷を余儀なくされるのではないか——。こうした認識や推論の真偽は別として、「トランプ2.0」にいかに対応すべきかをめぐって、台湾においても戸惑いや懸念が広がっていることをこのメールは象徴している。
1980年代、日本は半導体分野でアメリカと貿易摩擦を抱えていた。そしてその後、日本の半導体産業は国際的な競争力を失っていった。そのことも、台湾の人々の懸念を膨らませている面があるように感じられる。
トランプ政権発足前夜、旧知の台湾人研究者からメールが届いた。その中には、「日本経済・産業の長期にわたる苦境は1980年代のアメリカの政策に起因していると思いますか」という問いが含まれていた。
日米貿易摩擦とそこでの日本の対応が日本の「失われた30年」の起点になったのだとすれば、台湾もトランプ政権への対応を誤れば、長期低迷を余儀なくされるのではないか——。こうした認識や推論の真偽は別として、「トランプ2.0」にいかに対応すべきかをめぐって、台湾においても戸惑いや懸念が広がっていることをこのメールは象徴している。
1980年代、日本は半導体分野でアメリカと貿易摩擦を抱えていた。そしてその後、日本の半導体産業は国際的な競争力を失っていった。そのことも、台湾の人々の懸念を膨らませている面があるように感じられる。
2月中にも半導体への関税を発動か
選挙期間中からトランプ大統領は台湾半導体産業に対して批判的な発言をしてきた。例えば、2024年7月にはブルームバーグのインタビューで、台湾はアメリカの「半導体ビジネスをほぼ100%奪っていった」と発言した。
当選後の2025年1月27日にも演説で「近い将来、海外で生産されたコンピューターチップ、半導体、医薬品に関税を課す予定だ」「半導体産業の90%を占める台湾に生産が流出したが、それを取り戻したい」と述べ、最高で100%の関税率を課す可能性についても触れた。1月31日にトランプ氏は石油や天然ガス、鉄鋼、アルミニウム、銅、医薬品と並び、半導体に対しても関税を課す考えを示し、2月18日頃に実施する可能性を示唆している。
また、トランプ氏はアメリカに投資をした半導体企業への補助金の見直しも検討している。バイデン政権が半導体産業誘致のために「CHIPS・科学法」を制定し、補助金を支給したことを「滑稽で馬鹿げている(ridiculous)」と考えているからである。
高関税を課せば、補助金など出さずとも、半導体工場を誘致できるだろうというのがトランプ氏の論理である。そう言えるのも、アメリカの半導体市場は大きく、失うには惜しい市場だという自信があるからだろう。
台湾経済にとって半導体産業が極めて重要なのは論を待たない。2021年の台湾のGDPに占める半導体製造業のシェアは11.2%と高い。製造業のGDPに占めるシェアは37.9%にも達する。台湾の輸出に占める集積回路(IC)のシェアも金額ベースで34.7%に及ぶ(2024年)。
ただ、台湾の輸出統計では、IC輸出額のうちアメリカ向けの比率はわずか4.5%となっている。なぜか。理由は2つある。
選挙期間中からトランプ大統領は台湾半導体産業に対して批判的な発言をしてきた。例えば、2024年7月にはブルームバーグのインタビューで、台湾はアメリカの「半導体ビジネスをほぼ100%奪っていった」と発言した。
当選後の2025年1月27日にも演説で「近い将来、海外で生産されたコンピューターチップ、半導体、医薬品に関税を課す予定だ」「半導体産業の90%を占める台湾に生産が流出したが、それを取り戻したい」と述べ、最高で100%の関税率を課す可能性についても触れた。1月31日にトランプ氏は石油や天然ガス、鉄鋼、アルミニウム、銅、医薬品と並び、半導体に対しても関税を課す考えを示し、2月18日頃に実施する可能性を示唆している。
また、トランプ氏はアメリカに投資をした半導体企業への補助金の見直しも検討している。バイデン政権が半導体産業誘致のために「CHIPS・科学法」を制定し、補助金を支給したことを「滑稽で馬鹿げている(ridiculous)」と考えているからである。
高関税を課せば、補助金など出さずとも、半導体工場を誘致できるだろうというのがトランプ氏の論理である。そう言えるのも、アメリカの半導体市場は大きく、失うには惜しい市場だという自信があるからだろう。
