投資コンサルたちの世迷いごと。

<今年9月に出版された田内学著『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)は、ほとんどの人たちが経済の問題を「専門家任せ」にしていることへの危機感から書かれた本だ。

 「専門家任せ」の原因は、経済をめぐる議論には専門用語が使われ、わかりにくいことにある。が、本書は、専門家たちの議論をわかりやすく解説するものではない。
 ゴールドマン・サックス証券で日本国債などを扱う金利トレーダーとして活躍した、理系出身の著者が、経済について根本的に考え直している。田内氏に執筆の動機などを聞いた。

日本政府が破綻することはないが、ハイパーインフレはあり得る
――本書を執筆するきっかけとなった出来事の1つは、ギリシャ危機だったと書かれています。ヘッジファンドは、ギリシャ国債が暴落したように、多額の借金を抱えた日本の国債も暴落するはずだと判断した。そして、日本国債を空売りしたが、暴落は起きず、大損をした、と。
【田内】当時、私はゴールドマン・サックスで日本国債のトレーディングをしていたので、海外の様々なヘッジファンドから問い合わせがありました。しかし私は、日本国債の暴落は起きないと考えました。
 テレビでも経済学者が「日本の国債は家計(個人)の預金に支えられている。国債の発行残高が増えているのに、家計の預金は伸びていない。このままでは、あと数年で家計の預金が国債を支えられなくなり、日本政府が財政破綻する」と話していました。でも、これはおかしいと思いました。
 本書でも述べましたが、日本の預金が増えているのは、政府が借金をしているからです。政府が借金したお金(国債発行で調達したお金)は政府の支出のために使われます。使われると言っても、消えてなくなるわけではありません。個人や企業に支払われています。つまり、借金したお金は、個人や企業の預金口座に移動しているのです。そして、銀行はそのお金で日本国債を買うことができます。
 ということは、日本国債の発行残高が増えるほど、必ず個人や企業の預金が増えています(厳密には年金や保険会社が預かっているお金も含まれます)。「家計の預金は伸びていない」と大騒ぎしていた経済学者はそのことを知らなかったのです。企業の預金はちゃんと増えていました。
 別の言い方をすれば、政府が大量にお金を使っていても、日本の中にいる人たちがそのお金をもらって働いているんです。誰が働いているかということが重要なんですよね。

――本書では、「国の財布」の中に「政府の財布」「個人の財布」「企業の財布」があって、国が借金をするということは「政府の財布」から「個人の財布」「企業の財布」にお金が移動することだと説明していますね。「国の財布」の中でお金が動いているだけだから、ギリシャ国債みたいに暴落しないと。
【田内】ギリシャ国債がなぜ暴落したのかと言えば、ギリシャの通貨がユーロだからです。ユーロ建てのギリシャ国債を売って、ドイツやフランスなど、同じくユーロ建てで、財政状況がいい国の国債が買われたことで、ギリシャ国債は暴落してしまいました。
 一方で、日本国債は円建てですから、たとえ日本国債が売られたとしても、円が「国の財布」の外へ流出することはありません。例えば、アメリカ国債へお金が流れるにしても、必ず為替取引でドルを買わないといけません。
 そのときに支払う円は取引相手の銀行口座に移っているだけです。日本国内の預金が減ることはなく、日本国債が買えなくなってしまうことはないのです。
「政府がいくら借金をしても財政破綻しないのは、借金によって建設した道路などが資産になるし、いざとなれば道路を担保にお金を借りられるから」と言う人がいますが、それはおかしな説明です。道路を担保にしてお金を貸してくれる人はいませんから。
 それに、もし道路を担保にするのなら、その道路を差し押さえられることがあってもいいと考えているということです。そんな政府でいいのでしょうか。

――1国1通貨であれば、政府が借金を膨らませても、財政破綻はしないということですね。でもハイパーインフレが起きるのではないか、という懸念はありますが……。
【田内】はい。確かにその通りですが、それは借金を増やすことが直接的な原因ではありません。
 第1次世界大戦後のドイツでは、賠償金の支払いのために政府が莫大な借金をして、それによってハイパーインフレが起きたと、よく言われます。しかし、ハイパーインフレが起こった原因は、政府の借金ではなく、外国への賠償金の支払いです。
 本書では「労働の借り」と呼んでいますが、賠償金を支払ったことによって、ドイツの生産力を外国のために使わなければならなくなった。そのため、ドイツ国内の需要に生産力が追いつかず、ハイパーインフレが起こったのです。
 終戦直後の日本も同じです。GHQに終戦処理費を支払うために多額の国債を発行しました。このときもハイパーインフレが起きましたが、借金が増えたことが根本的な問題ではありません。
 GHQが受け取った多額のお金は、日本国内で使われます。当時の日本では、戦争によって生産力が落ち込んでいました。そのうえで、生産力の多くがGHQのために使われたのです。その結果、物資がますます欠乏し、ハイパーインフレが起きました。
 もし、ハイパーインフレの原因が国債の発行にあるのなら、国債の発行ではなく、すべて増税によって賠償金や終戦処理費を支払っていれば、ハイパーインフレを避けられたということでしょうか? そんなことはないでしょう。他国のために働かないといけないせいで、物資が欠乏することは変わりないわけですから。

