社会保障制度の不備と格差は社会崩壊をもたらす。
中国経済はバブル崩壊を始めているのではないかと指摘するエコノミストがいる半面、中国社会は混乱に陥っていないとする評論家もいる。しかしバブル崩壊が社会的混乱をもたらすものでないことは日本のバブル崩壊を想起すれば歴然としている。
バブル崩壊は加熱した不動産投資などの信用収縮により経済活動が急激に活力を失うだけのものだ。それにより様々な社会的な影響が広がるものだが、それらは派生的で際立つ現象ではない。
むしろ中国社会を混乱に陥れるのは社会セイフティネットの不備と格差から来るのではないだろうか。中国は1985年頃を境に社会セイフティネットの不備と格差が露呈してきた。それまでは子が親の面倒をみると云う大家族主義が社会セイフティネットの役割を担っていた。
しかし1970年頃から始まった「一人っ子政策」により、今では若い所帯は6人の老人の面倒をみなければならないと云われている。つまり夫婦双方の両親と夫方の祖父母の面倒を見なければならないというのだ。
しかしそうしたことは到底できない。そこで公的な社会保障がどうなっているのか、という問題に直面する。以前(1985年以前)の中国の都市部では国営企業が従業員の医療保険から年金まで、すべてを担っていた。農村部では集団農場が不十分であるにせよ「裸足の医者」が医療制度を担っていたし、農場を形成する集団で老人の面倒を見ていた。
しかし急速な「開放経済」と「近代化」により中国の社会保障制度は激変した。都市部ですら企業による医療制度や年金の維持はできなくなり、農村部では集団農場は崩壊してしまった。国家として社会セイフティネットの構築の進まないまま、中国は超高齢化社会に突入しようとしている。
しかも中国は若年層の失業問題に悩まされている。中国政府統計では失業率は4%程度として発表されているが、それは都市部で都市住民が求職して職を得られなかった人の数しかカウントされていない。農村戸籍の「農民工」は失業者数にカウントされていないし、農村部には失業者はいないというのが政府の前提になっているから、農村部の失業者数は全くカウントされていない。
中国の実質的な失業者は20%に達しているのではないかといわれている。そして社会セイフティネットは医療保険にせよ年金にせよ、失業保険にせよ一部の共産党員にしか整備されていない。全体の1割にも満たない人たちしか政府の公的セイフティネットの傘の下に暮らしていないのが実態だ。
このような社会的な格差と不備は国民に政府への不信と怒りを醸成するに充分だ。2015年までにバブル崩壊によりハイパーインフレが中国全土を覆うだろう。人民解放軍は共産党政府が人民支配のために中国全土に展開している傭兵だが、彼らが「軍閥」だった頃へ先祖返りしないとも限らない。
たとえば中国の60歳以上の国民に月額1万円ずつ配ったとして、どれほど巨額な歳出予算を必要とするのか、計算してみると良い。中国政府にそうした財源は皆無だ。
翻って日本の社会セイフティネットはどうだろうか。特に年金はどうだろうか。中国における共産党員に相当する日本の公務員たちは財政破綻が叫ばれていてもぬくぬくと高額な報酬を手にし、優遇されている共済年金で優雅に暮らしている。
国民年金は月額一人1万5千円満期かけても手にするのは月額6万6千円ほとでしかない。夫婦なら月額3万円の掛け金だが、個人負担で3万円共済年金をかけている公務員はどれほど夫婦で年金を手にできるのか、厚生年金個人負担3万円ならいかほどの年金を支給されるのか、数字を示して政府は説明すべきだ。
職種により格差のある社会が果たして平等にして公平な社会だろうか。社会保障とはそもそも一律支給が大原則のはずだ。高額な医療保険を支払っている人も入院する際は少額な医療保険しか支払ってこなかった人と同じ大部屋だ。
それが年金だけが職種により生涯固定的に差別されるのはなぜだろうか。社会保障の格差により国民の不満がマグマのように塊となって火を吹かないとも限らない。中国で社会保障の格差をめぐって暴動が起こっても、それは中国のことだと対岸の火事と決め込んで眺めていられないはずだ。