台湾経済にとって半導体産業が極めて重要なのは論を待たない。2021年の台湾のGDPに占める半導体製造業のシェアは11.2%と高い。製造業のGDPに占めるシェアは37.9%にも達する。台湾の輸出に占める集積回路(IC)のシェアも金額ベースで34.7%に及ぶ(2024年)。
ただ、台湾の輸出統計では、IC輸出額のうちアメリカ向けの比率はわずか4.5%となっている。なぜか。理由は2つある。
半導体はマレーシアからの輸入が多い理由
ひとつは、第三国・地域経由でアメリカに輸出されているケースが少なくないからだ。台湾の輸出統計では対米IC輸出額は74億ドルにとどまるが、アメリカの輸入統計では2024年の台湾からのIC輸入額は113億ドルとなっている。その差は約40億ドルと大きい。
輸入統計には保険料や輸送料だけでなく、香港などを経由してアメリカに輸出された分が加算されているからである。台湾の輸出統計では、経由地向け輸出として計上されることが多い。
もうひとつのより大きな理由は、台湾で前工程(シリコンウェハー上に回路を形成する工程)が行われた後、マレーシアなどで後工程(ウェハーを個々のチップに切断し、パッケージング・テストを行う工程)が行われ、アメリカに輸出されているケースが多いからである。実際、アメリカ側のIC輸入統計をみると、マレーシアからの輸入が全体の23.8%に達している。
台湾はもとより世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリー)であるTSMCの事例をみれば、台湾半導体産業にとってのアメリカの重要性がわかる。TSMCは世界トップ10ファウンドリーの売上高のうち、たった1社で64.9%ものシェアを占めている(2024年7~9月期)。
そのTSMCの地域別売上高をみてみると、北米が70%ものシェアを占めている(2024年)。台湾第2位、世界第4位の台湾系ファウンドリーであるUMCの場合、中国を含むアジア向けの売上高が61%と最多だが、北米向けも25%と無視できない規模だ。それだけにトランプ氏の半導体に関する言動から台湾企業は目を離せないのである。
トランプ氏がどの範囲の国・地域にどれほどの関税率をかけるのかは不明だが、アメリカへの半導体工場誘致の効果を高めたいのであれば、上記のサプライチェーンの特徴を踏まえて、広範囲な国・地域に高関税をかける必要があるだろう。
そうなった場合、中国の積極的投資により値下げ競争が激しさを増している成熟プロセスではさらに悩みが増すことになる。アメリカでの半導体生産がもたらすコストと関税率の水準を考慮し、また発注元であるアメリカ企業の要望も踏まえつつ、アメリカでの工場建設を検討することになるかもしれない。なお、UMCは2024年12月時点ではアメリカでの工場建設計画はないとコメントしている。
ひとつは、第三国・地域経由でアメリカに輸出されているケースが少なくないからだ。台湾の輸出統計では対米IC輸出額は74億ドルにとどまるが、アメリカの輸入統計では2024年の台湾からのIC輸入額は113億ドルとなっている。その差は約40億ドルと大きい。
輸入統計には保険料や輸送料だけでなく、香港などを経由してアメリカに輸出された分が加算されているからである。台湾の輸出統計では、経由地向け輸出として計上されることが多い。
もうひとつのより大きな理由は、台湾で前工程(シリコンウェハー上に回路を形成する工程)が行われた後、マレーシアなどで後工程(ウェハーを個々のチップに切断し、パッケージング・テストを行う工程)が行われ、アメリカに輸出されているケースが多いからである。実際、アメリカ側のIC輸入統計をみると、マレーシアからの輸入が全体の23.8%に達している。
台湾はもとより世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリー)であるTSMCの事例をみれば、台湾半導体産業にとってのアメリカの重要性がわかる。TSMCは世界トップ10ファウンドリーの売上高のうち、たった1社で64.9%ものシェアを占めている(2024年7~9月期)。
そのTSMCの地域別売上高をみてみると、北米が70%ものシェアを占めている(2024年)。台湾第2位、世界第4位の台湾系ファウンドリーであるUMCの場合、中国を含むアジア向けの売上高が61%と最多だが、北米向けも25%と無視できない規模だ。それだけにトランプ氏の半導体に関する言動から台湾企業は目を離せないのである。