――今後、日本がハイパーインフレを起こさないためには、国内の生産力を落とさない必要がある?
【田内】日本の国際収支は貿易黒字が続いてきました。つまり、トータルで見れば、日本国内の需要を日本国内の生産力で満たしたうえに、外国に対しても日本の生産力を提供し続けている。需要に対して供給が十分にあるので、ハイパーインフレが起きていません。
 もしも、政府がお金をばらまくのをいいことに、みんな働かなくなってしまったら、物資が欠乏してしまい、簡単にハイパーインフレが起きてしまいます。重要なのは、借金が増えるかどうかよりも、みんなが働いて十分生産できるかどうかです。

――もし貿易赤字に転落すれば、ハイパーインフレになる可能性がある?
【田内】日本の場合は、海外への投資も多いので、投資などから得られる収益も多いです。多少の貿易赤字でも経常赤字にはならないので、しばらくは大丈夫そうです。しかし、安心はできません。
 日本は人口減少が進んでいますから、このままでは国内の生産力が落ちていき、いつかは経常赤字に陥るかもしれません。そうならないために、日本の経済にとって重要なのは、少子化対策と生産効率の向上です。
 実は年金問題も同じで、重要なのは、お金のあるうちに積み立てておくことではなくて、将来にわたって日本の生産力を落とさず、上げていくことです。

――経常収支は為替によっても左右されますし、原油価格の影響も大きく受けます。
【田内】現在は、原油高と円安で、月によっては貿易収支が赤字になっています。これはよくない状況です。
 アベノミクスが始まったときは、円安になると輸出が増えるので日本経済が復活すると、円安を大歓迎するエコノミストがたくさんいましたが、円安のいい面だけを見ていたのだと思います

机上の理論ではなく、現実の社会から考えよう
――本書を出版した反響はいかがですか?
【田内】メディアの取材を受けたり、書評に取り上げていただいたりもしていますし、書店員の方に気に入っていただいて、店頭で大きく展開していただいたりもしています。
 宣伝のためにInstagramを始めて、インスタライブをやったりもしたのですが、観てくれた方の7~8割が女性でした。すべての方に読んでいただきたいと思って書きましたが、かなり幅広く読んでいただいています。
 金融業界で働く方々だけでなく、高校生や大学生、主婦、財務省や厚労省の官僚、大手企業の経営者などからも感想をいただいています。感動してくれた大学生が、大学に掛け合って、私の講演会を企画してくれたのは、非常に嬉しかったです。

――経済学者の反応は?
【田内】本書の帯に推薦文を寄せてくださった(東京大学の)小島武仁教授や、書評を書いていただいた(獨協大学の)森永卓郎教授など、好意的な方々もいる一方で、批判的な方たちもいらっしゃいます。「従来の理論に言及せずに書いているからけしからん」と。
 ギリシャ危機のときにテレビで「日本国債は暴落する可能性がある」と話していた経済学者にも、当時、お会いして話をした際、「理論に基づいていない」と批判されました。「自分の考えは経済学者たちが築き上げてきた理論に基づいているから間違いない」と言うのです。私から見ると、実際のお金の流れをわかっていない議論なのですが。
 そもそも、問題を解くのに特定の理論を使わないといけないと思っていることが、理系出身の私から見るとおかしい。例えば、直角三角形の斜辺の長さを求める方法は、ピタゴラスの定理を使わなくても、他にもいくらでも別解があります。社会で起こっている出来事の説明の方法にも別解があっていいはずでしょう。
 そして、経済の議論は、相関関係と因果関係を混同していることも多いと感じます。例えば、「GDPが高いほど幸福度が高いというデータがあるから、幸福度を上げるにはGDPを上げる必要がある」と主張する人もいます。
 確かに、GDPが高いことと幸福度が高いことには相関関係があります。しかし、その因果関係については考えない。そのため、GDPを増やすことを目的にして、「大きな経済効果がある」と言って、国立競技場などの多くのオリンピック施設を作りましたが、果たして国民の幸福度は上がったのでしょうか。
 こうした「専門家」たちが政治に影響を与え、一般の人たちは「経済のことはわからないから専門家に任せればいい」と考えている状況があります。これは問題だと感じたのが、本書を書いた理由の1つです。
 ですから、政治家や官僚にも読んでいただきたいと思っています。実際、財務省に勤める友人に、話題の矢野(康治)財務次官にも読んでもらいたいと言われたのは嬉しいですね。
 本書を書いたもう1つの理由は、特に「老後2000万円問題」が言われるようになってから、世の中の人たちがみんな「自分の財布の中」ばかり見るようになっていると感じることです。書店に並ぶお金の本も、自分のお金を増やすためのマネーゲームの話ばかり。
 本来の投資は、そのお金で人に働いてもらい、それによって新たな価値を生み出すものです。社会全体の価値を増やさず、お金を奪い合うだけの投資は、馬鹿らしい。そのことに気づいていただきたいとも思っています>(以上「THE 21 ONLINE」より引用)