トランプ氏がどの範囲の国・地域にどれほどの関税率をかけるのかは不明だが、アメリカへの半導体工場誘致の効果を高めたいのであれば、上記のサプライチェーンの特徴を踏まえて、広範囲な国・地域に高関税をかける必要があるだろう。
そうなった場合、中国の積極的投資により値下げ競争が激しさを増している成熟プロセスではさらに悩みが増すことになる。アメリカでの半導体生産がもたらすコストと関税率の水準を考慮し、また発注元であるアメリカ企業の要望も踏まえつつ、アメリカでの工場建設を検討することになるかもしれない。なお、UMCは2024年12月時点ではアメリカでの工場建設計画はないとコメントしている。
TSMCは影響軽微だがアメリカ工場加速か
他方、先端プロセスを牛耳っているTSMCはどうか。高関税がTSMCに与える影響は相対的に軽微だとの声も大きい。AIの普及で需要拡大が見込まれる先端ロジックIC市場においてTSMCは9割のシェアを握っているため、関税によるコスト増を販売価格に転嫁しやすいとみられているからだ。とはいえ、価格があまりに上昇すれば、先端ロジックICに対する需要が落ちる恐れはある。
また、価格転嫁がしやすいとしても、アメリカでのさらなる保護主義の高まりを抑えるため、TSMCがアメリカでの工場建設計画を加速させるかもしれないとの観測も浮上している。
TSMCは2024年10~12月期にアリゾナで4ナノ製品の量産を開始した。それに続き、TSMCはアリゾナで3ナノ、さらには2ナノや1.6ナノの量産を目指すとの方針を明らかにしている。台湾紙の報道では、それぞれ2028年、2030年頃に始まるとみられている。
トランプ政権としては、できる限り早く最先端半導体のアメリカ生産を拡大させたいだろう。ただ、いくら急かされても、台湾ほど研究開発体制やサプライヤーが充実していないアメリカでいきなり最先端製品の工場を建設することは難しい。
TSMCは2022年12月に台湾で3ナノ製品の量産を開始したところであり、2ナノ製品の量産に入るのも今年ではないかと目されている。台湾での量産が軌道に乗ったものから、可能な範囲でアメリカ工場への技術移転を急ぐというのがありうるシナリオだろう。
ただし、トランプ氏が「CHIPS・科学法」に基づく補助金支給を取りやめた場合には、対米投資コストは高まらざるをえない。バイデン政権はTSMCに最大66億ドルの補助金を支給すると発表したが、2025年2月時点でTSMCが受け取った額は15億ドルにとどまる。TSMCの大口顧客であるエヌビディアやアップルなどがトランプ政権にどこまでコスト上昇を招くような施策を見直すよう説得できるかが注目される。
半導体に限らず、トランプ氏は関税をテコにアメリカ製造業の保護、企業誘致を図ろうとしている。すでに中国製品に対しては2月4日に追加関税を課した。
また、4月1日には中国の不公正貿易慣行に関する調査結果が発表される予定である。その内容によっては中国製品に対する関税率が一段と引き上げられる可能性がある。関税の引き上げだけでなく、電子機器などについては中国製品の輸入規制が強化される恐れもある。
他方、先端プロセスを牛耳っているTSMCはどうか。高関税がTSMCに与える影響は相対的に軽微だとの声も大きい。AIの普及で需要拡大が見込まれる先端ロジックIC市場においてTSMCは9割のシェアを握っているため、関税によるコスト増を販売価格に転嫁しやすいとみられているからだ。とはいえ、価格があまりに上昇すれば、先端ロジックICに対する需要が落ちる恐れはある。
また、価格転嫁がしやすいとしても、アメリカでのさらなる保護主義の高まりを抑えるため、TSMCがアメリカでの工場建設計画を加速させるかもしれないとの観測も浮上している。
TSMCは2024年10~12月期にアリゾナで4ナノ製品の量産を開始した。それに続き、TSMCはアリゾナで3ナノ、さらには2ナノや1.6ナノの量産を目指すとの方針を明らかにしている。台湾紙の報道では、それぞれ2028年、2030年頃に始まるとみられている。
トランプ政権としては、できる限り早く最先端半導体のアメリカ生産を拡大させたいだろう。ただ、いくら急かされても、台湾ほど研究開発体制やサプライヤーが充実していないアメリカでいきなり最先端製品の工場を建設することは難しい。
TSMCは2022年12月に台湾で3ナノ製品の量産を開始したところであり、2ナノ製品の量産に入るのも今年ではないかと目されている。台湾での量産が軌道に乗ったものから、可能な範囲でアメリカ工場への技術移転を急ぐというのがありうるシナリオだろう。
ただし、トランプ氏が「CHIPS・科学法」に基づく補助金支給を取りやめた場合には、対米投資コストは高まらざるをえない。バイデン政権はTSMCに最大66億ドルの補助金を支給すると発表したが、2025年2月時点でTSMCが受け取った額は15億ドルにとどまる。TSMCの大口顧客であるエヌビディアやアップルなどがトランプ政権にどこまでコスト上昇を招くような施策を見直すよう説得できるかが注目される。
半導体に限らず、トランプ氏は関税をテコにアメリカ製造業の保護、企業誘致を図ろうとしている。すでに中国製品に対しては2月4日に追加関税を課した。
また、4月1日には中国の不公正貿易慣行に関する調査結果が発表される予定である。その内容によっては中国製品に対する関税率が一段と引き上げられる可能性がある。関税の引き上げだけでなく、電子機器などについては中国製品の輸入規制が強化される恐れもある。
関税引き上げが台湾にとっても頭痛の種
さまざまなシミュレーション結果をみるに、中国製品に対して60%の追加関税が適用された場合には、中国製品から台湾製品への切り替えが行われ、台湾経済にいくらかのプラスに働く可能性がある。
しかし、中国に生産拠点を持つ台湾企業にとっては災難となる。2018年以来の米中摩擦を受け、台湾企業は生産拠点を中国から台湾や東南アジアなどに移してきた。その結果、台湾企業の輸出受注品の中国・香港内生産比率は2016年の49.8%をピークに低下しているが、それでも2023年時点で37.8%の水準にある。しかも、中国・香港の生産拠点の出荷額のうち、アメリカ向けは22.2%を占めている。決して低くはない数字だ。
また、3月初頭まで発動が見送られているメキシコ製品に対する25%の追加関税も台湾企業にとって頭痛の種だ。アメリカ向けの労働集約型製品の輸出拠点として、また、米中対立を受けた中国からの輸出拠点の移転先としてメキシコを活用している台湾企業が少なくないからである。
最近はAIサーバーメーカーや関連のサプライヤーがメキシコに進出している。追加関税が課されることになれば、よりコストの高いアメリカへの進出も検討しなければならなくなる。
トランプ氏は「相互関税」という名の下、他の国・地域に対しても関税を引き上げる可能性を示唆している。アメリカの対台湾貿易赤字は2024年時点で739億ドル、2017年対比3.4倍に拡大している。その規模は、中国、EU、メキシコ、ベトナムに次ぎ第5位だ。台湾に対する関税引き上げの可能性は排除し切れない。
こうした状況を受けて、台湾の頼清徳政権はさまざまな対応を図ろうとしている。第1に、アメリカでの工場設置やビジネスマッチングに対する支援の強化である。
それにより、トランプ政権のリショアリング政策に寄り添うとともに、台湾企業の円滑な対米進出やアメリカでの商機獲得につなげたいと考えている。2025年5月開催の「SelectUSA投資サミット」に合わせて、経済部長(大臣)が台湾企業とともに訪米する方針も打ち出されている。
さまざまなシミュレーション結果をみるに、中国製品に対して60%の追加関税が適用された場合には、中国製品から台湾製品への切り替えが行われ、台湾経済にいくらかのプラスに働く可能性がある。
しかし、中国に生産拠点を持つ台湾企業にとっては災難となる。2018年以来の米中摩擦を受け、台湾企業は生産拠点を中国から台湾や東南アジアなどに移してきた。その結果、台湾企業の輸出受注品の中国・香港内生産比率は2016年の49.8%をピークに低下しているが、それでも2023年時点で37.8%の水準にある。しかも、中国・香港の生産拠点の出荷額のうち、アメリカ向けは22.2%を占めている。決して低くはない数字だ。
また、3月初頭まで発動が見送られているメキシコ製品に対する25%の追加関税も台湾企業にとって頭痛の種だ。アメリカ向けの労働集約型製品の輸出拠点として、また、米中対立を受けた中国からの輸出拠点の移転先としてメキシコを活用している台湾企業が少なくないからである。
最近はAIサーバーメーカーや関連のサプライヤーがメキシコに進出している。追加関税が課されることになれば、よりコストの高いアメリカへの進出も検討しなければならなくなる。
トランプ氏は「相互関税」という名の下、他の国・地域に対しても関税を引き上げる可能性を示唆している。アメリカの対台湾貿易赤字は2024年時点で739億ドル、2017年対比3.4倍に拡大している。その規模は、中国、EU、メキシコ、ベトナムに次ぎ第5位だ。台湾に対する関税引き上げの可能性は排除し切れない。