 ダイアモンドに掲載された「「財政破綻は起きない」専門家が論じない日本経済がヤバくなる本質的な原因」と題する田内学(元ゴールドマン・サックス証券金利トレーダー)氏の論評を掲載させて頂いた。
 日曜日の午前中に、こうした経済論評を読者各位が心静かに読書されることを心から望む。そして「投資トレイダー」と称する連中がいかに怪しげな理論で武装しているかを知って頂きたい。

 彼らはMMT理論を本質的に理解していない。ただ目の前のカネの動きや株価の動向だけで微視的に経済を理解しようとしているに過ぎない。それは微視的であるために、極めて静態的だ。
 たとえば第一章の「日本政府が破綻することはないが、ハイパーインフレはあり得る」は事実だが、それは「政治家が経済対策をしないなら」という条件が付く。MMT理論は財政出動を是としているが、ただ徒に景気刺激策を続ければ良いというものではない。MMT理論で注視すべきはインフレ率だとしていて、経済成長に伴う適正インフレなら問題ないが、景気が過熱してインフレ率が経済対策以上に上昇し始めたら景気引き締め策に転じるべきだとしている。田内氏はMMT理論を半分しか理解していないのではないだろうか。
 
 田内氏や他の評論家たちには少子化は経済成長をもたらさない、人手不足は経済成長にとってマイナス要因だと論じている。そうした論者が多いため、国民も漫然と「そうなのか」と考えているようだ。しかしかつて日本が経験した高度経済成長期は慢性的な人手不足だったことを知らないのだろうか。
 人手不足だったからこそ、経営者は本気で生産性向上に心血を注いだ。だから日本の工業生産は高度経済成長期に生産性を高めて「Japan as NO.1」と言わしめた。当時の勢いで技術革新や生産性向上を日本が続ければ世界随一の経済大国になるだろう、といわれた。

 田内氏の論評には考えさせられるものもある。たとえば「経済の議論は、相関関係と因果関係を混同していることも多いと感じます。例えば、「GDPが高いほど幸福度が高いというデータがあるから、幸福度を上げるにはGDPを上げる必要がある」と主張する人もいます。
 確かに、GDPが高いことと幸福度が高いことには相関関係があります。しかし、その因果関係については考えない。そのため、GDPを増やすことを目的にして、「大きな経済効果がある」と言って、国立競技場などの多くのオリンピック施設を作りましたが、果たして国民の幸福度は上がったのでしょうか」というくだりだ。
 「GDPが高いほど幸福度が高いというデータがあるから、幸福度を上げるにはGDPを上げる必要がある」というGDPと幸福感とは先進国において相関関係は乏しいが、GDPの拡大は格差是正に役立つし、貧困を無くすことにも役立つ。つまり相対的に「幸福感」は増す、といわざるを得ないだろう。そして国防上も防衛予算を増額するにはGDP1%縛りがあるなら、GDPを増やす以外に増額することは出来ない。

 「机上の理論ではなく、現実の社会から考えよう」という見出しに異論はない。政治家は保育や介護の必要性を訴えているが、それらに携わる人たちの待遇は労働者の平均所得に遠く及ばない。岸田氏が総裁選や先の総選挙で「準公務員並みに増額する」と息巻いていたが、蓋を開ければ子供の小遣い程度の増額でしかない。
 なぜ保育士や介護士が有資格者が大勢いながら人手不足になっているのか。仕事の割に報酬が少ないからだ。人手不足を解消するには待遇を改善するしかないのは誰にも解っている。それが出来ない政治家諸氏は現実を見ていないと批判せざるを得ない。

 日本経済は30年近くもゼロ成長を続けてきた。だから30年間の政治を、ことに経済対策を大転換しなければならないことは誰の目にも明らかだ。しかし「そうしたくない」人々が政権与党の背後にいて、「構造改革」新自由主義政策を続けろ、と呪文を唱えている。
 岸田氏はそれから決別する、と勇ましく宣言していたが、出来上がった政権を見ると又しても「構造改革」で旗振りした連中が雁首を並べている。彼らが政府に潜り込ませた、政権の背後にいる連中ごと葬り去るには政権交代しかない。政権交代こそが日本を再生させるための最低条件だ。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。