こうした状況を受けて、台湾の頼清徳政権はさまざまな対応を図ろうとしている。第1に、アメリカでの工場設置やビジネスマッチングに対する支援の強化である。
それにより、トランプ政権のリショアリング政策に寄り添うとともに、台湾企業の円滑な対米進出やアメリカでの商機獲得につなげたいと考えている。2025年5月開催の「SelectUSA投資サミット」に合わせて、経済部長(大臣)が台湾企業とともに訪米する方針も打ち出されている。
トランプの台湾認識がカギ
第2に、アメリカからの武器購入増である。頼氏は2024年12月にハワイで自衛強化を強調した。また、フィナンシャル・タイムズによると、2024年11月に頼政権は150億ドル以上の武器をアメリカから購入することを検討しており、トランプ氏の政権移行チームと非公式に接触したようだ。
トランプ大統領が「台湾はGDP比10%を防衛費として払うべきだ」と述べたことを踏まえての動きだろう。その他、対米関係強化のために、アメリカ産天然ガスの購入などを図るのではないかとの観測も出ている。
少数与党である頼政権は、予算を野党に握られており、それが対米外交上も制約となっている。だが、やはり米台関係のカギを握るのはトランプ氏の対台湾認識だろう。
国防長官や国家安全保障担当補佐官には対中タカ派が着任したが、「中国が台湾に侵攻すれば150%から200%の関税を課す」といったトランプ氏の発言(2024年10月)は、アメリカは台湾を守ってくれるのかとの疑念を再燃させた。また、台湾の空洞化を引き起こすような強烈な半導体企業誘致策が打ち出されれば、台湾の戦略的不可欠性が損なわれかねないと警戒されてもいる。
2月7日の日米首脳会談で両首脳は「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調」し、「両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」するとの声明を出した。トランプ氏に台湾の戦略的地位に関する認識があることが示されたといえよう。
台湾総統府も2月8日に報道官を通じて日米首脳に謝意を表している。ただし、こうした台湾の戦略的重要性に対する認識が台湾に対するアメリカの対台湾通商政策にどの程度反映されるのかは予断を許さない。半導体産業、農業、鉄鋼や石油化学産業などは台湾経済の発展のみならず、経済安全保障や政治の安定にもかかわるだけに、トランプ政権の台湾に対する通商政策の先行きについては、まだまだ注視が必要だろう>(以上「東洋経済」より引用)
「台湾の半導体を批判しまくるトランプに抱く懸念ーー武器購入やアメリカ工場で対応を図りたい台湾」と題して、伊藤 信悟(国際経済研究所主席研究員)氏がトランプ氏の関税攻勢に対する台湾の自衛策を展開している。
第2に、アメリカからの武器購入増である。頼氏は2024年12月にハワイで自衛強化を強調した。また、フィナンシャル・タイムズによると、2024年11月に頼政権は150億ドル以上の武器をアメリカから購入することを検討しており、トランプ氏の政権移行チームと非公式に接触したようだ。
トランプ大統領が「台湾はGDP比10%を防衛費として払うべきだ」と述べたことを踏まえての動きだろう。その他、対米関係強化のために、アメリカ産天然ガスの購入などを図るのではないかとの観測も出ている。
少数与党である頼政権は、予算を野党に握られており、それが対米外交上も制約となっている。だが、やはり米台関係のカギを握るのはトランプ氏の対台湾認識だろう。
国防長官や国家安全保障担当補佐官には対中タカ派が着任したが、「中国が台湾に侵攻すれば150%から200%の関税を課す」といったトランプ氏の発言(2024年10月)は、アメリカは台湾を守ってくれるのかとの疑念を再燃させた。また、台湾の空洞化を引き起こすような強烈な半導体企業誘致策が打ち出されれば、台湾の戦略的不可欠性が損なわれかねないと警戒されてもいる。
2月7日の日米首脳会談で両首脳は「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調」し、「両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」するとの声明を出した。トランプ氏に台湾の戦略的地位に関する認識があることが示されたといえよう。
台湾総統府も2月8日に報道官を通じて日米首脳に謝意を表している。ただし、こうした台湾の戦略的重要性に対する認識が台湾に対するアメリカの対台湾通商政策にどの程度反映されるのかは予断を許さない。半導体産業、農業、鉄鋼や石油化学産業などは台湾経済の発展のみならず、経済安全保障や政治の安定にもかかわるだけに、トランプ政権の台湾に対する通商政策の先行きについては、まだまだ注視が必要だろう>(以上「東洋経済」より引用)
「台湾の半導体を批判しまくるトランプに抱く懸念ーー武器購入やアメリカ工場で対応を図りたい台湾」と題して、伊藤 信悟(国際経済研究所主席研究員)氏がトランプ氏の関税攻勢に対する台湾の自衛策を展開している。
もちろん台湾の最大の輸出品目は半導体だ。だからトランプ氏が関税を引き上げて輸入を阻止する挙に出ることは出来ない。なぜなら半導体生産はTSMCの独壇場だからだ。半導体生産におけるガリバー企業を袖にして、米国IT企業は成り立たない。世界に冠たるNVIDEAですら、ハウンドリー企業TSMC抜きには存在しない。
伊藤氏は「1980年代、日本は半導体分野でアメリカと貿易摩擦を抱えていた。そしてその後、日本の半導体産業は国際的な競争力を失っていった」と論述して、台湾の半導体企業も米国が仕掛ける半導体戦争に多大な影響を受ける、と予測している。
しかし、果たしてそうだろうか。当時の日本政府および半導体企業経営者たちは米国の脅威に怯えていた。先の大戦後、経済復興しつつあった日本は米国への輸出なくして産業界の復興は考えられなかった。まだ欧州への進出は遅れていたし、他の地域に半導体はそれほど必要とされてなかった。云うまでもなく、中国は「改革開放」以前の貧しい農業国だった。
そのため米国から仕掛けられた半導体戦争で戦う前に自主規制して半導体産業を二分して、韓国と台湾に移転させた。断腸の思いだっただろうが、当時の日本の半導体企業は家電メーカーでもあったため、家電の主要輸出市場たる米国を失うわけにはいかなかった。
だが、現在の台湾はそうではない。しかも半導体生産でTSMCに代替する企業は世界を見渡しても他に存在しない。そして近い将来、TSMCの地位を脅かしそうなファンドリー企業も見当たらない。トランプ氏はTSMCの半導体技術の流出を恐れるあまり、米国への進出を強制するなら、却ってTSMCの技術流出を促す結果にならないとも限らない。
台湾の企業だからこそ、TSMCは対中技術流出を極端に警戒している。そして日本に進出するにしても自動車用28nm半導体製造といった「汎用性」のある半導体製造に限定している。米国に進出するTSMCが3nm,1.6nmといった最先端半導体製造を行うのは、それなりに企業生命を賭した結果と云うしかない。それでもトランプ氏がTSMC半導体にも他の輸出品と同様に関税引き上げすると云うのなら、TSMC経営者も対米戦略を再考しなければならなくなるだろう。
今後ともAI技術の進展により最先端半導体に対する需要はますます高まり、TSMCに対する需要は益々大きくなるだろう。もちろん日本のラピダス(東京)が、北海道千歳市に次世代半導体工場を建設している。2027年稼働予定で工場名は「IIM(イーム)」(「Innovative Integration for Manufacturing」の略)と呼ばれ、2025年4月に試作ラインを稼働し1棟目のIIM-1では2nmクラスの半導体を製造し、さらに高性能な半導体の製造を目指す計画だ。
かつて米国に日本の半導体産業に嫉妬して日米半導体戦争を仕掛けたが、同様の手法は現在では通用しない。韓国に移転したD-RAMなどの製造を行って来たサムソンは既に国際競争力を失いつつある。サムソンはTSMC並みの技術革新を怠り、しかも中国に企業進出させたため中国によってD=RAM製造技術をコピーされている。
現在の半導体は「汎用製品」製造ではなく、目的別に開発された半導体を製造するファンドリー製造が主流になっていてる。つまり半導体の設計図を描く企業と、それを製造する企業の分業制になっている。NVIDEAが半導体の設計図を作り、TSMCがその製造を受け持っている、と云えるだろう。そうした分業制にあることをトランプ氏は知らなければならない。その上で、米国政府はいかにして半導体分野で米国の対中優位性を維持し続けるのか、戦略を立て直さなければならないのではないか。